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夜空ノ罪火 表紙画像.png

夜空ノ罪火

【ヨゾラノザイカ】


作者:片摩 廣

 

 

 


登場人物

 

風間 拓真(かざま たくま) ・・・ 美咲に好意を持っている


永井 美咲(ながい みさき) ・・・ 拓真に好意を持っている


橋本 大輔(はしもと だいすけ) ・・・ 美咲に好意を持っている、絵里とは仲が良い


相川  絵里(あいかわ えり) ・・・ 拓真に好意を持っている

 

小野寺 蓮(おのでら れん) ・・・ 4年前の夏の日に、何者かに殺された同じ学校の男子生徒


※【物語の終盤に登場する小野寺役は、
  大輔役の人、もしくは、絵里役の人が演じるの推奨です。相談して決めてください】

 

比率:【2:2】


上演時間:【80分】

オンリーONEシナリオ2526、

8月、夏祭りをテーマにしたシナリオ


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CAST


風間 拓真:


永井 美咲:


橋本 大輔:


相川  絵里:


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美咲:(N)「私は、これから高校の頃、仲が良かった3人と再会する。
       ・・・一見何も起きない平和で退屈な小さな街で、
       この後、私達は、今日、集まった事を後悔する事になる。
       どうして・・・、私達は、再会したのだろう・・・」

 

 



美咲:「夜空ノ罪火」 (タイトルコール)

(夜店の明かりと蝉の声が響く中、四人は河原に集まっている)


拓真:「おっ・・・、美咲~!、こっち、こっち~」


美咲:「はぁ、はぁ~・・・! ごめんね、約束の時間に遅れて・・・。バス、乗り間違えちゃった・・・」


大輔:「はぁ~・・・、美咲のドジは相変わらずだな・・・」


美咲:「むっ・・・。そういう人の気持ち考えないあんたも、相変わらずでしょ」


大輔:「何だと・・・!!」


絵里:「ほ~ら、美咲も大輔も喧嘩しな~いの~。・・・まったく、犬猿の仲も相変わらずよね~」


大輔:「ふん!!」


美咲:「ふん!」 (同時に)


拓真:「はははは・・・。・・・このやり取りも、何だか懐かしいな」


絵里:「うん、高校で、初めて会った時、思いだすわね~」

 


(高校の入学式)

 

美咲:「もう、嘘でしょう!? 高校に向かうバス、乗り間違えた~・・・!!
    入学式に遅刻なんて、洒落にならないよ~!!!
    急がないと~!! ・・・えええええ!?」

 


大輔:「あん? ・・・ぐわあああああああああ!!!
    痛てててて・・・。おいっ!! ちゃんと前見て、走れよ!!!」

 


美咲:「ごめ~ん!! 遅刻しそうなの~!! 許してええええ!!!」


大輔:「何なんだよ・・・。くそっ、入学式から付いてないな・・・」


拓真:「おい、大丈夫か?」


大輔:「あぁ、ありがとう・・・」


拓真:「遅刻しそうなのは、分かるけど、慌てすぎだよな・・・」


大輔:「全くだよ・・・。・・・顔は覚えたから、後で覚えとけよ~・・・」


拓真:「お前も・・・、今日から入学なんだな」


大輔:「あぁ・・・、そういうお前も?」


拓真:「あぁ、そうだ。・・・俺は、風間 拓真だ」


大輔:「俺は、橋本 大輔だ。宜しくな。・・・さあて、俺らも急ぐか」


拓真:「あぁ・・・」

 


 


美咲:「ふぅ~・・・、間に合った~・・・」


絵里:「あんた・・・、入学式から遅刻しそうなんて、勇気あるのね~」


美咲:「えへへ・・・、バスに乗り間違えちゃって・・・」


絵里:「へぇ~・・・。・・・あっ、私は、相川  絵里。
    同じクラスだし、宜しくね」


美咲:「うん、宜しくね。・・・私は、永井 美咲」

 

大輔:「お? 此処が俺達のクラスか~・・・。俺達、一緒のクラスで良かったな」


拓真:「そうだな」


大輔:「さてと、俺の席は~・・・、あああああああああああああ!!!!」


美咲:「ああああああああああああああ!!!!」(同時に)


大輔:「何で、お前も、同じクラスなんだよ!!!」


美咲:「仕方ないでしょう!! 学校が決めたんだから!!」


大輔:「それはそうだけどよ~!! ・・・それよりも、さっきぶつかった事、謝れよ~!!」


美咲:「はぁ~・・・、悪かったわよ・・・」


大輔:「何だ!? その謝り方は!!」


美咲:「ちゃんと謝ったんだから、良いじゃない!!」


大輔:「何だと~!!」


絵里:「まぁまぁ、二人とも・・・、落ち着いて・・・」


大輔:「ふん!!」


美咲:「ふん!!」(同時に)


拓真:「はははは・・・」

 


 


絵里:「あれがきっかけで、私達・・・、仲良くなったのよね~」


拓真:「あぁ、そうだったな」


絵里:「高校、卒業してから・・・、4人で集まったのは、成人式の時だから・・・、もうあれから2年になるのね」


美咲:「はぁ~あ・・・、私達も20歳か~・・・。高校生の頃が懐かしい・・・」


大輔:「昔を懐かしんでたら、あっと言う間に20代も終わって、30代を迎え・・・、気付けばおばさんと呼ばれるように・・・」


美咲:「その時は、あんたもおじさんよ!」


拓真:「違いないな」


大輔:「おい、そこは俺の味方してくれよ!」


絵里:「みんな~、楽しいは分かるけど、いつまでも話してたら、夜店が終わっちゃう~」


大輔:「それもそうだな。なぁ、美さ・・・」


美咲:「絵里、今行く~。ほらっ、拓真、行こう!!」


拓真:「お、おう・・・」

 


 


大輔:「・・・チッ・・・、何だよ・・・」

 


 


絵里:「あれ? 大輔は?」


拓真:「あいつの事だ。ゆっくり歩いてるんじゃないか?」


美咲:「本当・・・、昔から足並み、揃えるのが苦手よね・・・」


絵里:「まぁまぁ・・・。私、少し見てくる。・・・美咲、拓真と先に夜店に行ってて!」


美咲:「分かった! ・・・行っちゃった~・・・。
    ・・・絵里も相変わらず、お人好しで安心した・・・」

 


拓真:「そんな毒舌を俺と二人っきりの時にだけ言うのも、相変わらずだな・・・」


美咲:「拓真は・・・、私の毒舌を知ってる希少な一人なんだから・・・、嫌いにならないでよね・・・」


拓真:「ば~か、嫌いにならないよ。・・・それも含めて、俺は・・・」


美咲:「俺は?」


拓真:「何でもない。・・・ほらっ、夜店に向かうぞ!!」


美咲:「意気地なし・・・」(小声)


拓真:「・・・おっ、あっちから良い匂いが~・・・」


美咲:「あ~ん、拓真、待ってよ~」

 

大輔:「くそっ・・・!!!」


絵里:「お~!!! 水切り、上手くなったじゃない!!」


大輔:「絵里・・・。戻って来たのか・・・。拓真と美咲は?」


絵里:「先に夜店に向かわせた」


大輔:「そう・・・かよっ!!!」


絵里:「見てるだけじゃつまんない。私も、投げちゃおうっと!!! えいっ!!!」


大輔:「すげええええ!!! 向こう岸まで届くのかよ!!!」


絵里:「コツが・・・、ある・・・のよっ!!!」


大輔:「ふ~ん、コツ・・・ねっ!!! ・・・あ~くそ~!!!!」


絵里:「肩に力が入り過ぎてるからよ。良い、見てて!!! えいっ!!!」


大輔:「コツと言われても・・・、見ても分かんね~・・・」


絵里:「何事にもコツがあるのよ・・・。そう・・・、恋愛にも・・・ね」


大輔:「・・・」


絵里:「あんた、本当、昔から変わらないわね。・・・まだ自分の気持ち、伝えてないの?」


大輔:「伝えられるわけないだろう!! あいつは・・・、拓真の事が好きなんだからよ・・・」


絵里:「意気地なし・・・。図体だけがデカいだけで、心はまるで高校の時から成長してない・・・。
    そんなに、美咲の事が好きなの・・・?」

 


大輔:「あぁ、好きだ・・・。・・・大好きだ・・・」


絵里:「じゃあどうして、美咲を追って上京までして、同じ大学にまで入ったのに、何も伝えようとしないの・・・」


大輔:「一緒の大学に入って、美咲を遠くから見守るだけで俺は・・・満足してる・・・」


絵里:「このストーカー!!」


大輔:「ストーカー!?」


絵里:「ええ、そうよ! 良い、よ~く聞きなさい! そんなに好きなら、あんたが美咲に告白する機会、私が作ってあげる」


大輔:「告白だと!?」


絵里:「黙って最後まで聞く!!」


大輔:「はい・・・」


絵里:「打ち上げ花火の時に、私が拓真を連れ出すから、あんたは、美咲を上手く連れ出して。
    そして、花火が打ち上がったら告白するの」

 


大輔:「そんなテレビドラマみたいな展開・・・。緊張するな~・・・」


絵里:「こんな時くらい、男、見せなさいよ・・・。馬鹿・・・」


大輔:「おう・・・。ありがとうな・・・。絵里・・・」


絵里:「成功報酬は・・・、そうね・・・、屋台のタコ焼き、10箱で許してあげる!」


大輔:「はぁ!? それは幾らなんでも食い過ぎじゃ・・・」


絵里:「文句言わない!! さぁ、二人に合流するんだから、急ぐわよ!!!」


大輔:「おい、いきなり腕、引っ張るなよおおおお!!!」

 

拓真:「なぁ、美咲・・・」


美咲:「何? 拓真」


拓真:「向こうでの大学とか、暮らしは楽しいか?」


美咲:「うん! すっっっごく楽しい!!!
    目に入って来る物、皆、新しい物ばかりだしさ!
    美味しい食べ物も、スイーツも沢山あって、大学の友達と毎日、色んなお店に行って幸せ~!!!」

 


拓真:「楽しそうで良かったよ」


美咲:「うわあああ~、懐かしい~!!! 拓真、見て見て! ヨーヨー釣り!」


拓真:「そんなにヨーヨー釣りが珍しいのかよ。・・・毎年、お祭りには・・・」


美咲:「ねぇ、拓真・・・。どうして、一緒に上京してくれなかったの・・・?」


拓真:「・・・出来るわけ無いだろう。・・・お前の家と違って、うちの家は、そんなに余裕なんて無かったんだ・・・」


美咲:「嘘つき・・・」


拓真:「え?」


美咲:「大輔から聞いたよ・・・。・・・拓真が、高校の頃・・・、
    私と絵里に内緒で、大輔と一緒にバイトしてたの・・・」

 


拓真:「あいつ・・・、喋ったのか・・・」


美咲:「上京するには、足りるくらいお金も貯まったのも聞いた・・・。ねぇ、どうして・・・?」


拓真:「怖かったんだ・・・。この街から出るのが・・・」


美咲:「上京しなかった拓真には、分かんないよね・・・。私が、どれだけ、寂しかったか・・・」


拓真:「寂しいと言ってるが、側に大輔も居たのだろう? 俺と違って大輔は、上京するのを楽しみにしてたし」


美咲:「拓真は、何にも分かってない・・・。
    大輔は、上京してから同じ大学に入ったけど、一度も私に声を掛けてくれなかったし、
    大学の外でも会ったりは無かったんだから・・・」

 


拓真:「同じ大学に入ったのにか?」


美咲:「ええ、そうよ・・・。大輔は・・・」


絵里:「あ~、二人とも、こんな所に居た~。・・・色々、探し回ったんだから~・・・」


美咲:「ごめんね・・・! ヨーヨー釣り、懐かしくなっちゃって・・・」


大輔:「はぁ~、はぁ~、絵里・・・、走るの早いよ・・・」


絵里:「あんたが遅すぎるのよ! どうせ、高校、卒業してからは、走るのも辞めたんでしょ?」


大輔:「・・・」


絵里:「本当、分かりやすいんだから・・・」


大輔:「おっ! ヨーヨー釣りじゃん!!! まだこっちにはあったんだな! あっちでは見かけなくなってよ~。
    この前も、美咲と一緒に行った時に、その話になって・・・」

 


拓真:「え?」


美咲:「この馬鹿!!!」


大輔:「痛っ!! いきなり何するんだよ!!」


美咲:「良いから、こっちに来て!!」


絵里:「え? 二人で何処行くの? 美咲~! 大輔~! もう・・・、行っちゃった・・・」


拓真:「何だよ・・・。嘘つきは、お前もだろ・・・」(小声)


絵里:「あ~あ、私達、まんまと騙されたみたいね~」


拓真:「え?」


絵里:「大輔・・・、私にも、美咲を遠くから見守るだけで、俺は満足してると言ったの・・・。
    ・・・折角、力になってあげようと思ったのに・・・。はぁ~あ、損した気分・・・」

 


拓真:「上京してから、あいつら、変わったよ。・・・俺達に嘘まで付くなんてな・・・」


絵里:「そうかな~、案外・・・、もっと昔から・・・、嘘付いてたのかもしれないじゃない?」


拓真:「絵里・・・、どういう意味だ?」


絵里:「あくまで推理よ、推理・・・。」

 

 


(夜店から少し離れた林の中)

 

美咲:「ねぇ~、どういうつもり!? あんたと向こうで、一緒に祭りに行った事は、内緒って言ったじゃない!」


大輔:「つい口が滑ったんだよ!! そんなに怒る事無いだろう・・・!」


美咲:「はぁ~あ・・・、拓真に嘘つきだと思われてるよ~・・・」


大輔:「実際、事実じゃねぇか・・・」


美咲:「はぁ?」


大輔:「お前・・・、上京してから、大学にも馴染めず、友達も出来ないって泣きついて来たじゃん」


美咲:「・・・思ってた感じと違ったのよ。この街より栄えてる都市に住めば・・・、
    退屈な毎日も・・・、変わると信じてた・・・。
    でも、全然、違った!! 初めは、見るもの全てが輝いて見えたけど・・・、
    キラキラした気持ちも、半年も経つと消えた・・・。
    大学のね・・・、同じ科の子達・・・、都市出身が多いんだ・・・。
    私・・・、その子達の服装を見て驚いた・・・!
    皆、ブランド物の服着てお洒落で・・・。
    私なんか、大学の学費と生活にかかるお金で一杯一杯なのに・・・!」

 


大輔:「生まれる場所は、決められないんだ。仕方無いだろう・・・」


美咲:「仕方ない・・・? ・・・こんな退屈な街に生まれて来なければ、私だって!!!」


大輔:「どうする事も出来ない事を、いつまでも考えても拉致があかないだろう!
    美咲が・・・、向こうで退屈な毎日を変えたいなら、
    俺が、一緒に居て変えてやる・・・。・・・だから、俺の事・・・」

 


美咲:「大輔の癖に・・・、格好付けないでよ・・・」


大輔:「・・・」


美咲:「そろそろ戻ろう。・・・あんまり長く居ると、二人に怪しまれちゃう・・・」


大輔:「あぁ・・・」

 

 


絵里:「二人とも遅いな~・・・」


拓真:「・・・」


絵里:「夏祭りに何て顔してんのよ。・・・眉間に皺寄せすぎ」


拓真:「おい、近付きすぎ!」


絵里:「へぇ~、私に近付かれたら・・・、慌てて赤くなるんだ~。拓真、可愛い~!」


拓真:「はぁ~?」


絵里:「ねぇ・・・、このまま、私達も二人で、何処かに抜け出しちゃおうか・・・?」


拓真:「え・・・?」


絵里:「私ね・・・、高校の頃から、拓真の事・・・、良いな~と思ってたんだよね~。
    だからさ・・・、拓真が野球に没頭していた時もね・・・、
    野球部のマネージャーになって、支えたかったの・・・。
    でも、ほらっ・・・、マネージャーには、美咲が居たから・・・、辞退した・・・」

 


拓真:「俺は、絵里にもマネージャーになって支えて欲しかったよ」


絵里:「優しい所・・・、昔と変わらないね。でもさ・・・、その優しさは、残酷だよ・・・」


拓真:「絵里・・・」


美咲:「ごめ~ん・・・、戻ったよ~」


絵里:「もう二人で、何処に行ってたのよ~」


美咲:「えへへ、ちょっとね~。あ・・・、拓真、あのさ・・・」


拓真:「大輔、向こうに射的があったから、久しぶりにやらないか?」


大輔:「え? でも、美咲と絵里が・・・」


絵里:「私達の事は気にしないで大丈夫。男同士で、楽しんで来て~」


拓真:「だとよ。・・・さぁ、観念しろ」


大輔:「はぁ~・・・、手加減なんてしてやらねぇからな」


拓真:「望む所だよ」


絵里:「二人とも、行ってらっしゃ~い! ・・・さてと・・・」


美咲:「拓真・・・」


絵里:「ねぇ、美咲、向こうのベンチで、少し話さない?」


美咲:「うん・・・」

 


 


(神社境内にある街が見渡せるベンチに座る)

 

絵里:「・・・此処から見る夜景、いつ見ても綺麗。・・・ねぇ、美咲も、そう思わない?」


美咲:「綺麗だけど見飽きたよ・・・。・・・白々しい会話は、もう良いから、お互い本音で話そうよ・・・」


絵里:「・・・」


美咲:「・・・」


絵里:「・・・正直、驚いた~。
    ・・・美咲は拓真が好きと思ってたのに・・・、大輔にも色目を使ってるなんてさ・・・。
    あんた・・・、高校の頃から、その性格、変わらないよね・・・」

 


美咲:「高校の頃の事、よく覚えてられるね・・・。私は、この街の記憶なんて、過去でしかないよ。
    それに・・・」


絵里:「何よ?」


美咲:「大輔は・・・、拓真が、私に振り向いてくれる為に利用してるだけだよ。
    さっきの拓真、明らかに私に嫉妬してた・・・。
    怒らせたかもしれないけど・・・、大輔が良い仕事してくれて、むしろラッキーだったよ」

 


絵里:「はぁ~・・・、あんた・・・、最低ね・・・」


美咲:「恋愛は、駆け引きじゃない。・・・それに大輔も、私と向こうで楽しい時間を過ごせるんだから、
    ほらっ、ウィンウィンでしょう!」

 


絵里:「大輔を高校の頃から、上手く利用してるだけじゃない・・・」


美咲:「さっきから、絵里は高校に拘るから言っとくね。
    ・・・私、高校の頃の記憶・・・、曖昧なんだ・・・。
    思い出そうとすると、霧がかかったように、頭が痛くなる・・・」

 


絵里:「・・・。
    あっそ・・・! それだけ向こうの暮らしが、楽しいから思い出せないんでしょう!
    充実していて羨ましい~!」


美咲:「違う・・・」


絵里:「言い訳は要らないから」


美咲:「そうじゃない!!!!」(思わず立ち上がる)


絵里:「美咲・・・?」


美咲:「何で一方的に、上京したら楽しいと決めつけるのよ・・・!!
    絵里は、上京してないから、分からないよね・・・。
    都市で暮らす辛さが・・・!」

 


絵里:「故郷を捨てて、上京した人の気持ちなんか分かりたくもない・・・」


美咲:「捨ててないよ・・・。ただ、もう退屈で飽きただけだから・・・」


絵里:「飽きたですって!? じゃあ何・・・!? そんな退屈で飽きた街で、
    上京もしないで、留まってる私と拓真は、人生の負け組とでも言いたいの!?」

 


美咲:「そうじゃない・・・! 私には、合わなかったと思っただけ・・・」


絵里:「あんた・・・、変わったよね・・・」


美咲:「え?」


絵里:「夏祭りに行くのに・・・、ブランドの服でお洒落してくる?
    ・・・一人だけ目立とうとしないでよ・・・。
    それとも何? この街で、そんなハイブランドのワンピース、似合うのは私だけって・・・、見せびらかすのが目的?
    はっきり言っとく。・・・今日の恰好、全然似合ってないから!!」

 


美咲:「酷い・・・。必死にお金貯めて、自分への御褒美に買ったのに・・・!!」


絵里:「・・・」


美咲:「絵里こそ変わったよ・・・。・・・拓真に、あんなに近付いて、誘惑したりさ・・・。
    私が・・・、拓真が好きな事、高校の頃から知ってたでしょう!?」

 


絵里:「ええ、嫌という程にね!! だから、あんなに入りたかった野球部のマネージャーも、諦めたのよ・・・!!!
    あんたに分かる・・・!? 好きな人を二度も、奪われる気持ち!?」

 


美咲:「え? 二度目!? ・・・何よそれ・・・。私が好きなのは、拓真だけ・・・」


絵里:「あ~あ・・・、やっぱり覚えてないんだ・・・」


美咲:「ねぇ、どういう事・・・?」


絵里:「さぁね・・・。・・・美咲・・・。・・・私・・・、あんたの事・・・、・・・よ!!」


美咲:「え? 何? 音が煩くて聴こえなかった」


絵里:「花火の始まる合図ね。・・・美咲、折角のお祭りよ・・・。
    あの二人の前では、今まで通り仲良くしましょう・・・」

 


美咲:「絵里・・・」

 

 


大輔:「だああああああ!!! また負けた~・・・!!」


拓真:「お前は、重い景品ばかり狙うから、撃ち落とすことが出来ないんだよ」


大輔:「だって、あんな小さい景品、狙えるわけがねぇだろう~」


拓真:「コツがあるんだよ、コツが・・・」


大輔:「コツだと?」


拓真:「上京したお前には、教えてやらないよ」


大輔:「根に持ちやがって・・・。・・・おっちゃん、もう一回だ!」


拓真:「懲りないね~・・・。・・・よしっ、・・・落ちた」


大輔:「くううううううううう!!! 今度こそ俺も・・・」


拓真:「なぁ・・・」


大輔:「おい、今、話しかけんなよ・・・。集中してるんだ・・・」


拓真:「・・・」


大輔:「よ~し・・・、この景品なら~・・・」


拓真:「美咲と夏祭りに行った後は、そのまま帰ったのか?」


大輔:「なっ!?
    ・・・あ~あ・・・。
    おい! お前が、いきなり変な事を聞くから、思いっきり外したじゃねぇか!!!」

 


拓真:「それはすまなかった。・・・で、どうなんだ?」


大輔:「・・・あぁ、まっすぐ帰ったよ・・・」


拓真:「・・・」


大輔:「おい、正直に答えたんだ・・・。反応くらいしろよ!」


拓真:「信じてやる・・・」


大輔:「おう・・・、ありがとうな・・・。・・・なぁ、俺からも質問、良いか?」


拓真:「何だ?」


大輔:「お前は、どうして一緒に上京しなかったんだ?」


拓真:「俺は、この街が好きなんだよ」


大輔:「それだけか?」


拓真:「いいやまだある。・・・俺まで上京したら、一人、残される絵里が可哀想だろう・・・」


大輔:「友達思いなんだな・・・。絵里が今の話、聞いたら・・・」


絵里:「呼んだ?」


大輔:「お前・・・、いつから居たんだよ・・・」


絵里:「秘密よ」


大輔:「お前な~・・・」


拓真:「美咲は一緒じゃないのか・・・?」


絵里:「うん・・・、美咲なら、もう少ししたら来ると思う・・・。
    それより! 男子トークは、進んだの~?」

 


拓真:「あぁ、お陰様でな」


大輔:「お前達の女子トークは、どうだったんだよ?」


絵里:「私達も・・・、お陰様で、かなり濃厚な話が出来たよ」


大輔:「何だよそれ~、気になるじゃねぇかよ~」


絵里:「ば~か、話すわけないでしょう。・・・あっ、美咲も来たよ。・・・美咲~!」


美咲:「ごめんね・・・。お手洗いにも寄ってたんだけど、かなり混んでて~・・・」


絵里:「祭りの時は、毎年混むからね~。・・・ねぇ、花火の時間まで、後30分くらいだけど、
    4人で、何処か見て回りた~い」

 


大輔:「おっ? 良いね、賛成! ・・・二人も良いよな?」


美咲:「うん、折角の夏祭りだもんね」


拓真:「俺も賛成だ」


絵里:「そう来なくちゃ! う~ん、何処にしようかな~・・・。
    ・・・あっ・・・、あそこの型抜き、どうかな~?」

 


大輔:「あっちゃ~! 俺、繊細な事は、苦手なんだよな~」


美咲:「それなら、一番高い型、挑戦しようっと。
    へっへん! 5000円は、私が貰うんだから~」

 


大輔:「何!? 5000円!? くっ・・・美咲に負けたくはねぇ~・・・。
      よし! 俺も、5000円のに挑戦する!!!」

 


美咲:「ちょっと真似しないでよ~!!!」


大輔:「良いだろう、別に~」


拓真:「はぁ~・・・、全く~」


絵里:「ほ~ら、三人とも、早く行くわよ~」

 


 


美咲:「おじさん、5000円の型抜き、お願い!」


大輔:「おっちゃん、俺も、俺も!!!」


絵里:「二人とも、はしゃいじゃって可愛いんだから。・・・拓真はどうする?」


拓真:「こんな機会、二度と無いかもしれないし、俺も5000円にするよ」


絵里:「オッケー・・・。おじさん、私達も、5000円のに挑戦する!」

 


 


美咲:「これが・・・、5000円の型・・・」


絵里:「龍の形ね~。・・・おじさん、中々、やるわね~」


大輔:「げげっ・・・。髭の部分とか、かなり細いじゃん。・・・どうやって、削るんだよ・・・」


拓真:「もう弱音、吐いてるのか。そんなんじゃ、5000円は、俺のもんだな」


大輔:「何だと!? 負けてたまるか~・・・」


美咲:「私も負けないんだから~」


絵里:「皆、準備は良いわね。じゃあ、用意、始め!!」

 


 


大輔:「よし・・・、俺はまず、外側から少しずつ・・・」


美咲:「あ~、その作戦、私も考えてたのに~!」


大輔:「良いか、真似するなよ、これは真剣な勝負なんだ!」


美咲:「誰が真似するもんですか!」


絵里:「何か懐かしい・・・。こうして4人で、一つの事してると、高校の頃に戻ったみたいよね!」


大輔:「高校か・・・。陸上に熱を注いでた時代もあったな~」


拓真:「・・・4人で、夏祭りに来たりもしたな」


美咲:「楽しかったのは覚えてるけど・・・、内容は覚えてない・・・。
    ・・・ほらっ、もう4年も前の事だし・・・」

 


絵里:「でも、この事は皆、覚えてるよね?
    ・・・私達と同学年の生徒が殺された事件・・・」

 


大輔:「あっ、確か、俺達が高2の時に・・・、男子の・・・」


絵里:「小野寺 蓮・・・」


大輔:「あ、そうそう、そんな名前だった。・・・よく覚えてたな~」


絵里:「・・・この街で一時期、かなり騒がれた事件よ。
    ・・・忘れたくても、忘れられるわけないじゃない。ねっ、そう思わない? 美咲」

 


美咲:「そんな事件もあったな~と思い出したけど、詳しくは思い出せない・・・」


絵里:「じゃあ、教えてあげる。・・・その事件、この神社の境内で起きたんだよ・・・」


美咲:「うっ・・・」


絵里:「どうしたの? 美咲?」


美咲:「ちょっと、急に眩暈が・・・」


拓真:「美咲、大丈夫か・・・?」


美咲:「うん・・・、何とか・・・」


絵里:「じゃあ、話、続けるね」


拓真:「おい、折角の祭りなんだ! そんな話は、もう良いだろう!」


大輔:「そうだそうだ、今は型抜きに集中しよう。美咲、続けられるか・・・?」


美咲:「ごめん・・・、私、抜けるね・・・。皆、私の事は良いから、型抜き、楽しんでね・・・!!」


大輔:「おい、美咲!! 待てよ!! 俺も行く!!」


拓真:「おい、大輔まで! ・・・待ってくれ、俺も!!」


絵里:「駄目よ、貴方は残って」


拓真:「何で止めるんだよ!!」


絵里:「拓真と二人っきりで話がしたいの」


拓真:「俺と二人で?」


絵里:「ええ、そうよ。・・・おじさん、ごめんね。・・・型抜きは諦める。
    ・・・さっ、私に付いてきて・・・」

 


拓真:「あぁ・・・」

 

 


美咲:「はぁ、はぁ、はぁ・・・」


大輔:「お~い! 美咲~!!! 待ってくれ~!!!」


美咲:「大輔・・・。付いて来なくても良かったのに・・・」


大輔:「美咲が心配なんだ! 付いて来て当たり前だろう!!」


美咲:「大輔・・・」


大輔:「絵里も、いきなり酷いよな・・・。何であんな昔の事件を今更・・・」


美咲:「・・・私ね・・・、その時の記憶が無いの・・・」


大輔:「え?」


美咲:「正確にいうとね・・・、高校の記憶が曖昧なの・・・。思い出そうとすると、頭が痛くなって・・・」


大輔:「知らなかった。・・・何でもっと早く、打ち明けてくれないんだよ」


美咲:「それは・・・、皆が大切にしてる高校の記憶・・・、台無しにしたくなかったから・・・」


大輔:「俺には、隠し事して欲しくなかった・・・」


美咲:「・・・」

 


 


(神社の境内の奥に来てる絵里と拓真)

 

絵里:「・・・着いたよ」


拓真:「こんな所も、この神社の境内にあったんだな・・・。知らなかったよ。
    それで、俺に話したい事があるって何だよ?」

 


絵里:「此処に来ても、まだその態度なんだ・・・。まぁ、良いや。
    もうすぐ、私の考えが正しいなら・・・、全部、分かると思うから・・・」

 


拓真:「・・・」


絵里:「ねぇ、知ってる? 此処から見る花火ね~・・・。綺麗なんだ~・・・。
    知ってる人は、数少ないから・・・、誰にも、邪魔されない秘密の絶景ポイント・・・。
    ほらっ、花火、見る為に下の河川敷には、人が集まって来てる・・・。
    ・・・誰も、こんな場所で、花火を見ようとはしないよね・・・。
    だから・・・、好きな人に告白するのに、最適なの・・・」

 


拓真:「話はそれだけか?」


絵里:「そんなわけないじゃん。・・・ほ~ら、花火の係りのカウントダウンが始まったよ~。
    今年は、どんな花火が、打ち上がるんだろうね~」

 


拓真:「・・・」

 


大輔:「美咲・・・、茶化さないで最後まで聞いてくれ・・・」


絵里:「5~」


美咲:「うん・・・」


絵里:「4~」


大輔:「俺・・・、高校の頃から・・・、ずっと・・・」


絵里:「3~」


大輔:「美咲の事が好きだった・・・。
    でも、お前は・・・、俺の事なんて、拓真を振り向かせる為の道具くらいに考えてたのも知ってる」

 


絵里:「2~」


美咲:「知ってたんだ・・・。だったら、何で私に優しくしてくれるの・・・?」


絵里:「1・・・」


大輔:「心から、美咲の事が大好きだからだよ!!!
    利用されていたと分かっていても・・・、お前と向こうで、一緒に祭りに行って遊んで、
    笑いあったり・・・、一つ一つが、すっげ~楽しかった!!
    このまま死んでもいいとさえ思った・・・!
    だから・・・、俺と・・・、友達のまま・・・。
    いいや、違う・・・。
    俺と!!! これから先の未来!! 一緒に歩んでくれええええ!!! 大好きだああああ!!! 美咲~!!!」

 


絵里:「0・・・」

 


(一斉に花火が打ち上がる)

 


絵里「・・・た~まや~!!!」


拓真:「・・・」

 


 


美咲:「・・・」


大輔:「美咲・・・? 返事を聞かせて・・・」


美咲:「あ・・・、・・・うっ・・・!」


大輔:「・・・美咲・・・、どうした!?」


美咲:「ううん・・・。また少し眩暈がしただけ・・・。
    ・・・大丈夫・・・。・・・ねぇ、大輔・・・」

 


大輔:「何だ?」


美咲:「大輔の気持ち・・・、私の心に響いたよ・・・。・・・付き合ってみようか?」


大輔:「本当に良いのか?」


美咲:「うん・・・」


大輔:「そっか・・・、嬉しいよ!!」


美咲:「ねぇ、大輔・・・。私ね・・・、喉が渇いた・・・」


大輔:「そっか・・・。屋台で何か買ってくるから、そこのベンチで待ってて。すぐ戻るから~!」


美咲:「うん。待ってるね~」

 


 


美咲:「うっ・・・、うええええ・・・。
    はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・!
    こうしちゃ居られない・・・。・・・早く、あの場所に行かなくちゃ・・・!!」

 


 


絵里:「うわああああ~、今年の花火も、綺麗ね~。ねぇ、そう思わない・・・?」


拓真:「っ・・・。・・・あぁ・・・、綺麗だな・・・」


絵里:「ふふっ・・・。
    やっぱり、此処に来たら、何かしら反応してくれると思った・・・。
    幾ら、心は騙せても~・・・、体は正直なんだね~。
    ねぇ、色々、フラッシュバックした?
    当時の記憶が・・・?」

 


拓真:「いつから知ってたんだ・・・」


絵里:「いつから? 最初から、気付いてたよ・・・。
    私・・・、野球部のマネージャーを諦めた後・・・、暫くしてから、小野寺君とね・・・、付き合い始めたの・・・。
    初めは、拓真の変わりくらいに考えてた。・・・でもね、小野寺君の優しさに、少しずつ傷付いた私の心も癒されて・・・、
    気付いたら、本気で好きになってた・・・」

 


拓真:「全然、気付かなかったよ・・・」


絵里:「当然よ。必死にバレないように隠していたから・・・」

 

 


大輔:「・・・美咲、飲み物、買って来たけど、どっちにする?
    ・・・あれ? お~い、美咲! 何処に行ったんだよ~。
    隠れてないで、出て来いよ~!
    返事が無い・・・。あいつ・・・、何処に行ったんだよ・・・。美咲~~~!!!」

 


絵里:「小野寺君を本気に好きになってからは、とにかく必死だった・・・。
    大好きな人を、もう奪われたくないって・・・。
    もう・・・、あんな思いは、二度としたくなかった・・・!!」

 


拓真:「・・・」


絵里:「でもね・・・、私の頑張りは・・・、いとも簡単に駄目にされた・・・。
    小野寺君を信じてたのに・・・!!
    ねぇ・・・、聞いてるんでしょう!!?
    隠れてないで・・・、出てきなさいよ!!!」

 

美咲:「絵里・・・」


絵里:「ほらっ! やっぱり居た~・・・」


拓真:「美咲・・・、お前、此処に来たって事は・・・、まさか・・・!」


美咲:「うん・・・、全部・・・、思い出したよ・・・」


拓真:「何で、思い出すんだよ・・・。あの時の記憶は、俺、一人で・・・」


絵里:「あっはははは!! この夏祭りの花火を観たら、美咲ならきっと思い出すと思った!!
    ・・・私が、この4年間・・・、どんな思いで・・・、過ごしてたと思う・・・?
    ・・・ずっと、ずっと・・・、あんたの記憶が戻るのを待ってた・・・。
    あんな酷い事しておいて、自分一人、その事を忘れるなんて、許されるはずが無いでしょう!!!」

 


美咲:「ごめん・・・。でも、あれは小野寺君を殺そうと思って殺したんじゃ無いの!!
    話し合いが拗れる内に、小野寺君が、私の腕を強く掴んで来て!!」

 


絵里:「あんたが・・・、今度は大輔じゃなくて、小野寺君を利用して、拓真の嫉妬心を煽ろうとしたからじゃない!!!
    知らないとでも思った!? ・・・小野寺君はね・・・、あんたの事が気になりだしてたの・・・!!
    ・・・それに気付いたあんたも、学校で小野寺君に、可愛い子ぶって近付いてるのも目撃したわ・・・。
    その瞬間を見た時ね・・・。私・・・、あんたを・・・、殺したいと思った・・・!!
    あんたの、その綺麗な顔を地面に叩きつけて、ぐちゃぐちゃになるまで、壊したかった!!!!」

 

美咲:「っ・・・」

絵里:「でも、そんな事したら、私が警察に捕まるのも、目に見えてた。
    だから必死に、抑え込んでたの・・・。あんたへの殺意を・・・。
    抑え込んでたのに・・・、そんな事を知らないあんたは、ついにあの日・・・、小野寺君を此処に呼び出した・・・!
    ・・・私は、あんた達の跡を付けたわ・・・」

 

 


 
(高校時代 
 神社の境内 夏祭りの花火が打ち上がっている)

美咲:「ごめんね・・・、小野寺君・・・、こんな所に呼び出して・・・」


小野寺:「美咲さん・・・、僕に話があるって何・・・?」


美咲:「小野寺君に、お願いがあるの・・・。私ね・・・、小野寺君の事・・・」


小野寺:「み・・・、美咲さん・・・!?」


美咲:「・・・優しくて、頼りがいがある人だと思ってたんだ~」


小野寺:「へ?」


美咲:「だからね・・・、私に協力して欲しいの・・・」


小野寺:「協力・・・?」


美咲:「私・・・、風間 拓真君が好きなの・・・。でも、彼、野球の事しか頭に無くて、
    全然、私の気持ちに気付いてくれない・・・。
    だから・・・、私と拓真君が嫉妬するようなやり取りして欲しいんだ~。
    小野寺君、優しいから、協力してくれるよね~!?」

 


小野寺:「ふ、ふざけるなよ・・・」


美咲:「え?」


小野寺:「夏祭りの日に・・・、こんな場所に呼び出して・・・、伝えたい事が、そんな馬鹿げた事かよ・・・」


美咲:「小野寺君・・・?」


小野寺:「人の気持ちを弄ぶのも、好い加減にしろよ・・・!!」


美咲:「痛っ・・・! 痛いよ・・・! 小野寺君・・・、離して・・・!!」


小野寺:「何が優しいから協力してくれるだ・・・! 協力するわけが・・・、無いだろう!!」(ビンタをしようとする)


美咲:「きゃっ・・・!!」


拓真:「お、小野寺~!!!」(頬を殴る)


小野寺:「痛っ・・・」


美咲:「拓真!!」


小野寺:「・・・何で君が此処に居るんだよ・・・!!」


拓真:「うるせ~!! そんな事、どうでも良いだろう!!」


小野寺:「そっか・・・、お前達、最初から、組んでたんだな・・・。
     僕の恋心を、踏みにじりやがって!!」

 


拓真:「くっ、痛ってええええな・・・。何、するんだよ~!!!」


小野寺:「そっちこそ~!!」


美咲:「ねぇ~、二人とも、喧嘩するのは止めて!!」


拓真:「小野寺~・・・!!!! くっ!!」


小野寺:「はぁ、はぁ、風間ああああ・・・!!!」


美咲:「もう~・・・、好い加減に・・・、してえええええ!!!」(二人を突き飛ばす)


小野寺:「え!?」


拓真:「うわっ!」

 


 


美咲:「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・」


拓真:「痛ったたたた・・・。何も突き飛ばす事、無いだろう~・・・」


美咲:「だって、そうでもしないと、二人を止められないと思って・・・」


拓真:「それにしたって、勢いよく押しすぎだ・・・。
    ・・・小野寺は・・・、大丈夫なのか・・・?」

 


美咲:「私、見てくる・・・。
    小野寺君・・・、ごめん・・・。・・・強く突き飛ばしちゃって・・・。
    お・・・、小野寺・・・君・・・?
    え・・・?」

 


拓真:「どうした? 美咲」


美咲:「い・・・、嫌あああああああ!!
    小野寺君が・・・、血を流して死んでる・・・!!」

 


拓真:「何だと・・・!? 今、そっちに行く・・・」


美咲:「・・・私、強く突き飛ばしたけど・・・、死ぬなんて・・・」


拓真:「これは・・・、くっ・・・。
    ・・・どうやら下にある石に後頭部を・・・、強くぶつけたみたいだな・・・」

 


美咲:「私・・・、人を殺しちゃった・・・。どうしよう・・・!!
    警察に捕まっちゃう・・・!!」

 


拓真:「落ち着くんだ!! 美咲!! ・・・幸い、この花火の音で、
    お前の叫びも搔き消されたはずだ・・・。
    それに、此処は滅多に誰も来ないはずだ・・・」

 


美咲:「た、拓真・・・、どうする気・・・?」(震えながら)


拓真:「もっと奥に、小野寺を埋めに行く・・・」


美咲:「埋める!? ・・・でも、小野寺君の両親も・・・、帰って来なかったら、変だなと気付いちゃうよ・・・。
    警察に届けられたら・・・、私・・・、捕まっちゃう・・・」

 


拓真:「安心しろ。・・・こうする・・・」


美咲:「それは、小野寺君の財布・・・?」


拓真:「あぁ、そうだ。これを、こうして・・・、物盗り目的の犯行に見せかける・・・。
    美咲・・・? ハンカチ・・・、持ってるか?」

 


美咲:「は、ハンカチ・・・。確か・・・、此処に・・・。・・・あ・・・れ・・・?」


拓真:「おいっ、美咲・・・、しっかりしろ・・・! 美咲・・・!
    ・・・気絶したのか・・・。こんな状況になったんだし、仕方ない・・・。
    さてと・・・、始めるか・・・」

 


 


美咲:「う・・・、う~ん・・・。あれ・・・? 此処は・・・?」


拓真:「美咲、目が覚めたのか・・・。良かった・・・」


美咲:「ねぇ、拓真・・・」


拓真:「何だ・・・?」


美咲:「私・・・、どうして、神社の境内に居るの・・・?」


拓真:「覚えて・・・無いのか・・・?」


美咲:「一体、何の事・・・?」


拓真:「・・・。・・・安心しろ。

       ・・・お前は、俺と花火を観に来たけど、花火の音が、あまりに大きいのに驚いて・・・、気絶したんだ・・・」

 


美咲:「嘘・・・!? ・・・私、どのくらい気絶してた・・・?」


拓真:「10分くらいだから、心配するな」


美咲:「10分・・・、それなら良かった・・・。・・・ねぇ、拓真・・・」


拓真:「何だ?」


美咲:「ずっとこうして、膝枕してくれてたの・・・?」


拓真:「あぁ、そうだ・・・。嫌か・・・?」


美咲:「ううん・・・、嫌じゃない・・・。もう少し、こうして二人で、花火を観ていたいな・・・」


拓真:「あぁ、分かった。そうしよう・・・」

 


 


(現代の神社の境内 花火は上がり続けてる)

 


絵里:「・・・小野寺君を殺しておきながら・・・、あんた達は、花火を観ながら良い雰囲気になってた・・・。
    私は・・・、それを隠れながら、見なきゃいけなかった・・・!!
    人間・・・、怒りが頂点に達すると・・・、恐ろしい程・・・、冷静になるのも、その時に知ったわ・・・」

 

美咲:「見られてたなんて・・・。どうして、すぐに警察に通報しなかったの?」


絵里:「通報? それも隠れながら考えてた・・・。でも、ふと思ったの・・・。
    このまま通報して、あんた達が逮捕されても・・・、
    利用されて、無惨に死んでいった小野寺君の魂は、救われないって!
    だから・・・、私だけの胸に、今までずっと留めていた・・・」

 


拓真:「警察は、来なかったのか・・・?」


絵里:「あぁ、小野寺君の両親が、捜索願いを出して、暫くしてから、私の所にも来たわよ。
    警察なら・・・、あんた達の家にも行ったでしょう?」

 


拓真:「あぁ、来たよ・・・」


美咲:「私の所にも来た・・・」


絵里:「でも、捕まる事は無かった。
    何故なら・・・、同時期に、隣街の夏祭りでも、物盗りの殺人事件が発生してたのよ・・・。
    警察はね・・・、・・・この神社の境内も捜査して・・・、小野寺君の死体も見つけたわ・・・。
    そして、警察は・・・、犯行の手口が似ている事から、あんた達じゃなくて、
    その隣街の犯人の犯行と勘違いした・・・!! ・・・あんた達、悪運が強いよね・・・」

 


拓真:「あぁ、あのニュースを見た時は・・・、これで俺も美咲も助かったと思ったさ・・・」


絵里:「最低な考えね・・・。

    私ね・・・、一番傷付いたのは・・・、あんた達が花火を観て良い雰囲気になってたからじゃないの・・・。
    ・・・好きだった拓真が・・・、小野寺君の遺体を、物盗りの犯行に見せかけて処理した事・・・。
    そして・・・、美咲の事・・・、庇った事が、許せなかったの!!!」

 


美咲:「・・・」


絵里:「ねぇ、美咲・・・。・・・どうして、あんたは・・・、
    私の大事な人を・・・、何度も奪っていくのよ・・・!! 私が、あんたに何か酷い事でもした!!?」

 


美咲:「嫌・・・、近寄らないで・・・」


絵里:「あんたさえ居なければ・・・、私がこんな気持ちを持ち続ける事も無かった・・・!!」


拓真:「おい・・・、美咲にこれ以上、近付くな・・・。小野寺の事は、俺も共犯なんだ・・・。だから・・・」


絵里:「ええ・・・、その通り・・・よ!!!」 (思いっきり蹴る)


拓真:「ぐふっ・・・」


美咲:「拓真ああああああ・・・!!!」


絵里:「あんたは、後でちゃんと始末してあげるから・・・、少し、そこで待ってなさい・・・」


美咲:「始末・・・!?」


絵里:「ええ、そうよ・・・。当然じゃない・・・。
    私ね・・・、今日、4人で集まれると決まってから・・・、念入りに準備したの・・・。
    そう・・・、此処に用意しておいた・・・、これもね~・・・!!!」

 


美咲:「ひいいいいい!!!」


絵里:「あ~ら、美咲は、いつも見てたから、怖くないでしょう!!
    拓真が熱意を注いだ・・・、野球のバットなんだし~!!!」

 


美咲:「嫌・・・、助けてええええ・・・!!!」


絵里:「逃げんじゃないわよ!! ・・・美咲・・・、これで私の苦痛も、やっと終わる!!!
    ・・・さぁ、さっさと・・・、死んでえええええええええ!!!!」(バットを振り下ろそうとする)

 


美咲:「きゃああああああ!!」


拓真:「絵里っ!!!」


絵里:「何よ!?」


拓真:「うわああああ!!!」(思い切り絵里の頭に大きな石を振り下ろす)


絵里:「うぐっ!!!」


拓真:「はぁ~! はぁ~! はぁ~! はぁ~・・・」(荒い息を繰り返す)


絵里:「・・・拓真ああああ・・・、あんたね~・・・、絶対に・・・、許さないんだ・・・から・・・」


美咲:「拓真・・・?」


拓真:「こうでもしなければ・・・、お前が・・・、殺されていた・・・。
    だから・・・、仕方なかったん」

 


大輔:「おい、お前達・・・、何してるんだよ・・・」


美咲:「大輔・・・!? いつから居たの・・・?」


大輔:「そこで血を流して倒れてるのは・・・、絵里なのか・・・?」


拓真:「・・・」


美咲:「・・・」


大輔:「・・・黙ってないで、質問に答えろよ!!!!!」


拓真:「あぁ・・・、そうだ・・・。・・・俺が、この石で殺した・・・」


大輔:「どうして、そんな酷い事をしたんだよ!!!」


拓真:「仕方なかったんだ・・・!! こうでもしなければ、美咲は殺されていた・・・」


美咲:「そう、そうなのよ!! ・・・絵里がね、私の事、恨んで、殺そうとして来たの!?」


大輔:「恨んでって何だよ・・・。なぁ、お前達・・・、此処で絵里と、どんな話したんだよ・・・!?」


美咲:「それは・・・」


拓真:「・・・」


大輔:「・・・もう良い・・・。・・・もう疲れたよ・・・」


美咲:「え?」


大輔:「お前達が、本当の事・・・、喋るつもりが無いなら、警察に通報する・・・」


美咲:「そんな・・・、私達、友達でしょ!?」


大輔:「友達だと!? ふざけんな!!! 友達が、大事な仲間を、こんな無惨に殺せるのかよ!!!
    お前達・・・、異常者だよ・・・!! もう、俺とは関わらないでくれ!!!」

 


拓真:「待てよ大輔!!」


大輔:「うるさい!! 何、するんだ!! 放せ!!」(羽交い絞めにされて暴れる)


拓真:「痛っ!! 良いから人の話を聞け!!」


大輔:「誰がお前の話なんて聞くかよ!! 放せって言ってんだろう!!」


拓真:「ぐはっ・・・」


大輔:「はぁ、はぁ、はぁ・・・! ・・・警察は、110・・・」


美咲:「ええええええいっ!!!」(バットを振り下ろす)


大輔:「ぐわっ!! ・・・美咲・・・? 何で・・・だよ・・・」


美咲:「ごめんね・・・。・・・もう、こうするしか無いの・・・」


拓真:「美咲・・・、お前・・・」


美咲:「大丈夫・・・。今度は気絶なんてしない・・・。
    それに・・・、私の力じゃ・・・、殺せないよ・・・。
    多分・・・、気を失ってるだけ・・・」

 


拓真:「だとしたら、目が覚めたら、大輔は、また警察に・・・」


美咲:「もう良いの・・・。覚悟は出来たから・・・」


拓真:「美咲・・・」


美咲:「もう・・・、拓真だけには、背負わせないから・・・。
    ・・・だから、お願い・・・。
    今は、もう少しだけ・・・、一緒に、この花火を観させて・・・」

 


拓真:「あぁ、分かった・・・」

 


 


美咲:(N)「私達は・・・、花火を観ている間も・・・、
         この儚い幸せは・・・、もう・・・、二度と味わえないと思った・・・。
         大輔が目覚めれば・・・、この幸せも・・・、終わる・・・。
         私達は・・・、罪を償わなければいけない・・・。そう思っていた・・・」

 

 


(街の病院)

 


大輔:「・・・おう、何だ・・・、二人とも来てくれたんだ・・・」


美咲:「大輔・・・、怪我の具合は・・・、大丈夫・・・?」


大輔:「あぁ・・・神社の境内から、足を滑らせて転んだ時に、頭を木で打ったみたいだけど・・・、
    この通り・・・、軽い怪我で済んだよ・・・。丈夫な体に産んでくれた親に感謝、感謝!」

 


美咲:「それなら良かった・・・」


拓真:「お前がはしゃぎ過ぎて、下に転がっていった時には、肝が冷えたんだからな・・・」


大輔:「悪かったって・・・! ・・・二人とも、迷惑かけて、ごめんな・・・」


美咲:「もう良いわよ。・・・大輔も無事だったんだし・・・」


大輔:「それにしても・・・、久しぶりの夏祭り・・・、4人で集まりたかったよな・・・」


拓真:「・・・絵里は、仕事の都合が付かなくて無理だったんだ。仕方ないだろう・・・?」


大輔:「まぁ、仕事してるし当然か。
    ・・・それにしても、高校を卒業して、すぐに働くとは、絵里も拓真も、根性あるよな~・・・」

 


美咲:「何、暢気(のんき)に言ってるのよ~。私達も、大学を卒業したら、働かないと行けないんだからね~」


大輔:「分かってるよ~、そんな事くらい~」


拓真:「お前の元気な顔が見れて良かったよ。じゃあ俺、仕事に戻るな」


大輔:「おう、抜け出して来てくれてありがとうな」


美咲:「私も帰るね。・・・大輔・・・」


大輔:「何だ?」


美咲:「大学が始まったら、また宜しくね・・・」


大輔:「あぁ、こちらこそな・・・」

 

 


拓真:「ふぅ~・・・」


美咲:「大丈夫だったね・・・」


拓真:「あぁ・・・、俺達と、あの境内で争った事・・・・、
    ・・・絵里が死んだ事も・・・、忘れてる・・・」

 


美咲:「絵里の記憶だけが、無くなるなんて・・・。
    私達・・・、運が良かったのかな~・・・」

 


拓真:「それか・・・、この罪をまだ抱えて後悔し続けろと・・・、
    死んだ小野寺と絵里が言ってるのかもしれないな・・・」

 


拓真:「・・・さてと、俺は仕事に戻るよ・・・」


美咲:「拓真・・・、私ね・・・、会えて嬉しかった・・・」


拓真:「俺もだよ・・・。向こうに戻っても、頑張れよ・・・」


美咲:「うん・・・、ありがとうね・・・。じゃあ、またね・・・」

 

 


美咲:(N)「・・・私達の夏祭りは、こうして終わりを迎えた・・・。
       ・・・その後・・・、大輔も・・・、無事退院して、私達は・・・、
       元の生活に戻った・・・」

 

大輔:「ごめん・・・、美咲・・・、遅れた・・・!!」


美咲:「大輔の馬鹿!! 大学の講義に遅れちゃう!!」


大輔:「悪かったって・・・!!」


美咲:「もう、早く電車に乗ろう!!」


大輔:「おう・・・!!」

 


 


美咲:「ふぅ~・・・、この電車に乗れたなら、ぎりぎり間に合うかな・・・。
    でも・・・、駅に着いたら、全力で大学まで走るんだからね!!」

 


大輔:「あぁ、ちゃんと分かってる!!」


美咲:「全くもう・・・、誰のせいで、こんな事になってると・・・、これからはちゃんとしてよね・・・、もう・・・」

 

大輔:「・・・」

 

 


(夏祭り 河川敷)


絵里:「成功報酬は・・・、そうね・・・、屋台のタコ焼き、10箱で許してあげる!」


大輔:「はぁ!? それは幾らなんでも食い過ぎじゃ・・・」


絵里:「文句言わない!! さぁ、二人に合流するんだから、急ぐわよ!!!」


大輔:「おい、いきなり腕、引っ張るなよおおおお!!!」


絵里:「あっ・・・、それともう一つ・・・、大輔にお願いがあるの・・・」


大輔:「お願い・・・?」


絵里:「はい、これ・・・」


大輔:「何だ? この封筒・・・?」


絵里:「あああああ、今、開けちゃ駄目だよ!!!」


大輔:「じゃあ、いつ開ければ良いんだよ~・・・」


絵里:「今夜の夏祭りが終わったら、一人で読むこと・・・」


大輔:「お? 俺に向けてのラブレターか?」


絵里:「さぁ~ね・・・。それは秘密よ~・・・。・・・さぁ、皆の元に向かいましょう!!」


大輔:「何だよ、それ~・・・」

 

 


絵里:「大輔へ・・・。
    あんたが、この手紙を読んでる頃には・・・、きっと私は・・・、
    ・・・二人のどちらかに、殺されてると思う・・・。
    ごめん・・・、いきなりこんな事、書いてあって驚いたよね!?
    ・・・どうして、そう思うかは、二枚目の手紙を読んだら、詳しく分かるはずよ・・・。
    お願い・・・。・・・私の成し遂げられなかった事・・・、
    私の無念を・・・、どうか晴らして頂戴・・・!!
    こんな重大な事・・・、頼んだりして・・・、ごめんね・・・。
    でも、大輔なら・・・、きっと、私の気持ちも理解してくれると信じてる・・・。
    お願い・・・、夏祭りに残る罪火(ざいか)を・・・、消して頂戴・・・。
    絵里より・・・」

 

美咲:「ねぇ、大輔・・・、さっきから、私の話、聞いてる? 今度の休みにさ、駅前に出来たケーキ屋に行きたいんだ・・・。
    お~い・・・、ねぇ・・・、聞いてるの? 大輔~・・・!」

 


大輔:(M)「・・・絵里・・・。・・・必ず・・・、俺が晴らしてやる・・・」

 

 

 

 

終わり

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