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落とし物センターの午後 サムネ.png

落とし物センターの午後


作者:片摩 廣


登場人物


田中 ・・・落とし物センター、職員

佐藤 ・・・訪ねてくるお客


比率:【2:0】


時間:【10分】

 

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CAST


田中:

佐藤:


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(SE:静かな役所の雰囲気。時計の秒針。書類をめくる音)

田中:「えっと・・・財布、一件。折りたたみ傘、三本。・・・ぬいぐるみ、一体・・・。(書類をめくる音)
    不思議だよなぁ。・・・物って、どうして忘れられるんだろう・・・。


田中:「・・・。(小さく溜息)
    まあ、落とし物センターなんだから、忘れられる物があるから仕事になるんだけど・・・」


(SE:勢いよくドアが開く。)


佐藤:「す、すみません!! 大変なんです!!」(息を切らしながら)

 

田中:「お、お客様! まずは落ち着いてください・・・。何が大変なんですか?」


佐藤:「落ち着いてなんかいられません! 人生で一番大事なものを落としたんです!」


田中:「落とし物ですね。・・・承知しました。では、お名前をお願いします」


佐藤:「佐藤です!」


田中:「佐藤様ですね。・・・次に、落とされた物は、どんな物ですか?」


佐藤:「昨日まで確かにあったんです」 (真剣な表情)


田中:「はい・・・」


佐藤:「それなのに・・・、朝起きたら、なくなってました!!」


田中:「あ~、朝起きたら、なくなっていたと・・・」


佐藤:「どこを探しても見つからないんです!」


田中:「それでは、落とされた物の特徴を教えていただけますか?」


佐藤:「え? 特徴?」


田中:「はい、色とか、大きさとか」


佐藤:「色・・・ですか?」(困りながら)


田中:「財布なら黒とか茶色とか。・・・スマートフォンなら機種とか、特徴を教えてください」


佐藤:「いや・・・、そういう物じゃないんです」


田中:「・・・では、何を落とされたんです?」


一拍の間


佐藤:「やる気です」(真顔で)



田中「・・・やる気・・・ですか・・・」


佐藤:「はい・・・。昨日の夜までは、ちゃんとあったんです・・・!」


田中:「あの、佐藤様・・・」


佐藤:「ありましたか!?」


田中:「いいえ。・・・申し訳ありませんが、当センターでは「やる気」は、お預かりしておりません」


佐藤:「そんなぁ・・・」


田中:「・・・ですが、念のため確認します。(苦笑しながら)
    本当に、物は何も落としていませんか?」


佐藤:「うーん・・・。(ポケットを探る)
    あっ!!!」


田中:「ありました?」


佐藤:「財布もない・・・」


一拍の間


田中:「・・・あ~、そちらが本件ですね」


(SE:書類を広げる音。ペンを走らせる音)


田中:「では、本題に入りましょう。財布についてお伺いします」


佐藤:「はい、お願いします」


田中:「財布の色は?」


佐藤:「黒です」


田中:「色は、黒と・・・。(メモを取りながら)
    ・・・次に形は?」


佐藤:「長財布です」


田中:「財布のブランドは?」


佐藤:「え~っと・・・。(少し考える間)
    そうですね~。・・・あ! 高そうに見えるブランドです」


田中:「見えるブランドでは、分かりません。もっと、詳しく教えてください」


佐藤:「くっ・・・。・・・本当は、二千円の財布です・・・」


田中:「正直ですね」


佐藤:「本当は、5千円の所・・・、値切りに値切りました!!」


田中:「あ~、そこは自慢しなくて結構です」


(SE:ページをめくる音)


田中:「財布の中には、何が入っていました?」


佐藤:「現金です」


田中:「おいくらですか?」


佐藤:「えっと、783円」


田中:「随分と細かいですね~」


佐藤:「それが、昨日、ラーメン食べちゃって」


田中:「なるほど・・・。ラーメン食べたから、783円と・・・」


佐藤:「あと、ポイントカードが15枚ほど・・・」


田中:「そんなに!?」


佐藤:「ええ!! ポイントは、私を裏切りませんから!!!」


田中:「財布は裏切りましたけどね」(サラリと言う)


佐藤:「そうなんですよ! やはり、値切りに値切った財布は、駄目だったか~!!!」


田中:「財布の中には、免許証は入っていましたか?」


佐藤:「勿論です!」


田中:「保険証は?」


佐藤:「あります」


田中:「クレジットカードは?」


佐藤:「2枚」


田中:「キャッシュカードは?」


佐藤:「1枚」


田中:「分かりました」


一拍の間


田中:「ちなみに、お財布を最後に見たのは?」


佐藤:「う~ん・・・、昨日の夜です」


田中:「どちらで?」


佐藤:「コンビニです」


田中:「その時、何を買われました?」


佐藤:「アイス」


田中:「そのあとは?」


佐藤:「はい、アイス食べました」


田中:「そのあとは?」


佐藤:「とても、美味しかったです!」


田中:「佐藤様の食べた感想は聞いてません!!
    ・・・アイスを買った後は?」


佐藤:「それから家に帰って・・・。(少し間)
    あ、テレビ見て・・・」


田中:「はい」


佐藤:「その後、寝ました」


田中:「財布を、家の何処かに置いた記憶は?」


佐藤:「ありません」


田中:「なるほど」


佐藤:「だから今、此処に居るんです」


田中:「それもそうですね」


(SE:棚を開ける音)


田中:「念のため、昨日届けられた財布を確認してみます」


佐藤:「お願いします!」


(SE:棚を探す音。箱を動かす音)


田中:「そうですね~・・・。・・・黒い長財布が三つありますね」


佐藤:「そんなに!?」


田中:「意外と、黒い長財布は多いんです」


佐藤:「皆、似たようなの使ってるんですね」


田中:「流行りもありますからね。・・・では、一つずつ特徴を確認しましょう」


(SE:財布を机に置く音)


田中:「まず一つ目ですが・・・」


佐藤:「なんだか、嫌な予感がします」


田中:「では、一つ目。(財布を開く)
    中には・・・5万円。
    うん、佐藤様の財布とは違いますね」


佐藤:「え!? 即答!? ・・・もしかしたら、私の記憶違いで、5万円、入っていたかも!!
    そうだ、思い出した、その後、銀行に行って5万円を引き出したんです・・・」


田中:「先程のメモに寄りますと、ラーメン食べたから、財布の中には、783円と」


佐藤:「チッ・・・。騙せなかったか・・・。
    はぁ~・・・、私の財布に、五万円入ってたら、今頃、焼き肉食べてますよ」


田中:「うん、正直でよろしい」(財布を閉じる)


田中:「二つ目の財布は・・・。(財布を開く)
    こちらは、赤ちゃんの写真が入っています」


佐藤:「私は独身です」


田中:「では、違いますね」


佐藤:「もし私の財布に知らない赤ちゃんの写真が入ってたら、それはそれで事件です」


田中:「確かに」


田中:「三つ目の財布は・・・。(財布を開く)
    中身は・・・、レシートだけですね」


佐藤:「ちょっと惜しいです」


田中:「惜しい?」


佐藤:「私の財布も、レシートだらけです!」


田中:「そこまで似なくても・・・。
    では、佐藤様のお財布にしかない特徴を教えてください」


佐藤:「特徴ですか・・・。
    う~ん・・・。
    あ・・・、特徴、あります!」


田中:「では、お願いします」


佐藤:「・・・小銭を入れるところのファスナーが・・・、ちょっと引っかかります」(勿体ぶりながら)


田中:「あの・・・、それは、全国に何万個ある特徴でしょうね~」


佐藤:「そうですか?」


田中:「他には?」


佐藤:「角が少し擦れてます」


田中:「使っていれば擦れます」


佐藤:「後・・・」


田中:「はい」


佐藤:「革の匂いがします」


田中:「それは、財布ですからね」


一拍の間


田中:「もっと、「これだ!」と分かるものはありませんか?」


佐藤:「うーん・・・。あ~!!! ありました!!!(ポン、と手を叩く)


田中:「今度こそ!」


佐藤:「千円札の向きが全部そろってます!」


田中:「それは財布ではなく、佐藤様の性格ですね」


佐藤:「言われてみれば」


田中:「う~ん・・・、例えば、お守りとか、おみくじとか、写真とか入ってませんか?」


佐藤:「あっ!」


田中:「ありましたか?」


佐藤:「ありました!」


田中:「何でしょう?」


佐藤:「三年前に引いた・・・、大吉のおみくじです!」


田中:「まだ持ってるんですか?」


佐藤:「運を使いたくなくて」


田中:「それ、三年間の間、財布の中ですか・・・」


佐藤:「だから財布を落とした今、運も一緒になくなった気がしてるんです」


田中:「急に話が壮大になりましたね」


(SE:引き出しを開ける音)


田中:「おみくじ・・・、おみくじ・・・。(紙をめくりながら)
    あれ?」


佐藤:「ありましたか!? 私の財布!?」


田中:「申し訳ありません。・・・黒い財布が、もう一つありました」


佐藤:「四つ目ですか!?」


田中:「今朝、別の職員が届けてくれた分をしまい忘れていたようです」


佐藤:「それです! きっとそれです!!」


(SE:財布を机に置く音)


田中:「では、開けて確認します。(財布を開く)
    ふむ・・・、これは・・・」


佐藤:「どうです・・・?」


田中:「おみくじは入っています」


佐藤:「やった! 私の財布がついに・・・!!」


田中:「あ~、ただし・・・」

一拍の間


田中:「大凶のおみくじです」


佐藤:「うん、私の財布ではありません・・・」

 


終わり

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