
ミモザが揺れる約束の場所
作者:片摩 廣
登場人物
ディエゴ・ロマーノ ・・・ 表向きの仕事は、パスティッチェーレ。裏の仕事は、殺し屋
アレッシア・ロッシ ・・・ 片足の不自由な女性 明るい一面、暗い過去を持つ
比率:【1:1】
上演時間【60分】
オンリーONEシナリオ2526
3月、ミモザの日、ミモザの花言葉をテーマにしたシナリオです
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CAST
ディエゴ・ロマーノ:
アレッシア・ロッシ:
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(ディエゴは、街中で片足の不自由な女性、アレッシアに出会う)
ディエゴ:「・・・君・・・、ねぇ、大丈夫かい?」
アレッシア:「ええ、大丈夫よ・・・。気にしないで・・・」
ディエゴ:「君・・・、その足・・・」
アレッシア:「いいから、私に構わないで!!」
ディエゴ:「でも・・・」
アレッシア:「私の事は、放って置いて! 同情されるなんて、ごめんよ!」
ディエゴ:「ちょっと、待って! ・・・あぁ、・・・行っちゃった・・・。・・・はぁ~・・・」
間
アレッシア:「まさか、いきなり声をかけられるとは、思わなかった・・・!
それにしても・・・、流石に少し歩き疲れたわね・・・。
家に戻る前に、何処か休憩出来るお店、無いかしら・・・。
あっ・・・、あそこのお店、お洒落ね・・・」
(ドアベル)
ディエゴ:「いらっしゃいませ。まだ営業前で・・・。あ・・・」
アレッシア:「あ・・・」
ディエゴ:「・・・」
アレッシア:「私ったら、ごめんなさい・・・。出直すわ・・・」
ディエゴ:「あ、待って・・・!」
アレッシア:「何よ」
ディエゴ:「あ、いや・・・」
アレッシア:「用が無いのなら、帰るわよ」
ディエゴ:「少し、休憩していかないか?」
アレッシア:「・・・少しだけなら・・・」
ディエゴ:「・・・」
アレッシア:「でも助かったわ・・・。・・・足も、痛かったし・・・。ありがとう・・・」
ディエゴ:「へぇ、そんな顏も出来るんだな」
アレッシア:「・・・何よ? 私の顏、変かしら?」
ディエゴ:「いいや、そんな風に笑った顔も、素敵だよ・・・」
アレッシア:「何よそれ・・・。私も笑ったりするに決まってるでしょ。
そんなに私は、鉄仮面のように、冷たい女に見えるのかしら・・・」
ディエゴ:「さっきは悪かったな・・・。別に同情したわけじゃないんだ・・・」
アレッシア:「謝らなくて良いわ。これくらい慣れてるから・・・。・・・あっ・・・」
ディエゴ:「お腹、空いてるのか? 良かったら、これから食べに行かないか?」
アレッシア:「えっ? 二人で・・・?」
ディエゴ:「二人っきりは駄目か・・・?」
アレッシア:「だって私達、初対面なのよ・・・。それに・・・」
ディエゴ:「それに・・・、何だ?」
アレッシア:「貴方・・・。その・・・」
ディエゴ:「俺の顏が、そんなにタイプなのか?」
アレッシア:「は!? どうして、そうなるわけ!? ・・・別に、貴方の事なんか、何とも・・・」
ディエゴ:「嘘は良くないぜ。ちゃんと、俺の顏見て行ってくれ」
アレッシア:「良いわよ。それくらい出来るんだから・・・!」
ディエゴ:「じゃあ、ほら、こっち向いて」
アレッシア:「っ・・・!!」
ディエゴ:「どうした? 震えているな」
アレッシア:「震えてない・・・!!」
ディエゴ:「そうか、なら、もっと直視しても良いんだぞ?」
アレッシア:「貴方の気が済むまで、見続けてあげるわよ・・・!!」
ディエゴ:「ぷっあははははははは!!!!」
アレッシア:「どうして、そこで笑うのよ!! 私は真剣なんだから!!!」
ディエゴ:「君さ、頑固者と言われたりしない?」
アレッシア:「あっ・・・。もう・・・貴方なんて嫌いよ!!」
ディエゴ:「愛情の裏返しと捉えておくよ」
アレッシア:「あっそ!!! もう知らないっ!!!」
間
ディエゴ:(N)「彼女の一つ一つの表情が、とても愛おしく思えた。
彼女なら、俺の事、受け入れてくれるだろうか・・・」
間
アレッシア:「貴方、女たらしと言われない?」
ディエゴ:「よく言われる」
アレッシア:「すぐさま言うなんて、流石ね・・・」
ディエゴ:「イタリア人なら、当然だ」
アレッシア:「私は、貴方に惚れたりしないから・・・」
ディエゴ:「俺に惚れない女は居ないよ」
アレッシア:「じゃあ私が、貴方の初めてを奪ってあげる」
ディエゴ:「ご自由にどうぞ」
アレッシア:「まぁ、信じてない反応じゃない! そう、分かった!
じゃあ、これならどう!?
・・・3月8日・・・。ミモザの日までに、貴方に惚れなかったら、私の負け。
惚れさせれたら、貴方の勝ちでどうかしら?」
ディエゴ:「1週間後か・・・。望むところだ」
アレッシア:「覚悟しておくことね。・・・じゃあね~」
ディエゴ:「おいっ! お昼の約束は!?」
アレッシア:「また今度、一緒に行きましょう!」
ディエゴ:「ったく~・・・」
ディエゴ:(N)「翌日から、アレッシアは、俺のお店に・・・、
日に何度も、やってくるようになった・・・」
間
(ドアベル)
ディエゴ:「はぁ~・・・、また来たのか・・・。・・・注文は何にする?」
アレッシア:「ティラミス、お願い」
ディエゴ:「はぁ~・・・、畏まりました~」
アレッシア:「何よ、その溜息! むしろ感謝して欲しいんだけど!」
ディエゴ:「ん? 感謝だと?」
アレッシア:「ええ、そうよ! お店の売り上げにも、貢献してるんだから感謝されても可笑しくないでしょ!」
ディエゴ:「そうは言っても、いつもティラミスばかりじゃな~・・・。
良くもまぁ、日に3度も、同じ物を食べて飽きないよな・・・。
・・・ほら、ティラミス」
アレッシア:「これよこれ~!
う~ん、最高!!!
・・・だって貴方の作るティラミス、とっっっても美味しいんだもん!」
ディエゴ:「っ!!? そりゃどうも・・・!」
アレッシア:「ん? どうしたの? あ・・・、もしかして・・・」
ディエゴ:「いや違う! 断じて違う!!!」
アレッシア:「何よ、私、まだ何も言ってないのに」
ディエゴ:「言わなくても分かる!」
アレッシア:「ふ~ん、じゃあ言ってみてよ」
ディエゴ:「え!?」
アレッシア:「ほらっ、早く~!」
ディエゴ:「今、私の美味しいの言い方、可愛いと思ったでしょ・・・だろう?」
アレッシア:「正解っ!」 (満面の笑顔)
ディエゴ:「ほら見ろ~・・・。この性悪女・・・!!」
アレッシア:「誰が性悪女よ! ・・・でも良いわ。貴方の悔しがる表情、見れたから~!
う~ん、美味しい~!! ・・・あ~ん、でも・・・、最後の一口~・・・」
ディエゴ:「ほらよ」
アレッシア:「え?」
ディエゴ:「これは、俺からのサービスだ」
アレッシア:「良いの・・・?」
ディエゴ:「そんな風に食べる度に、満面の笑顔で喜ばれたら、サービスしたくなるに決まってるだろう。あはは!」 (満面の笑顔)
アレッシア:「っ! ・・・ありがとう」
ディエゴ:「お? どうした?」
アレッシア:「何でもないわよ・・・」
ディエゴ:「あ~、嘘は感心しないな~」
アレッシア:「嘘じゃないんだから・・・!!!
貴方の笑顔が・・・、
その・・・良かったのよ・・・」 (小声)
ディエゴ:「ん? 何だ? 聴こえないな~」
アレッシア:「もう!!! 意地悪!!! この天然たらし!!! 知らないっ・・・!!!」
ディエゴ:「お互い様だ! あっはははは!」
アレッシア:(N)「彼は、私の心の中にある暗い感情の数々を・・・、
次々に明るい感情で塗り替えてくれるのが、とても心地良かった・・・。
そう・・・、彼は、このティラミスのように、魅力的な人物だ・・・。
気付くと私は、そう思っていた・・・」
間
(ドアベル)
ディエゴ:「あ・・・、いらっしゃい。・・・悪いが、少し待ってくれないか?」
アレッシア:「あぁ、電話中ね・・・。良いわ、待ってる」
ディエゴ:「悪い、こっちの話だ・・・。それで?
・・・(溜息)・・・。
分かった・・・、今度の期間は、どのくらいだ?
・・・そうか。・・・急を要するんだな・・・。
・・・心配ない。
大丈夫だ、任せてくれ。・・・いつも通り、上手くやるさ。それじゃあ・・・」
アレッシア:「ごめんなさい・・・。急を要する用事じゃ~・・・、私、邪魔よね・・・。また来るわね」
ディエゴ:「あ、いや、その・・・」
アレッシア:「気にしなくて大丈夫よ・・・! 私も、日に何度も来ちゃったのが悪いんだし・・・。じゃあね!」
アレッシア:(M)「ディエゴの様子、明らかに可笑しかった・・・。・・・私、彼に踏み込みすぎたの・・・?」
ディエゴ:「お願いだ!!! 待ってくれ!!!」
アレッシア:「何よ、私の事は放って置いて良いわよ・・・」
ディエゴ:「いつも、店に来てくれて嬉しいんだ!!!」
アレッシア:「え!?」
ディエゴ:「店のドアベルが鳴るたびに、お前が来たかと期待してしまうんだ・・・」
アレッシア:「・・・アレッシア・ロッシよ・・・」
ディエゴ:「・・・ディエゴ・ロマーノだ・・・」
アレッシア:「・・・ねぇ、この後、時間あるかしら?」
ディエゴ:「時間なかったら、追いかけたりしない。・・・店もクローズにして来た」
アレッシア:「じゃあ、少し私に付き合ってちょうだい」
ディエゴ:「別に良いが」
間
アレッシア:「此処に入りましょう」
ディエゴ:「サンタ・マリア・イン・コスメディン教会だと? おい? 此処に入るのか?」
アレッシア:「そうよ~! ほらっ、早く来て!」
ディエゴ:「・・・」
アレッシア:「どうしたの? 怖い・・・?」
ディエゴ:「怖いだって? 一体、俺が何に怖がるんだ!?」
アレッシア:「・・・着いた。・・・此処よ」
ディエゴ:「真実の口・・・」
アレッシア:「私達、イタリア人なら、誰もが知ってる有名観光地。
でも私、試した事が無かったの・・・。
本当に、嘘つき者は手を噛まれる?
嘘や偽りの心を持っている人物が、口の中に手を入れると、噛み切られてしまうそうよ・・・」
ディエゴ:「・・・」
アレッシア:「ねぇ、ディエゴ・・・。・・・私に何も、嘘付いてないのなら、この中に手は入れられるわよね?」
ディエゴ:「当たり前だ。余裕で、手なんか入れられるさ」
アレッシア:「じゃあ、早く入れて」
ディエゴ:「・・・なぁ! こんな事しても、つまらないだろう!? 他の場所に・・・」
アレッシア:「お願いよ・・・」
ディエゴ:「・・・分かった・・・。・・・くっ・・・」
アレッシア:「どうしたの? ・・・手が震えているわよ・・・。もっと奥に・・・!」
ディエゴ:「はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・!!」
アレッシア:「はぁ~・・・。もう良いわよ・・・」
ディエゴ:「くっ! はぁ、はぁ、はぁ~・・・!!!」 (真実の口から手を引き出す)
アレッシア:「嚙みちぎられたり、抜けなくなるのは、本当か分からなかったわね。
・・・でも、これだけは理解出来た・・・。
貴方は・・・、嘘や隠し事があるって・・・」
ディエゴ:「すまない・・・」
アレッシア:「謝らなくて良いわ。ただ私が、貴方に期待し過ぎただけだから・・・」
ディエゴ:「アレッシア・・・、待ってくれ・・・!!
・・・アレッシア・・・」
間
アレッシア:(N)「・・・ディエゴが、私に対して何か隠しているのは、彼の表情で分かってしまった。
だから何? と、すぐに気持ちを切り替えれたら良いのに・・・。
でも、そうする事が出来なかった・・・。
彼の存在は、私の中で、いつの間にか、こんなにも大きくなっていたのだ・・・」
間
(ドアベル)
ディエゴ:「はっ!? アレッシア・・・!?
・・・あっ・・・、いらっしゃい。・・・好きな席に座ってくれ・・・」
ディエゴ:(N)「あれから2日・・・。アレッシアは、俺の店に来ていない。
俺の頭の中は、去り際に言った彼女の言葉でいっぱいだった・・・」
(回想)
アレッシア:「謝らなくて良いわ。ただ私が、貴方に期待し過ぎただけだから・・・」
間
ディエゴ:(M)「・・・あの時、アレッシアに真実を伝えていたら、何か変わったのか?
分からない・・・。一体、俺は、どうすれば良かったんだ・・・」
(ドアベル)
ディエゴ:「すまない・・・。今夜は、もう店仕舞いだ・・・」
アレッシア:「あ・・・、そうなの・・・。分かったわ・・・」
ディエゴ:「その声はアレッシアか!? 違うんだ!!! 待ってくれ!!!」 (アレッシアの手を引っ張る)
アレッシア:「え!? きゃあああっ!!!」
ディエゴ:「アレッシア・・・!!!」
アレッシア:「痛っ・・・」
ディエゴ:「すまない!? 怪我はないか?」
アレッシア:「いきなり何するのよ!!!!」 (ディエゴに、思いっきりビンタ)
ディエゴ:「痛っ・・・。アレッシア・・・」
アレッシア:「貴方は何者なの!? どうして此処まで、私の心を搔き乱すのよ!!!
ねぇ!!! ちゃんと答えて!!!」
ディエゴ:「話したら、お前を危険な目に遭わせてしまう・・・」
アレッシア:「危険な目・・・? 貴方、一体・・・」
ディエゴ:「はぁ・・・。・・・場所を変えないか・・・?」
アレッシア:「ええ・・・」
アレッシア:(N)「・・・そう言われて、店を出てから、街の中を歩いてる間も・・・不安で仕方なかった・・・。
沈黙に耐えられなくて・・・、何度か、ディエゴに声をかけようとした・・・。
でも・・・、彼の背中からは・・・、ただならぬ雰囲気がして・・・、
私は・・・、上手く・・、声が出せなかった・・・。
どれくらい歩いただろう・・・。・・・彼が沈黙を破って、声をかけてきた・・・」
ディエゴ:「・・・着いたぞ・・・」
アレッシア:「・・・此処は、コロッセオ・・・」
ディエゴ:「此処は、昔・・・、殺し合いが行われていた 娯楽としての闘技場だ・・・」
アレッシア:「勿論、知ってるわよ。・・・ティトゥス帝は、市民に娯楽を提供することで、人気を取るために行ったのよね・・・」
ディエゴ:「罪人の処刑場でもあった此処に来ると・・・、
その当時の様子が、目に浮かんでくるようで・・・、落ち着くんだ・・・」
アレッシア:「え・・・?」
ディエゴ:「・・・血に染まっているのは、俺だけじゃないんだって・・・。
アレッシア・・・。・・・俺の本当の仕事は・・・、殺し屋なんだ・・・」
アレッシア:「嘘・・・」
ディエゴ:「残念だが、真実だ・・・。黙っていてすまない・・・」
アレッシア:「だから、あの時・・・、真実の口に、手を入れられなかったのね・・・」
ディエゴ:「・・・俺の作ったティラミス、美味しいと言ってくれたのは、心から嬉しかった・・・。
だが・・・、それも、今日で御終いだ・・・」
アレッシア:「嫌よ・・・」
ディエゴ:「アレッシア・・・」
アレッシア:「殺し屋だから何なのよ・・・! 私は、貴方の優しさに惹かれたの・・・!」
ディエゴ:「俺と一緒に居たら、お前まで危ない目に・・・」
アレッシア:「望むところよ・・・!」
ディエゴ:「何だと?」
アレッシア:「刺激の無い毎日で退屈していたのよ。・・・これからは、楽しめるじゃない・・・!!」
ディエゴ:(N)「そう言ったアレッシアの体は、震えていた・・・」
間
ディエゴ:「分かった。但し、条件がある」
アレッシア:「条件?」
ディエゴ:「危ないと思ったら、どんな時も、すぐに逃げてくれ・・・」
アレッシア:「ええ、分かったわ」
間
ディエゴ:(N)「それから、俺と彼女の奇妙な関係が始まった。
アレッシアは、俺の本当の職業を知ってから、より一層、俺に付いて回るようになった・・・」
アレッシア:「ディエゴ、はい、差し入れよ」
ディエゴ:「こんな所まで、付いてきたのか・・・。今は、依頼の遂行中だと言うのに・・・。
それにだ! 差し入れなんか、頼んだ覚えは・・・、ん!? 危ない、伏せろ!」
アレッシア:「きゃっ!」
ディエゴ:「・・・バレットM82・・・」
アレッシア:「え?」
ディエゴ:「アメリカの、セミオート式狙撃銃だ・・・。
弾は、12.7x99mm NATO弾・・・。弾道の直進性も良くて、
長距離射撃の際に、空気抵抗や横風などの影響を受けにくい上に、速度低下が少ない・・・。
そのまま、建物の影に隠れてろ・・・!」
アレッシア:「分かったわ・・・!」
ディエゴ:「・・・くそっ、逃がしたか・・・。・・・おい? 怪我は無いか・・・?」
アレッシア:「大丈夫だけど・・・。ごめんなさい・・・、依頼の邪魔しちゃったわよね・・・」
ディエゴ:「問題ない。俺は、連中を追う。・・・念の為に、お前に、これを渡しておく」
アレッシア:「え? 銃・・・。・・・銃なんて、私・・・!」
ディエゴ:「ベレッタ92・・・。イタリアのベレッタ社が設計した自動拳銃だ。これなら、お前にも使う事が出来る」
アレッシア:「そんな! 絶対に無理よ!」
ディエゴ:「無理なら、死ぬだけだ・・・!!
・・・お前が、踏み込もうとしている世界は、こんな世界だ・・・。
最後の警告だ・・・。・・・怖いのなら、俺に、二度と関わるな・・・」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「安心しろ。・・・さっきのスナイパーは、俺が責任もって始末する」
アレッシア:「ディエゴ・・・」
ディエゴ:「分かったなら、大人しく家に帰れ。良いな?」
アレッシア:「分かった・・・」
ディエゴ:「じゃあな・・・」
アレッシア:(N)「・・・そう私に告げると、彼はあっという間に、走り去って行った。
・・・私は、暫く足が震えて・・・、その場から動けなかった・・・。
家に着く頃には、辺りは真っ暗になっていた・・・。
私は、家の戸締りをした後、着替えずにベッドに倒れこんだ・・・。
さっきの光景を、思い出すたびに・・・、全身が震えて・・・、呼吸も荒くなる・・・。
・・・命を狙われる恐ろしさを・・・、私は・・・、甘く見ていた・・・。
ディエゴは・・・、私とは住む世界が違うのだ・・・。
これから私は・・・どうしたら・・・」
間
(ドアベル)
ディエゴ:「いらっしゃいませ・・・。・・・はぁ~・・・。
何しに来た・・・?」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「昨日の事で、いい加減、懲りたと思ったんだけどな・・・」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「・・・黙っていたら、分からないだろう・・・」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「はぁ・・・。・・・これ以上、無理しなくて良いんだ。
俺の事は、心配しなくて良い。・・・むしろ迷惑だ・・・」
アレッシア:「迷惑ですって・・・?」
ディエゴ:「あぁ、そうだ。・・・これまで、一人でやって来たと言うのに・・・。
お前と出会ってから、調子を狂わされてばかりだからな・・・!!
・・・お前も、死にたくは無いだろう?」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「・・・はぁ~。・・・昔話をしてやる。
俺は、小さい頃に、両親を殺されたんだ・・・。想像、出来るか?
8歳にも満たない子が、両親を失って、イタリアの路頭に迷わされたんだ・・・。
・・・その日、食べる物にも困って、お腹は常に空いていたよ・・・。
俺は死を覚悟した・・・。このまま、飢えて死んでしまえば、両親の元に行けるって・・・」
アレッシア:「・・・周りの大人に、頼れば助けて・・・」
ディエゴ:「馬鹿を言うな・・・! 赤の他人が、身なりも貧相で、小汚い子供に、手を差し伸べるわけが無い・・・!
・・・どいつもこいつも、可哀想ねと、憐みの眼差しを向けてきたが・・・、
その裕福な手を差し伸べてくれる人は、一人も居なかったさ・・・。
・・・もう、どうでも良い・・・と、諦めたその時だ・・・。・・・一匹の野良犬が俺の横を通った・・・」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「俺は、最後の力を振り絞り・・・、その犬の向かう先を見たんだ。・・・そしたら、そこにはゴミ箱があった・・・。
俺は、這いながら向かうと・・・、その犬の隣で、そこに入っていた残飯を、夢中になって口に運んでいた・・・」
アレッシア:「嘘・・・」
ディエゴ:「生きる為に必死だったんだ・・・。
それからの俺は、ゴミ箱を探して回っては、命を繋ぎ止めていたよ・・・」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「どうした? 余りの生き様に絶句したのか?」
アレッシア:「そんな経験してるなんて、想像出来なかった・・・」
ディエゴ:「想像出来なくても無理もない。
幸福な家庭に育っていたら、経験することすら無いだろうからな・・・」
アレッシア:「私も、決して、幸福な家庭じゃ無かったわよ・・・。
死にそうになった時もあるわ・・・」
ディエゴ:「・・・それで、その足の後遺症なのか?」
アレッシア:「この足は・・・、私にとって後悔の証なの・・・。
大事な婚約者を・・・、死なせてしまったのよ・・・。
彼、私を飲酒運転の車から庇ったの・・・。
一瞬の出来事だった・・・。
・・・私は、その場で気を失い・・・、次に、目が覚めた時は病院だった。
医者は、元通りに歩けるようになると言ったけど・・・、足が痛む度に思うの・・・。
・・・完治したら、彼を忘れてしまう・・・。そんなのは、許されないと・・・」
ディエゴ:「いつまでも、過去に縛られていても、彼は戻って来ない」
アレッシア:「分かってるわよ、それくらい・・・。
でも、私は幸せになっては、いけないの・・・」
ディエゴ:「じゃあどうして、また此処に来たんだ?」
アレッシア:「貴方を放って置けなかったから」
ディエゴ:「・・・」
アレッシア:「・・・彼を失った時の私と、貴方は似てるの・・・。
この世に未練が無いと、悟った目をしてる・・・」
ディエゴ:「俺には、失う物が無いから当然だ」
アレッシア:「・・・私は、もう誰も失いたくない・・・! ・・・だからお願い、私に銃の扱い方を教えて・・・!」
ディエゴ:「・・・殺す事を覚えて、後悔しないのか?」
アレッシア:「ええ、しないわ。・・・目の前で、誰かが、理不尽に殺される方が、きっと後悔する・・・」
ディエゴ:「良いだろう・・・。・・・後を付いてこい」
アレッシア:(N)「ディエゴは、店の裏に私を案内すると、部屋の奥の扉を静かに開けた・・・。
そこには、地下に続く階段があり、私は、ゆっくり下りていく。
・・・階段を下りきると、今度は重厚な扉があり、彼が開けると、そこには、射撃場があった・・・」
ディエゴ:「少し、待ってろ・・・」
アレッシア:「ええ・・・」
アレッシア:(N)「そう私に告げると、彼は部屋の壁にあるスイッチを押す。
すると、人型の的が動き出した・・・」
ディエゴ:「的までの距離は、市街地などの銃撃戦を想定している。
それぞれ、50メートル、25メートル、10メートル、5メートルがあるが、
お前は、5メートル、10メートル先を、狙えるようにしろ。
・・・銃は、そこに用意してあるベレッタ92だ。・・・先ずは持ってみろ」
アレッシア:「・・・思ってたより重い・・・」
ディエゴ:「重量は、950g・・・。重さに慣れる事に集中するんだ」
アレッシア:「ええ・・・」
ディエゴ:「次に構え方だが・・・、ハンドガンの構え方は大きく分けて2種類・・・。
・・・一つは、アイソセレススタンス・・・。
足を肩幅くらいに開いて、両手を伸ばし、体の正面中央に、銃を構えるんだ。
メリットは、反動を抑えて、左右にも振り向きやすくなる。
そして、もう一つは、ウィーバースタンス。
・・・利き手の方の足を半歩引いた半身の体勢で、利き腕を前に伸ばすんだ。
もう片方の腕は、曲げて下の方からサポートする・・・。
メリットは、敵に向かって半身で構えるから、敵に向ける体の表面積が狭くなり、被弾しにくくなる」
アレッシア:「分かった・・・。・・・私は、どちらで構えれば良いの?」
ディエゴ:「確実に的に当てるのが大事だ。・・・アイソセレススタンスを覚えろ」
アレッシア:「そっちね・・・。・・・足を肩幅に開いてから、両手を伸ばし、体の正面に銃を構える・・・」
ディエゴ:「そうだ、次に、銃の上に付いてるサイトから覗いて、的に照準を合わすんだ」
アレッシア:「こうかしら・・・?」
ディエゴ:「その調子だ。・・・撃ち方だが・・・、安全装置を・・・」
(銃声)
アレッシア:「きゃっ!!! ・・・びっくりした~・・・」
ディエゴ:「いきなり撃つ馬鹿が居るか! ・・・何処も怪我してないか?」
アレッシア:「大丈夫・・・。ねぇ・・・、手、放して・・・」
ディエゴ:「あっ、悪い・・・」
アレッシア:「・・・ねぇ、的を狙えば良いのよね?」
ディエゴ:「あぁ、その通りだ・・・。だが、素人のお前じゃ、そう簡単には当たるわけが・・・」
(銃声)
アレッシア:「ほら、見てよ! ど真ん中に当たった・・・!!! 私、射撃の才能あるのかしら・・!!!」
ディエゴ:「5m先の的に当たったくらいで、喜び過ぎだ・・・」
アレッシア:「素直に喜びなさいよ・・・」
ディエゴ:「その調子で、撃ち続けろ・・・」
アレッシア:「的は、5mのままで?」
ディエゴ:「良いや、10mに変えとく。・・・せいぜい、頑張れ」
アレッシア:「何よ、意地悪・・・。ねぇ、弾の補充の仕方は、どうすれば良いのよ?」
ディエゴ:「物覚えの良いお前には、これで良いだろう」
アレッシア:「え? 動画・・・?」
ディエゴ:「それ見て、しっかり覚えろ・・・。俺は店に戻る」
アレッシア:「何よ、手抜きじゃない! くそっ・・・、今に、見てなさいよ・・・!!」
アレッシア:(N)「それから私は、彼を見返すために、必死に撃ち続けた・・・。
どれくらい、続けてたのだろう・・・。
銃の重さが・・・、辛いと感じ始めると・・・、
まるで、私の感情を読んだかのように、彼が戻って来た・・・」
ディエゴ:「・・・まだ撃ち続けてたのか? へぇ~、思ってたよりも、根性あるじゃないか・・・」
アレッシア:「何よ、まだまだ余裕だけど」
ディエゴ:「ふ~ん・・・、その割には、的以外に、撃ちこんでる方が多いな。
集中力も、途切れたなら、丁度良い。・・・夕食を作ったから、食べろ」
アレッシア:「え? もう、そんな時間・・・」
ディエゴ:「気付いてなかったのか?」
アレッシア:「地下に居て、気付けるわけ無いじゃない・・・」
ディエゴ:「それもそうだな・・・。・・・冷めるから、早く上がって来いよ」
アレッシア:「言われなくても、そうするわよ!」
間
ディエゴ:「Buon appetito」 ※(ボナペティート)
アレッシア:「・・・美味しい・・・。・・・何だか、悔しい・・・」
ディエゴ:「美味しいは嬉しいが、その後の悔しいは、どうしてだ?」
アレッシア:「だって、殺し屋のくせに・・・、パスティッチェーレとしての腕も抜群・・・。
おまけに・・・、パスタ料理も、こんなに腕が良いなんて・・・、貴方・・・、何処まで完璧なのよ・・・」
ディエゴ:「隠れ蓑としての仕事とはいえ、手を抜くなんて嫌だったんだ。
勉強してる内に、自然に腕は身に付いたよ」
アレッシア:「そんな言葉・・・、私も人生の中で、一度は言ってみたかったわよ・・・。
・・・もう、このペスカトーレ・・・絶品! 神がかってる・・・!」
ディエゴ:「よくもまぁ、恥ずかしい言葉を、次々と・・・」
アレッシア:「さぁ、食べ終わったら、練習の続きよ」
ディエゴ:「まだ続けるのか・・・?」
アレッシア:「当たり前よ。・・・私を本気にさせたんだから、覚悟しなさい!」
ディエゴ:「はぁ~・・・」
ディエゴ:(N)「彼女は、その宣言通り・・・、毎日、昼過ぎから夜まで来て練習しては、
夕食を一緒に食べてから帰るを繰り返していた・・・」
アレッシア:「・・・ん~! 練習後のティラミスは、格別ね~!!!」
ディエゴ:「・・・そりゃどうも・・・。・・・所で、毎日、来てくれるのは嬉しいが、
仕事は、大丈夫なのか・・・?」
アレッシア:「それなら大丈夫よ。・・・私、これでも、良い所のお嬢様なんだから。
だから毎日、働かなくても平気なのよ~」
ディエゴ:「はぁ~、良いご身分で、羨ましいよ・・・」
アレッシア:「良い身分なんかじゃないわよ・・・。・・・この怪我のお陰で、私はすっかり除け者扱い・・・。
親からも、その足の怪我じゃ、結婚の貰い手が付かないとか、言われ続けたわ・・・。
挙句の果てには、一般男性と結婚しようとするから、あんな事故に巻き込まれんだとか言う始末・・・。
彼の両親にも、大金を払って黙らせたのよ・・・。本当、最低な親よ・・・。
私も・・・、我慢の限界だったから、家出同然で一人暮らし始めたの・・・。
あんな家・・・、二度と戻りたくない・・・」
ディエゴ:「だったら、俺と何処か、遠い国にでも行くか?」
アレッシア:「良いわね・・・。でも・・・」
ディエゴ:「怖いか?」
アレッシア:「・・・怖くないといえば嘘になる・・・。それに・・・」
ディエゴ:「何だ?」
アレッシア:「私の居場所に気付いたら、私の両親は、連れ戻そうとするわ・・・」
ディエゴ:「除け者扱いしてるのにか?」
アレッシア:「所詮、私は、親の権力の為の駒に過ぎないのよ・・・。
利用出来る間は・・・、手放さないに決まってるわよ・・・」
ディエゴ:「政略結婚させられるんだな・・・」
アレッシア:「ええ、そうよ・・・。それが嫌で、婚約者も自分で選んだのに・・・、結局は、死なせる運命に・・・」
ディエゴ:「・・・」
アレッシア:「・・・ごめんなさい、暗くなる話しちゃって・・・。折角のティラミスが、これじゃあ、台無しよね・・・」
ディエゴ:「いや、良いんだ。・・・お前が、どうして必死に、銃を撃てるように練習してるのか・・・、納得した・・・。
・・・今の運命を変えたいんだな・・・」
アレッシア:「そうかも知れないわね・・・。私に、力さえあれば・・・、こんな糞みたいな人生から抜け出せたのに・・・」
ディエゴ:「抜け出したいなら、俺が手伝ってやる」
アレッシア:「え?」
ディエゴ:「明日・・・、俺に時間をくれないか?」
アレッシア:「ええ、良いけど・・・。・・・はっ・・・」
アレッシア(N)「私は、そう答えてから、思い出した。・・・明日は、3月8日・・・。約束の日だと・・・」
ディエゴ:「どうかしたか?」
アレッシア:「何でもないわよ・・・! さぁ、練習の続き・・・!」
アレッシア:(N)「私は、半ば強引に会話を終わらすと・・・、地下の練習場に向かった・・・。
・・・練習をしてる間も・・・、さっきの彼の言葉が頭から離れない・・・。
・・・暫くすると、彼が下りてきて、帰るように言われた・・・。
家に帰った後も・・・、明日の事で・・・、頭が一杯になっていた・・・」
アレッシア:「もう・・・、何を着ていけば良いか・・・、分からないわよ・・・!!」
アレッシア:(N)「私は、私自身から出た言葉に驚いた。
そっか・・・、これは、もう認めるしかないだろう・・・。
私は、彼の事が・・・、好きなのだと・・・。
・・・翌日、彼からの連絡が来て、
逸る気持ちを抑えながら、彼が指定した待ち合わせ場所に向かった・・・」
間
ディエゴ:「アレッシア・・・。・・・呼び出してすまない・・・」
アレッシア:「良いのよ・・・。・・・此処は・・・?」
ディエゴ:「・・・君に見せたかった場所だ」
アレッシア:「凄く綺麗・・・。綺麗なバルコニー・・・。・・・こんな場所、夢見てたのよ・・・」
ディエゴ:「気に入って貰えて良かった・・・。・・・それで、その・・・、その恰好はどうした・・・?」
アレッシア:「え? ・・・だって、今日は・・・、約束の日じゃない・・・。
流石に、普段の恰好では、来れるわけ無いでしょう・・・」
ディエゴ:「だからと言っても・・・、その・・・、なんだ・・・」
アレッシア:「うふふ・・・。何、その表情・・・。・・・もしかして、見惚れちゃった?」
ディエゴ:「え、あ、いや・・・。・・・綺麗だよ・・・」
アレッシア:「何だか、今日は、いつもと違うじゃない? ねぇ~、私に銃の指導をしてる時の、威勢はどうしたのよ?」
ディエゴ:「・・・顔が近い・・・」
アレッシア:「もしかして嫌? 嫌なら、離れるけど・・・」
ディエゴ:「・・・嫌じゃない。・・・そのままで良い・・・」
アレッシア:「顔まで真っ赤にして・・・。・・・天然たらしが、台無しじゃ・・・」
ディエゴ:「仕方ないだろう!!! 好きになった女性が、こんなに近付いたら、顔も赤くなって当然だ・・・!!!」
アレッシア:「あら、意外と奥手なのね・・・」
ディエゴ:「俺は、こう見えて、一途なんだ・・・」
アレッシア:「天然たらしと言われるくせに・・・?」
ディエゴ:「それは、周りが言ってるだけに過ぎない・・・」
アレッシア:「あらそう・・・。・・・でも、一途なんだ・・・。じゃあ、これも受け取ってもらえるかしら?」
ディエゴ:「ミモザの花・・・?」
アレッシア:「ええ、そうよ」
ディエゴ:「・・・」
アレッシア:「あら? こう思ってる・・・? 渡すのは、男の方じゃないかって?」
ディエゴ:「ああ、そうだ」
アレッシア:「良いじゃない。・・・日頃の感謝を込めて、送りたかったのよ・・・。
でも、そう思うなら・・・、じゃあ、ディエゴからも、期待しようかしら・・・?」
ディエゴ:「・・・任せてくれ」
アレッシア:「うん」
ディエゴ:「それで、勝負の結果は・・・?」
アレッシア:「・・・知りたい?」
ディエゴ:「知りたいに決まってるだろう」
アレッシア:「鈍感なのね・・・。・・・此処まで、私が勇気を出してるのに、気付きなさいよ・・・」
ディエゴ:「すまない・・・。・・・だったら、勝敗は・・・」
アレッシア:「そんなの、もう、どうでも良いじゃない・・・」 (ディエゴにキスする)
ディエゴ:「あ・・・、ん・・・」
アレッシア:「・・・。・・・貴方に出会えて、良かった・・・」
ディエゴ:「・・・正直に言うと・・・、お前と出会ったのは、あの日が初めてじゃないんだ・・・」
アレッシア:「え・・・?」
ディエゴ:「任務中、何度も、お前を見ていた・・・。最初は・・・、足を引きずる奇妙な女だなと、気の毒に思っていた・・・」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「何度も見かけて、お前の色んな表情を見てる内に、頭の中は、お前で一杯になった・・・。
そこからは、声をかけようか、迷ったりもしたよ・・・」
アレッシア:「なんだ・・・。私達、同じだったんだ・・・」
ディエゴ:「え・・・、同じ・・・?」
アレッシア:「私も、白状すると・・・、そんな貴方に気付いていたの・・・。
何度も見かける内に・・・、私も気になりだして・・・」
ディエゴ:「そうなのか・・・? でも、初めて会った時の反応は、冷たかったじゃないか・・・」
アレッシア:「あれは、その・・・、声かけてくれたから、嬉しかったのよ・・・!」
ディエゴ:「それにしても、もっと喜び方が、あるだろう・・・!」
アレッシア:「悪かったわよ・・・。・・・好みの男性に、声かけられたら、緊張しちゃうじゃない・・・」
ディエゴ:「それは・・・、その、なんだ・・・、嬉しいよ・・・」
アレッシア:「・・・天然たらしも、卒業してくれなきゃ、嫌なんだから・・・」
ディエゴ:「言ったろう? 愛した人には一途なんだ・・・。ちゃんと卒業する・・・」
アレッシア:「約束だからね・・・。
ねぇ、知ってる・・・? ミモザの花言葉・・・?」
ディエゴ:「どんな意味があるんだ・・・?」
アレッシア:「ミモザの花言葉は・・・、沢山あるけど・・・、私達にピッタリな意味は、これかしら・・・。
・・・密かな愛・・・」
ディエゴ:「密かな愛・・・。ピッタリじゃないか・・・。
じゃあ、この場所を、俺達の・・・、約束の場所にしないか・・・?」
アレッシア:「約束の場所・・・?」
ディエゴ:「此処でなら・・・、誰にも邪魔されずに、二人っきりで会える・・・」
アレッシア:「嬉しい・・・。此処で、貴方と愛をいっぱい確かめ合いたい・・・」
ディエゴ:「俺もだ・・・」
アレッシア:「ねぇ、もっと強く抱きしめて頂戴・・・」
ディエゴ:「こうすれば良いか・・・?」
アレッシア:「貴方の香り、私・・・、好きよ・・・。タバコと硝煙が入り混じった大人の・・・」
ディエゴ:「そんなに嗅がないでくれないか・・・。照れるだろう・・・」
アレッシア:「駄目よ、私だけの特権なんだから・・・。
貴方の笑った顔も・・・、仕事で、きりっとした顔も・・・、私に、ふいに見せる安心しきった顔も・・・。
全部・・・、全部・・・。独り占めしたいの・・・」
ディエゴ:「・・・そんなに俺を独り占めしたいのか?」
アレッシア:「ええ、そうよ。・・・駄目かしら・・・?」
ディエゴ:「駄目なわけ無いだろう。・・・良いか? 此処まで、俺を本気にさせたんだ。
責任は取って貰うからな」
アレッシア:「勿論よ。・・・ふふっ・・・」
間
アレッシア:(N)「・・・夢のようなひと時は、それからも暫く続いた・・・。
二人の約束の場所で・・・、私が先に待っていて・・・、
彼が、バルコニーの下から、私に声をかける・・・。
殺し屋と一般人・・・。
・・・まるで・・・、許されない禁断の恋のようだった・・・。
そんな二人の幸せも・・・、終わりを告げる鐘が近付いていた・・・。
忘れもしない、あの日が来たのだ・・・」
ディエゴ:「・・・今日は、いつもより早いな」
アレッシア:「そうかしら?」
ディエゴ:「俺の気のせいか・・・。・・・ん? 電話・・・?」
アレッシア:「ねぇ、ディエゴ・・・。・・・明日だけど・・・」
ディエゴ:「・・・もしもし・・・。あぁ、仕事の依頼か・・・。
今度の依頼は、どんな・・・? ・・・なんだと!? ・・・分かった・・・!!
早めに、対処する・・・」
アレッシア:「どうしたの? 仕事・・・」
ディエゴ:「不味い事になった・・・」
アレッシア:「何?」
ディエゴ:「・・・すまない、心配させて・・・。
だが大丈夫だ・・・。いつも通り、完璧に始末してくる」
アレッシア:「大丈夫よね?」
ディエゴ:「俺を信じてくれ」
アレッシア:「分かった・・・」
間
アレッシア:(N)「私は信じて、彼を待った・・・。でも、彼は、その日・・・、私の元に帰って来なかった。
翌日、彼のお店に行っても・・・、店は閉まったままで、
私は、ローマの街中を、ひたすら探し歩いた・・・。
探し歩き疲れた頃・・・、日は沈み始め・・・、
気付くと、ディエゴと一緒に来た、サンタ・マリア・イン・コスメディン教会の前に辿り着いた。
ふと足元を見ると・・・、そこには・・・」
アレッシア:「え? ・・・これは、人の血・・・? どうして、こんな所に・・・? ・・・まさか!?」
アレッシア:(N)「私は、嫌な予感がして、教会の中に入り、あの場所に向かった・・・。
心では、そうであって欲しくないと・・・、強く願いながら・・・。
・・・しかし、そこには・・・、真実の口の前で、血を流しながら、倒れている彼が居た・・・」
アレッシア:「ディエゴ!!! どうして、こんな事に・・・!!? ねぇ、お願いよ・・・、目を開けて!!!」
ディエゴ:「ん・・・。・・・アレッシア・・・。・・・よく此処が分かったな・・・。
すまない・・・。俺とした事が・・・、ヘマをした・・・」
アレッシア:「やはり、あの時・・・、貴方を、何が何でも、止めておけば良かった・・・」
ディエゴ:「そんな事されたら・・・、お前が・・・、危険な目に遭っていた・・・!!」
アレッシア:「そんな・・・! じゃあ・・・、私を守る為に・・・」
ディエゴ:「俺を消そうとした別の組織が・・・、俺とお前の関係を気付いたんだ・・・。
そして、お前を捕らえて、人質にしようとした・・・。
・・・だから、自分の不始末は、自分でと・・・、思ったんだが・・・、相手を舐めていた・・・。
一人・・・、取り逃した・・・。
すまない・・・。こんな情けない姿・・・、見せて・・・」
アレッシア:「全然情けなくない! 私の為に、こんなに傷付いて・・・!! ・・・お願いよ、死なないで・・・」
ディエゴ:「・・・大丈夫だ・・・。・・・ほらっ、見ていろ・・・」
アレッシア:「駄目よ・・・、そんな体で動いたら・・・!!!」
ディエゴ:「平気だ・・・!! 黙って見ていてくれ・・・!」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「俺は・・・、アレッシア・ロッシに・・・、もう何も、隠してる事はない・・・。
ずっと・・・、お前を愛し続ける・・・」
アレッシア:「馬鹿・・・。・・・私も、ずっとこれからも・・・」
ディエゴ:「ん? 照準・・・!? ・・・アレッシア・・・!!」
アレッシア:「え?」
(スナイパーライフルの銃声)
ディエゴ:「・・・うっ・・・!!」
アレッシア:「きゃああああああああああ!!!! ディエゴ・・・!!! 嫌・・・、嫌よーーーーーーーーーー!!!」
ディエゴ:「早く・・・、逃げるんだ・・・」
アレッシア:「絶対に嫌よ・・・! 貴方を一人にしない・・・。
・・・一体、何処から、狙撃して来たの・・・?
お願い・・・。・・・ディエゴ・・・。・・・死なないで・・・!!
・・・教えて貰った事を・・・、冷静に思い出すの・・・。
ん? ・・・あそこからね・・・。・・・思ったより、近い・・・。
これなら私の・・・、この銃でも・・・届く・・・。
・・・ディエゴを狙うなんて、絶対に許さない・・・。
・・・よし、捉えた・・・。・・・これで終わりよ・・・!!!」
(銃声)
アレッシア:「敵の沈黙を確認・・・。
・・・仇(かたき)は討ったわよ・・・、ディエゴ・・・」
間
アレッシア:(N)「彼が私を庇い撃たれてから、一年が経過した・・・。
あの後・・・、彼と私を狙っていた組織は・・・、ディエゴの所属する組織に壊滅させられた・・・。
私は、組織に匿われ・・・、彼は奇跡的に、命を取り留めたが・・・、
・・・代償は大きかった・・・」
ディエゴ:「あ・・・、こんな所に居たんですね」
アレッシア:「ディエ・・・。・・・ええ、そうよ・・・」
ディエゴ:「・・・すみません」
アレッシア:「謝らなくて良いのよ。・・・貴方は何も悪くない・・・」
ディエゴ:「でも、俺を見る度に、貴女は悲しそうな顔をする・・・」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「・・・此処は、彼との思い出の場所なんですね」
アレッシア:「彼が、私に教えてくれたバルコニーよ・・・。そして、二人の約束の場所・・・。
ねぇ、やはり・・・」
ディエゴ:「すみません・・・。何も、思い出せないです・・・」
アレッシア:「そう・・・。
・・・所で、私に何か用かしら・・・?」
ディエゴ:「あぁ、そうでした。・・・店の整理をしていたら、奥の棚から、こんな手紙が見つかりました」
アレッシア:「これは・・・、私宛・・・?」
ディエゴ:「ええ、そうです。・・・恐らく、何かあった時用に、残した物かと。
・・・じゃあ、店に戻ります・・・」
アレッシア:「ねぇ・・・、やっぱり、店は閉めちゃうの?」
ディエゴ:「まだ買い手は見つかってませんが、
パスティッチェーレとしての記憶も無くなった自分が、いつまでも所有していても意味が無いので・・・」
アレッシア:「そうよね・・・。忙しいのに、引き留めて、ごめんなさい・・・」
ディエゴ:「良いんです。・・・では・・・」
間
アレッシア:「はぁ・・・。手紙、どんな内容なのかしら・・・。
・・・愛しいアレッシア・ロッシへ・・・。
二人の約束の場所で、君を待つ・・・。心から愛を込めて・・・。ディエゴ・ロマーノ」
アレッシア:「・・・今更、遅いのよ。・・・ん? ・・・これは・・・、ミモザの花のドライフラワー・・・?
・・・馬鹿ね・・・。あの時のミモザの花束・・・。大事にしてくれてたんだ・・・!
・・・もう一度・・・、貴方に会いたい・・・。・・・ディエゴ・・・」
ディエゴ:「・・・あのう・・・、泣いているんですか?」
アレッシア:「え? どうして、戻ってきたの・・・?」
ディエゴ:「何でだろう・・・。よく分からないです・・・。
でも、これだけは言えます。・・・貴女の悲しい表情を思い出すと、胸が締め付けられて苦しいんです・・・!」
アレッシア:「・・・」
ディエゴ:「そっちに、行っても良いですか?」
アレッシア:「別に良いけど・・・」
ディエゴ:「今、行きます・・・!」
アレッシア:「ちょっと何してるの!? 木に登らなくても、階段から・・・!」
ディエゴ:「いいえ! それじゃあ、貴女は・・・、何処かに消えてしまうかもしれない・・・!
もう、二度と・・・、貴女を手放したくない・・・! だから・・・!! あっ!!」
アレッシア:「きゃあああああ!!! ディエゴ!! ・・・落ちるなんて嘘でしょっ!!!
だから、危ないから、木に登らないように言ったのに・・・!!!
・・・どうしよう・・・、下に向かわないと・・・。
・・・ねぇ・・・、お願い・・・。目を覚まして・・・。
・・・こんな別れ、嫌よ・・・。
私も・・・、貴方を・・・、もう二度と・・・、失いたくない・・・」
ディエゴ:「う・・・う~ん・・・」
アレッシア:「はっ・・・、ディエゴ・・・! ・・・良かった・・・。
・・・もう二度と・・・、貴方が、目を覚まさないかと思って・・・、怖かったんだから・・・」
ディエゴ:「・・・すまなかった・・・。
・・・アレッシア・・・」
アレッシア:「え? 今、何て・・・?」
ディエゴ:「お願いだ・・・、アレッシア・・・、もう泣かないでくれ。
・・・俺の掛け替えのない人・・・」
アレッシア:「本当に・・・、貴方なの・・・?」
ディエゴ:「あぁ・・・」
アレッシア:「記憶が戻ったのね・・・。・・・良かった・・・。
・・・この一年間・・・、本当に・・・、辛かったんだから・・・」
ディエゴ:「すまない・・・。随分と待たせたみたいだな・・・。
ん・・・、それは・・・、あの時の・・・、ミモザの花束・・・。
そっか・・・、ちゃんと見つけてくれたんだな・・・。
・・・なぁ・・・、すっかり遅くなってしまったが・・・、
お前に、俺も、ミモザの花束・・・、送りたいんだ・・・。
あの後・・・、本当なら・・・、渡せるように、花屋にお願いしていたんだ・・・。
後で、受け取ってくれるか・・・?」
アレッシア:「・・・待たせすぎなのよ・・・。
私は・・・、ずっと、ずっと・・・、この時を待ってたんだから・・・。
勿論、喜んで、受け取るに決まってるじゃない・・・。
・・・例え、親に反対されたとしても、構わない。
貴方と一生、添い遂げる・・・。
熱い思いで愛してるわ・・・、ディエゴ」
ディエゴ:「あぁ、俺も、心から深く愛してる・・・、アレッシア・・・。
この先、何が起ころうとも、俺は、お前を必ず、守り通す・・・」
アレッシア:(N)「私達は・・・、どんな困難も二人で乗り越える・・・。
そう誓った瞬間・・・ミモザの花が風に吹かれて、揺れ動いた・・・。
まるで・・・、私達を祝福するかのように・・・」
終わり