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『ユウグレ座、午後六時』


作者:片摩 廣

登場人物

三浦 誠(みうら まこと)・・・   昭和初期から続くユウグレ座を支える映写技師
                   頑固、映画への誠実さだけは一切揺るがない
                                                                   亡き妻との約束として、映画館を守り続けている

 


古賀 健(こが たける)・・・    誠に憧れ、映画館に居場所を見出した青年
                   映画館で働く誠に憧れて、誠を手伝う
                   ユウグレ座を「守る側」になる覚悟ができていない

 

三浦 裕子(みうら ゆうこ)・・・ 三浦 誠の娘 
                  高校卒業後、進学せず映画館を支える道を選んだ
                  落ち着いた雰囲気で、実年齢より大人びて見える

 

篠崎   美香(しのざき みか)・・・ 健と婚約したいと、健に付きまとう資産家の令嬢
                    健を気に入り、半ば当然のように婚約話を進める
                    裕子を同い年の対等な存在として、内心強く意識している

篠崎   和夫(しのざき かずお)・・・ 美香の父親、映画配給会社役員
                     再開発のためユウグレ座の買収を進める実業家
                                                                        美香と健の縁談を、買収の一部として利用しようとする
         


古賀 健(こがたける)幼少期・・・篠崎美香役の演者さん、兼ね役


孫 ・・・ 篠崎美香役の演者さん、兼ね役

 

比率:【3:2】


上演時間:【90分】

 

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CAST


三浦 誠:

古賀 健:

三浦 裕子:

篠崎 美香、古賀 健(幼少期)、孫:

 

篠崎 和夫:


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(映画館の映写室、入口のドアが開く)

 


誠:「よう、また来たのか?」


健(幼少期):「来ちゃ悪いのかよ。
        毎日毎日、よく同じ質問、聞けるよな~。
        俺と兄貴の仲じゃないか~。
        そんな事言って、兄貴も、俺に会えて嬉しいくせに!」

 

誠:「兄貴はよせと、毎回、言ってるだろう・・・。
   いつも、この映写室から、無料で観ようと思ってるガキなんか、
   会いたいとは思ってないよ」

 

健(幼少期):「またまた、強がっちゃって~。この、このっ!
        顔には、俺に会えて嬉しいって書いてあるよ~ん」

 

誠:「全くお前は・・・。
   減らず口、叩く暇があるなら、少しは手伝え」

 

健(幼少期):「手伝ってやっても良いけどさ、
        給料は、ちゃんと出してくれるんだろうな~?」

 

誠:「おいっ、何処でそんな言葉、覚えたんだ?」

 

健(幼少期):「そんなの、父ちゃんと、母ちゃんからに決まってるだろう~」

 

誠:「・・・お前の父親、元気なのか・・・?」

 

健(幼少期):「父ちゃんなら、・・・近頃は、工場経営が傾いてる・・・。
        どいつも、こいつも、根性が足りないんだ! って、毎晩、酒飲みながら、発狂してるよ・・・」

 

誠:「何処も不景気の影響で、そんな状態か・・・。
   ・・・今は、御客も途切れず来てくれてるが、この映画館も、いつまで残ってるか分からないな・・・」

 

健(幼少期):「ええええ!!!?  この映画館、無くなるのか!? なぁ、いつだよ!?」

 

誠:「馬鹿野郎・・・! 大声で騒ぐな・・・!
   少しは、映写室って事、考慮しろってんだ・・・」

 

健(幼少期):「だって、仕方ね~じゃんかよ~。
        この映画館が無くなるかもって聞いたら、驚くなって方が無理だよ~・・・」

 

誠:「・・・健。
   ・・・それだけ、この映画館を大切に思ってくれてるんだな・・・」

 

健(幼少期):「当たり前だろ!!!
        俺、大人になったら、この映写室で、兄貴と働いて、仕事、教えて貰うんだ!!!
        そして・・・、いつか兄貴に認められて、仕事を引き継ぐのが俺の夢さ!!」

 

誠:「そいつは、嬉しい言葉だな。
   だがな・・・、遠い将来、この仕事は、必要なくなるかも知れないんだ・・・」

 

健(幼少期):「何でだよ!? 立派な仕事じゃないか・・・」

 

誠:「有難いがな・・・。
   今の状態でも、映画のフィルムが焼き切れたり・・・、
   トラブルも、故障も絶えないんだ・・・」

 

健(幼少期):「そんなの、直せば良いだけじゃん! なんせ兄貴の腕は、この町で一番なんだから!」

 

誠:「ありがとうよ。
   だがな・・・、この技術を受け継いでくれる、後継者も見つかってないんだ」

 

健(幼少期):「それなら、俺が、その、後継者とやらになって、兄貴を助けるよ」

 

誠:「お前がか? ・・・まだ11歳の分際で一丁前の台詞、吐きやがって・・・。
   ・・・いつから、そんなに成長したんだ・・・」

 

健(幼少期):「失礼だな~。これでも、一年で背も伸びて~・・・」

 

誠:「はっはははは・・・。気持ちは嬉しいが・・・、残念ながら、後継者には間に合わね~よ」

 

健(幼少期):「そんな~・・・」

 

誠:「そんな顔、するな。
   ・・・ありがとうよ、健。
   気持ちだけは、有難く受け取っておく」

 

 

健(幼少期)(N):「そう、優しく、俺に微笑み返すと・・・、
           兄貴は、仕事のときの真剣な表情に変わり、映画のフィルムを交換する作業を始めたのだ・・・。
           ・・・その鮮やかな手捌きに、俺は息を飲んで、ただ、じっと見守った・・・」

 


(幼少期、終了)

 

(此処から、現代に変わります)



健(N):「・・・あれから、月日は流れ・・・。
      ・・・俺は、20歳。立派な大人になった・・・。
      あんなに毎日、御客の絶えなかった、この町の映画館、ユウグレ座も・・・、
      すっかり今では、表情を変えてしまったのだ・・・」

 

 

誠:「う~む・・・」

 

裕子:「父さん・・・、また此処に居たのね・・・」

 

誠:「何だ? 裕子・・・。居ちゃ、悪いのか・・・」

 

裕子:「ううん・・・。そんな事ないわよ。
    ・・・私も、此処からの景色、好きだから・・・」

 

誠:「そうか・・・。
   だがな、長居していたら、風邪を引く・・・。
   早く、家に帰るんだ。分かったな?」

 

裕子:「ほんと、父さんってば、心配性なんだから・・・。
    もう私は、昔みたいに、病弱じゃないのよ~」

 

誠:「だがな、万が一の場合もあるんだ・・・。
   大事な一人娘を心配して、何が悪い・・・! ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ・・・!!」

 

裕子:「もう~、父さんの方が、無理してるじゃないのよ・・・。
    ほらっ、椅子に座って・・・。
    今、お水、持ってくるね・・・!」

 

誠:「はぁ~・・・。・・・全く・・・。忌々しい体だ・・・」

 


 

健:「こんにちわ~! あれ、誠さんは居ないのかな・・・?」

 

裕子:「何してるの~?」

 

健:「なんだ、お前か~」

 

裕子:「なんだとは、何よ~。相変わらずの性格です事!
    ・・・父さんなら、少し用事で出かけてるわよ~」

 

健:「ちぇっ! 何だよ~。 
   映写室から、映画を観ようと思ったのに・・・」

 

裕子:「あのね~!!!!
    うちの映画館は、慈善活動でやっててるんじゃ無いんだからね!!!
    あんたも、立派な大人なんだから、ちゃんと料金払っていって!!!!」

 

健:「分かったよ~・・・。
   ・・・ほんと、いつも、ガミガミ、飽きずに、口煩い女だな~」

 

裕子:「誰のせいだと思ってるのよ。ほんと、勘弁してほしいわよ・・・。
    それにしたって、あんたも、物好きよね~。
    週に2回も、映画を観に来るなんて・・・」

 

健:「はぁ~、これだから、女ってのは、男のロマンが、ちっとも分かってね~な・・・」

 

裕子:「あ~、その発言! 今のは、立派な男女差別なんだから!!!
    早く、取り消しなさいよ!!」


健:「誰が取り消すか! あっかんべぇ~~!!
   少しは、乙女らしく振舞ってから、言えってんだ!」

 

裕子:「何ですって~~!!!」

 

美香:「まぁ、賑やかですこと・・・。
    御二人の怒鳴り声が、映画館の外まで聞こえて来ましたわ・・・」

 

裕子:「あら、美香さん、いらっしゃい・・・。
    今日は、どのような要件かしら?」

 

美香:「今日は、健さんを食事に誘いに来ましたの」

 

裕子;「そうだったの・・・。
    ・・・どうりで、いつも以上に、化粧もばっちりなわけね・・・(小声)」

 

美香;「・・・健さん、どうせ、まだお昼も食べていらっしゃらないのでしょう?
    私(わたくし)の行きつけのお店がありますので、いかが?」


裕子:「あ~、そういえば、私も父さんの手伝いばかりで、昼飯、食べそこなったんだった~!」


美香:「そうですか。それはお気の毒に・・・」


健:「なんだ、裕子もお腹が空いてたのか。それなら、一緒に行くか?」


美香:「え!?」


裕子:「あ~ら、でも、悪いわよ~。折角、二人っきりになりたくて、美香さんは、健を誘いに来たんだろうから・・・」


美香:「いいえ! そんな事、無いですわよ~!
    ・・・裕子さんも・・・、是非、ご一緒してくださるかしら?」


健:「だってよ。良かったじゃないか」


裕子:「え? 良いの? それじゃあ、お言葉に甘えて!
    ・・・さぁ、お店は何処なの? 健、行きましょう~!!」


健:「え? あ、うん・・・」


美香:「ちょっと、お待ちになって! 私、そんなに早く歩けませんわよ~・・・!!」

 


 

(町はずれの大きな屋敷、篠崎邸、応接間)

(応接間で待っている誠の前に、和夫がドアを開けて入って来る)

 

和夫:「これはこれは、お待たせしてすみません。
    わざわざ、こちらの屋敷にまで、出向いていただけるとは・・・。
    本日は、どのような御用件でしょう?」

 

誠:「・・・前々から、お願いしている映画館の存続について、お話を伺いに来た」

 

和夫:「はぁ・・・。またその話ですか。
    私も出来る限り、力を御貸し出来たらと思って居ますが・・・、
    如何せん、私(わたくし)達も、色々と、多忙でして・・・」

 

誠:「無理を承知で頼んでいる事は、分かっている・・・。
   でも、どうか、力を貸してくれないか・・・。・・・この通りだ・・・」(土下座する)

 

和夫:「これは参った・・・。
    かつて、この町の一番の技術を持っていた映写技師である貴方に、
    土下座迄、させてしまうとは・・・」

 

誠:「・・・」

 

和夫:「誤解しないでいただきたい。
    私も、あの映画館は好きですよ。
    ・・・娘が小さい頃にも、よく一緒に観に行ったものです・・・。
    でも、残念ながら、あの頃と、今は状況も違うのです・・・。
    それは、三浦さん・・・。貴方自身が、よく御存じではありませんか?」

 

誠:「・・・」

 

和夫:「私は、貴方を尊敬し、評価していました。
    だが・・・、今の貴方は・・・、その尊敬していた頃の面影など、最早、感じられません。
    それ所か・・・、プライドも捨て去り、年下の私に、土下座迄されるとは・・・」

 

誠:「この通りだ!!
   ユウグレ座を守れるのなら、俺の安いプライドなど、幾らでも捨てる覚悟だ・・・!
   土下座でも、何でもやってやる・・・」

 

和夫:「それですよ!
    ・・・今の貴方は、かつて、私が認めた鋭い眼光さえも消えています。
    そんな耄碌した眼で、映写技師なんて務まるのですか?」

 

誠:「・・・」

 

和夫:「・・・少し頭を冷やしてはいかがですか?
    もう十分、貴方は頑張ったのですから」

 

誠:「・・・お願いだ! 力を・・・!
   あの映画館・・・、ユウグレ座だけは、残しておきたいんだ・・・!!」

 

和夫:「良いですか、三浦さん。
    ・・・あの映画館には、もう、未来はありません・・・!!
    あるのは、老朽化した設備と・・・、その事を受け入れられない貴方方だけ・・・。
    ・・・良い加減、終わりだと、認めたらどうですか?」

 

誠:「・・・くっ」

 

和夫:「良いじゃないですか。貴方は十分、頑張りましたよ。
    今月中に、素直に立ち退いてくださるのなら、
    引っ越しの費用、新しい住居の資金も、こちらで、お出ししましょう。
    これは、願っても無い好条件ですよ。
    その事は、お忘れなく・・・」

 

誠:「・・・」

 

和夫:「おっと・・・、そろそろ時間のようだ。
    三浦さん、私は、予定があるので、この辺で失礼します。
    それでは、良い返事を期待していますよ。・・・はっはははは!」

 

(応接間のドアが閉まる)

 


誠:「くそっ・・・。舐めやがって・・・。俺は、どうすれば良いんだ・・・」

 

 

(篠崎財閥が経営しているレストラン)

(店内は、上品なクラシックが流れている)

 

裕子:「へぇ~、内装も、豪華な造りね~」

 

美香:「当たり前でしょう。此処は、我が篠崎財閥の経営する、三つ星レストランなのですから。
    貴女みたいな庶民が、入れるお店では、ありませんのよ」

 

裕子:「そんな豪華なレストランで、お食事が出来るなんて、何て幸せなのかしら~」(心が籠ってない言い方)

 

美香:「もっと感謝して欲しいものですわ。私の計らいで、連れて来て差し上げたのですから・・・」

 

裕子:「感謝しているわよ。持つべきものは金持ちのお嬢様ね~」

 

美香:「それはそうと、健さんは、何を頼むか、決めました?」


健:「そうだな~。高級なレストランには、来た事が無いから、どれにすれば良いか分からないな~」

 

裕子:「そうね~、私も初めての料理ばかりで、ちんぷんかんぷん・・・。ねぇ~、肉じゃが、目玉焼き、ソースカツとか無いの・・・?」

 

健:「あ~、ソースカツ、良いね~。・・・美香、ソースカツは、あるか?」

 

美香:「ソースカツ・・・。
    ビーフカツとか、ビーフストロガノフなら、あるかもしれないけど・・・」

 

裕子:「ビーフ、ストローハット? 何だって・・・?」


美香:「貴女にも分かりやすいように、説明すると~、ビーフシチューの事ですわ~。」


裕子:「ムカッ」


美香:「あ~ら、庶民の貴女には、少し難しかったですわね~」


裕子:「・・・ねぇ、焼き鮭とか、冷ややっことか、玉子焼きは無いの~?」


美香:「鮭のムニエル、ローストビーフ、蟹クリームコロッケなら、あると思うけど、どの料理も、貴女のお口に合うかしら~?」


裕子:「何ですって~~~!!!! 蟹は茹でて食べるのが、一番じゃない! どうして、クリームの中に入れて揚げるのよ~!!!」


美香:「美味しいからに決まってるじゃないの! 

    繊細なお味が分からないなんて、下町の映画館の生まれは、可愛いそうですこと!」


裕子:「ふんっ! 庶民の味が分からないて、可愛相・・・。ねぇ、そう思うでしょう? 健・・・」


健:「え?」


美香:「そんな事、無いですわよね。・・・健さんは、蟹クリームコロッケ、ビーツカツ、食べたいですわよね?」


健:「えっと・・・」


裕子:「もう、はっきりしなさいよ!」


美香:「そうですわよ! 男性なら、どちらか、はっきり答えてくださいませ!」


健:「・・・俺は、・・・あ痛たたたたたた・・・急にお腹が・・・。ごめん・・・、俺、帰るよ・・・。じゃあな・・・」


裕子:「え? ちょっと、健!? 待ちなさ~い!!!」



美香:「・・・まんまと、逃げられましたわ・・・。次回こそ、健さんを、私の虜にしてみせます・・・」

 


裕子:「・・・何よ、あの女・・・」


健:「あ~、腹、減った~。・・・何か食べるか決めたか?」


裕子:「・・・勝手に何か食べに行けば・・・」


健:「おいっ、何、怒ってるんだよ・・・」


裕子:「別に・・・! ふんっ!!!」


健:「何だよ、やっぱり、女はよく分かんね~」


裕子:「だから、モテないのよ・・・」

 

誠:「お前達、こんな所で、どうしたんだ?」


裕子:「父さんこそ、何処に出かけてたのよ?」


誠:「ちょっとな・・・。そんな事より、二人共、昼は、もう食べたのか?」


裕子:「・・・それが、健のアホのせいで、まだなのよ~・・・。ねぇ、どっかで食べてく?」


誠:「たまには良いかもな。・・・健、お前も良かったら一緒にどうだ?」


健:「あっ・・・、いや・・・、親子水入らずを邪魔するわけには・・・」


裕子:「そうよ、健は放っておいて、行きましょう。・・・あっかんべ~~だ!!」


健:「ああ、そうかよ!! 頼まれても行くもんか!! ふんっ!!」


誠:「おいっ、健・・・、待て・・・! 
   はぁ~・・・・、お前達、喧嘩でもしたのか・・・?」


裕子:「・・・ちょっとね・・・」


誠:「・・・まぁ良い。・・・それじゃあ、久しぶりに駅前のラーメン屋で食べていくか?」


裕子:「良いわね。そうと決めたら、早く行きましょう」



美香:「・・・ただいま・・・」


和夫:「・・・美香、随分と帰りが早いじゃないか。・・・健君とのデートは上手く行かなかったのかい?」


美香:「聞いてよ、パパ・・・。映画館のおてんば娘に邪魔されて、健さん、一緒に帰ってしまいましたのよ・・・」


和夫:「映画館の娘・・・。あぁ、あの子かい・・・。・・・つい先程まで、お父さんが訪ねて来ていたよ」


美香:「え? 何しに来たの?」


和夫:「映画館の融資を頼みに来たんだ・・・」


美香:「融資ですって・・・!? それでパパ・・・、お金を貸してあげたの・・・?」


和夫:「馬鹿を言うな。貸すわけが無いだろう・・・。私は、あの映画館を上手く立ち退かせなきゃ行けないのだから・・・」


美香:「どういう事・・・?」


和夫:「・・・実はな、あの土地に、百貨店を建てる計画があるんだ・・・」


美香:「まぁ、百貨店、それは良いですわね。・・・トレンドの服も手に入れやすくなりますわ。
    でも・・・、あの親子が、立ち退きに素直に応じますかしら・・・?」


和夫:「そこでだ・・・。・・・美香、お前にも、少し手伝って貰いたいんだよ・・・」


美香:「パパの、そんな顏、久しぶりに見た。・・・何すれば良いのかしら?」


和夫:「何、難しい事では無いよ。・・・耳を貸しなさい・・・」


美香:「・・・へぇ~・・・。・・・私にピッタリの役目ですわね~。あの、おてんば娘の泣き顔が目に浮かびますわ~」


和夫:「頼んだよ、美香・・・」

 


健:「はぁ~・・・、俺が一体、何したって言うんだよ・・・。・・・親父、もう一杯・・・」


美香:「健さん、見~つけた」


健:「何だ、美香・・・。・・・俺に会いたくて探してたのか・・・?」


美香:「・・・当然ですわ、昼間の事、私・・・、許してませんのよ・・・」


健:「一人で、置き去りにして悪かったな・・・」


美香:「悪いと思ってらっしゃるのでしたら、当然、私とのデート、やり直してくれますわよね?」


健:「デート・・・。・・・先に言っておくが、俺は高い所に連れていく金は・・・」


美香:「お金の心配なら大丈夫ですわ。・・・健さんは、ただ、イエスと言ってくださるだけで良いですの」


健:「あぁ・・・、イエス・・・」


美香:「イエスと言いましたわね! 良かったですわ~。・・・これでパパも喜ぶわ~。
    それでは、健さん、来週の月曜日、私の屋敷に迎えに来て下さいませ」


健:「え!? 俺が迎えに行くのか?」


美香:「当たり前でしょう。レディーのエスコートは紳士の嗜みですわよ。
    良いですこと? 必ず迎えに来てくださいませ~。・・・それでは、御機嫌よう~」


健:「はぁ・・・、とんでもない約束、させられちまったな~」

 


(月曜日、美香の屋敷に迎えに来る健)

 

裕子:「父さん、おはよう」


誠:「何がおはようだ。もう昼前だぞ・・・」


裕子:「良いじゃない。いつも、映画館の手伝いしてるんだから」


誠:「・・・」


裕子:「あれ? 健は来てないの・・・?」


誠:「健なら、さっき来て、今日は急用が入ったから、仕事、手伝えないと言ってたぞ」


裕子:「健が急用・・・? 何だか胸騒ぎがする・・・。
    父さん、私、出かけてくる・・・!」


誠:「おい! 何処に行くんだ!」


裕子:「心配しないで! 夕方までには戻るから・・・!」


誠:「全く・・・」



(美香の屋敷の呼び鈴がなる)


和夫:「待ってくれ。今、開ける。
    ・・・おや、健君・・・。こんにちは・・・。
    美香を迎えに来てくれたのかい?」


健:「はい、そうです・・・」


和夫:「それにしては、随分な格好だね・・・。
    私の娘は、令嬢なのを忘れないでくれたまえ・・・」


健:「すみません・・・」


和夫:「仕方ない。・・・おい、誰か、彼のスーツを用意してくれ」


健:「スーツですか? あ、でも、俺・・・」


和夫:「遠慮しなくて良い。・・・さぁ、中に入りなさい」


健:「失礼します・・・」



美香:「今日は、待ちに待った月曜日~。・・・さぁて、どうやって、健さんを落とそうかしら~」


(部屋のノック音)


和夫:「美香・・・。健君が来たよ。早く降りてきなさい」


美香:「分かったわ、パパ。・・・今、下に行く」



(屋敷の玄関ホール)


健:「どうですか・・・?」


和夫:「良いじゃないか。似合っているよ。普段から、ちゃんとした恰好を心掛けなさい。
    そのスーツは、君にあげよう。私からのプレゼントだ」


健:「ありがとうございます・・・」


美香:「まぁ~、健さん、とても、お似合いですわ。・・・パパが用意してくれたの?」


和夫:「あぁ、そうだよ。・・・さぁ、二人共、デートを楽しんできなさい」


美香:「ありがとう、パパ。・・・健さん、行きましょう」


健:「うん・・・」

 

(屋敷のドアが閉まり、二人はデートに出かける)

 

和夫:「その調子だ、美香・・・。私が此処までお膳立てしたんだ。上手くやるんだぞ・・・」



(駅前に向かう二人)


美香:「今日はね、先ずは、新しく駅前に出来た喫茶店に行くの。
    健さん、甘いもの好きでしょう?」


健:「いや、特別好きってほどじゃないけど・・・」


美香:「もう、遠慮しなくていいのよ。
    付き合っていけば、好みなんて自然に寄ってくるものだし。
    そのスーツも、似合ってますわ」


健:「こんなに立派なスーツは、着たことが無くて・・・、落ち着かないよ・・・」


美香:「何度も着てく内に慣れるから、安心して着てくださいませ」


健:「・・・」


美香:「ほら、御覧になって。通りかかる人、皆、こちらを見てますわ」


健:「やはり、俺の姿が似合ってないんじゃ・・・」


美香:「健さん、ファッションの事になると、自信が無くなるのですわね・・・」


健:「すまない・・・」


美香:「謝らないで。・・・そうだ! 折角だから、健さんの服も見に行きましょう!」


健:「え? 俺の服・・・? あ、いや、このスーツも、君の父さんから、貰ったばかりだし・・・」


美香:「気にしないで良いですわ。・・・今日の記念に、買ってあげたいの・・・。
    それに・・・」


健:「どうした?」


美香:「もっと楽しみましょ・・・。
    折角のデートなんですから・・・」


健:「うん、分かったよ・・・。俺が悪かった・・・。今日は楽しむとしよう」


美香:「健さん! 嬉しいですわ~!」


(商店街の人通りのある通り。裕子が周囲を見回しながら歩いている)

 

裕子:「商店街まで来たのは良いけど・・・、健・・・、見つからないな~。
    もう、一体、何処に居るのよ・・・。
    はぁ~・・・、勢い任せで出て来たけど、どうしよう・・・」


和夫:「おや、三浦さんのお嬢さんじゃないか。周りを見回したりして、どうしたんだ。探し物かい・・・?」


裕子:「え? あ、美香さんのお父さん・・・。確か、篠崎・・・、和夫さん・・・」


和夫:「名前を覚えて貰えてるとは光栄だ。
    映画館では、会った事はあるが、こうして、二人で話すのは初めてだったね。
    美香が、君達には、随分と世話になってるようだ。礼を言うよ」


裕子:「いいえ、そんな・・・」


和夫:「所で、こんな時間に一人で歩いていて、大丈夫かね?
    あの映画館は、今日は、もう閉めたのかい?」


裕子:「いいえ、ユウグレ座は、閉めてません。
    ・・・父に任せてます」


和夫:「なるほど・・・。それなら、そうまでして、何を探していたのかな?」


裕子:「少し、人を探していまして」


和夫:「ほう・・・。その人とは・・・、ひょっとして、健君かね?」


裕子:「え? どうして、健だと分かったんですか・・・?」


和夫:「いや、何となくだよ。・・・君達が仲が良いのは、娘からも聞いてるからね~」


裕子:「あの・・・、健が、何処に居るか、知ってますか・・・?」


和夫:「いいや、知らないよ。
    それよりだ・・・」


裕子:「何ですか?」


和夫:「君は、大学に進学しなかったそうだね」


裕子:「はい・・・」


和夫:「惜しいな。高校の成績も悪くなかったと聞いている」


裕子:「私には、必要なかったですから・・・」


和夫:「必要かどうかで、人生を選ぶのは、とても堅実だ。
    だが、世界は広い。映画館の外にも、選択肢はある・・・」


裕子:「分かっています・・・。でも、私は、あのユウグレ座が大事ですから・・・」


和夫:「老朽化も進んで、いずれ、廃館になってしまうとしてもかね?」


裕子:「・・・はい」


和夫:「良い返事だ。・・・君が、あの映画館を選んだように・・・、
    健くんも、今まさに、人生の選択肢に触れているところだろう・・・」


裕子:「え!? それは、どういう意味ですか・・・!?」


和夫:「深い意味はないよ。
    若い人間は、外を知るべきだというだけだ。
    君も、いずれ分かる」


裕子:「・・・」


和夫:「あぁ、そうそう。もう一つ、言い忘れた。
    三浦さんに、伝えてくれないか?
    会社でも再検討をしたが・・・、やはり、融資の件は、ご期待に添えるのは、難しいと」


裕子:「え? 融資・・・?」


和夫:「おや、三浦さんから、聞いてないのかね。
    これは、済まない事をした・・・。
    だが、良い機会だから、伝えとくよ。
    あの映画館は、このままだと、廃館になる・・・。
    私としても、残念だが・・・、こればかりは、どうする事も出来ないんだ・・・」


裕子:「ユウグレ座が、廃館・・・!?」


和夫:「すまないね・・・。だが、朗報もある。
    今月中に、立ち退きを了承してくれたら、
    せめてもの償いに、私達が、引っ越しの費用、新しい住居の資金も、出すと約束しよう」


裕子:「・・・」


和夫:「三浦さんが、あの映画館を大事な気持ちも分かる。
    だが、もう良い年なんだ・・・。
    君からも、説得をしてくれないか?」


裕子:「分かりました・・・」


和夫:「頼んだよ。あぁ、それとだ。
    三浦さんも、だいぶ融資の件で走り回って、疲れていらっしゃる。
    今日、此処で、私と、この話をしたことは、他言無用でお願いするよ。
    これ以上の心労は、かけさせたくないからね・・・」


裕子:「はい・・・。急ぐので、私はこの辺で・・・」


和夫:「引き留めて悪かった。・・・健君、見つかると良いね・・・」


裕子:「うっ・・・。失礼します・・・!」


(感情が抑えきれなくて、走って去る裕子)



和夫:「美香に、頼んではいたが、これで順調に計画は進むだろう。念には念を入れなければな。あっはははは!」

 


裕子:「父さん・・・。どうして、融資のこと・・・。黙っていたの・・・。
    ユウグレ座が無くなるなんて、どうしたら・・・。ん? あれは・・・健と・・・、美香さん?」

 

(喫茶店の店内)

 

美香:「もう、健さんったら、可笑しい!」


健:「あっははは。そうかな?」


美香:「さぁ、健さん、あ~ん!」


健:「え? 流石に、こんなにお客も居る中で、恥ずかしいよ~」


美香:「そんな事、気にしないで。周りも、皆、同じことしてますわよ」


健:「それもそうだな。・・・じゃあ、あ~ん」


美香:「は~い! ・・・どう、チョコレートパフェ、美味しい?」


健:「うん、美味しいよ」


美香:「健さんに喜んで貰えて、私も嬉しい!」


健:「でも、男一人で食べに来るには、抵抗があるな~」


美香:「でしたら、私が、いつでも一緒に来て差し上げますわ。
    あ・・・、でも、健さんが・・・、また私とデートしてくださるならですが・・・」


健:「・・・良いよ。またデートしよう」


美香:「本当ですか?」


健:「あぁ、本当だ。・・・俺、美香さんの事、誤解していた・・・。
   お金持ちの令嬢でも、思いやりがあるんだな・・・」


美香:「健さん・・・」


(喫茶店の入店音)


健:「俺・・・、下町生まれだから、チョコレートパフェが、こんなに美味しいとは知らなかった・・・。
   美香さん、今度は、この前・・・、食べれなかったあのレストランも、誘ってくれないか?」


美香:「ええ、勿論ですわ!」


健:「ありがとう・・・。じゃあ、この後は、美香さんの予定通り・・・」


裕子:「随分と、楽しそうじゃない・・・」


健:「あれ? 裕子? どうして、此処に・・・。
   丁度良かった。
   なぁ、裕子も食べて見てくれ。此処のチョコレートパフェ、美味しいんだ」


裕子:「私の気持ちも知らないで・・・」


健:「え? どうした?」


裕子:「健の馬鹿!!!」 (思いっきりビンタする)


健:「痛っ・・・。おい、いきなり何するんだ!」


美香:「そうですわ! 健さんに謝って!」


裕子:「絶対に嫌よ!!! 
    貴女も・・・、何、楽しそうに、健とデートしてるのよ!
    この泥棒猫!!!」


美香:「何ですって!! そっちこそ、いきなり私達のデート、ぶち壊しに来て、どういうつもりよ!」


裕子:「何が、デートよ!!! 私の気持ちも知らないで・・・、皆、嫌い・・・。大嫌いよ!!!」


健:「おい!! 裕子、待つんだ!!」


裕子:「付いて来ないで!!」


(喫茶店のドアを開けて出て行く裕子)


健:「裕子・・・」


美香:「何があったか分からないけど、今は追うだけ無駄だと思いますわ・・・」


健:「そうだな・・・」



(街中を一人歩く裕子)


裕子:「どうして、こんな事になったの・・・。あの頃は、あんなに、毎日が楽しかったのに・・・」

 


(小さい頃の回想)


(映写室で仕事してる誠の所に、裕子が入って来る)


裕子:「あ! パパ、此処に居たんだ~」


誠:「こら、裕子・・・。勝手に、映写室に入ったら、駄目だと何回言ったら・・・」


裕子:「だって~、裕子は、此処から見るのが好きなんだもん!」


誠:「全く・・・。今は、上映中なんだ。静かにしといてくれよ」


裕子:「は~い。
    ・・・ねぇ、パパ・・・」


誠:「何だい?」


裕子:「どうして、いつも、そんなに真剣なの~?」


誠:「それはだな、
   一瞬でも気を抜いたら、映画はちゃんと届かないからだ。
   フィルムは、熱や劣化や繋ぎ目の不具合で、焼き切れるときもある。
   だから、こうして側に居ないと行けないんだ」


裕子:「ふ~ん・・・」


誠:「まだ、裕子には、難しすぎたか・・・」


裕子:「そんな事ないもん! 裕子は、パパの働いてる姿、好き!」


誠:「そうか、そうか。・・・何だ、お前も、健みたいな事、言うんだな~」


裕子:「違うの~! 健より、私の方が、好きなんだもん!」


誠:「はいはい、分かってるよ~。全く、裕子は負けず嫌いなのは、母さん譲りだな~」


裕子:「ママも、このユウグレ座が、好きだった?」


誠:「勿論だよ。この映画館の名前・・・、ユウグレ座は、母さんが付けてくれたんだ。
   夕暮れ・・・、仕事に疲れた街の人達に、映画を観て疲れた心を癒して貰いたい・・・。
   そんな願いが、この名前には、込めてある・・・」


裕子:「そっか~。どうりで、皆、良い笑顔なんだ~」


誠:「ん?」


裕子:「裕子ね、この小さい窓から、映画館内を見るのも好き~」


誠:「監視窓の事か? この窓から見たら、お客さんの姿が見えるからな~。父さんも、好きだ」


裕子:「ママも、此処から見てた?」


誠:「今の裕子みたいに、釘付けになって見てたよ」


裕子:「そっか~。ママと一緒、嬉しいな~」


誠:「裕子・・・。大きくなったら、このユウグレ座の仕事、一緒に手伝ってくれるか?」


裕子:「うん! 手伝う!」


誠:「良い子だな、裕子は! お前が大人になるのが楽しみだよ!」

 

(小さい頃の回想、終わり)

 

裕子:「父さん・・・」


誠:「はぁ、はぁ、はぁ~・・・。・・・こんな所に居たのか・・・。探したんだぞ・・・」


裕子:「父さん!? 映画館は、どうしたのよ!?」


誠:「お前が心配で、閉めて来た。・・・それに、どうせ、客は来ない・・・。
   それより、健は見つかったのか?」


裕子:「うん・・・、見つかった・・・」


誠:「見つかったのなら、何で、そんなに暗い顔してる? 健は、何処にいる?」


裕子:「健は・・・、美香さんと・・・、デートしてた・・・」


誠:「何だと!? ・・・健の野郎・・・」


裕子:「ねぇ・・・、父さん・・・」


誠:「何だ?」


裕子:「私、もう、どうすれば良いのか、分からない・・・。
    疲れちゃった・・・。ごめん・・・ね・・・。父・・・さん・・・」(心労がたたり気を失う)

 

誠:「おい! 裕子! しっかりしろ!! 
   ・・・大変だ。・・・誰か、すまない!! 娘を助けてくれ!!
   誰でも良い!! 救急車を呼んでくれ・・・!!」

 

(救急車が到着して、病院に搬送される裕子)

 


(その夜、美香とのデートから帰宅した健は、自宅の居間で、昼間の出来事を考えていた)

 

健:「一体、裕子に、何があったんだ・・・。
   ・・・あ~、駄目だ! 考えても分からねぇ~・・・。
   明日・・・、ユウグレ座に行ってみるか・・・」

 

(悩んでる健。そんな時、黒電話が鳴る)

 

健:「ん? こんな夜に、誰から電話だ・・・。
   全く、時間を考えろよ・・・。
   ・・・。・・・はい、もしもし、古賀ですが・・・、どなたですか?」


誠:「おう・・・、健か・・・。俺だ、誠だ」


健:「誠さん、こんな時間に、どうしたんですか?
   あ、今日は、急用で、すみません・・・」


誠:「そんな事は、どうでも良い。・・・良いから、今から、面貸せ」


健:「え? いきなり何ですか? 大体、もう夜も遅いですよ」


誠:「うるさい! 黙って、俺に従えば良いんだ!」


健:「いっ!? ・・・はぁ、分かりましたよ~。
   誠さん、今、何処に居るんですか?」


誠:「市内の・・・、大きな病院だ・・・」


健:「え!? 誠さん、何処か悪いんで?」


誠:「・・・裕子が倒れたんだ。・・・良いか? 早く来い・・・。
  


健:「裕子が倒れたって、どうして!?」


誠:「・・・」


健:「・・・分かりました。今から、急いで向かいます・・・」


誠:「ロビーで待ってる。じゃあな・・・」


(電話が切れる)


健:「大変だ!! 急がなくちゃ・・・!!」

 


(篠崎家の屋敷。健とのデートから帰宅する美香)


(ダイニングルームで食事中の和夫)

 

美香:「パパ・・・」


和夫:「お帰り、美香。・・・健君とのデートは、楽しんだかい?」


美香:「それが、聞いてよ! また、あのおてんば娘に、邪魔されましたのよ!」


和夫:「そうか、それは災難だったな~。・・・やはり、手を打っておいて正解だったか・・・」


美香:「え? パパ、何かしたの?」


和夫:「商店街で、娘さんと出会ってね。・・・伝えたんだ。融資は出来ない事と、立ち退きの件をね」


美香:「あぁ~、それで、あんなに憔悴しきった顔で現れたのね~。
    もう、パパったら酷~い!
    折角のデートだったのに~!!」


和夫:「悪かったよ。だが、憔悴しきった顔で、お前の前に現れたのなら、作戦は上手くいったようだな・・・」


美香:「それは、そうだけど~・・・。デートを邪魔されたのは、納得が出来ない・・・」


和夫:「心配するな。あの親子が立ち退いたら、幾らでも健君とデートすれば良い。
    但し・・・、彼には、上流階級の嗜みを覚えて貰わないと行けないがね・・・」


美香:「勿論ですわ。私に、相応しい紳士になって貰うんですから・・・」


和夫:「お前の、そんな部分は、一体、誰に似たのだろうな~」


美香:「それは勿論! パパに似たのよ~!」


和夫:「全く、困ったものだよ・・・。・・・さぁ、三浦さんが、これからどうするか、楽しみだ・・・」

 

 

(市内の大きな病院。
 タクシーから降りた健は、救急外来入口から、走ってロビーに向かう)

 

健:「はぁ、はぁ、はぁ・・・! ・・・誠さん、お待たせしました・・・」


誠:「健・・・、来たか・・・」


健:「裕子が、倒れたってどうしてですか!?」


誠:「それは・・・、自分の胸に・・・、聞いてみろ!!!」(思いっきり健をぶん殴る)


健:「・・・痛っ・・・。誠さん・・・、何で殴るんですか・・・?」


誠:「お前・・・、篠崎の娘さんと、デートしていたのか?」


健:「どうして、その事を!?」


誠:「一体、何を考えてやがる!!! どうして、断らなかった!!!」


健:「無茶言わないでくださいよ・・・。俺にも、俺の事情があるんです・・・」


誠:「どんな理由があるってんだ! 言ってみろ!!」


健:「前に、デート、台無しにした事があったから、その償いですよ・・・。
   それと・・・、篠崎さんから、スーツ貰った恩もありますし・・・」


誠:「何だと? あの男め・・・。そんな姑息な手も・・・。
   事情は分かった・・・。
   だが一つ言っておく・・・。お前には、がっかりした・・・」


健:「え? それは、どういう意味ですか?」


誠:「自分でよく考えろ・・・」


健:「・・・」


誠:「裕子に会いたいか・・・?」


健:「はい・・・、会いたいです・・・」


誠:「分かった、付いてこい」


健:「・・・」

 


(病室のベッドで、眠っている裕子。繋がれた心電図の音が響いてる)


誠:「着いた。この部屋だ・・・」


健:「裕子・・・。・・・誠さん、裕子は大丈夫ですよね・・・?」


誠:「医者は、心労から倒れたんだろうと言ってた・・・。
   くそっ・・・。俺の融資が上手くいってれば、こんな事には・・・」


健:「え? 融資?」


誠:「あぁ・・・、お前には話しては居なかったか・・・。
   このままだと・・・、ユウグレ座は廃館になるんだ・・・」


健:「そんな・・・。・・・誠さん、何とかならないんですか・・・!?」


誠:「すまないな・・・。融資して貰う為に、走り回ったが・・・、無理だった・・・。
   あの娘の父親にも、融資を断られたんだ・・・。もう、どうしようもない・・・」


健:「・・・何か手があるはずです・・・」


誠:「あれば、手は打つ・・・。だが、思いつかないんだ・・・。ゴホッゴホッ・・・!」


健:「誠さん、しっかり!!」


誠:「忌々しい体だよ・・・。・・・すまない、健・・・。
   俺は一度、家に戻って裕子の荷物を持ってくる・・・」


健:「分かりました。・・・誠さん、今日は家に帰って休んでください。
   ・・・裕子の側には、俺が付いてます・・・」


誠:「分かった・・・。裕子を頼んだ・・・」

 

(病室を出て行く誠)


健:「裕子・・・。ごめんな・・・。俺が悪かった・・・。
   お願いだ・・・。目を覚ましてくれ・・・」

 


(数時間後。朝陽が登り始めて、目を覚ます裕子)

 

裕子:「ん・・・、此処は・・・。・・・そっか、私・・・、病院に搬送されたんだ・・・」


健:「・・・裕子・・・、ごめんな・・・」(寝言)


裕子:「健が、どうして此処に・・・? ・・・もしかして、父さんが知らせたのかな・・・」


誠:「裕子・・・。目が覚めたのか・・・」


裕子:「父さん・・・、私・・・!」(ベッドから起き上がろうとする)


誠:「起き上がらなくて良い。そのままで聞くんだ」


裕子:「うん・・・」


誠:「お前の着替えを持ってきた。・・・何か欲しいものがあったら、また教えてくれ」


裕子:「父さん・・・、ごめんね・・・」


誠:「謝る必要はない。・・・俺も、黙っていて悪かった・・・」


裕子:「え?」


誠:「お前に心配かけたくなくて、融資の事は黙ってたんだ・・・」


裕子:「ユウグレ座・・・、廃館になるの・・・?」


誠:「誰から聞いたんだ?」


裕子:「それは・・・」


誠:「あの男の仕業か・・・?」


裕子:「・・・」


誠:「全く・・・、立ち退かせる為には、手段を択ばない男だ・・・。困ったもんだな・・・」


裕子:「父さん・・・」


誠:「心配するな・・・。・・・もう一度、融資してくれる銀行を探してみる。
   お前は、ゆっくり休むんだ。先生が念のために、2、3日は、検査入院をと仰っていたよ」


裕子:「分かった・・・。ゆっくり休むね・・・」


誠:「良い子だな。・・・じゃあ、行ってくる」


裕子:「待って、父さん・・・!」


誠:「何だ?」


裕子:「母さんの・・・。私達、家族の大事な思い出の場所・・・。
    ・・・ユウグレ座は・・・、絶対に、無くならないわよね・・・?」


誠:「あぁ、勿論だ。・・・絶対に何とかしてみせる・・・」

 

(病室を出て行く誠)



裕子:「お願い・・・、母さん・・・。私達を・・・、ユウグレ座を・・・、守って・・・」(涙を流しながら)


健:「・・・もう、泣くな・・・。裕子・・・」


裕子:「健・・・!? いつ起きたの・・・?」


健:「誠さんと、話してる声が聞こえて来てから・・・」


裕子:「そう・・・」


健:「誠さんも、あんなに頑張ってるんだ・・・。若者の俺が、何もしないままでは居られないよな・・・」


裕子:「健・・・、一体、何をする気なの・・・?」


健:「そうだな~・・・。・・・そうだ、こうすれば、どうだ?」


裕子:「メモ帳よね?」


健:「・・・ユウグレ座の存続の為のチラシを作って、街中で配るんだ・・・」


裕子:「チラシ? 良いアイデアね! あ、でも・・・、うちに、そんなお金は・・・」


健:「心配するな・・・。借金してでも、印刷業者に土下座してでも・・・、何とかしてみせる」


裕子:「ありがとう・・・」


健:「礼は良い・・・。これは、俺なりの、誠さんへの償いなんだ・・・」


裕子:「健・・・。・・・あ、此処だけど、・・・こうすれば、どうかしら?」


健:「良いじゃないか! じゃあ、こっちは・・・、こうすれば、読む人にも、伝わるかな?」


裕子:「良いわね!」

 

 

裕子:(N)「私達は、ユウグレ座、存続の為のチラシを、一生懸命、考えた・・・。
       アイデアが纏まった後、健は印刷業者に懇願しに行った・・・。
       彼の誠実さが・・・、伝わる時間だった・・・。
       私達の思いが届いたのだろうか・・・。
       チラシは無事に完成して、私も退院の日を迎えた・・・」

 

健:「準備は出来てるか?」


裕子:「うん、忘れ物もなし! ・・・今まで、休んでた分、頑張らなくちゃ!」


健:「医者にも、無茶はするなと、言われただろう?」


裕子:「そうだけど・・・。このまま、家に帰ってじっとなんかしてられない・・・!
    父さんも・・・、今日も、融資先を探してるのでしょう?」


健:「あぁ・・・。走り回ってるよ・・・」


裕子:「だったら、お願い・・・。私にも、チラシ配り、手伝わせて・・・」


健:「分かったよ・・・。但し、無茶はするなよ」


裕子:「ええ、分かってるわよ」

 

 

(駅前で、チラシを配っている二人)

 

健:「お願いします! ユウグレ座の存続に、力を貸してください!!」


裕子:「お願いします!! この街の映画館の存続に、力を貸してください!!」

 

(その様子を車で見かけた篠崎親子)

 

和夫:「美香・・・。あそこを見て見なさい・・・。
    映画館の存続に、ついにチラシまで配り出したよ・・・。
    老朽化した時代遅れの映画館など、何処が良いんだ・・・。

 

美香:「え・・・!?」

 

和夫:「全く・・・、何処まで、社交性に欠けているんだ・・・。
    お前も、そう思わないか・・・?」


美香:「ええ、その通りですわね・・・。
    無駄な努力をして・・・、何が楽しいのかしら・・・」


和夫:「流石、私の娘だ・・・。
    さぁ、家に戻ろう・・・。おい、運転手、屋敷まで」


美香:「待って、パパ・・・!」


和夫:「どうしたんだ?」


美香:「私・・・、急用を思い出したの・・・。先に家に帰って・・・」


和夫:「ふむ、仕方ない子だ・・・。・・・余り遅くならないように、するんだよ」


美香:「ええ、勿論よ。じゃあね、パパ・・・」


(車を降りる美香)


和夫:「まぁ、良い・・・。チラシを配ろうが・・・、私の計画は、完璧だ・・・」

 

(車が走り去るのを確認する美香)



健:「ユウグレ座の存続に、力を貸してください・・・!」


美香:「一枚、チラシ、貰えるかしら?」


健:「あ、どうぞ・・・」


裕子:「ちょっと、何しに来たのよ!!」


美香:「いきなり怒鳴らないでよ!! ・・・折角、人が手伝いに来たというのに・・・」


裕子:「え? どうして?」


美香:「どうしても何も・・・。・・・私も、あの映画館には、思い出があるからよ・・・。
    パパも・・・、私が小さい頃・・・、あの映画館に、連れて行ってくれた頃は・・・、
    今みたいに、冷酷な人ではなかったの・・・」


裕子:「ふ~ん・・・。父親と何かあったのは、何となく分かった・・・」


美香:「貴女に、私の何が分かるのよ・・・」


裕子:「そうね、ほとんど、分からない! でも、これだけは言える!」


美香:「何よ?」


裕子:「お嬢様言葉を使っていた貴女より、今の方が私は好きよ!」


美香:「ありがとう・・・。
    ・・・私も、貴女の、そのおてんばな性格・・・、嫌いじゃないかも・・・!」


裕子:「誰がおてんばよ!! あんたこそ、もっと素直になりなさいよ!!」


美香:「失礼ね! これでも、努力してるわよ!!」


裕子:「何処がよ!!」


健:「二人共・・・、喧嘩する暇があるなら、チラシ配りを・・・」


裕子:「うるさい!!!」


美香:「黙ってて頂戴!!」


健:「はいっ・・・!!」


裕子:「あっははははは!!! 貴女、やるわね!!」


美香:「ふふふふ、そっちこそ!」


健:「はぁ~・・・」



誠:「くそっ・・・。融資先が見つからない・・・。
   でも、諦めて堪るか・・・。
   ん? あれは・・・、裕子と、健と・・・、あの娘は・・・、篠崎の娘さんか・・・?」

 

裕子:「お願いします!! この街の映画館の存続に、力を貸してください!!
    ・・・あ、ありがとうございます!!」


健:「ユウグレ座の存続の為に、皆さん、力を貸してください!!」


美香:「ユウグレ座に、是非、来てくださいませ!
    チラシですか? これです・・・。・・・ありがとうございます!」


誠:「あいつら・・・」


健:「お願いします! ユウグレ座の存続に、力を貸してください!!」


誠:「おいっ、俺にも、チラシをくれないか?」


健:「誠さん・・・。どうして此処が・・・?」


誠:「馬鹿野郎! 駅前で、大声、張り上げて、チラシを配ってたら、
   誰でも、気付くだろうが!!」


健:「そうですね!」


誠:「全く・・・。・・・所で、このチラシ代は、どうしたんだ?」


健:「心配しないでください。金融業者に、借金と・・・、印刷業者に、頭下げて、用意しました」


誠:「健・・・。・・・お前、何も・・・、そこまで、する事は無いだろう・・・」


健:「これは、俺なりの償いなんです・・・。
   それに・・・、何としても、ユウグレ座は存続させたい・・・。
   だから、後悔はしてません!」


誠:「健・・・。・・・お前は、何処まで・・・、馬鹿なんだ・・・」


健:「あれ? ひょっとして、誠さん、泣いてますか?」(からかい気味に)


誠:「泣くわけ無いだろう!! 下らない事をいう暇があるなら、さっさとチラシを配りやがれ!!」


健:「はい!!
   ユウグレ座の存続の為に、皆さん、力を貸してくださ~い!!」


裕子:「父さん・・・」


誠:「体調は、大丈夫なのか・・・?」


裕子:「うん、もう大丈夫よ・・・」


誠:「そいつは良かった。でも、無理はするなよ」


裕子:「分かってる」


誠:「後・・・、あんたは・・・、篠崎さんの・・・」


美香:「パパが・・・、いいえ・・・、父から、話は聞きました・・・」


誠:「そうか・・・。それなら、どうして、手伝ってくれるんだ?」


美香:「父も、仕事だから仕方がないとは思います。
    でも・・・、私も気付いたんです・・・」


誠:「ん?」


美香:「父も、私の小さい頃は、あの映画館、ユウグレ座に連れて行ってくれて・・・、
    映画を観て喜ぶ私に、笑顔で居たことに・・・。
    だから・・・、父にこれ以上、苦しめないでと、説得します!」


誠:「あんた・・・、美香さん・・・だったな・・・?」


美香:「はい」


誠:「あんたの事、誤解していた・・・。
   ユウグレ座を好きでいてくれて感謝する・・・」


美香:「三浦さん・・・」


誠:「さぁ、ぐずぐずはしてられねぇ! チラシ、配り終えるぞ!」

 


(チラシ配りを娘の美香も手伝ってる姿を見て、怒りを露にする和夫)

 

和夫:「美香・・・。・・・一体、何を考えてるんだ・・・。
    私の邪魔をするのなら・・・、娘のお前でも、私は容赦しない・・・!!」

 


健:「ふ~、これで、チラシ、全部、配り終えた~」


裕子:「疲れたわね~。お腹も空いたし、早く帰りましょう~」


美香:「初めての経験だけど、こうして、皆で働くのも、悪くないわね~」


裕子:「貴女、資産家の令嬢よりも、一般市民の方が似合ってるんじゃな~い」


美香:「そうかもしれないわね~。なんなら、3日間くらい、お互いの立場、交換してみる~?」


裕子:「良いじゃない、楽しそう~」


誠:「皆、ご苦労だった。
   ・・・これで、後は、1週間後のチャリティー上映に、どれだけ来てくれるかだな・・・。
   それにしても、チャリティーなど、よく思いついたものだ・・・」


健:「それは、裕子のアイデアですよ。なっ?」


裕子:「うん・・・。
    私達と同じように、ユウグレ座を廃館にしたくない人は・・・、
    この街に居ると、私、信じてるの・・・」


誠:「裕子・・・。ありがとうな・・・。
   さぁ、すっかり日も暮れた・・・。今夜は、そろそろ解散しよう。
   皆、1週間後のチャリティー上映、成功させるぞ!!」

 

健:「はい!!」


美香:「ええ!!」


裕子:「勿論よ!!」

 


(チラシ配りから、解散後、上機嫌で歩いてる美香の前に、和夫が現れる)

 

美香:「チラシ配り、楽しかったな~。
    誰かに、感謝されるのも、悪くない気分。
    ・・・ふふふ、1週間後が楽しみ~」

 

(背後から、声をかける和夫)


和夫:「こんな所で、何をしている・・・」


美香:「誰!? ・・・何だパパか。
    いきなり背後から、声かけるから、痴漢かと思ったじゃない・・・」


和夫:「説明するんだ・・・」


美香:「え?」


和夫:「どうして、お前が、あの男と、あの親子と、
    駅前でチラシを配っていた・・・」


美香:「どうしたの・・・? 何だか、怖い・・・」


和夫:「この・・・、親不孝者が!!」 (美香の頬を叩く)


美香:「キャッ・・・!! ・・・。・・・パパ・・・?」


和夫:「篠崎家の娘が、買収予定の建物を、
    汗水、流して・・・、チラシを配って宣伝をしているだと!?
    一体、お前は、何を考えて、生きているんだ!」


美香:「予定でしょう? まだ、買収は決まってないわ・・・」


和夫:「時間の問題だ!
    お前は・・・、私の娘なんだ!!
    黙って、私の言う通りに、従っていれば、順風満帆な人生を送らせてやる!!
    それなのに・・・、私に、逆らうような真似をしよって・・・。
    良いか!! 当分、自宅謹慎にする!!」


美香:「そんな・・・、酷いよ! パパ!!」


和夫:「うるさい!! もう決めたんだ!! これ以上、我儘は許さない!!」


美香:「パパ、変わったわよ・・・」


和夫:「何だと・・・?」


美香:「今のパパは、大嫌いよ!! それに、汗水、流して動くのも・・・、
    誰かを守る側も・・・、悪くないわよ!!」


和夫:「言わせておけば・・・、この・・・!!!」 (再び、美香の頬を叩こうとする)


健:「もう止めてください!!」


和夫:「君は・・・。・・・あの時の、見窄らしい青年か・・・。
    邪魔をしないでくれ。・・・これは、私と娘の問題だ!!」


健:「いいえ、そうは行きません!!」


和夫:「何だと? 私に、逆らうと言うのかね?」


健:「ええ、逆らいます。・・・貴方は、間違ってる・・・。
   美香さんは、自分の意志で、チラシ配りを手伝ってくれたんです!!
   彼女にも、自分で考えて、行動する自由はある!!」


和夫:「黙れ!! 貴様は何様のつもりだ!!
    美香は、私の娘だ!! その娘を、どう使おうが、私の勝手だ!!」


健:「美香さんは、物じゃない!!」


和夫:「黙れ! 黙れ!! ・・・良いか!!
    私を怒らせて、覚悟が出来ているのか?
    お前も、お前の家族さえも・・・、働けなくさせるのも、簡単なんだからな・・・!!」


美香:「・・・」


健:「自分の思い通りに行かなくなったら、権力で、支配しようとする・・・。
   ・・・これが、貴方の言う・・・、上流階級の考えですか・・・」


和夫:「あぁ、その通りだ! 世の中には、二種類の人間が居る!!
    使われる人間と、使う人間だ!
    最後のチャンスをやろう・・・。
    私に対する無礼を、この場で、謝罪するなら・・・、使う人間になる道を与えてやる。
    さぁ、どうする・・・?」


健:「俺は・・・、あんたみたいな冷酷な人間の仲間に・・・、なる気は無い!!」


和夫:「何だと・・・!?」


健:「このスーツも、俺には必要ない! ほらっ、返す!! 有難く受け取れ!!」


和夫:「ぐはっ・・・。私の顏向けて、投げるとは・・・、許せん!!」


健:「ふん!! 許して貰わなくても結構!! あっかんべーだ!!!」


和夫:「貴様・・・!!!」


健:「さぁ、美香さん! 手を!!」


美香:「え!?」


健:「このまま帰ったら、自宅謹慎になるんだろ!! だったら、手段は一つ!!
   俺達の所に来い!!」


美香:「でも・・・! 私・・・」


和夫:「良いか!! そんな事をしてみろ!! 勘当だからな!!」


美香:「パパ・・・」


健:「ユウグレ座を守りたいんだろう!? だったら、勇気を出して、選ぶんだ!!」


美香:「健さん・・・。・・・パパ、ごめんなさい!!!」(健の手を取る)


和夫:「美香・・・、お前・・・!?」


健:「良い決断だ!! さぁ、走るよ!!」


美香:「ええ!!」


(走り去る、娘の美香と健を呆然と見つめる和夫)


和夫:「・・・どうして、私の気持ちが分からないんだ・・・。美香・・・」

 


(ユウグレ座、ロビー)

 

健:「と、言うわけで、説明は以上だ。
   裕子・・・、お前の所で、世話してやってくれないか・・・?」


裕子:「事情は分かった・・・。私は、別に構わないけど・・・、父さんが、何と言うか・・・」


誠:「別に構わない。好きなだけ居ろ」


美香:「ありがとうございます・・・!!」


裕子:「そうと決まれば、そうね~・・・。
    先ずは、夕食の準備を手伝って貰おうかしら~?」


美香:「え? 料理は・・・、経験が無くて・・・」


裕子:「そんなの、慣れよ、慣れ! 私が、教えてあげる!! さぁ、台所に行くわよ!!」


美香:「え!? ちょっと、押さないで~!!」


健:「あははっ、何だか、賑やかになりましたね~」


誠:「全く・・・、うるさくて、かなわん・・・」


健:「・・・篠崎さん、このまま、諦めてくれますかね・・・?」


誠:「さぁな・・・。あの男の事だ・・・。
   また何かしかけてくるだろうよ・・・」


健:「・・・」

 

裕子:(N)「その夜・・・、私達は、チャリティー上映に向けて、作戦を立てた。
       あの娘も・・・、慣れない環境の生活に、最初は戸惑っていたけど・・・、
       少しずつ、慣れて来たのか・・・、笑顔を見せる事も増えて来た・・・。
       そして、あっと言う間に、1週間は過ぎて・・・、いよいよ、当日を迎えた・・・」

 

誠:「・・・」


健:「戻りました・・・」


裕子:「外の様子は、どうだった?」


健:「お客は、一人も来てなかったよ・・・」


裕子:「そんな・・・」


美香:「皆さん・・・、笑顔で、チラシを受け取ってくれたのに・・・。どうして・・・」


誠:「・・・皆、落ち込むのは早いぞ・・・。まだ昼過ぎだ・・・。
   心配するな・・・。お客は来る・・・!!」


健:「そうですね。・・・待ちましょう・・・!」

 

裕子:(N)「けれども・・・、夕方近くになっても・・・、お客は来なかった・・・」


誠:「・・・」


美香:「もうすぐ、日が暮れるわね・・・」


健:「俺・・・、外で、呼びかけて来ます!!」


裕子:「それなら、私も!!」


誠:「もう、止めるんだ・・・」


裕子:「父さん・・・、どうしてよ!?」


誠:「悔しいが・・・、この街に・・・、ユウグレ座は、必要ないってことだ・・・」


和夫:「その通り」


美香:「パパ・・・!?」


和夫:「チャリティー上映など、行っても、結果は見ての通り、閑古鳥が鳴いてる状態ではありませんか!!!
    三浦さん・・・、これで、分かったでしょう?
    時代遅れの老朽化した映画館など・・・、この街には必要ないと・・・」


誠:「・・・」


和夫:「最早、反論する気力もありませんか? ・・・良い心掛けです。
    今月中に、立ち退きを了承してくれたら、
    約束通り、私達が、引っ越しの費用、新しい住居の資金も出しましょう」


誠:「分かった・・・。それで良い・・・」


裕子:「父さん・・・」


誠:「すまない・・・、裕子。・・・手は尽くした・・・」


裕子:「そんな・・・」


和夫:「それでは、この契約書にサインを・・・」


誠:「あぁ、今・・・、判子を持ってくる・・・」


裕子:「待って!!!」


和夫:「何だね?」


裕子:「せめて、最後に・・・、映画を上映して良いですか・・・?」


和夫:「ほう・・・、最後の思い出作りか・・・。構わない、許してやろう」


裕子:「ありがとうございます・・・」


誠:「何を考えてるんだ? 俺は・・・」


裕子:「私・・・、・・・あの映画が観たい・・・。父さんと母さんと私と三人で、何度も観たあの映画・・・」


誠:「・・・分かった。中で待ってろ・・・」


裕子:「うん・・・!!」

 


(映写室、映画の準備をする誠)


誠:「・・・」


健:「誠さん・・・、俺・・・」


誠:「何も言うな。・・・時代には逆らえないんだ・・・。
   ・・・健・・・、お願いがある」


健:「何ですか?」


誠:「此処の仕事は、お前に任せる」


健:「え? でも・・・」


誠:「頼む・・・。・・・最後ぐらいは、俺も・・・、客席で観たいんだ・・・」


健:「分かりました・・・。誠さん・・・」


誠:「ありがとうよ・・・」

 


(スクリーン、映画館の客席)


裕子:「・・・客席から見るスクリーン・・・。こんなに広かったんだ・・・。知らなかった・・・」


誠:「お前は、母さんと似ていて、いつも映写室の中から観ていたからな・・・」


裕子:「そうだったわね・・・」


和夫:「思い出話ですか。大いに結構」


裕子:「あんた・・・、帰ったんじゃないの?」


和夫:「折角だから、私も観て行くことにした。
    心配するな。お前達、親子の邪魔はしない。客席の一番後ろから見るさ」


裕子:「ええ、そうして頂戴!」


(上演開始のブザーが鳴る)


誠:「始まるぞ・・・」


裕子:「うん・・・。ゴホッゴホッ・・・」


誠:「寒くないか? この毛布を足にかけてろ・・・」


裕子:「ありがとう・・・。父さん・・・」



(映写室 作業をしている健。そこに美香が現れる)

 

健:「よし・・・、問題なく始まった・・・。ふぅ~・・・」


美香:「映写室は、こんな感じになってたのね~」


健:「客席で観なくて良いのか?」


美香:「親子水入らず・・・。邪魔したくなかったのよ・・・」


健:「そうか・・・」


美香:「ごめんなさい・・・」


健:「いきなり、どうした?」


美香:「パパの命令とはいえ・・・、健さんを利用しようとしたこと・・・、間違ってたから・・・」


健:「もう気にしてないよ。それよりも、最後の上映なんだ。そこの窓から見てごらんよ」


美香:「・・・此処から観るのも良いわね・・・」


健:「あぁ・・・。俺も、最初に誠さんの作業を見た時から、そう思ってた・・・」


美香:「その気持ち、何だか、分かる気がする・・・」

 


(映画館の客席)


裕子:「あ、父さん、観て・・・。・・・此処のシーンよ。
    ・・・母さんも・・・、私も・・・、好きなシーン・・・」


誠:「そうだったな・・・。・・・夕暮れの海岸・・・。
   親子が、日が沈むまで、三人で、眺めている・・・」


裕子:「家族で喧嘩ばかりしても・・・、この海岸に来たら、そんな気持ちも、海に溶けて・・・、笑顔になる・・・。
    それが、三人の表情を見てると・・・、伝わってくる・・・」


誠:「やはり、親子だな・・・」


裕子:「え・・・?」


誠:「あいつも、似たような感想を言ってたよ・・・」


裕子:「母さん・・・。
    ・・・。
    ・・・私ね、・・・病気で母さんが亡くならなければ・・・、もっと一緒に、沢山映画が観たかった・・・。
    このユウグレ座も・・・、母さんの思い出も・・・、守りたかった・・・」


誠:「あぁ・・・、俺もだ・・・」

 

和夫:「・・・この映画、見覚えがある・・・。・・・確か・・・、美香が幼い頃・・・。・・・ん?」



(映写室 健と美香)


美香:「・・・健さん・・・!」


健:「今度は何だよ?」


美香:「私の見間違いじゃ無ければ・・・、・・・お客さんが入って来てる・・・」


健:「え!? ・・・俺にも、よく見せて! ・・・本当だ・・・、お客が居る・・・!」


美香:「ね? そうでしょう・・・。・・・あ、また一人、・・・あ・・・、二人・・・、入って来た・・・!」


健:「・・・そうか・・・、あっはは・・・、そういう事か・・・」


美香:「どうしたのよ?」


健:「・・・時計を見て見なよ・・・」


美香:「時計・・・?」



和夫:「どうしてだ・・・!? 何で、お客が、次々と入って来る・・・!?」


誠:「これは一体・・・、どうしたんだ・・・」


裕子:「父さん・・・、忘れたの? 時計を見て・・・。今、何時かしら?」


誠:「午後六時だ・・・。・・・そうか・・・」


裕子:「そうよ・・・。・・・ユウグレ座を愛して止まない人達は・・・、いつも、この時間帯から来てくれる・・・」


誠:「お前・・・、まさか・・・」


裕子:「うん・・・。最後の賭けに出たのよ・・・。・・・映画を上映していたら・・・、きっと観に来てくれるって・・・!」


誠:「全く・・・、お前って娘は・・・」

 

裕子:(N)「その後も・・・、お客は、次々と現れて・・・、気付けば、満席になっていた。
       上映が終了すると・・・、鳴りやまない沢山の拍手で、ユウグレ座は包まれた・・・。
       ・・・私達のチャリティー上映は・・・、無事、成功したのだった・・・。
       そして、皆も、帰った後・・・」

 

(客席で呆然として、席から立てない和夫。その横の席に誠が座る)

 

和夫:「負けた・・・。・・・この私が・・・」


誠:「隣の席、失礼するよ。
   すまないが・・・、ユウグレ座は、存続させて貰う」


和夫:「構いませんよ。・・・この世は、結果が全てです・・・。
    この街には、ユウグレ座が必要だと、住人の声を聞いて分かりました・・・。
    ・・・素直に負けを認めますよ・・・」


誠:「そうか・・・。
   なぁ・・・、久しぶりに、映画を観てどうだった・・・?」


和夫:「娘の小さい頃を思い出しました・・・。・・・私は、・・・とんでもない過ちを・・・」


誠:「さぁて、そいつは、どうだかな・・・」


和夫:「え?」


誠:「後ろを見て見な」


美香:「パパ・・・」


和夫:「美香・・・。・・・私は・・・、お前に・・・」


美香:「ううん・・・。もう、良いの・・・。・・・帰ろう、私達の家に・・・」


和夫:「・・・あぁ、そうだな・・・。帰ろう・・・」


美香:「私ね・・・、さっきの映画、覚えてた・・・。
    パパと一緒に、観に行ったわよね・・・」


和夫:「私も、思い出したよ・・・。
    ・・・なぁ、美香・・・」


美香:「何?」


和夫:「あの頃のように、
    また一緒に・・・、此処に、映画を観に来ような・・・」


美香:「うん・・・。・・・約束だからね・・・。パパ・・・」

 

(仲良く、ユウグレ座を出て行く二人)



裕子:「ユウグレ座の存続も決まったし、安心した~」


健:「うん、これで、俺も安心して、誠さんの元で修業が出来るよ!」


裕子:「え・・・? それって・・・?」


誠:「何だ、健・・・。決めたのか・・・?」


健:「はい・・・。誠さん・・・、俺に、裕子さんを・・・、ください・・・!」


裕子:「はぁ!? 何、言ってるのよ!!」


健:「だって、ほら、ユウグレ座の存続も決まったし・・・」


裕子:「それと、これとは、別よ~。大体、私にも、選ぶ権利がね~!!」


誠:「良いじゃねぇか!! 健・・・、覚悟しとけよ!
   こんなじゃじゃ馬娘・・・。やっぱり、結婚は止めます! 言われても、俺は、引き取らないからな~!」


裕子:「父さん!!!」


健:「あっははは! 勿論ですよ!! 幸せにしてみせます!!」


誠:「それとだ・・・。・・・このユウグレ座を・・・、どうか・・・、頼んだ・・・!」


健:「はいっ!!」



(時は流れて)


(街を見下ろせる墓地)

 

裕子:「うふふふ・・・。
    今でも、・・・こうして、目を瞑れば、・・・あの当時の・・・、
    父さんや・・・、貴方の笑い声が蘇ってくる・・・。
    ・・・貴方が亡くなってから・・・、もう数年が経ったわね・・・。
    最後の最後まで・・・、ユウグレ座を愛して・・・、必死に頑張ってくれた・・・。
    貴方の意思は・・・、息子や・・・、孫にも・・・、ちゃんと続いてるわよ・・・。
    ・・・街の皆や篠崎財閥も・・・、ユウグレ座に支援し続けてくれてるわ。
    残念ながら・・・、時代の流れで・・・、中の設備も、新しく変わったけど・・・、
    それでも・・・、ユウグレ座の名前は・・・、今も、変わらないままよ・・・」

 

孫:「おばあちゃ~ん! ユウグレ座に行かないと、映画に、間に合わないよ~!」

 

裕子:「はいはい。今、行きますからね~。
    それじゃあ、貴方・・・、時間みたいだから・・・、ユウグレ座に、戻るわね・・・」

 

孫:「おばあちゃ~ん! 早く~!!!」

 

裕子:「はいはい・・・」

 

 

 

 


終わり

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