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闇螢 〈-新章-〉

 


作者:片摩 廣

登場人物

 


鷹宮 恒一(たかみや こういち)・・・ 犯罪心理研究員

 


久世 恒(くぜ たかし)・・・ 元刑務官

 

 


比率:【2:0】 or 【不問2】

 


上演時間:【50分】

 

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CAST

鷹宮 恒一:


久世 恒、???、ニュースキャスター:


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(精神医療センター)


(久世の待っている部屋に、鷹宮が入室する)


(ドアの開閉音)

 

鷹宮:「初めまして・・・」


久世:「おや・・・、今度のお相手は、貴方ですか・・・」


鷹宮:「ええ。初めまして、犯罪心理研究員の鷹宮です」


久世:「刑務官の久世です。・・・いや、失敬・・・。今となっては、元ですが・・・」


鷹宮:「早速ですが、質問して宜しいですか?」


久世:「私に、答えられる事であれば・・・。最も、答えなければ、何かしらの処罰が待ってるでしょうから、
    何でも答えますよ」


鷹宮:「貴方は、刑務官の時には、非常に優秀な人物だったとお聞きしました。
    それが何故、このような犯罪を・・・?」


久世:「鷹宮さんは・・・、この世に蔓延る悪を・・・、許すことが出来ますか・・・?」


鷹宮:「久世さん、質問をしてるのは、私の方ですよ」


久世:「今、目を逸らしましたね。・・・なるほど~、貴方にも、許せない悪はあるのですね・・・。
    それは、一体、誰ですか・・・?」


鷹宮:「誰でも良いでしょう・・・。久世さんには、関係の無いことです」


久世:「関係のない事・・・。あっはははは・・・!!」


鷹宮:「何が可笑しいんですか!?」


久世:「どうして、人間は、やっては行けないと言われたら・・・、それを破りたくなるのでしょう・・・。
    最初から、止めなければ、破ろうともしないのでは、無いでしょうか・・・」


鷹宮:「一理ありますね。だが、やっては行けないと伝える事で、駄目な事だと学習する事も出来るはず・・・」


久世:「犯罪とは・・・、まるで、シュレーディンガーの猫だと思いませんか・・・?」


鷹宮:「どういう意味です?」

 


久世:「箱を開けるまで、その中に居る猫は、死んでるか、生きてるかも分からない。
    ようするに未知数です・・・。
    人間は、好奇心旺盛の生き物だと・・・、私は、刑務官を通して学びました・・・。
    もし、中身を見てはいけないと言われた箱が、目の前にあったら・・・、
    鷹宮さん・・・、貴方は・・・、見ないで我慢する事が出来ますか・・・?」

 


鷹宮:「見る事によって、自分に悪影響を及ぼす可能性があるのであれば、見ないですよ」


久世:「及第点の答えですね。それでは、悪影響を及ぼさず、逆に良い影響を及ぼす箱だとすれば、どうしますか?」


鷹宮:「・・・。・・・それでも、私は見ないと思います・・・」


久世:「今、返答に僅かな時間がありましたね。・・・そうです、それでこそ、人間です」


鷹宮:「何が言いたいんですか・・・?」

 


久世:「良い影響を及ぼすと、私がお伝えした瞬間・・・、
    貴方の脳は、プラスになる事なら、気になると考えてしまった・・・。
    でも、それは至極当たり前の事です。
    人間誰しも、得になる事には、興味が湧きますから・・・」

 


鷹宮:「犯罪も・・・、・・・久世さんにとって、得になるから、実行したと仰りたいのですか?」

 


久世:「殺しが得にですか? あっはははは・・・!!
    例えば、どんな得ですか? ・・・経験を積めば、暗殺者の才能も開花するとでも、言うつもりですか!?
    これは、愉快な考えだ!!」


鷹宮:「じゃあ、何の為に、男女問わず、10人、殺したんです・・・?」

 


久世:「ただ興味があったんですよ・・・。人が死ぬ瞬間に見せる表情に!!
    あ~、この男は、必死に命乞いをするんだな~。
    あ~、こっちの女は、死を逃れる為に、望まない色仕掛けで、騙そうとするんだな~とか。
    死に直面した時に、人間は、様々な表情を見せてくれる!
    そこに・・・、堪らなく興味をそそられたのです!!」

 


鷹宮:「貴方は・・・、自分の欲求に歯止めが利かずに、シュレーディンガーの猫のループに浸かったようですね・・・」

 


久世:「鷹宮さん・・・。貴方・・・、今、自分とは別の・・・、まるで化け物を見るような目で軽蔑しましたね。
    でも、忘れないでください・・・。貴方の中にも、私と同じ化け物は、居ますよ」

 


鷹宮:「私の中には、居るわけがない・・・」

 


久世:「最初は、皆、そう思うんです。
    ・・・ニュースの殺人事件を見ても、どうして、こんな惨いことが出来るんだろうと、

              貴方も、一度は思ったことはあるでしょう?
    だが・・・、もし・・・、同じ立場に立ったとしたら・・・。
    いち傍観者だった立場から、いとも簡単に逆転するんです・・・。
    人間、誰しも、いつ予想外の事が起きて、自分の心が耐え切れない状況に陥るかもしれないんです。
    いわば・・・、この世に生きてる人間、全てが、犯罪者候補なんですよ・・・。
    だから、鷹宮さん・・・、貴方も例外ではありません・・・」

 

鷹宮:「覚えておきますよ・・・。・・・はぁ~・・・。
    カルテを拝見しましたが・・・、
    貴方は、この精神医療センターに転院してからも・・・、回復の兆しは無いようですね・・・。
    ちゃんと、処方された薬は、飲んでますか・・・?」

久世:「ええ、飲んでますよ。
    最も、あんな薬で、この私の好奇心を抑えられると思ってるのですから、
    医者の仕事も、存外、良いとは言えませんね・・・。
    どうせ調べるなら、私の頭を切り開いて、脳に直接、電極を差し入れるくらいして欲しいものです・・・」

 

鷹宮:「そこまでしたら、人体実験になりますし、非人道的です・・・!
    私は・・・、貴方って人が理解出来ない・・・。
    どうして、自ら、命の危険がある選択を選ぶのですか・・・?」

久世:「いわゆる探求心ですよ。人間は、死ぬ以外の体験は、出来る事なら、
    生きてる間に、体験したいと思うじゃないですか~」

鷹宮:「体験したい気持ちも分かります。ですが、あくまで少数意見ですよ」


久世:「果たして、本当に、少数意見と言えるでしょうか・・・?」


鷹宮:「どういう意味です?」


久世:「ただ私は、こう貴方に伝えたいのです。悪意は感染し、増殖すると・・・」

 


鷹宮:「興味深い考えですね・・・。もし、それが本当だとして、
    科学的に、解明出来たとしたら・・・、世の中の犯罪は、減らすことが出来るかもしれない・・・。
    良いでしょう、話してください」

 


久世:「あれは、まだ私が、刑務官として、職務を全うしてる時でした。
    ある一つのニュースが目に入ったんです・・・」

 


鷹宮:「あるニュース?」


久世:「はい・・・。警察官、有園 美沙(ありぞの みさ)、殺人事件です。
    私は、何故か、非常に興味が湧いたのです・・・」


鷹宮:「それは、どうして?」

 


久世:「さぁ、理由なんて特にありませんでした。
    ただ、こう思ったんです・・・。
    全身を複数刺された警察官、有園 美沙は・・・、その時、どんな気持ちだったのか・・・。
    そして、警察官、内藤 直樹も、行方不明になったのは、何故だろうかと・・・。
    その事件を知ってから、私は職務中も、その事で頭が一杯になったんです・・・」

 

鷹宮:「あの凄惨な事件は、私も覚えてます・・・。
    有園 美沙は、非常に優秀な警察官だと、資料を読んで把握してます・・・」

久世:「優秀ね~・・・。あっはははははは!!!!」

鷹宮:「何が可笑しいんです・・・?」

久世:「あははっ・・・、犯罪心理研究員、名乗ってる割には、貴方は、何も真実が見えてないんだなと思っただけです・・・。
    鷹宮さんに、こうして出会ったのも、何かの縁だと思うんで話しましょう。
    有園 美沙は・・・、永野警視総監の娘ですよ・・・」

 

鷹宮:「え? そんな情報は・・・、初耳だ・・・」


久世:「知らなくて当然です。警察にとっては、隠蔽したい事実ですから」


鷹宮:「隠蔽だと・・・?」


久世:「詳しく知りたいですか? でも真実を知れば、貴方は警察を信じられなくなるかもしれない」

 


鷹宮:「随分と、煽りますね・・・。貴方の魂胆は分かりました。
    私の心を揺さぶって・・・、動揺させるのが目的でしょう?」

久世:「いいえ、真実を知る同志が欲しかっただけです。
    警察の闇は、一人で抱えるには、荷が重いのでね・・・」

鷹宮:「それで、その数年前の、警察官、有園 美沙、殺人事件と、
    貴方の殺人は、どう結び付くのですか・・・?」

 

久世:「私は、感銘を受けたんです・・・」

 

鷹宮:「感銘だと?」

 


久世:「ええ、そうですよ。
    鷹宮さんにも、分かりやすく例え話をしましょう。
    犯罪心理研究員でしたら、有名な実験・・・、スタンフォード監獄実験は、御存じですよね・・・?」

 


鷹宮:「勿論だ。・・・新聞広告で集めた人間を、囚人役と看守役に分けて、模擬刑務所で行った実験・・・」

 


久世:「その通りです。・・・私は、刑務官として、沢山の囚人を監視、観察する内に・・・、こう思い始めた・・・。
    ・・・犯罪を犯した囚人の気持ちになれたなら・・・、もっと囚人達の行動を予測出来るのでは無いかと・・・」

 


鷹宮:「・・・だから、自ら望んで、殺人を行ったとでも言うのですか?」


久世:「流石、理解が早いですね」


鷹宮:「貴方は、仮にも刑務官だったんですよ。・・・罪悪感は、無かったのですか?」

 


久世:「そりゃあ私も、最初の殺人は、手や全身が震えました・・・。
    ただ・・・、二度、三度と殺しを重ねるうちに、罪悪感は、義務や日常業務に代わりました。
    そうなってしまえば・・・、後は、罪悪感すらありませんでしたよ」

 


鷹宮:「・・・」

 


久世:「おや、到頭、黙ってしまいましたか・・・。無理もありませんね。
    罪悪感が無ければ・・・、更生もさせられませんから・・・」


鷹宮:「久世さん・・・。・・・貴方、そんな態度を続けてる限り、このセンターからも、出れませんよ・・・」

久世:「そうでしょうね・・・。
    くくく・・・、今、私を此処から出せば、
    私は・・・、更なる探求心と好奇心で、人を殺すでしょうから・・・!!
    あ~、なんと擬(もどか)しい・・・!
    貴方に、この感覚を共有出来れば・・・、貴方も少しは、私の気持ちも分かるだろうに・・・!」

 


鷹宮:「ふざけるのも好い加減にしろ!! ・・・誰が、お前の気持ちなんか!!」

 


久世:「鷹宮さん、貴方も、所詮、私と同じ人間ですよ~。
    自分でも気付いていますか?
    私と出会ってから、貴方と丁寧に言ってたのに・・・、怒りに翻弄されて、私をお前呼ばわりしてます!」

 

鷹宮:「黙れ!!! ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・。
    良いですか、下らない御遊びは、此処までです・・・。
    私は、次の予定があるので、この辺で、失礼します・・・」

久世:「私は、いつでも、来るのを、待っていますよ。
    また、お話しましょう・・・鷹宮さん。・・・あっはははははは!!!」


鷹宮:(M)「くっ・・・何なんだ。あの男は・・・。
       あいつの目を思い出すだけで・・・、震えが止まらなくなる・・・。
       真っすぐ俺を見つめてる、その瞳には、まるで光が見られない・・・。
       あるのは・・・、無限に続く深淵の闇・・・。
       久世 恒(くぜ たかし)・・・。
       待っていろ・・・、必ず、お前の犯罪心理を突き止めてみせる・・・」

 


 

???:「嫌だ・・・。・・・そんな物・・・、食べられない・・・」


鷹宮:「俺の言う通りに、出来なかった罰だ。・・・つべこべ言わずに、全部、喰うんだ!!」


???:「・・・おえ・・・。・・・お願いです・・・。もう、許して・・・」

 


鷹宮:「甘いんだよ。・・・お前は、そうやって、いつもすぐに誰かに助けを求める!
    そんな性格で、この厳しい世の中、生きていけると思うか!?」

 


???:「生きていけるよ・・・。だって、困って居たら、誰かが手を差し伸べてくれる・・・」


鷹宮:「それが甘い考えだと言ってるだろ!!」


???:「痛い!! お願い!! 殴るのは止めて・・・!!」


鷹宮:「駄目だ、耐えろ! 本当は、俺も心が痛いんだ・・・。おらっ、おらっ!!!」


???:「お願いだよ!! もう止めて!!」


 


鷹宮:「・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・。・・・どうして、今頃・・・、あの夢を・・・。
    くっ・・・、もう過去の話なんだ・・・。・・・俺は、もうあの頃の・・・、俺じゃない・・・。
    ・・・こんな時間か・・・。出かける準備をしなければ・・・」

 

(精神医療センター、中庭)

 


鷹宮:「此処に居たのですか・・・」


久世:「あぁ・・・来たのですね・・・。行けませんか?
    幾ら私でも・・・、あんな部屋に居てばかりでは、気が滅入りますよ・・・」

 


鷹宮:「こんな中庭があったのですね・・・」

 


久世:「此処は、私のお気に入りです・・・。この精神医療センターは、殺風景で困ります。
    まぁ、此処は花も植えられて、木々も見ることが出来る。
    ちょっとしたオアシスですよ」

 


鷹宮:「オアシスですか・・・。私には、精神異常の犯罪者を囲う牢獄にしか見えませんよ・・・」

 


久世:「初日の貴方なら、そんな辛辣な言葉は、出なかったんじゃないですか?
    ひょっとして、何かありましたか?」


鷹宮:「貴方には、関係の無い事です」

 


久世:「そうですか・・・。すっかり嫌われてしまいましたね・・・。
    そんなに、嫌なら、来なければ良いのに」


鷹宮:「仕事だから、来ない選択は、私にはありません」


久世:「そうですか・・・」


鷹宮:「質問しても良いですか?」


久世:「どうぞ、ご自由に・・・」

 


鷹宮:「貴方は、この中庭に植えられてる花や木々を見て、オアシスに例えた。
    殺人衝動を捨てられない犯罪者の貴方でも・・・、慈しむ心は、残っていると考えて良いのですか・・・・?」

 


久世:「・・・殺人衝動と、花や木々を見て感動する心は別物です。
    貴方は・・・、犯罪者、全てが、花や木々を見ても・・・、慈しむ心は持てないと、差別する気ですか?」

 


鷹宮:「そんな気はありません。では、この場合ならどうですか?
    殺人対象に決めた人物が・・・、もしも、花や木々を愛してる人だったら・・・」

 


久世:「面白い質問ですね~。・・・ふ~ん、直ぐには殺さないでしょうね~。
    相手を観察し続けて・・・、あらゆる状況、可能性を分析して・・・、
    生かしとくべきか判断し、基準に満たさなかった場合は、殺すでしょう」

 

鷹宮:「殺さない選択肢は、無いのですか?」

久世:「こればっかりは、時と場合によります。
    でも、殺したいと思った相手を、いつまでも生かしておくのは・・・、
    まるで、誕生日プレゼントや、クリスマスプレゼントをお預けされる子供のようで、ソワソワします・・・。
    だから、最終的には、我慢が出来ずに、殺すでしょうね~」

 

鷹宮:「そうですか・・・。
    正しい考えを、少しでも選んでくれるだろうと、期待したのですが、残念です・・・」


久世:「あはっ・・・、鷹宮さん・・・。貴方も、正しい考えを、持たなかったじゃないですか・・・」


鷹宮:「どういう意味です?」

 


久世:「さぁ~。・・・でも、人間、誰しも、間違いはありますよ~。
    この世に・・・、間違いを一度も侵さない人間なんて、存在しませんから・・・。
    そう、思いませんか・・・、鷹宮さん?」

 


鷹宮:「私は、賛成しかねます・・・。世の中には、間違いを侵さない人間も・・・」

 


久世:「鷹宮さん・・・、駄目ですよ。ちゃんと目を見て言わないと・・・。
    逸らしたんですから、もう一度、やり直してくださいよ」

 


鷹宮:「勘弁してください・・・」


久世:「まぁ、良いでしょう。・・・あ、見てください。・・・蛍が、あんなに飛んでる・・・」


鷹宮:「え? 久世さん・・・、今は昼間だから、幾らなんでも蛍は・・・」


久世:「それも、そうですね・・・。どうやら、私の勘違いだったようです」


鷹宮:「もしや・・・、薬の副作用で、幻覚を見たのでは・・・?」


久世:「何もかも嫌な事を忘れらるなら・・・、幻覚の世界も、この世よりは良いかもしれませんね~」


鷹宮:「・・・一応、担当の医師に、報告しておきます・・・」


久世:「その優しさも、仕事の義務からのものですか?」


鷹宮:「いいえと言えたら良いのでしょうが、その通りです」


久世:「はっははは。・・・貴方は、素直な人ですね」


鷹宮:「今日は、この辺で・・・。・・・また来ます・・・」

 

 


久世:「ふふふ・・・。幾ら忘れようとしても、脳は・・・、何処かしら覚えている・・・。
    さっきの様子からすると・・・、私の予想は当たっていたようだ・・・。
    さてと・・・、此処も、もう飽きた・・・。次に進むとしよう・・・」

 


鷹宮:(N)「その後も、久世は、私と会話をする時は、相変わらず人を試すような態度を続けた。
       一向に改善の余地も無いと上司から判断された為・・・、私は、彼の担当から降りた・・・。
       降りた後も・・・、彼の言った、蛍の言葉が頭から離れなかった・・・。
       もし、あの時・・・、彼の問いに、ちゃんと答えていたら・・・、
       この未来には・・・、辿り着かなかったのだろう・・・。
       私は・・・、目覚めた後・・・、縛られてる事に気付いた・・・」

 


久世:「どうも。・・・鷹宮さん、お久しぶりです」


鷹宮:「これは、何の真似だ・・・」


久世:「何の真似もなにも・・・、貴方を拉致監禁したんです」


鷹宮:「いきなり後ろから、殴られた後・・・、目が覚めたら・・・、この倉庫だった・・・」


久世:「良いでしょう? 此処、何処か分かりますか?」


鷹宮:「分かる訳ないだろう・・・。悪い事は言わない・・・。開放するんだ・・・」

 


久世:「前にも言いましたけど・・・、本当に、犯罪心理研究員ですか?
    よ~く、周りを見てくださいよ~!!! この建物~、見覚えはありませんか~!!?」

鷹宮:「ただの何処にでもある倉庫だろう・・・」


久世:「はぁ!? お前の目は飾りか!!! 良いから、目を見開いて、見て見ろ!!!」


鷹宮:「・・・。何度見ても、分からないものは分からない・・・!」

 


久世:「じゃあ、教えてあげましょう!!! 此処は!! 警察官、有園 美沙、殺人事件の現場ですよ!!!
    いわば、犯罪者の聖地です!!!」

 


鷹宮:「何が聖地だ・・・。・・・俺は、こんな薄気味悪い場所に、連れて来られる理由は無い・・・!!」


久世:「今・・・、理由が無いと言いました?」


鷹宮:「あぁ、言った・・・。それがどうした!?」


久世:「あっははははははは!!!」


鷹宮:「良いから、笑ってないで答えろ!」


久世:「良い反応ですね~。やはり、この聖地だからこそ・・・、この展開になるのでしょうか・・・」

 


鷹宮:「ふざけるのも好い加減にしろよ・・・。
    此処から、無事に出られたら・・・、必ず、お前を死刑にしてやる・・・」


久世:「お決まりの、死亡フラグ、ありがとうございま~す!!」


鷹宮:「・・・お前の目的は何だ・・・。・・・金なのか?」

 


久世:「此処までの流れから、よくその珍回答に辿り着けますね~・・・。
    はぁ~・・・、昔の貴方なら・・・、もっと私を興奮させられるのに~・・・」


鷹宮:「昔の俺だと・・・? 一体、何の話だ・・・。お前に会ったのは、あの日が最初だろう・・・?」

 

久世:「あっはははは! やはり虐めてた方は、忘れるものなんですかね~!!」

 

鷹宮:「虐め・・・? ・・・はっ!? まさか・・・、お前は・・・」


久世:「あんなに可愛がってくれたのに、忘れるなんて、酷いじゃないですか~?」


鷹宮:「嘘だ・・・。あの頃のお前は・・・、もっと背も低くて・・・、華奢で・・・」

 


久世:「幾ら何でも、あのままの訳、無いじゃないですか。
    それに・・・、貴方に虐められたのが、きっかけで、体も心も鍛えようと決意したんです。
    おかげで、こんなに逞しくなれましたよ~」


鷹宮:「いつから、俺の事、気付いていた・・・?」


久世:「最初からですよ。・・・俺、こう言いましたよね? 
    おや・・・、今度のお相手は、貴方ですか・・・と・・・」


鷹宮:「そんな言葉で、分かるわけ無いだろう・・・」

 


久世:「いいえ、分かります・・・。・・・あの頃は、田舎の不良、丸出しの髪型と恰好だったのが・・・、
    入って来た姿は・・・、まるで別人のようで・・・、

              都会に出て、垢抜けたんだな~と思いましたよ~、恒一(こういち)先輩~」

鷹宮:「うるさい・・・。下の名前で呼ぶな・・・」

 


久世:「あれ? 未だにその態度・・・。傷付くな~・・・。
    そんなに嫌だったんですね~。・・・俺と、名前の一部が同じなのが・・・」


鷹宮:「久世 恒(たかし)・・・。・・・初めて同じ高校のクラスで、お前の名前を見たときから、目障りだったよ・・・」

 


久世:「だから何度も、何度も、俺が嫌がっても、虐め続けたんですね~。
    ・・・色々な虐めがあったな~。
    ・・・その中でも・・・、貴方を殺したいくらい憎んだ時といえば・・・、やはりこの時ですかね~。
    覚えてますか・・・? これ・・・?」

 


鷹宮:「イナゴの佃煮・・・。・・・俺が無理やり喰わしたときか・・・」

 


久世:「大正解~!!! 流石、犯罪心理研究員は冴えてますね~!!!
               あの時のイナゴの佃煮・・・。未だに思い出すたびに・・・、口の中に味と匂いが蘇ってくるんですよ・・・。
    何度も!! 何度も!! 何度も!!!
    それが、どんなに苦痛か、貴方に分かりますか!!!?」


鷹宮:「・・・」

 


久世:「また黙るんですか・・・。都合が悪くなると、すぐ黙る・・・。
    良いですよね~。貴方は、別にこれは、苦手でも無いんですから~・・・」


鷹宮:「その通りだ・・・。食わされても、俺に仕返しは出来ない」


久世:「ええ、知ってます。だから、こんな物、用意しました」


鷹宮:「何だ、それは・・・?」


久世:「見た通り、コオロギです。・・・食べられるかどうかは、不明ですけど・・・。
    ちゃんと、調理済みですよ」


鷹宮:「よせ・・・。近付けるな・・・」


久世:「駄目ですよ!! ちゃんと、口を開けてください!! ほらっ!! ほらっ!!」


鷹宮:「俺が悪かった!!! ・・・もう許してくれ・・・」

 


久世:「根性無いですね・・・。仕方ない・・・。じゃあ、別の方法、考えます。
    ・・・まずは・・・、よっと・・・」(拘束していた縄を切る)


鷹宮:「はぁ、はぁ、はぁ~・・・。・・・何故、縄を切る・・・。何を企んでるんだ・・・」


久世:「鷹宮さん・・・、そういえば、貴方~、先月、結婚されたんですね~」


鷹宮:「どうして、知っている・・・!?」


久世:「あっはははは! おめでとうございま~す!!」


鷹宮:「おいっ、まさか・・・、妻に何かしたのか!!?」

 


久世:「あ~、そうだ。・・・結婚祝い、贈らなきゃ~。・・・はいっ、これ、どうぞ。
    重いんで、このテーブルに置いときますね~」


鷹宮:「何だ? この大きな箱は・・・?」


久世:「くくく・・・。シュレーディンガーの猫ですよ・・・。鷹宮さん」


鷹宮:「まさか!? この中に!?」


久世:「さぁ~・・・、どうでしょう~」


鷹宮:「ふざけやがって!!!」(胸倉を掴む)

 


久世:「良いですね~!!! その表情!!! 
    愛してやまない妻の安否を気にしてる・・・、その表情!!!」


鷹宮:「くっ・・・!!!」


久世:「どうしたんですか? さぁ、箱の中を確認してくださいよ~」


鷹宮:「くそおおおおおおおお!!!!」

 


久世:「叫んでも、これは夢じゃないんです!! 覚めないですよ!!
    貴方が・・・、箱の中を見るか、見ないか、決断しない限り~、この悪夢は終わりませんよ~」

 


鷹宮:(M)「こいつ・・・。この状況を楽しんでやがる・・・。
       くそっ・・・、もし、こいつの思惑通り・・・、妻の死体が入っていたら・・・。
       駄目だ・・・! 見ない選択肢をしても・・・、気になって気が可笑しくなる・・・!!
       だったら・・・!!!」


久世:「さぁ、どうするんですか?」


鷹宮:「決めた・・・。箱の中を見る・・・」


久世:「へぇ~・・・。・・・思ったより、勇気あるんですね~。
    じゃあ、どうぞ、見てください」


鷹宮:「はぁ、はぁ、はぁ~、・・・。・・・くっ・・・!」 (決断はしたが空けた瞬間、思わず目を瞑る)

 

久世:「あっはははは。決断した癖に、目を瞑るとは・・・。さっきの言葉は、前言撤回させてもらいます。
    ・・・さぁ、怖がっていないで、中を見てください」


鷹宮:「・・・これは、ウェディングケーキ・・・?」


久世:「ええ、特注品です」


鷹宮:「何が目的だ・・・?」

 


久世:「疑うのも当然ですが・・・、ただ、心からお祝いしたかったんですよ。
    さぁ、そこに用意してあるナイフで・・・、切ってください」


鷹宮:「・・・」


久世:「どうしました・・・? まさか、食べないつもりですか?」


鷹宮:「・・・毒が入ってる場合も考えられるだろう・・・」

 


久世:「酷いですね~・・・。・・・分かりました。じゃあ、俺が先に食べます。
    あむ・・・。・・・うん・・・、美味しい・・・」


鷹宮:「・・・」


久世:「はぁ~・・・。即効性じゃなくても、遅効性の毒の可能性もと考えてます?」


鷹宮:「そうだ・・・」


久世:「勘弁してくださいよ」



鷹宮:「・・・」


久世:「ほらっ、何とも無いでしょう?」


鷹宮:「そのようだな・・・」

 


久世:「納得言ったようですし・・・、皆様、大変、長らく御待たせしました~。
    新郎、鷹宮 恒一によります、ケーキ、入刀の時間で~す!!」


鷹宮:「煽り、どうも・・・。くそっ・・・。
    ・・・はぁ~・・・。
    どうだ? これで、満足かよ・・・、ん? 何だ、このケーキの中身? まさか・・・、髪の毛・・・!?」

 

久世:「あらら~、異物混入しちゃってましたか~」


鷹宮:「まさか・・・!? ・・・くっ・・・!!!」 (ケーキの中を手で掻きだす)


久世:「くくく・・・」


鷹宮:「はぁ、はぁ、はぁ、くそっ・・・。・・・あ・・・、あああああああ!?」


久世:「ようやく見つけましたか~」


鷹宮:「みお・・・。嘘だろう・・・。みおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 


久世:「いやあ~・・・、警察官、有園 美沙、殺人事件の同僚ケーキを真似してみたんですが~、
    上手く作れませんでした~! まだまだ犯罪者としては、未熟なんでしょうかね~。
    そこの所・・・、どう思いますか~? 鷹宮さ~ん」

 


鷹宮:「うるさい・・・。もう喋るな・・・」(ナイフを久世の腹に突き刺す)


久世:「ごふっ・・・。ははっ・・・、いきなり刺すなんて酷いじゃないですか~・・・。
    まだ、あの事件の再現の為に・・・、100匹以上の蛍も用意して・・・」


鷹宮:「黙れ、糞野郎・・・!!」(更に刺す)


久世:「ごふっ・・・!! ・・・あ~、憎悪に満ちた・・・、その表情・・・、最高だ~・・・」


鷹宮:「あぁ・・・。お前のおかげで・・・、・・・此処まで、変われたよ・・・!!!」(深く刺す)


久世:「ごふっ・・・!!! げほげほっ・・・!!!
    何をやってるんですか・・・!!! もっと・・・、人を刺す喜びを・・・、味わってくださいよ~」

 

鷹宮:「黙れ!! 黙れ!! 黙れええええええ!!!!」(怒りに任せて、連続で刺す)

 


久世:「ごふっ、ごふっ、ごふっ・・・。はははっ・・・。
    あ~・・・、これが死ぬときの気持ちなのか~・・・。
    体の血が沸騰したみたいに・・・、熱い・・・」


鷹宮:「この・・・、サイコパス野郎が・・・」

 


久世:「・・・俺が、歪んだ性格になったのは・・・、・・・あんたの責任だよ・・・。
    ・・・俺は、・・・あの時から、ずっと・・・、ずっと・・・、この時を夢見てきた・・・。
    お前に、犯罪者の気持ちを思い知らせる為に・・・!!!
    どうだ? 憎愛の気分は・・・? 心地良いだろう・・・?」

 


鷹宮:「・・・これが・・・、俺の答えだ・・・・!! ふんっ!!!」(自分を刺す)


久世:「何をするんだ・・・!?」


鷹宮:「ごふっ・・・。・・・誰が、お前のシナリオ通りに・・・、犯罪者になるかよ・・・。
    ・・・そんな人生・・・、送るくらいなら・・・、此処で・・・、死んだ方がましだ・・・」


久世:「愚かな真似を・・・。ははっ・・・、だが、無駄な足掻きですよ・・・」


鷹宮:「何だと・・・?」

 


久世:「前にも伝えたでしょう・・・。悪意は感染し、増殖すると・・・。
    この事件も・・・、有園 美沙、殺人事件と同様に・・・、
    未来永劫・・・、語り継がれるのですよ・・・。
    そして・・・、俺のように・・・、感銘を受けた人々が・・・、犯罪に手を染める・・・。
    そう・・・、まるで、メビウスの輪のように・・・。はははっ・・・、あっははははは・・・・」

 

鷹宮:「・・・こんな・・・、狂った世の中なんて・・・、こっちから・・・、願い下げだ・・・。済まない・・・、みお・・・」

 


 

ニュースキャスター:「次のニュースです。有園 美沙、殺人事件から数年が経った今・・・、
           同じ殺人現場で、凄惨な事件が発生しました。
           現場で遺体で発見されたのは、精神医療センターに勤めていた鷹宮 恒一さん。
           刑務官として勤めていた久世 恒さん。
           久世 恒さんは、腹部を複数、刺されており、
           現場に散乱していた、ケーキの残骸からは多数、人間の一部が発見されました。
           警察は、当時の事件と同じ犯人の犯行も視野に入れて、捜査を開始しています。
           尚・・・、遺族の、鷹宮 みおさんは、この事件に対して・・・次のように述べており・・・」

 


(ザーなどのテレビの中継の乱れる音)

 

鷹宮:「感染した悪意は・・・」


久世:「更に、増殖する・・・。はははっ・・・、あっはははははは・・・!!!」

 

 

 

 

終わり
 

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