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名残の花 【なごりのはな】

 

 

作者:片摩 廣

 

 

 

登場人物

 

 

蓮沼 侑一 ・・・ 最愛の妻、真紀を愛している。夫婦円満

 

 

櫻井 春介 ・・・ 篠上 優花の婚約者

 

 

篠上 優花 ・・・ 櫻井 春介の彼女

 

 

蓮沼 真紀 ・・・ 蓮沼 侑一の奥さん

 

 

 

比率:【2:2】

 

 

上演時間 【90分】

 

 

 

オンリーONEシナリオ2526、

 

4月、ファンタジー、

 

桜をテーマにしたシナリオです

 

 

※葬春花の、続編の物語です

 

 物語の中に、前作の内容も出てきますので、

 

 前作の葬春花も併せて、読んでいただけると、嬉しいです

 

 

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CAST

 

 

蓮沼 侑一:

 

櫻井 春介:

 

篠上 優花:

 

蓮沼 真紀:

 

 

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(桜を見下ろせる丘の上にある東屋で、篠上 優花の事を思い、呟く蓮沼 侑一)

 

 

 

侑一:「・・・優花さん・・・。貴女はどうして、こんな方法を・・・。

    私は、貴女の事が・・・」

 

 

 

(東屋で佇む蓮沼 侑一の事を、少し遠くから見つめてる優花)

 

 

 

 

優花:「・・・蓮沼さん・・・。・・・ごめんなさい・・・。

    ・・・私も出来る事なら、貴方の元に、今すぐ行きたかった・・・。

    でも、亡くなった真紀さんの事、考えると・・・、どうしても、素直な気持ちで、貴方に会えない・・・。

    こんな私を許してください・・・。・・・私は・・・」

 

 

 

春介:「なぁ・・・? どれにするか決まったか・・・?」

 

 

 

優花(N):「その時だった・・・。私の婚約者だった春介の言葉を思い出す・・・。

       ・・・。

       真紀さんと、蓮沼さんと出会ったのは、今から、1年前の事・・・。

       そう、私が、婚約者の春介と、婚約指輪を選んでた頃だった・・・」

 

 

 

 

 

(1年前)

 

(篠上 優花は、婚約者の櫻井 春介と一緒に、婚約指輪を見に来ている)

 

 

 

優花:「・・・う~ん、こっちも素敵・・・。でも、こっちの指輪の方が・・・」

 

 

春介:「そうだな~、俺はこっちのデザインの方が好みかな~」

 

 

優花:「どれどれ~。わぁ~、春介の選んだ指輪も・・・、ピンクのダイヤモンドがハートの形にカットされていて、綺麗・・・。

    あ・・・、でも・・・」

 

 

春介:「どうかしたか?」

 

 

優花:「うん・・・。ピンクで可愛くて凄く素敵だけど・・・、婚約指輪としては、少し派手よね・・・。

    やはり、こっちのダイヤモンドに・・・」

 

 

春介:「良いよ、それで」

 

 

優花:「え? でも・・・」

 

 

春介:「優花・・・、どうして、そこで自分の気持ち、抑えてしまうんだ。

    俺は、もっと優花に、素直になって欲しいんだけどな・・・」

 

 

優花:「春介・・・。ごめんなさい・・・。私の悪い癖よね・・・。

    昔から、素直な気持ち・・・言うのを躊躇うことが多かった。

    言ってしまったら、我儘に思われて・・・、嫌な気持ちにさせちゃうかもって・・・」

 

 

春介:「何だよ、それ。・・・そんなの気にしなくて良いんだ。

    よし、分かった。・・・優花が、そんな心配、二度としないように、俺が沢山、優花の我儘を聞くよ」

 

 

優花:「ふふふ・・・。嬉しい・・・。私、こんなに幸せで良いのかな?」

 

 

春介:「ほら、また! ・・・良いんだよ、誰にでも幸せになる権利は、平等にあるんだから」

 

 

優花:「うん・・・。・・・じゃあ私、やっぱり春介の選んだピンクのダイヤモンドの婚約指輪にしたいな。

    凄く素敵で、私の好み・・・!」

 

 

春介:「分かった。・・・すみません、婚約指輪ですが、こちらのデザインでお願いします」

 

 

優花:「ねぇ、春介・・・」

 

 

春介:「何だ?」

 

 

優花:「世界で一番、愛してる・・・」

 

 

春介:「おい、止せよ! こんな所で・・・。恥ずかしいだろう・・・」

 

 

優花:「駄目よ。・・・私、決めたの。・・・春介の前では、ちゃんと素直になろうって」

 

 

春介:「優花・・・。嬉しいよ。・・・まぁ、何だ・・・、俺も愛してるよ」

 

 

優花:「春介・・・。ねぇ、もう一度、言ってみて・・・!!」

 

 

春介:「はぁ!? ・・・嫌だよ・・・」

 

 

優花:「良いじゃない。ねぇ、もう一度だけ。お願い・・・!」

 

 

春介:「仕方ないな・・・。・・・じゃあ、これなら、どうだ・・・?

    ・・・今度、二人で、桜、見に行く時に、沢山、言ってやる・・・」(耳元に囁く)

 

 

優花:「・・・え、本当・・・!?」

 

 

春介:「あぁ、約束する」

 

 

優花:「ふふふ、楽しみにしてる!!」

 

 

 

(蓮沼 侑一と蓮沼 真紀は、自宅で、朝の朝食を一緒に食べていた)

 

 

 

侑一:「ふぁ~、真紀・・・、おはよう・・・」

 

 

真紀:「・・・もう、まだ寝ぼけてるのね。・・・ふふふ、早く顔を洗ってきて。

    折角の朝食が冷めちゃう・・・」

 

 

侑一:「は~い」

 

 

真紀:「全くもう・・・、私は、貴方のおふくろさんじゃ、ないんだからね・・・。

    本当、いつまでも子供みたいな人なんだから・・・。

    それにしても、流石、私ね~。・・・今日の御味噌汁も、上出来じゃない。

    これなら、侑一も、今日こそ、気付いてくれるかも・・・、あれ・・・何これ・・・、急に頭痛が・・・。っ・・・」

 

 

 

侑一:「真紀、顔を洗ってきたよ・・・。今日の朝飯、楽しみだな~・・・って、真紀ッ!!!!

    おい!!! 大丈夫か!!? お玉、持ったまま座り込んで、どうした!!!?」

 

 

 

真紀:「ごめんなさい・・・。大丈夫よ。・・・急に頭痛が・・・」

 

 

 

侑一:「頭痛だと? 何処か、悪いのか・・・?」

 

 

 

真紀:「もう平気よ・・・。・・・心配かけて、ごめんなさい・・・。

    さぁ、朝食が冷めちゃう・・・。食べましょう・・・」

 

 

 

侑一:「あぁ、そうだな・・・」

 

 

 

真紀:(N)「その時の私は、突然の事で、ショックは大きかった・・・。

       でも、侑一に心配をかけてはいけないと、平気なように振舞った・・・」

 

 

 

侑一:「お? 今日の味噌汁・・・。いつもと同じで美味しいよ・・・」

 

 

真紀:「そう・・・。

    ・・・貴方ったら、いつもそればかり・・・」(小声)

 

 

侑一:「ん? 何か言ったか?」

 

 

真紀:「何でもない・・・。・・・あ、またコーラ、飲もうとしてる・・・」

 

 

侑一:「え? 駄目か・・・?」

 

 

真紀:「はぁ~・・・、お願い、もう少しコーラを飲む頻度も減らして欲しい。

    ・・・人工甘味料も、大量に摂取は体に悪いし、それに・・・!」

 

 

侑一:「おいおい、コーラは、俺の数少ない楽しみの一つなんだから、奪わないでくれよ~!」

 

 

真紀:「あっははははは!!! もう、貴方ったら・・・。 あっはははは!!」

 

 

侑一:「何も、そんなに大声で、笑う事ないだろう・・・!」

 

 

真紀:「だって~! 今の侑一の顏、子犬みたいで、可愛かったんだもん・・・。

    私ね・・・、貴方の、そんな子供っぽい部分も、凄く好きなんだな~って、再認識しちゃった」

 

 

侑一:「真紀・・・」

 

 

真紀:「ねぇ、来週の日曜日、一緒に桜を見に行きましょうよ」

 

 

侑一:「そういえば、もう咲き始めていたな。・・・よし、行くか」

 

 

真紀:「やった~! そうと決まれば、しっかり朝御飯も食べて、備えなきゃね~」

 

 

侑一:「今の内から、張り切ってたら、当日、疲れるぞ」

 

 

真紀:「平気よ。・・・う~ん、やっぱりこの味噌に変えて良かった。美味しい~」

 

 

侑一:「ははは、全く・・・」

 

 

 

 

 

 

 

(日曜日、蓮沼 侑一と蓮沼 真紀は、桜を見に公園に訪れていた)

 

 

 

真紀:「う~ん、良い天気~! 桜も綺麗に咲いてるし来てよかったわね、侑一」

 

 

侑一:「そうだな。・・・それにしても、流石に混んでるな・・・」

 

 

 

真紀:「ええ、そうね。混んでるわね~。何処か良い場所はと・・・。あっ、貴方、見て! あそこ、一か所、空いてる、どうかしら?」

 

 

侑一:「うん、良いんじゃないか。・・・桜も綺麗に見えるな~」

 

 

真紀:「そうと決まれば、行きましょう。・・・早くしないと、折角の場所が・・・。きゃっ・・・!!!」

 

 

春介:「あっ、すみません」

 

 

優花:「え? どうしたの?」

 

 

春介:「いや、女性の人と、今、肩がぶつかっちゃって・・・」

 

 

優花:「え? どの人・・・?」

 

 

春介:「あれ? どの人だったかな・・・」

 

 

優花:「流石に、こんなに混んでると、分からないのも仕方ないわよ」

 

 

春介:「そうだけど・・・」

 

 

優花:「かなり混んでるし、良い場所。何処か無いかしら・・・。あっ!」

 

 

春介:「あ、こら、いきなり走りだすなよ・・・!」

 

 

 

 

真紀:「痛たたたた・・・」

 

 

侑一:「・・・おい、大丈夫か・・・?」

 

 

真紀:「平気よ・・・。誰かの肩がぶつかったみたいで、驚いて、転んじゃっただけ・・・」

 

 

侑一:「怪我はしてないか?」

 

 

真紀:「うん、尻餅、付いただけだし大丈夫・・・。

    え!? あ~~! 嘘~~!! そんな~・・・!!」

 

 

侑一:「どうした?」

 

 

真紀:「あれを見て・・・」

 

 

 

優花:「ねぇ、此処だけ、空いてたなんて、私達、付いてるわね!」

 

 

 

春介:「あぁ、良かったな~!」

 

 

 

 

 

真紀:「はぁ~・・・」

 

 

侑一:「私達が、先に見つけた場所なのに・・・。・・・少し文句を言ってくる」

 

 

真紀:「貴方ったら駄目よ、待って!」

 

 

侑一:「何で止めるんだ・・・。あそこを見つけたのは、真紀が先だろう・・・!」

 

 

真紀:「それは、そうだけど・・・。良いの・・・。まだ何処かに、きっと良い場所があるわよ。

    ・・・だから・・・、貴方・・・、ね・・・?」

 

 

侑一:「・・・分かった。・・・他を探そう・・・」

 

 

真紀:「ありがとう・・・、貴方・・・」

 

 

 

 

 

優花:「桜・・・、綺麗・・・。今日来て、良かったわね」

 

 

春介:「そうだな、綺麗だ・・・」

 

 

優花:「もしかして、まださっきの事、気にしてる・・・?」

 

 

春介:「相手の女性、怪我とかしてないかな・・・」

 

 

優花:「きっと大丈夫よ・・・。もうそんな顏ばかりしないで。

    折角の花見なんだから、楽しみましょう・・・」

 

 

春介:「あぁ、ごめん・・・。気にし過ぎた。・・・折角、二人で来てるんだし、楽しもう」

 

 

優花:「うん」

 

 

 

 

 

 

真紀:「あ・・・、あそこ!!!

    ねぇ、貴方・・・こっちよ、こっち・・・! 早く・・・!」

 

 

 

侑一:「・・・そんなに急いで・・・、どうした?」

 

 

 

真紀:「・・・観て、此処の桜・・・。とても綺麗じゃない・・・?」

 

 

 

侑一:「これは、見事な・・・、大きな桜の木だ・・・」

 

 

 

真紀:「私ね・・・、

    こんな風に、大きくて立派な桜を・・・、貴方と一緒に、観に来たいと思ってたの。

    やっと、夢が叶った・・・」

 

 

 

侑一:「ははは・・・、お前らしいな」

 

 

 

真紀:「え・・・?」

 

 

 

侑一:「もっと大きな夢を望んだって、罰は当たらないのに」

 

 

 

真紀:「・・・」

 

 

 

侑一:「真紀・・・?」

 

 

 

真紀:「それもそうね・・・。・・・ねぇ、貴方・・・」

 

 

 

侑一:「何だい?」

 

 

 

真紀:「・・・来年も、二人で一緒に桜、観に来ましょう」

 

 

 

侑一:「あぁ、勿論だ。そうしよう」

 

 

 

真紀:「(笑顔で微笑む)・・・嬉しい。・・・約束よ。・・・今から楽しみ~」

 

 

 

侑一:「全く・・・。まだ来年の事じゃないか」

 

 

 

真紀:「良いのよ~、本当に待ち遠しいんだから~!!! 貴方、ありがとうね・・・!!! ふふふ・・・!!!」

 

 

侑一:「さて、桜も見れた事だし、そろそろ帰るか」

 

 

真紀:「・・・ねぇ、侑一~・・・」

 

 

侑一:「そのお願いの仕方は・・・。はぁ・・・、他にも、行きたい場所があるんだろう?」

 

 

真紀:「流石、貴方! 正解よ~。ね、だから良いでしょう?」

 

 

侑一:「仕方ないな~・・・」

 

 

真紀:「こっちよ、付いてきて~」

 

 

 

 

 

 

春介:「なぁ~、優花」

 

 

優花:「な~に?」

 

 

春介:「また来年もさ、一緒に、此処の桜、見に来ようか」

 

 

優花:「本当に? ・・・私もね・・・、今、同じこと考えてた」

 

 

春介:「俺達、気が合うな」

 

 

優花:「うん・・・。私、春介と出会えて幸せ・・・」

 

 

春介:「俺もだ・・・」 (優花の頬にキス)

 

 

優花:「ちょっと、こんな所で・・・!?」

 

 

春介:「良いじゃないか、頬にキスくらい」

 

 

優花:「・・・いきなりだったから、驚いたの・・・」

 

 

春介:「ははははは! そうか。それなら、これからも、優花の驚く顔も見たいし~、

    いっぱい、サプライズ、考えなきゃな~」

 

 

優花:「もう・・・! ・・・でも、楽しみにしてる」

 

 

春介:「あぁ。よし・・・、そろそろ、他の桜も見に行くか・・・?」

 

 

優花:「ええ、そうしましょう」

 

 

 

 

 

(丘の上に設置されてる東屋に向かう、蓮沼 真紀と蓮沼 侑一)

 

 

 

 

真紀:「貴方・・・、もう少しよ・・・。頑張って・・・」

 

 

 

侑一:「何処まで、行くんだ・・・? 桜なら、さっきの場所で見れたし充分だろう・・・」

 

 

 

真紀:「駄目よ。・・・どうしても、貴方に、見せたい風景が、この先にも、あるんだから・・・」

 

 

 

侑一:「・・・そうは言ってもな・・・」

 

 

 

真紀:(M)「貴方・・・、頑張って・・・。・・・でも、ちょっと歩き疲れたのかしら・・・。

       歩くペースが落ちてる・・・。

       この先の東屋から見える桜・・・、雑誌で見て・・・、

       私・・・、侑一と見たかったの・・・。だから・・・」 

 

 

 

真紀:「ほらっ、・・・あの丘に見える東屋までだから、もう少しよ・・・。ねっ・・・?」

 

 

 

 

侑一:「・・・まだ距離があるじゃないか・・・。・・・また今度にしよう・・・。ほらっ、帰るぞ・・・」

 

 

 

 

真紀:「貴方・・・! ちょっと待って・・・。・・・貴方ったら・・・!!」

 

 

 

真紀:(M)「もう・・・、侑一の馬鹿・・・。・・・でも、また来年、来れば良いわよね・・・。

       そうよ・・・、楽しみは、後に取っておこう・・・」

 

 

 

 

 

侑一:「・・・ふぅ・・・、ちょうど良い所にベンチが・・・。・・・はぁ、疲れた~・・・」

 

 

真紀:「はい、貴方・・・、これ」

 

 

侑一:「お? コーラ・・・。・・・良いのか?」

 

 

真紀:「飲みたかったんでしょう? 顔に書いてあるわよ」

 

 

侑一:「ははははは・・・。流石だよ・・・。・・・真紀と結婚して良かった・・・」

 

 

真紀:「そうよ、もっと感謝して欲しいくらい。・・・こんな子供っぽい性格・・・、私以外は・・・。

    ねぇ!!!! 貴方、見て・・・!!! 桜吹雪・・・!!!!」

 

 

侑一:「おい、いきなり駆け出すな・・・!」

 

 

真紀:「だって、こんなに綺麗なんだもの・・・! 物凄く、綺麗ね~!!!! 

    あはははははは!!!!」  (桜吹雪が嬉しくて、その場で踊り回る)

 

 

 

侑一:(M)「真紀・・・。・・・綺麗だ・・・。来年も、一緒に此処に来ような・・・」

 

 

侑一:(N)「桜吹雪に舞い上がり、手を広げながら、踊り回る妻の無邪気な姿を見て、私は・・・、そう誓った・・・」

 

 

 

真紀:「もう・・・! 貴方も、いつまでも座ってないで、こっちに来て~! 一緒に踊りましょうよ~!!」

 

 

侑一:「仕方ないな・・・。・・・今、行くよ~!」

 

 

 

 

 

優花:「ねぇ、春介、あそこ見て」

 

 

春介:「ん?」

 

 

優花:「御夫婦か恋人かしら。

    ・・・桜吹雪の中・・・、一緒に踊って回ってる・・・。何か幸せそうで、こっちまで、見てて嬉しくなる・・・!」

 

 

 

春介:「此処からだと、少し遠くて、見えにくいけど・・・、あぁ、楽しそうなのは伝わってくるな!!」

 

 

優花:「そうよね。あ、でも・・・、私は、あそこまで楽しめないかも・・・。・・・だから少し、羨ましい・・・」

 

 

春介:「そんな事ないよ。・・・折角だ。・・・俺達も踊ろう!」

 

 

優花:「え・・・、でも・・・」

 

 

春介:「ほら、恥ずかしがらないで」

 

 

優花:「うん・・・」

 

 

春介:「そうそう、上手い上手い!! ・・・俺にもっと近付いて、息を合わせて・・・」

 

 

優花:「私・・・、外で、こんな風に、外で踊るの初めて・・・」

 

 

春介:「そうか、また一つ・・・、優花の幸せな思い出が増えたな」

 

 

優花:「春介・・・。・・・ありがとう・・・。

    ・・・あ、見て、あそこ・・・」

 

 

春介:「どうした?」

 

 

優花:「大きくて立派な桜が、見えるの・・・。・・・ねぇ、もっと近くに行ってみても・・・」

 

 

春介:「優花が、そうしたいなら、良いよ」

 

 

優花:「うん」

 

 

 

 

春介:「この桜の木か~。・・・近くに来ると、更に大きいのが分かるな~」

 

 

優花:「綺麗・・・。・・・ねぇ、春介・・・。お願いが、あるのだけど・・・」

 

 

春介:「ん? こうしたいんだろう・・・」

 

 

優花:「あ・・・、手・・・! 

    ・・・うん・・・。ねぇ・・・、どうして、分かったの・・・?」

 

 

春介:「そりゃあ、分かるよ。・・・俺と手、繋ぎたいと思ってる顏してたし」

 

 

優花:「え!? 私、そんな顏してたの・・・?」

 

 

春介:「あぁ、してた。思わず・・・、可愛いな~と思った・・・」

 

 

優花:「だって、繋ぎたかったのよ・・・」

 

 

春介:「分かるさ。・・・こんなに綺麗な桜なんだから・・・」

 

 

優花:「ねぇ来年・・・、私・・・、この桜、見に来たい・・・」

 

 

春介:「あぁ、良いよ。一緒に見に来よう」

 

 

優花:「うん・・・!」

 

 

 

 

 

 

真紀:(N)「彼と桜吹雪の中、一緒に踊ったのは、私にとって、一生忘れられない思い出となりました。

       ・・・でも、それから1週間後・・・。徐々に、私の体調に、変化が起き始めたのです・・・」

 

 

 

 

真紀:「・・・(激しい咳)」

 

 

 

侑一:「おい、大丈夫か・・・?」

 

 

 

真紀:「ごめんなさい、心配かけて・・・。少し、仕事の疲れが出たみたい・・・」

 

 

 

侑一:「・・・それなら、今日は休んだらどうだ・・・?」

 

 

 

真紀:「いいえ、駄目よ、そんな事は出来ない・・・。

    ・・・仲間にも迷惑かけちゃうし、・・・今日は休めないの・・・」

 

 

 

侑一:「それなら、・・・今度の休みに病院に行って・・・」

 

 

 

真紀:「わかった・・・。貴方の言う通り、そうする。・・・だから、お願い・・・」

 

 

 

侑一:「わかったよ・・・。でも、決して無理はするなよ・・・」

 

 

 

真紀:「わかってるわよ・・・。行ってきます・・・」

 

 

 

 

 

侑一:(M)「・・・一体、真紀は、どうしたんだ・・・。

       先週、一緒に桜を見た時に、はしゃぎすぎて、風邪でも引いたのだろうか・・・。

       何事も無ければ、良いが・・・」

 

 

 

 

 

 

(海沿いの道を歩いている篠上 優花と櫻井 春介)

 

 

 

優花:「・・・はぁ・・・」

 

 

春介:「優花・・・。疲れてるみたいだけど、大丈夫か・・・?」

 

 

優花:「あ、私ったら・・・。・・・デート中に、ごめんなさい・・・。

    ・・・此処、最近、急に仕事が忙しくなって・・・」

 

 

春介:「うん、顔色も、なんか良くないな・・・」

 

 

優花:「う~ん、やっぱり、そうなのね・・・。

    ・・・春介に心配かけたくなかったから、いつもより少し、化粧を念入りにしたのに・・・。はぁ・・・」

 

 

春介:「そうだろうと思ったよ・・・。なぁ、今日は、予定変更して、このまま帰るか?」

 

 

優花:「え・・・、でも・・・」

 

 

春介:「無理して、倒れても、困るしさ・・・」

 

 

優花:「大丈夫・・・。・・・少し、そこのベンチで休めば、大丈夫だから・・・」

 

 

春介:「分かった。・・・優花、座っていて。・・・俺、飲み物、買ってくる・・・!」

 

 

優花:「ありがとう・・・」

 

 

 

 

春介:「・・・ほら・・・、お茶、買ってきた。飲めるか・・・?」

 

 

優花:「ええ、大丈夫よ・・・。・・・。」 (ゆっくり飲む)

 

 

春介:「・・・」

 

 

優花:「ふぅ・・・。・・・春介、お茶、ありがとう・・・。

    ・・・私ね・・・、忙しさで、料理するのも億劫になってたの・・・。

    だから最近は、コンビニの弁当ばかり・・・」

 

 

春介:「・・・それは駄目だろう・・・。・・・くそっ・・・。俺が料理が出来る男子なら、

    こんな時に、健康を考えた手料理、食べさせてあげるのにな・・・」

 

 

優花:「その気持ちだけで、私は嬉しい・・・。

    ・・・何か、素直に話したら、少し元気が出て来た・・・!」

 

 

春介:「本当に?」

 

 

優花:「うん・・・。・・・予約してるお店に向かいましょう。

    ・・・どんな美味しい物、食べられるのか、楽しみね~!」

 

 

春介:「あぁ、そうだな。・・・行こうか・・・」

 

 

 

優花:「うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

優花:(N)「予約してるお店に着いた後も・・・、

       目の前にいる春介が、話しかけに来ても、私は、集中する事が出来なかった・・・。

       ・・・もうすぐ彼と結婚するはずなのに・・・。どうして・・・」

 

 

 

春介:「体調が悪い時に、連れまわして、ごめんな・・・」

 

 

優花:「・・・今日は、ごめんね・・・」

 

 

春介:「優花、ゆっくり休んで。俺の事は気にしなくて良いから」

 

 

優花:「うん・・・」

 

 

春介:「結婚式の会場も決めたり、これから忙しくなるからな」

 

 

優花:「ええ、そうね。・・・しっかり休む・・・」

 

 

春介:「家まで送ろうか?」

 

 

優花:「ううん、大丈夫・・・。・・・少し夜風にあたってから帰るから・・・」

 

 

春介:「そっか、気を付けて帰れよ」

 

 

 

 

優花:(N)「私は、春介との結婚の事と・・・、仕事のトラブルが重なり・・・、

       ・・・その重圧に、押し潰されそうになっていた・・・」

 

 

 

優花:「・・・頭、痛い・・・。・・・何もやる気が起こらない・・・。

    ・・・はぁ~・・・。

    ・・・電話。・・・もしもし・・・。

    すみません・・・、体調が優れなくて・・・、今日は休ませてください・・・。

    ・・・はい、すみません・・・。忙しいのは分かってます・・・!

    はい・・・、はい・・・、すみませんでした・・・。

    はぁ~・・・。

    ・・・ちゃんと休まないと・・・。・・・あ・・・。・・・はぁ~・・・。もしもし・・・」

 

 

 

春介:「・・・優花・・・、元気か?

    最近、連絡の既読も付かないから、心配で掛けてみた・・・」

 

 

 

優花:「春介・・・」

 

 

春介:「・・・この後、会えないか・・・?」

 

 

優花:「ごめんなさい・・・。今日は、ちょっと・・・」

 

 

春介:「わかった・・・。大事な話をしておきたかったんだけど・・・」

 

 

優花:「あ・・・、明日だったら・・・、良いけど・・・」

 

 

春介:「分かった。・・・19時に、家まで迎えに行く!」

 

 

優花:「うん・・・、ありがとう・・・。

    はぁ~・・・。・・・大事な話・・・、何だろう・・・」

 

 

 

 

 

優花:(N)「翌日・・・、彼が家まで迎えに来た・・・。

         私は、昨日伝えられた、大事な話が、ずっと気になっていた・・・。

         春介と会うのは・・・、2週間ぶりだ・・・」

 

 

 

(優花の家)

 

 

春介:「久しぶり・・・。少し痩せたか・・・?」

 

 

優花:「うん・・・。最近、あまり食べれてなくて・・・。

    ・・・食べて暫くしたら、吐いちゃうことも・・・」

 

 

春介:「病院に行ったのか・・・!?」

 

 

優花:「うん・・・、来週には行こうと思ってる・・・」

 

 

春介:「来週だと!? 何処か悪かったら、手遅れになるかもしれないんだ!

    遅くても、週末には、ちゃんと診てもらうんだ・・・。

    一日も早く元気になってくれないと・・・、双方の親に挨拶もあるしな・・・!」

 

 

優花:「大事な話は・・・、それなの・・・。

    ねぇ、春介・・・、

    私・・・、結婚の事だけど・・・」

 

 

春介:「優花も、楽しみなのは、言わなくても、わかってるよ!」

 

 

優花:「・・・」

 

 

春介:「優花のウェディングドレス姿・・・、待ち遠しいよ!!

    なぁ、体調が良い時にでも・・・」

 

 

優花:「春介・・・、私・・・、ね・・・」 (気を失う)

 

 

 

春介:「優花・・・!? ・・・おい、どうしたんだ・・・!? しっかりしろ・・・。優花・・・!!!」

 

 

 

 

(病院に運び込まれた優花)

 

 

 

優花:「ん・・・、う・・・ううう・・・。・・・春介・・・。」

 

 

春介:「・・・気が付いたか。・・・いきなり気を失ったから、心配したんだからな」

 

 

優花:「・・・そっか。・・・私、倒れたんだ・・・。・・・此処って・・・」

 

 

春介:「病院だ。・・・体調悪い時に、無理させてごめんな。

    ・・・今は、ゆっくり休んでくれ。・・・俺達の結婚は、その後でも構わない。

    母さんも、心配してたぞ・・・。・・・元気になったら、一度、挨拶に行こうな」

 

 

優花:「うん・・・。・・・ごめん、春介・・・。

    ・・・私・・・」

 

 

春介:「あぁ・・・、休みたいんだな。・・・じゃあ、また来るよ!

    あ・・・、何か、欲しい物があったら、遠慮なく言えよ」

 

 

優花:「ありがとう、そうするね・・・。

    ・・・。

    ・・・はぁ~・・・」

 

 

 

 

 

(蓮沼の家)

 

 

 

侑一:「真紀・・・、・・・あれから体調は、どうだ・・・?」

 

 

真紀:「貴方・・・。・・・うん、少し良くなったみたい。・・・ごめんなさい・・・」

 

 

侑一:「近頃、風邪が流行ってるからな・・・。長引くようなら、病院に・・・」

 

 

真紀:「ええ、そうする。・・・貴方、夕飯、何が食べたい?」

 

 

侑一:「そうだな~。・・・真紀が作るのが大変なら、何処かに食べに行っても」

 

 

真紀:「そうね・・・、それも・・・」

 

 

侑一:「真紀?」

 

 

真紀:「良い・・・、かも・・・」 (急に倒れる)

 

 

侑一:「おい! おい! 真紀、しっかりするんだ!!! 真紀!!!」

 

 

 

 

 

 

(心電図の音 病室内)

 

 

 

真紀:「ん・・・、う~ん・・・」

 

 

侑一:「真紀・・・、気が付いたか?」

 

 

真紀:「貴方・・・。私・・・」

 

 

侑一:「此処は、病院だ。分かるか?」

 

 

真紀:「・・・」

 

 

侑一「・・・あの後、いきなり倒れたから、救急車を呼んだり大変だったんだぞ・・・」

 

 

真紀:「ごめんなさい・・・」

 

 

侑一:「良い機会だ。・・・ゆっくり検査してもらえ」

 

 

真紀:「そうね。・・・その間・・・」

 

 

侑一:「心配するな。その間の、食事は、コンビニか外食で済ます」

 

 

真紀:「いつもそれなんだから・・・。毎日、コンビニや外食は、体にも・・・」

 

 

侑一:「俺の心配は良いから、まずは自分の体を第一に考えろ。分かったな?」

 

 

真紀:「ええ、そうする・・・」

 

 

 

真紀:(N)「侑一の優しさが、身に染みた夜でした。

       そして翌日の朝・・・。

       同じ病室になった篠上 優花さんと出会いました・・・」

 

 

 

 

真紀:「今日から、隣のベッドになりました、蓮沼です・・・」

 

 

 

優花:「・・・初めまして。・・・篠上です・・・」

 

 

 

真紀:「篠上さんね。・・・良かった・・・」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

真紀:「・・・実は私ね、入院するの初めてで緊張してるの・・・。

    だから、お隣さんが無口な人だったら・・・、緊張して大変だったなって・・・」

 

 

 

優花:「そうですか・・・」

 

 

 

真紀:「短い間だけど、宜しくね」

 

 

 

 

真紀:(N)「最初の頃・・・、優花さんは、元気がありませんでした。

       でも・・・、少しずつ、彼女とも打ち解けていって・・・」

 

 

 

 

 

 

真紀:「・・・あっ、篠上さんも、今、検査終わり?」

 

 

 

優花:「はい。蓮沼さんもですか?」

 

 

 

真紀:「・・・そうなのよ。・・・予定より検査長引いて、お腹ぺこぺこ・・・」

 

 

 

優花:「・・・もうすぐ、夕飯の時間ですね」

 

 

 

真紀:「朝食は8時。昼食は12時。夕食は18時頃・・・って、規則正しいのは良いけど・・・、

    ・・・量が物足りないのよね・・・」

 

 

 

優花:「病院食なので、仕方ないのもありますけど、少ないですよね・・・」

 

 

 

真紀:「ねっ! 篠上さんもそう思うでしょ! 良かった、私だけじゃなくて!」

 

 

 

優花:「ふふふ・・・」(思わず笑ってしまう)

 

 

 

真紀:「どうしたの突然?」

 

 

 

優花:「蓮沼さんが余りに元気良いから、つい・・・!」

 

 

 

真紀:「あっ、それもそうね・・・。これだけ元気なら、病人に見えないよね! あははは・・・」

 

 

 

優花:「はい、そう思います。蓮沼さん」

 

 

 

真紀:「・・・真紀よ」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

 

真紀:「私の下の名前。・・・気軽に、真紀って呼んで」

 

 

 

優花:「わかりました。真紀さん。・・・私も、優花って呼んでください」

 

 

 

真紀:「優花さんね。わかった。・・・それじゃあ、優花さん、病室に戻りましょう」

 

 

 

優花:「はい、真紀さん」

 

 

 

 

優花:(N)「春介との結婚に、仕事の事とか、心配事は山積みだけど・・・、

       私は、真紀さんの、持ち前の明るさに助けられていると・・・、その時、思いました・・・」

 

 

 

 

 

 

真紀:「優花さん、おはよう。・・・ねぇ、少し、中庭にでも・・・。 

    ・・・あ、居ない・・・。何処かに出かけてるのね・・・。」

 

 

 

侑一:「真紀・・・」

 

 

真紀:「あら、貴方・・・、どうしたの?」

 

 

侑一:「どうしたのは、無いだろう」

 

 

真紀:「ふふふ、ごめんなさい」

 

 

侑一:「これを、持ってきた・・・」

 

 

真紀:「まぁ、リンゴ・・・。ありがとう。・・・今、剥くわね・・・」

 

 

侑一:「良いから、そのまま寝てろ。俺がやる」

 

 

真紀:「でも・・・」

 

 

侑一:「任せろ・・・。リンゴを剝くくらい、俺にも・・・、痛っ・・・」

 

 

真紀:「ほらっ、言ってる傍から・・・。貴方、大丈夫?」

 

 

侑一:「少し、指を切っただけだ・・・」

 

 

真紀:「良いから見せて。・・・深くは切ってないようね。

    ・・・はい、これでよし・・・」

 

 

侑一:「すまない・・・。

    ははは・・・、情けないな・・・。・・・リンゴの一つも剥けないとは・・・」

 

 

真紀:「貴方・・・」

 

 

侑一:「・・・真紀が頭痛で、しゃがみ込んでた頃から考えてたんだ・・・。

    お前に、もしもの事があって、一人になったら、俺は・・・」

 

 

真紀:「・・・そうね。・・・こんなに何も出来ないなんて、思いもしなかった・・・」

 

 

侑一:「真紀・・・」

 

 

真紀:「でも聞いて。・・・私ね・・・、それでも、貴方と結婚して後悔はしてないの。

    だって・・・、毎日が幸せだから・・・」

 

 

侑一:「・・・」

 

 

真紀:「だから、これからも宜しくね」

 

 

侑一:「勿論だ」

 

 

真紀:「ごほっ、ごほっ、ごほっ・・・」

 

 

侑一:「大丈夫か?」

 

 

真紀:「ちょっと窓を開けすぎたかしら。・・・平気よ」

 

 

侑一:「それなら良いんだ。・・・また来る・・・」

 

 

真紀:「ねぇ、貴方」

 

 

侑一:「何だ?」

 

 

真紀:「お願いした物があるの。次に来る時に、持ってきてくれるかしら?」

 

 

侑一:「わかった」

 

 

真紀:「ありがとう、貴方」

 

 

侑一:「じゃあな」

 

 

 

 

 

 

優花:「・・・あ、真紀さん、おはようございます」

 

 

真紀:「優花さん、おはよう。・・・姿が見えないから、心配しちゃった」

 

 

優花:「すみません・・・。少し、考え事したくて・・・」

 

 

真紀:「あら? 悩み事・・・?」

 

 

優花:「はい・・・、婚約者との事です・・・。

    私・・・、このまま、春介と結婚しても良いのか、分からなくなりました・・・」

 

 

真紀:「どうして・・・?」

 

 

優花:「・・・分かりません。・・・ただ、最近、彼と居ると、息が詰まって苦しいんです・・・」

 

 

真紀:「・・・優花さん、結婚が怖いのね・・・」

 

 

優花:「・・・」

 

 

真紀:「ねぇ、優花さん、結婚は良いものよ。私は、侑一と一緒になれて幸せ・・・」

 

 

優花:「結婚されてたのですね」

 

 

真紀:「ええ。・・・私の事が心配で、会社まで休んじゃう駄目な夫がね」

 

 

優花:「何だか・・・、羨ましい・・・」

 

 

真紀:「優花さん・・・。あ・・・、その・・・」

 

 

優花:「私・・・、彼の期待に応えなきゃと、焦っていたんです・・・。

    ・・・真紀さんの言葉で、勇気が出ました・・・。

    春介との結婚、じっくり考えてみます・・・」

 

 

真紀:「優花さんの幸せ、願っているわね。・・・さてと、午後からの検査に行ってくる」

 

 

優花:「はい、行ってらっしゃい」

 

 

 

 

 

 

優花:(N)「検査から、戻って来た真紀さんに、声をかけようとしたら、

       真紀さんは、軽く会釈した後・・・、そのまま自分のベッドに戻ってしまった・・・。

       何かあったのかと、気になったが・・・・、私は声をかける事が出来なかった・・・。

       それからも・・・」

 

 

 

真紀:「・・・あ、優花さん・・・」

 

 

優花:「真紀さん、・・・天気、良いので、少し中庭に、行きませんか?」

 

 

真紀:「ごめんなさい・・・。今日は、止めとく・・・」

 

 

優花:「あの・・・、何か、あったのですか?」

 

 

真紀:「・・・大丈夫よ。・・・心配かけてごめんなさい・・・」

 

 

優花:「そうですか・・・」

 

 

真紀:「・・・」

 

 

(スライドドアが開いて、お見舞いに来た春介が現れる)

 

 

 

春介:「・・・あ、お邪魔だったかな?」

 

 

優花:「春介・・・」

 

 

春介:「邪魔したのなら、日を改める・・・」

 

 

真紀:「あ、・・・ごめんなさい。・・・私、もう戻るから、気にしないで」

 

 

優花:「あっ! 真紀さん・・・」

 

 

春介:「優花、彼女は・・・?」

 

 

優花:「隣のベッドになった真紀さん。・・・それで、今日は、何の用なの・・・?」

 

 

春介:「中庭で、話がしたいんだ」

 

 

優花:「ちょうど良かった。・・・私も、春介に話があったの・・・。行きましょう」

 

 

春介:「おう・・・」

 

 

 

 

 

 

真紀:(N)「優花さんが、私を心配する気持ちは、痛いほど、伝わって来ました。

       でも、その時の私は・・・、彼女と話す気分にはなれなくて・・・、

       どうする事も出来ずに、ベッドで寝る事しか出来ませんでした・・・」

 

 

 

 

 

(中庭に移動した、優花と春介)

 

 

 

春介:「・・・なぁ、優花・・・」

 

 

優花:「ごめんなさい・・・!!」

 

 

春介:「え?」

 

 

優花:「私・・・、・・・春介と結婚、出来ない・・・」

 

 

春介:「・・・突然、どうした? ・・・俺の事が、嫌いになったのか?」

 

 

優花:「私・・・、貴方と一緒になって、幸せになれるのかも、分からない・・・。

    ・・・春介を好きになって、あんなに幸せだったのに・・・、

    今は、この先の未来を考えただけで、怖いの・・・。

    不安が次から次と出てきて・・・、自分自身の事、考えるだけで、精一杯・・・」

 

 

春介:「・・・優花が辛いのも分かる。・・・だが、無責任すぎないか?

    婚約は、俺達だけの問題じゃない! ・・・俺の両親も、俺達の結婚を、今か、今かと、楽しみにしている!

    ・・・それなのに、そんな両親に、婚約は破棄されたと・・・、どんな顔をして、伝えれば良いのか、分からないよ・・・!!

    どうすれば良いんだ・・・! ・・・母さんは、嬉しそうに、親戚中に話をしていたんだ・・・!」

 

 

優花:「・・・」

 

 

春介:「優花・・・。今は、病気のせいで、弱気になっているんだ。

    ・・・だから、そんな弱気な事ばかり、考えてるに違いない・・・。うん、そうに決まっている・・・!」

 

 

優花:「春介・・・」

 

 

 

春介:「悪いが、婚約破棄は出来ない・・・。優花、ゆっくり休むんだ。・・・じゃあ、また来る」

 

 

 

優花:「春介、待って! 私の気持ちは・・・。・・・はぁ~・・・」

 

 

 

 

優花:(M)「春介の言ってる事も分かる・・・。

       でも、こんな気持ちのまま、結婚する事なんて、出来ない・・・。

       どうすれば、良いの・・・。

       ・・・ん? あの男性・・・、私達の病室に入っていった。

       もしかして、真紀さんの旦那さん・・・?」

 

 

 

間       

 

 

 

真紀:「貴方、来たのね。・・・お願いしてた物は、持ってきてくれた?」

 

 

 

侑一:「あぁ、勿論。そんな事よりも、体調はどうだ・・・?」

 

 

 

真紀:「うん。検査結果は・・・、まだだけど、思ってたより、重病では無いみたい」

 

 

 

侑一:「そっか・・・。それなら安心した・・・」

 

 

 

真紀:「心配かけてごめんね・・・」

 

 

 

侑一:「そんなのは良いんだ。・・・早く、元気になってくれたら、それで良いんだ」

 

 

 

真紀:「うん・・・」

 

 

 

 

 

優花:(M)「真紀さん、重病じゃ無いんだ・・・。良かった・・・。

       旦那さん・・・、優しい人で良かった・・・。

       流石に、今、戻ると、御二人の邪魔しちゃうから、もう少し後に戻ろう・・・」

 

 

 

 

 

 

 

真紀:「ねぇ、貴方・・・」

 

 

 

侑一:「何だ?」

 

 

 

真紀:「もし私が、貴方より早く・・・、この世を去ったら、どうする・・・?」

 

 

 

侑一:「いきなりどうした・・・? もしかして、何処か体調が悪いのか・・・?」

 

 

 

真紀:「そうじゃない、例え話よ。・・・さっきね、テレビでそんな特集やってたから、

    侑一なら、どうするのか訊いてみたくなったの」

 

 

 

侑一:「・・・ふ~ん。・・・そうだな~。・・・俺なら、ずっと悲しみ引きずるだろうな・・・」

 

 

 

真紀:「え?」

 

 

 

侑一:「え? は無いだろう・・・。・・・愛してる妻が亡くなるのだから、それくらい当然だろう?」

 

 

 

真紀:「それは、そうだけど・・・」

 

 

 

侑一:「・・・何か不満そうだな?」

 

 

 

真紀:「貴方の気持ち聞けたのは嬉しいけど、少し複雑・・・。

    ・・・侑一には、私が亡くなった後は、早く次の素敵な女性を見つけて、幸せになって欲しい」

 

 

 

侑一:「え?」

 

 

 

真紀:「だって、私だけじゃ勿体ないもん! そりゃあ、貴方の愛を独占したいって気持ちもあるけど・・・」

 

 

 

侑一:「なぁ、やっぱり何処か体調が・・・」

 

 

 

真紀:「ねぇ、話は変わるけど・・・、来年・・・、約束した通り・・・、また、あの大きな桜を見に行きましょうね・・・」

 

 

 

侑一:「良いけど・・・、いきなり、どうした?」

 

 

 

真紀:「ううん、・・・何となく、もう一度、伝えたかっただけよ・・・」

 

 

 

侑一:「何だよ、それ・・・」

 

 

 

真紀:「ふふふ・・・、良いじゃない!! ・・・来年が待ち遠しいんだから・・・!」

 

 

 

侑一:「はいはい、わかったよ。・・・それには、まずは、早く退院が出来るように、元気にならないとな」

 

 

 

真紀:「ええ、そうよね・・・! うん、早く元気になる・・・。ありがとう・・・。貴方・・・」

 

 

 

 

 

 

 

優花:(N)「・・・真紀さんも、重病じゃないと分かって安心した夜でした・・・。

       ふと、目を覚ますと、隣のベッドで、真紀さんが静かに、泣いていた・・・」

 

 

 

 

 

真紀:「・・・どうしてよ・・・、どうして、私が・・・こんな運命に・・・。

    これから・・・、もっと、沢山・・・、侑一と一緒に過ごしたり・・・」(静かに泣く)

 

 

 

優花:「あのう・・・、真紀さん・・・?」

 

 

 

真紀:「あっ、優花さん!? ・・・起きてたのね・・・。ごめんなさい・・・。うるさくて、寝れなかった?」

 

 

 

優花:「そんな訳では・・・。真紀さんこそ、どうかされたのですか?」

 

 

 

真紀:「・・・」

 

 

 

優花:「あっ、・・・話したく無ければ、別に良いので、無理しないで・・・」

 

 

 

真紀:「私、夫にね・・・、嘘付いたの・・・」

 

 

 

優花:「え?」

 

 

 

真紀:「私ね・・・、本当は、重い病気なの・・・。・・・ステージ4のスキルス胃癌・・・。

               ・・・何でもっと早くに・・・、病院に行かなかったのかな・・・。

               ・・・優花さん・・・、私ね・・・、後、半年も経たないで、死ぬの・・・」

 

 

 

優花:「そんな・・・」

 

 

 

真紀:「長くて1年・・・。短ければ、半年だって・・・」

 

 

 

優花:「真紀さん・・・」

 

 

 

真紀:「・・・夫に嘘ついても、すぐにバレちゃうのにね・・・。

    ・・・残された時間は短いし、いつまでも、嘆いてばかり要られない・・・。

    出来る事、考えなくちゃ・・・」

 

 

 

優花:「・・・」

 

 

 

真紀:「心配かけて、ごめんね・・・。さぁ、夜も遅いし、寝ましょう・・・」

 

 

 

優花:「・・・真紀さん、私に出来る事があれば、手伝うので言ってくださいね」

 

 

 

真紀:「優花さん・・・。うん、ありがとう・・・」

 

 

 

 

 

春介:「優花・・・。・・・優花・・・。優花・・・、優花・・・! 優花・・・!!

    ・・・結婚は、必ずしてみせる・・・。

    俺には、優花しか居ないんだ・・・。

    あ・・・、もしもし、母さん・・・。

    うん・・・、分かってる。・・・結婚は、心配しなくても良いよ。

    ・・・うん、・・・また連絡する・・・。

    ・・・優花・・・、お前は、俺のものだ・・・!!」

 

 

 

 

 

優花:(N)「それから、暫くして、真紀さんから、話があると、中庭に呼ばれた・・・。

       私は、急いで、中庭に向かった・・・」

 

 

 

 

 

 

(病院の中庭にあるベンチで優花が来るのを待つ真紀)

 

 

 

 

優花:「真紀さん、話ってなんですか?」

 

 

 

真紀:「呼び出してごめん。えっと・・・、優花さん、この前はごめんね・・・」

 

 

 

優花:「そんな、とんでもないです・・・。・・・あれから少し、落ち着かれましたか?」

 

 

 

真紀:「お陰様でね・・・。ねぇ、優花さん・・・」

 

 

優花:「はい」

 

 

 

真紀:「呼び出した理由だけどね・・・。

   ・・・優花さんに、・・・サクラを頼みたいの・・・」

 

 

 

優花:「え? サクラですか・・・?」

 

 

 

真紀:「うん・・・。・・・夫ね、思ってた以上に、寂しがり屋なの・・・。

    だから、私が居なくなった後も・・・、きっといつまでも、落ち込んだまま、

    人生を楽しむ事さえも、忘れてしまいそうで、怖いの・・・」

 

 

 

優花:「優しい性格の旦那さんなんですね・・・」

 

 

 

 

真紀:「う~ん・・・。優しいけど、鈍感な部分もあったり・・・、

    子供っぽい部分もあったり・・・、

    それに・・・、ふふふ・・・」

 

 

 

優花:「どうしたのですか?」

 

 

 

真紀:「・・・夫ね、かなりの甘党でね・・・。

    私が注意しても、いつもコーラとか、甘い物、食べてたのよ・・・」

 

 

 

優花:「甘党ですか・・・」

 

 

 

真紀:「玉子焼きもね・・・。甘くしないと絶対、食べないくらいだったから、大変だった・・・。

    そんな性格だから・・・、私ね・・・、夫の健康も心配だったのよ・・・」

 

 

 

優花:「心配になるのもわかります・・・」

 

 

 

 

真紀:「良かった・・・。優花さんには、この苦労が伝わって・・・。

    夫は鈍感だから、私が砂糖を・・・、甜菜糖(てんさいとう)に変えても、

    いつも通り美味しいで、全然、気付いてくれなくてね・・・。

    ・・・だから、余計に・・・、ね・・・」

 

 

 

 

優花:「・・・私も、食べる物は、忙しいからという理由で・・・、

    コンビニで買う事が多くて・・・、気付いたら、体を壊していました・・・」

 

 

 

真紀:「コンビニばかりは駄目よ・・・。・・・後で、私の取って置きのレシピの数々、

    教えてあげるから、退院したら作ってみて」

 

 

 

優花:「・・・ありがとうございます」

 

 

 

真紀:「・・・それでね・・・、サクラの内容だけど・・・、

    来年、夫と桜を見に行く約束したの・・・。

    でも・・・、その頃には・・・、私は、もう生きてない可能性が高いの・・・。

    ・・・夫ね、私が居なくなった後も・・・、私との約束だから、

    必ず、二人で見た大きな桜を見に行くと思うの・・・。

    私ね・・・、夫と桜を見に行ったとき、あまりに舞い上がって、

    桜吹雪の中、踊り回っていたのよ・・・。

    幾らなんでも、はしゃぎすぎよね・・・」

 

 

 

優花:「え? ・・・もしかして、あの時、桜吹雪の中、楽しそうに踊っていたのは・・・、真紀さん・・・」

 

 

 

真紀:「嘘・・・。優花さんも、あの時、居たのね・・・。

    そっか・・・、私達・・・、そんな時から・・・、繋がっていたんだ・・・。

    知らなかった・・・」

 

 

 

優花:「私も、驚きました・・・。でも、真紀さん、あの時・・・、凄く楽しそうなのが、

    遠くからも、伝わって来ました・・・。

    あ・・・、さっき言ってた、大きな桜は、その近くにある・・・」

 

 

 

真紀:「そうそう、その大きな桜の木よ・・・! じゃあ、場所も大丈夫そうね」

 

 

 

優花:「はい」

 

 

 

真紀:「じゃあ、話を続けるわね。

    ・・・後、夫に近付いた時だけど・・・、

    伝えた通り・・・、コーラが好きだから、飲み物、渡す時は渡してみて。

    きっと、喜ぶと思うから・・・。

    それとね・・・、これから健康面には、気を付けて貰いたいから・・・、

    そうね・・・、お弁当を作って渡して・・・。

    ・・・それと最後に、この手紙を・・・、夫が元気を取り戻したと、思えた時に渡して欲しいの・・・。

    私からの、お願いは以上よ。・・・その他の方法は、優花さんに任せる・・・。

    どうか・・・、夫を・・・、宜しくね・・・」

 

 

 

優花:「わかりました。・・・必ず、約束は果たします・・・」

 

 

 

 

 

 

真紀:「・・・じゃあ私、先に、病室に戻るわね」

 

 

優花:「はい・・・。・・・。あ・・・、ふふふ・・・。・・・風が気持ち良い・・・」

 

 

 

 

春介:「・・・優花・・・、此処に居たのか・・・」

 

 

優花:「春介・・・」

 

 

春介:「考えは、変わったのか・・・?」

 

 

優花:「ごめんなさい・・・。まだ、自分の事しか、考えれない・・・」

 

 

春介:「いつまで、俺は待てば良いんだ・・・。なぁ、教えてくれよ・・・」

 

 

優花:「いつまでとか、言わないで・・・。・・・待てないのなら・・・」

 

 

春介:「なぁ!!!」

 

 

優花:「っ!」

 

 

春介:「俺は、優花の気持ちが、戻るまで、待っている・・・。だから、俺を失望させないでくれ・・・」

 

 

優花:「春介・・・」

 

 

春介:「・・・俺達は、一緒になるんだ・・・。必ず、きっと・・・。そうじゃないと・・・、駄目なんだ・・・」 

 

 

 

(ぶつぶつ言いながら、優花の前から居なくなる)

 

 

 

優花:(N)「春介は、それ以降、お見舞いに来ることが減った。

         気にはなったけど、私は、むしろ、安心していた・・・。

         ・・・それから、更に時が経過して・・・、

       真紀さんの容態は、見る見る内に悪化していき・・・、ついに、その時がやってきました・・・」

 

 

 

真紀:「・・・はぁ~・・・、はぁ~・・・」

 

 

侑一:「真紀・・・、俺は、此処に居る・・・」

 

 

真紀:「貴方・・・。・・・私ね・・・」

 

 

侑一:「ん? 何だ・・・?」

 

 

真紀:「・・・貴方と、もう一度・・・、あの大きな桜の木、見たかった・・・。

    あの桜吹雪の中・・・、一緒に踊りたかったな~・・・」

 

 

侑一:「しっかりしろ・・・」

 

 

 

真紀:「・・・ごめんなさい。・・・貴方の前で、弱音は、最後まで吐かないと決めていたのに・・・。

    病気の事も、最後の最後まで、隠していて、ごめんなさい・・・。

    最後には、貴方に、伝わるのは、分かっていたけど・・・、怖かったの・・・。

    もっと、貴方に・・・、私の手料理、食べて欲しかった・・・。

    ・・・私が居なくなった後も・・・、お願い・・・、ゴホッ、ゴホッ、ゴホッ・・・」

 

 

侑一:「もう良い! お前の気持ちは、もう分かったから、もうこれ以上、喋らなくて良い・・・!」

 

 

 

真紀:「貴方、泣かないで・・・。・・・私は、貴方の子供のような笑顔が好きなの・・・。

    お願い・・・、笑って・・・」

 

 

侑一:「無理を言うな・・・! こんな時に、笑えるわけ無いだろう・・・」

 

 

真紀:「お願いよ・・・、貴方・・・」

 

 

侑一:「・・・。・・・真紀。

    お前を困らせたり・・・、怒らせたり・・・、苦労をかけたけど・・・」

 

 

真紀:「うん・・・」

 

 

侑一:「私は、真紀と出会えて、この世の中で、一番、幸せな男だよ・・・。

    だから、これからも・・・」

 

 

真紀:「私も・・・、この世の中で、一番、幸せ・・・でした・・・」

    

 

 

侑一:「真紀・・・!

    でした、じゃないだろう・・・!

    私達は、まだこれからも、一緒に、幸せに暮らすんだからな・・・」

 

 

真紀:「素敵ね・・・。ねぇ、貴方・・・。私ね・・・」

 

 

 

侑一:「しっかりするんだ、真紀・・・!

    ほらっ・・・、お前が望んだ笑顔だ・・・。・・・これで、どうだ・・・?」

 

 

 

真紀:「・・・そう、その笑顔が・・・、最後に・・・、もう一度・・・、見たかったの・・・。

    あり・・・、が・・・、とう・・・。・・・あ・・・、な・・・、た・・・」

 

 

 

(真紀に繋がっていた心電図が、真紀が亡くなった事を知らせる。

 次の瞬間、感情が溢れ、号泣しながら叫ぶ侑一)

 

 

 

侑一:「真紀・・・。駄目だ・・・、返事をしてくれ・・・。・・・真紀!!!

    何をする・・・? 嫌だ・・・。おい・・・、その手を放せ・・・!!!

    先生!!! お願いです!!! まだ真紀は、死んでなんか居ない・・・!!!

    お願いだから、真紀を助けてくれ~!!!!

    ううううう・・・、真紀~~~~~!!!!!!!」 

 

 

 

 

 

 

真紀:(N)「気付くと私は、泣き叫んでいる侑一の姿を、天井から見つめていた・・・。

       ・・・そのすぐ側には、ベッドに寝ている自分の姿が見える・・・。

       そう・・・私は、亡くなったのだと・・・、すぐに理解した・・・。

       先生に取り押さえられた後、まるで、電池が切れた玩具のように、

       その場に、倒れこむ侑一・・・」

  

 

 

侑一:「・・・真紀・・・。・・・」

 

 

 

真紀:「気を失った彼を、看護師達は、別室のベッドに寝かせる・・・。

    そんな一部始終を、私は見ている事しか出来なかった・・・」

 

 

 

 

 

春介:「・・・やぁ、優花・・・」

 

 

優花:「春介・・・」

 

 

春介:「・・・外で、話せないか?」

 

 

優花:「え? 今にも、雨が降りそうな天気よ・・・。話なら、病室でも・・・」

 

 

春介:「良いから、来てくれ!」

 

 

優花:「痛いっ・・・。春介・・・。腕を引っ張らないで・・・! 自分で歩けるから・・・!!!」

 

 

春介:「・・・」

 

 

優花:「ねぇ・・・、春介・・・、お願いだから・・・!」

 

 

春介:「駄目だよ・・・、俺が、ちゃんと手を引いて上げなきゃ・・・、優花は、すぐ、何処かに行ってしまうじゃないか・・・。

    何も心配しなくて良い・・・。俺が、優花の未来は、ちゃんと考えているから・・・!!」

 

 

優花:「考える・・・。私は・・・、春介と・・・、もう・・・、結婚、出来ない・・・」

 

 

 

春介:「どうしてだ!!! 俺は、こんなにも、優花を愛してるのに!!!

    ・・・なぁ、俺を、ちゃんと見てくれ!!! 優花・・・!!!」 (壁に優花を押し付ける)

 

 

優花:「痛っ・・・!! お願い、もう、私の事は、放って置いて・・・」

 

 

 

春介:「嫌だ! なぁ、俺を見捨てないでくれ・・・。ほらっ、此処に、優花が選んだ婚約指輪がある・・・。

    ・・・さぁ、手を出してくれ・・・」

 

 

 

優花:「嫌・・・」

 

 

春介:「さぁ・・・」

 

 

優花:「いい加減にしてえええええええええ!!!!」  (春介に平手打ちする)

 

 

春介:「・・・。・・・優花。何をするんだ・・・。・・・そんなに、俺の事・・・」 

 

 

優花:「春介・・・。もう、これ以上、貴方の事・・・、嫌いになりたくない・・・。

    もう、分かってよ・・・」

 

 

春介:「優花・・・」

 

 

優花:「私と・・・、別れてください・・・。お願いします・・・」

 

 

春介:「・・・。・・・分かった」

 

 

優花:「・・・ごめんなさい・・・」

 

 

春介:「・・・もう、良い・・・」 (婚約指輪を落とす)

 

 

優花:「春介・・・、婚約指輪が・・・」

 

 

春介:「・・・」

 

 

 

 

 

(天気は崩れ出す。そんな中、侑一と春介は、中庭にあるベンチで、溜息を付く)

 

 

 

真紀:(M)「侑一・・・。何処に言ったのかしら・・・。

       あんなに思い詰めて、もし、私の後を追おうとしてたら大変・・・。

       ん? あれは・・・、侑一・・・。

       良かった、中庭のベンチに座ってる・・・。

       それと、横に座ってるのは、確か、優花さんに会いに来た男性・・・。

       どうして、二人が一緒に・・・?」

 

 

 

侑一:「はぁ~・・・」

 

 

春介:「はぁ~・・・」

 

 

侑一:「・・・どうして、こんな事に・・・」

 

 

春介:「あ、すみません・・・。お邪魔でしたか?」

 

 

侑一:「いいえ・・・。・・・気にしないでください」

 

 

春介:「・・・どうして、人生は上手くいかないんでしょうね・・・。

    好きな人に、振られるなんて・・・」

 

 

侑一:「振られただけじゃないか・・・」 (小声)

 

 

春介:「え? 今、何て・・・?」

 

 

侑一:「振られただけなら・・・、縒(よ)りを戻せば良いじゃないか・・・。

    ・・・それさえも、出来ない人も居るんだ・・・」

 

 

春介:「それは、そうですが、俺には関係ない・・・」

 

 

侑一:「関係ないだと!!!」 (胸倉を掴む)

 

 

春介:「え!? ・・・ッ!!? いきなり、何するんですか!?」

 

 

侑一:「よく聞け・・・。関係ないの一言で、人を絶望のどん底に落とすことだってあるんだ・・・!

    ・・・そんな性格だから、彼女にも、振られたんじゃないのか・・・?」

 

 

春介:「貴方に、俺の何が分かるんですか・・・!!!

    俺がどんな思いで、此処に座っていたかも知らないくせに!!!」

 

 

侑一:「それは、こっちの台詞だ!!! ・・・もうやり直せないんだよ・・・。

    私の妻は、死んだんだ・・・。どうして、真紀が死ななければいけないんだ・・・。

    お前は、振られただけだろう・・・。もう一度、やり直せば・・・」

 

 

春介:「ふざけるな!!! もう一度、やり直せたら、とっくにそうしてるさ!!!

    ・・・婚約指輪さえ付けて貰えなかった俺の気持ちが・・・、

    幸せだった既婚者のお前に、分かるわけない!!!」

 

 

 

侑一:「ふざ・・・けるなッ!!!!」 (春介を殴る)

 

 

 

春介:「痛っ!!! ・・・あんたこそ、ふざけんなッ!!!」 (侑一を殴る)

 

 

 

侑一:「痛っ・・・」

 

 

 

(雨が降り始める。雨に濡れながらも、お互いを睨む二人)

 

 

 

春介:「そんなんだから、奥さんも苦労が重なって、病気になったじゃないのか?

    お前と結婚した為に、不幸になって可哀想だな・・・。

    ・・・お前が、そんなんじゃ、奥さんも、死んでも、死にきれな・・・!?」  (侑一に殴られる)

 

 

 

侑一:「(殴る)!!!」

 

 

 

春介:「痛っ・・・!!!」

 

 

 

侑一「はぁ、はぁ、はぁ!!! ・・・訂正しろ!!! 

   妻は・・・、・・・真紀は、私と一緒になれて、この世の中で幸せでした・・・と、最後に言ったんだ!!!

   そんな妻を・・・、侮辱するのは、絶対に許さない!!!」

 

 

 

春介:「ははっ・・・。今のは効いたよ・・・。だがな・・・」

 

 

 

侑一:「え? ・・・!?」 (春介に殴られる)

 

 

 

春介:「(殴る)!!!」

 

 

 

侑一:「痛っ・・・!!!」

 

 

 

春介:「はぁ、はぁ、はぁ・・・。これで、御相子(おあいこ)だ・・・。

    自分だけが、世界で一番、不幸って顔してんじゃねぇよ!!!

    苦しいと思う気持ちは、皆、同じなんだ・・・。

    少し、そこで、頭を冷やせ・・・」

 

 

 

侑一:「・・・真紀・・・。・・・どうして・・・、こんな事に・・・。

    くそおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」

 

 

 

真紀:(M)「侑一・・・。・・・ごめんなさい・・・」

 

 

 

 

 

真紀:(N)「その後も、暫く、侑一は、塞ぎ込んだままでした。

            私は、そんな夫の姿を、見続ける事しか出来なかったのが、辛かった・・・。

         ・・・翌年の春、優花さんは、侑一に出会い、私に頼まれた通り、サクラを演じてくれました・・・。

         侑一も、少しずつ、元気を取り戻していき、安心しました・・・。

         でも・・・、そのせいで、優花さんは・・・」

 

 

 

 

 

(桜を見下ろせる丘の上にある東屋で、篠上 優花の事を思い、呟く蓮沼 侑一)

 

 

 

 

侑一:「・・・優花さん・・・。貴女はどうして、こんな方法を・・・。

    私は、貴女の事が・・・」

 

 

 

(東屋で佇む蓮沼 侑一の事を、少し遠くから見つめてる優花)

 

 

 

優花:「・・・蓮沼さん・・・。・・・ごめんなさい・・・。

    ・・・私も出来る事なら、貴方の元に、今すぐ行きたかった・・・。

    でも、亡くなった真紀さんの事、考えると・・・、どうしても、素直な気持ちで、貴方に会えない・・・。

    こんな私を許してください・・・。・・・私は・・・」

 

 

 

真紀:(M)「優花さん・・・」

 

 

 

優花:「私は・・・、侑一さんの事が・・・、好きでした・・・。さようなら・・・」

 

 

 

真紀:(M)「・・・このままでは駄目・・・。優花さんが幸せになれない・・・。

       私に、出来る事は・・・、・・・。

       うん・・・。これしかない・・・」

 

 

 

 

 

 

優花:(N)「侑一さんに会う勇気が出せずに、そのまま帰宅した夜から1週間後・・・、

       連絡が途切れていた春介から、電話がかかって来た。

       私は、婚約解消をした後ろめたさもあって、春介の連絡先を、消す事が出来なかった・・・」

 

 

 

 

優花:「・・・もしもし・・・、久しぶり・・・」

 

 

 

春介:「久しぶり・・・、元気だったか?」

 

 

優花:「うん・・・、元気よ・・・。そっちは?」

 

 

春介:「あぁ・・・、俺も元気だ・・・。・・・あのさ・・・」

 

 

優花:「何・・・?」

 

 

春介:「久しぶりに、会えないか?」

 

 

優花:「え?」

 

 

春介:「ちゃんと、あの時の事・・・、謝りたいんだ・・・」

 

 

優花:「・・・分かった。・・・会う場所は、こっちで決めて良い?」

 

 

春介:「勿論だ・・・。優花、ありがとう・・・」

 

 

優花:「良いのよ・・・。えっと、待ち合わせ場所は・・・」

 

 

 

 

優花:(N)「私が、待ち合わせ場所を伝えると、春介は、一度、頷いた後、また明日と告げて、電話を切った・・・。

       ・・・翌日・・・、私は、待ち合わせ場所に向かった・・・。

       此処は、真紀さんが眠っている霊園だ・・・。私は、春介との待ち合わせより、少し前に来て、

       真紀さんのお墓の前で、報告をしていた・・・」

 

 

 

優花:「・・・真紀さん。・・・報告が遅くなって、ごめんなさい・・・。

    侑一さんは、・・・見違えるように、元気になりました・・・。

    もう、心配は要りません・・・。

    私のサクラの役目は、終わりました・・・。

    それと、真紀さん・・・。・・・私は、貴女に謝らなければいけません・・・。

    私は・・・、侑一さんの事が・・・」

 

 

 

春介:「あれ? 優花? こんな所で、会うなんて偶然だな・・・。元気だったか?」

 

 

優花:「え? 偶然!? ・・・貴方が会いたいと言ったから、私が場所を指定して、来てもらったのよ・・・」

 

 

春介:「え? 俺が・・・!? 可笑しいな・・・、昨日、電話した記憶なんて、俺には無いけど・・・」

 

 

優花:「どう言う事!? 寄りにもよって、こんな所で、ふざけるのもいい加減にして!!!

    私が、婚約破棄した事、恨んでいて、こんな手の込んだ事を・・・!!!」

 

 

春介:「落ち着いて頂戴・・・。・・・久しぶりね、優花さん」

 

 

優花:「え? 優花・・・さん・・・?」

 

 

春介:「ええ、そうよ・・・。久しぶりね・・・」

 

 

優花:「ちょっと、春介・・・。どうして、女性の言葉遣いに・・・、・・・え!?」

 

 

春介:「・・・憑依するの、初めてだから・・・、

    まだ、完全に操れなくて・・・、元の春介さんに戻ってたみたい・・・。

    驚かせて、ごめんなさい・・・。ちょっと、待っていてね・・・」

 

 

(春介の姿に、真紀さんの姿が、浮かび上がる)

 

 

 

 

真紀:「ふぅ~・・・。これで、どうかしら・・・?」

 

 

優花:「真紀さん・・・」

 

 

真紀:「良かった、今度は成功したみたいね・・・。・・・久しぶりね、優花さん・・・」

 

 

優花:「真紀さん・・・、私、貴女に伝えないといけない事が・・・!!」

 

 

真紀:「侑一の事よね。・・・全部、見てたから知ってる。・・・ねぇ、優花さん・・・」

 

 

優花:「ごめんなさい! 私・・・、侑一さんとは・・・、もう・・・!!」

 

 

真紀:「良いのよ・・・」

 

 

優花:「え・・・!?」

 

 

真紀:「もう、私の為に、苦しまなくて良いの・・・。優花さん、自分の気持ちに素直になって・・・」

 

 

優花:「でも・・・!」

 

 

真紀:「侑一も・・・、そう望んでいる。

    ・・・優花さんが、来なかったあの日から、あの東屋に、毎日、訪れてるの・・・。

    貴女が来るのではないかと、待ち続けてる・・・」

 

 

優花:「侑一さん・・・」

 

 

真紀:「ごめんなさい・・・。

    私が、サクラをお願いしたばかりに、

    貴女を、こんなに苦しめる事になってしまった・・・」

 

 

優花:「謝らないでください! 私は・・・、真紀さんのお陰で、侑一さんに出会い、

    ・・・彼を好きになれました。

    でも、好きになればなる程・・・、私で良いのかとか・・・、真紀さんに申し訳ない気持ちとか・・・、

    色々な感情に、悩みました・・・」

 

 

真紀:「・・・」

 

 

優花:「でも・・・、もう、悩むのは止めます・・・!」

 

 

真紀:「そう、それで良いのよ。

    優花さん、聞いて。

    侑一は、もう二度と、貴女に、会えないんだと、自分の気持ちを諦めようとしている・・・。

    今日が、最後のチャンスになるかもしれないの・・・」

 

 

優花:「そんな・・・。・・・真紀さん、私・・・!!」

 

 

真紀:「優花さん・・・、早く行って・・・!!! ・・・侑一を頼んだわよ」

 

 

優花:「はいっ・・・!」

 

 

真紀:「さてと・・・、体、返さなきゃね・・・。・・・ありがとう、春介さん・・・」

 

 

春介:「・・・良いんですよ。・・・優花・・・!!」

 

 

優花:「春介・・・。私・・・」

 

 

春介:「全部、真紀さんを通して、聞いていたよ。・・・俺の事は、もう良い・・・!!

    ・・・その侑一さんと、幸せになってくれ・・・!!」

 

 

優花:「うん・・・! ありがとう、春介・・・!!」

 

 

 

 

真紀:「よく頑張ったわね・・・。流石、侑一と殴り合っただけあるじゃない」

 

 

春介:「あ~、そっか・・・。あの時の人が・・・。どうりで、敵わないはずだ・・・。

    ・・・幸せになれよ・・・、優花・・・!」

 

 

真紀:「優花さん・・・、侑一・・・、お幸せにね・・・」

 

 

 

 

 

(東屋に走って向かう間、侑一の言葉を思い出している優花)

 

 

 

侑一:「はぁ~・・・、優花さん・・・。・・・今日も、会えなかった・・・。

    やはり貴女は、もう此処には・・・」

 

 

 

優花:(M)「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ・・・! 侑一さん・・・!」

 

 

 

(東屋での優花とのやりとりの回想) ※前作、葬春花、参照

 

 

 

侑一:「・・・貴女と出会わなければ、私はこの先も、ずっと桜を見るたび、悲しんでました・・・。

    来年も、会えるの楽しみにしてます」

 

 

 

侑一:「篠上さんのお陰です・・・。こうして、1年毎に、此処で会うのが・・・、

    気付いたら、楽しみに変わっていましたよ」

 

 

侑一:「・・・私は、優花さんの優しさに惹かれていました・・・。

    1年毎に、此処で会うだけの関係でしたが・・・、

    それでも毎年、春が訪れると、また貴女に会えると、待ち遠しかったんです・・・」

 

 

 

侑一:「来年の今日も、私は此処で、貴方を待ってます・・・! 貴方が来るまで、ずっと・・・!

    ・・・待ってます・・・」

 

 

 

(回想終了)

 

 

 

優花:(M)「はぁ、はぁ、はぁ、侑一さん、ごめんなさい・・・。

       私、間違ってた・・・。貴方は、私の為に、こんなに素直な気持ちで居てくれたのに・・・!

       私も、もう、迷わない・・・!

       ・・・だから、お願い・・・、もう一度、私にチャンスを・・・!!」

 

 

 

 

 

(東屋に辿り着いた優花。恐る恐る中を覗く)

 

 

 

優花:「はぁ、はぁ~、はぁ~・・・、侑一さん・・・!!!

    そんな・・・。(力なく泣き崩れる)

    ・・・遅かったと言うの・・・。・・・私は・・・、私は・・・、

    これから先、ずっと、侑一さん・・・。貴方と一緒に居たいの・・・!!!

    ・・・貴方に、会いたい・・・」

 

 

侑一:「優花さん・・・」

 

 

優花:「え・・・!? ・・・あ・・・」

 

 

侑一:「こうして、貴女を抱きしめたかった・・・」

 

 

優花:「うん・・・」

 

 

侑一:「私も、ずっと貴女に会いたかった。もう二度と、離さない・・・」

 

 

優花:「侑一さん・・・」

 

 

侑一:「・・・優花さん・・・」

 

 

優花:「はい・・・」

 

 

侑一:「結婚してくれますか?」

 

 

優花:「その言葉・・・。ずっと待っていました・・・。

    ・・・はい・・・。もう二度と・・・、貴方の側を離れません・・・!!」

 

 

 

優花:(N)「私達を見守るように・・・、眼下に広がる名残の花(なごりのはな)は・・・、

       心地よい風に揺られながら、花びらを舞い上がらせていた・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

終わり

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