top of page

extreme condition

 

【エクストリーム  コンディション】

 

 

作者:片摩 廣

 

 

登場人物

 

 

カミラ・マルティネス・・・若き頃は、名声を浴び続けた女優

             引退後は、人の寄り付かない屋敷で隠居生活を送っている

 

 

 

スカーレット・ロス・・・売れる事を夢見て、活動を続ける女優

            後一歩の所で、別の女優に名声を奪われ、低迷期が続いている

 

 

 

 

比率:【0:2】

 

 

上演時間:【60分】

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

CAST

 

カミラ・マルティネス:

 

スカーレット・ロス:

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

カミラ:「・・・おはよう、美しい小鳥さん達・・・。

     ねぇ、私の悩みを聴いて頂戴・・・。

     ・・・私の恋路を邪魔する村の若い娘達は・・・、どうすれば、消せるのかしら・・・?

     ・・・・・・まぁ、小鳥さん! そんな恐ろしい事・・・、私にはとても出来ないわ・・・。

     分かってる・・・。このままでは、一度の人生、台無しになるのよね・・・!

     ・・・ええ、その通り。

     そうよ! 私だけが、幸せになれないのは、間違ってる・・・!!!

     私が幸せになれないなら・・・、村の娘達も、全員、道連れよ~~~!!!

     幸せな人が憎い・・・。・・・憎い・・・、憎い・・・、憎い、憎い! 憎い!! 憎い~~~~っ!!!」

 

 

 

 

 

 

スカーレット:(N) 「幼い頃、家族に連れられて観に行ったカミラ・マルティネス主演の舞台は、

           想像絶する気迫の演技で、客席の御客を虜にしていた・・・。

           ・・・私も、その一人だ・・・。

           その夜から、私の人生は一変した・・・。

           それまで憧れていたパティシエの夢は・・・、女優になって活躍したいに変わったのだ。

           家族は、大人になれば、気が変わると、反対気味だったけど・・・、私の決意は、固かった・・・。

           ・・・あれから数十年が経過した・・・。

           私は憧れていた女優にはなれたのだが・・・、名女優と呼ばれるには、程遠い毎日を過ごしていた・・・。

           そんなある日・・・」

 

 

 

 

スカーレット:「・・・エージェントからの連絡は今日も無し・・・。先月の舞台は、私も活躍したはずなのに・・・。

        私には、何が足りないの・・・。誰か教えて頂戴・・・。

        ・・・独り言まで出るなんて・・・、考え続けても、マイナス思考しか浮かばないわよね・・・。

        ・・・そうよ、気分転換に遠くに行くべきよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

スカーレット:(N)「車に乗り込んだ後・・・、行き先も考えずに・・・、ただひたすら、運転し続けた・・・。

           とにかく、この街から出たい・・・。私の事を、誰も知らない所まで・・・。

           長い時間、車を運転し続けると、辺りは日も暮れ初めた・・・。

           ・・・疲労に襲われた私は、車を停めて、シートを少し倒し、窓も半分開けて、目を瞑る・・・。

           波の音が聞こえて来て・・・、私は思わず・・・、大きなため息を吐く・・・」

 

 

 

 

 

 

(車に近付き尋ねるカミラ)

 

 

 

カミラ:「ねぇ、そこの貴女、大丈夫!?」

 

 

 

スカーレット:「・・・ん、ん~・・・。・・・大丈夫です・・・」

 

 

 

カミラ:「そう、それなら良かった。でも、車内で寝てたら風邪引くわよ・・・。早く家に帰りなさい・・・。

     ここら辺は、夜になると、野犬も集まったり、危険なのよ・・・」

 

 

 

スカーレット:「・・・何処か泊まれるモーテルは、ありますか?」

 

 

 

カミラ:「残念ながら、ここら辺には無いわね。数キロ先に、ガスステーションとコンビニエンスストアなら、あるけど・・・」

 

 

 

スカーレット:「御親切にどうも・・・。もう少し先に行ってみます・・・。それじゃあ・・・」

 

 

 

カミラ:「ちょっと待って!」

 

 

 

スカーレット:「え?」

 

 

 

カミラ:「そんな疲れた状態で運転を続けたら、事故を起こしちゃうわよ・・・。

     良いわよ、私の家に来なさい」

 

 

 

スカーレット:「でも、御迷惑をかけるわけには・・・」

 

 

 

カミラ:「大丈夫よ、私以外、誰も住んでないから・・・、気を使う必要は無いのよ。

     丁度、話し相手が欲しかったんだけど・・・、駄目かしら・・・?」

 

 

 

スカーレット:「そこまで言ってくださるなら、一晩だけお世話になって良いですか・・・?」

 

 

 

カミラ:「勿論、大歓迎よ。・・・家は少し歩いた先よ。付いてきて」

 

 

 

 

スカーレット:(N)「この時の私は・・・、知るはずも無かった・・・。

           ・・・この選択が・・・、今後の人生を変えるターニングポイントになってる事に・・・」

 

 

 

 

 

 

カミラ:「さぁ、暖房も効いていて、温かいわよ。・・・家の中に入って」

 

 

 

スカーレット:「立派な・・・お屋敷ですね・・・」

 

 

 

カミラ:「そう? 私は、もっと広くても、良いくらいだったのよ。

     ・・・そこのソファーに掛けて頂戴。今、温かい飲み物を持ってくるわね」

 

 

 

スカーレット:「ありがとうございます・・・。

        ・・・良いな~。・・・私も女優として売れたら、こんな豪邸にも・・・」

 

 

 

カミラ:「待たせたわね、・・・はい、温かい飲み物よ」

 

 

 

スカーレット:「・・・美味しい・・・。これは、ホットワインですか?」

 

 

 

カミラ:「そうよ、・・・やはり、室内は温かいわね・・・」

 

 

 

スカーレット:(N)「そう一言、呟くと、彼女は顔を覆ってたベールとサングラスを外した・・・。

           ・・・そうして現れた彼女の顔を見て・・・、私は思わず息を飲んだ・・・」

 

 

 

 

スカーレット:「嘘・・・!? ・・・カミラ・マルティネス・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・あら・・・、世の中に、まだ私の事、覚えて下さってる人が、残っていたのね・・・。光栄だわ・・・」

 

 

 

スカーレット:「忘れる訳ないわ・・・。貴女の演技を見て、私の人生は変わったのだから・・・」

 

 

 

カミラ:「その言い方だと・・・、もしかして、貴女も・・・女優なの・・・?」(鋭い目つきで睨む)

 

 

 

スカーレット:「・・・!!」

 

 

 

カミラ:「・・・貴女、それでも女優なのかしら? 表情から、私にバレたと読み取れたわよ・・・」

 

 

 

スカーレット:「・・・そんなに睨まれたら、びびって当たり前じゃない・・・。

        貴女に睨まれた瞬間、心臓を鷲掴みにされる気分になった・・・」

 

 

 

カミラ:「あら、そう。・・・貴女の言う通り、心臓を鷲掴みにしようと思ってたのよ。

     ふふっ・・・、どうやら私の演技力も、まだ通じるようね・・・」

 

 

 

スカーレット:「・・・あんなに世の中から、名声を貰い続けたのに、どうして突然、引退宣言を・・・?」

 

 

 

カミラ:「そんなに、不思議な事?」

 

 

 

スカーレット:「疑問だらけだったわ・・・!! 

        ・・・誰もが欲しくて堪らない名声を、ある日、いとも簡単に捨てるなんて・・・!!

        ・・・私は、貴女に憧れて・・・、今まで努力して来たのに・・・」

 

 

 

カミラ:「私に憧れて? ・・・はぁ~・・・」(深い溜息)

 

 

 

スカーレット:「どうして、溜息なんか・・・? 私、何か気分を害する事でも・・・」

 

 

 

カミラ:「貴女に失望させられたのよ・・・。私に憧れて・・・? ふふっ、笑わせないで頂戴・・・!

     ・・・貴女にとって、女優とは、そんな小さな物でしか無いのね・・・」

 

 

 

スカーレット:「小さな物ですって!? その発言は、幾ら貴女でも許しておけないわ!!!

        私が、これまで・・・、どれだけ苦悩に満ちた人生だったか、理解出来る・・・!?」

 

 

 

カミラ:「理解出来る訳ないじゃない。貴女じゃないのだから・・・!」

 

 

 

スカーレット:「そうよね・・・、なら教えてあげる!

        私は・・・、これまで沢山、知人と友人を失ったわ・・・!

        ある知人は、良い加減、諦めろと、呆れながら言ってきた・・・。

        またある知人は、売れないなら、そこ迄だ。違う道を見つけろと諭してきた・・・!

        そして・・・!! 私の大事な友人は・・・、

        私の事が、もう理解出来ない。私達は、もう違う道を歩いてるから、貴女の夢を応援する余裕は無い!

        そう、言い残すと、私の元から去ったわ・・・」

 

 

 

カミラ:「まるで、地球で唯一の、悲劇のヒロインになったように、人生を語るのね・・・。

     退屈で、所々で、欠伸が出ちゃった・・・。

     悪いけど、私・・・、そんな三流の人生ドラマなんか、興味も沸かないわ~・・・」

 

 

 

 

スカーレット:「・・・!?」

 

 

 

カミラ:「あら~、表情には出ても、言葉は出て来ないくらい、衝撃的だった? 

     もしかしたら、同情してくれて・・・、

     少しは、私の人生、救われる~~~とか、心で思いながら、自分自身に酔っていたのかしら・・・?」

 

 

 

スカーレット:「・・・」

 

 

 

カミラ:「この三流女優!!! ・・・貴女、人生、舐めすぎなのよ!!!

     何が、知人と友人を沢山、無くしたよ!!

     B級映画でも・・・、そんな在り来たりで、臭い台詞は出て来ないんじゃないかしら~・・・!

     そうね~、貴女主演の映画を評価するなら、D級かしら・・・。

     それも、ただのDじゃ済まないわよ。・・・評価はDDD級よ!!!!」 (トリプルディー)

 

 

 

 

 

スカーレット:「この~~~!!! クソビッチ!!!

        あんたなんかに、そこまで罵りられる筋合いは無いわよ!!! ねぇ、どうしてよ!!!

        何で、憧れてたあんたに、此処まで酷い事を言われなきゃ、ならないのよ!!!

        あの時・・・、あんたなんて、憧れるんじゃなかった・・・!!! 

        私の人生、返してよ・・・! 

        嫌い・・・、嫌い! 嫌い!! 大っ嫌いよ~~~!!!!!」 (カミラの髪を引っ張ったり、揺さぶりながら)

 

 

 

カミラ:「・・・私の目は、間違ってなかったわ・・・」

 

 

 

スカーレット:「はぁ・・・! はぁ・・・! はぁ・・・! ・・・何を言ってるのよ・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・感謝しなさい。・・・貴女に足りない欠片・・・、与えたのよ・・・。

     ・・・今、どんな気分かしら?」

 

 

 

スカーレット:「・・・凄く体全体が熱くて・・・、痺れてる・・・。何なの・・・? こんな感覚、初めて・・・。

        私が、私では、無くなっていくみたいで、怖い・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・誰かを演じる為には、普段の自分では無くて・・・、

     その役の感情・・・気持ちが大事なのは、理解してるわよね・・・?

     さっきの貴女は・・・、貴女ではなくて・・・、怒りの感情に支配された別の何かだった!!!

     あのまま私が声をかけなければ・・・、恐らく私は・・・、貴方に殺されていたわね・・・」

 

 

 

スカーレット:「そんな・・・、私が人を殺すなんて・・・」

 

 

 

カミラ:「あら? そんなに怖がる事?

     ふふふふ・・・。・・・私ね、あのまま貴女に殺されても、良かったと思ったの!

     ・・・だから、最後まで声を掛けるか、迷いに迷ったわ~・・・!!

     声を掛けなければ、私は死ぬけど・・・、

     貴女は、本当の女優に産まれ変わっていたのかもと考えたら・・・。

     ふふふふ・・・! 今でも、好奇心で可笑しくなりそうなくらいよ~っ・・・!!! あっはははははははは!!!」

 

 

 

 

スカーレット:「・・・やはり貴女は、そこら辺の女優と違う・・・。

        その気迫・・・、考え・・・。・・・とても、今の私なんて、敵わない・・・」

 

 

 

カミラ:「ふ~ん・・・、どうやら貴女の中に眠っている獣を呼び覚ますには、まだ時間が必要なようね・・・」

 

 

 

スカーレット:「私の中の獣・・・?」

 

 

 

カミラ:「ええ、そうよ~!!! 貴女の中で、目覚めるのを今か、今かと待っているわ・・・」

 

 

 

スカーレット:「その獣が、完全に目覚めた時・・・、私は、一体・・・」

 

 

 

カミラ:「それは目覚めて見なければ分からないわよ・・・。

     ただ・・・、貴女も、それを無意識の内に待ち望んでるのは、さっき伝わった・・・」

 

 

 

スカーレット:「どういう事?」

 

 

 

カミラ:「さっき貴女、とても、今の私なんて、敵わないと発言したわ~・・・」

 

 

 

スカーレット:「・・・あっ・・・!?」

 

 

 

カミラ:「ふふっ・・・。

     そうよ・・・、理解が出来たようね。今のと無意識に、言ってたからよ。

     貴女は・・・、変わりたいと願ってる・・・。

     だから・・・、私が、その渇望・・・、たっぷり~、満たしてあげる・・・!!」

 

 

 

スカーレット:「どうやってよ・・・?」

 

 

 

カミラ:「そうね~、このまま戻っても、貴女は売れない女優に逆戻り。

     ・・・ふふふ、こんな提案は、いかが~?

     これから、3日間、私が貴女に、私の持ってる演技、全て教え込むわ。・・・どうかしら?」

 

 

 

 

スカーレット:「悪くない提案ね・・・。それで良いわよ・・・」

 

 

 

カミラ:「良かった、契約、成立ね。・・・それなら、明日からの為に、少しでも長く眠っておきなさい。

     部屋は、2階の部屋なら、何処でも好きに使って頂戴・・・。それじゃあ、また明日ね・・・。

     あっ、忘れる所だった・・・。貴女、名前は・・・?」

 

 

 

スカーレット:「スカーレット・ロスよ・・・」

 

 

 

カミラ:「明日から、宜しくね~・・・。スカーレット・・・」

 

 

 

 

 

 

 

スカーレット:(N)「カミラのレッスンは・・・、想像を絶する厳しさだった・・・。

           ・・・ウォーミングアップの段階から・・・、彼女と私の・・・、体力の違いを思い知らされた・・・」

 

 

 

カミラ:「ほらっ、早く立ち上がりなさい!! 今まで、どんなウォーミングアップをやっていたのかしら!?」

 

 

 

スカーレット:「・・・お願い、水を頂戴・・・。喉が渇きすぎて・・・焼けそう・・・」

 

 

 

カミラ:「丁度良いわ~。・・・貴女は、共演の女優から嫉妬されて、知らない内に、毒を飲まされてしまった・・・。

     喉が焼ける余りの痛みに、床を転がりまくる・・・。

     はい! 演技、始め!!!」

 

 

 

スカーレット:「う・・・うううう~・・・。・・・苦しい・・・。誰か、助けて・・・」

 

 

 

カミラ:「全然、駄目。・・・はい! テイク2、始め!!!」

 

 

 

スカーレット:「はぁ、はぁ、はぁ~・・・。ねぇ・・・、何処が駄目か・・・、教えて頂戴・・・」

 

 

 

カミラ:「役に、成り切りなさい。・・・今の気持ちを感じ取りなさい!! 今、貴女は、どうしたいの・・・!?」

 

 

 

スカーレット:「私は・・・、死にたくない・・・。生きたい・・・!!」

 

 

 

カミラ:「そう、それなら、貴女は、今、どうするべき!?」

 

 

 

スカーレット:「うっ!? 喉が痛い・・・。それと、息苦しい・・・。

        はぁ、はぁ・・・、どうして、私、変な物、飲んでない・・・。

        まさか!? あの女優が、私の飲み物に・・・、毒を・・・!?

        嫌・・・、嫌よ~!!!

                               ・・・死ぬなんて絶対に嫌ああああ・・・!!! ねぇ、誰かああああ!!!! 居ないの!!!? 

        お願いよおおおおお!!!! 誰か来てえええええええ・・・!!!!

        げほっげほっ・・・!!!

        ・・・喉が熱いいいいいいいいいいい!!!! 息が・・・出来ない・・・!!!

        ・・・嫌・・・、誰か・・・、助けてえええええええ・・・・!!!

        ・・・死ぬのは・・・嫌よおおおおおおお・・・!!! 誰かあああああああ!!!!」

 

 

カミラ:「・・・」

 

 

スカーレット:「・・・・・・」

 

 

カミラ:「ふふふふ・・・、上出来きじゃない・・・!! どう? 今の気分は・・・?」

 

 

 

スカーレット:「・・・水・・・、・・・水・・・を・・お願い・・・」

 

 

 

カミラ:「ほらっ・・・、水よ。・・・良い、ゆっくり飲みなさい」

 

 

 

スカーレット:「(勢いよく飲み干す)・・・はぁ~・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・生き返ったのなら、次の特訓を始めるわよ。・・・さぁ、こっちの部屋に入って」

 

 

 

スカーレット:「何? この暗い部屋は・・・。・・・痛っ。・・・いきなり押さないでよ・・・」

 

 

 

カミラ:「ふふ・・・、次は、どれだけ耐えられるかしら? ・・・お願いだから、失望させないでね・・・」

 

 

 

スカーレット:「え? どういう意味? ちょっと・・・!!! ・・・お願い、扉を開けて・・・!!!」

 

 

 

カミラ:「・・・まだ特訓は、始まってないわよ・・・。さぁ、極限を、その身で感じ取りなさい!!!」

 

 

 

スカーレット:「・・・はぁ、はぁ・・・、何よ、これ? ・・・何か息苦しい・・・。・・・それに熱くて汗が・・・」

 

 

 

カミラ:「特別に造って貰った防音サウナよ」

 

 

 

スカーレット:「防音・・・?」

 

 

 

カミラ:「貴女は、探検家・・・。冒険の途中に入り込んだ迷宮で、罠にはまり、閉じ込められてしまった・・・。

     部屋の温度は・・・、次第に上昇していく・・・。はい! 演技、始め!!」

 

 

 

スカーレット:「ちょっと、冗談じゃないわよ・・・。こんな場所で、演技なんて出来る訳・・・」

 

 

 

カミラ:「だったら、そう思うまで、ずっと居ると良いわ・・・。・・・出来ないのなら、貴女は、そこまでの女優って事よ~!!」

 

 

 

スカーレット:「流石に、冗談よね・・・?」

 

 

 

カミラ:「あら、私は本気よ・・・。そうね~、先ずは1時間かしら~。・・・せいぜい頑張って頂戴~・・・!!」

 

 

 

スカーレット:「ちょっと待って!!! 冗談じゃないわよ!!! 

        出して!!! お願い!!!! このドアを開けてーーーーーーーーーーー!!! 

        開けなさあああああああああい!!!!」(何度もドアを叩きながら)

 

 

 

 

 

スカーレット:「ねぇ・・・!!! 本当は、そこに居るんでしょう? 何かの冗談のつもりよね・・・。

        わかった、もう、降参だから・・・。・・・はぁ、はぁ・・・、お願いよ・・・! 

        ねぇ、聴いているんでしょう!? お願いよ・・・、何でもするから・・・!」

 

 

 

スカーレット:「はぁ、はぁ、水・・・、水を頂戴・・・。

        はぁ、はぁ・・・。・・・頭がくらくらする・・・。

        もう限界・・・。お願・・い・・・よ・・・。

          ・・・此処から・・・、出・・し・・・て・・・」 (熱さで意識が朦朧になり倒れる)

 

 

 

 

 

 

カミラ:「いつまで、寝てるの!? ・・・早く、起きなさい!!!」(コップの水を勢いよくかける)

 

 

 

スカーレット:「ブファッっ・・・!!! ゴホッゴホッ・・・!! ・・・私・・・、意識が遠のいて・・・」

 

 

 

カミラ:「貴女が絶えられた時間だけど・・・、はぁ~、なんと嘆かわしいの~。・・・20分弱じゃない・・・。

     はぁ~・・・、駄目ね~。・・・今日は教える気は無くなったわ~・・・」

 

 

 

スカーレット:「ごめんなさい・・・。・・・次こそは・・・」

 

 

 

カミラ:「はぁ・・・。すぐに、次があると思わないで!!! オーディションは、一度切りの勝負なのよ!!!

     与えられた短い時間の中で、いかに自分の演技、魅力を、相手に伝えられるかが大事なの・・・!!

     それなのに、貴女と来たら・・・。

     はぁ~・・・。

     ・・・もう良いわ・・・。・・・今日はもう終わりよ・・・!!

     私は、少し出かけてくるわ・・・。

     夕食の時間まで、筋トレ、自主トレ、ちゃんとやって置く事・・・。良いわね?」

 

 

 

スカーレット:「ええ・・・、分かったわよ・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

スカーレット:(N)「私は悔しくて仕方なかった・・・。

           カミラの課題をクリア出来ない不甲斐なさに・・・・。

           私には、演技の才能は無いのかもしれない・・・。

           2階の部屋に戻ると、私はベッドに倒れ込んだ・・・」

 

 

 

スカーレット:(M)「死ぬ思い迄して、演技を向上する意味、あるの? 

           駄目・・・。何度考えても、分からない・・・。

           ・・・次は、どんなレッスンが待ってるのかと思うと、体が震え出す・・・。

           怖い・・・。怖くて堪らない・・・。・・・誰か助けて・・・・」

 

 

 

スカーレット:(N)「すっかり自信を無くしていると・・・、目線の先にある本棚に、目が行く・・・。

           カミラが集めた本だろうか・・・。沢山の専門書が並んでいた。

           でも、私が気になったのは、その中でも一際、目立つ金表紙の本だ・・・。

           私は、静かに起き上がり、その本を手に取った・・・」

 

 

 

スカーレット:(M)「・・・綺麗な表紙・・・。ん? ・・・これ、本じゃない・・・」

 

 

 

スカーレット:(N)「私は驚いた・・・。開いて見ると、中は、日記になっていたのだ・・・。

           ・・・私は、内容が気になったので、読み始める・・・」

 

 

 

スカーレット:(M)「✕月✕日・・・。・・・私は、何もかも失い、この屋敷に辿り着いた・・・。

           玄関のドアを3回叩くと・・・、中から、綺麗な女性が現れて、家に招き入れてくれた・・・。

           ・・・温かく出迎えてくれて・・・、私は救われた気持ちで一杯だ・・・」

 

 

 

スカーレット:(N)「読んでいくうちに、私は気付いた・・・。この日記は、カミラの日記だと・・・。

             私は、夢中になって、続きを読み始めた・・・」

 

 

 

 

 

カミラ:「✕月✕日・・・。・・・此処に来て、3日が経過した。

     優しく、出迎えてくれた綺麗な女性の正体に、私は驚く・・・。

     かつて、賞賛を浴び続けた大女優、ヘレン・ベイカーだったのだ・・・。

     ・・・何の因果だろう・・・。・・・売れなくて、女優を諦めかけていた私の目の前に、現れるなんて・・・。

     もしかしたら、これは、神様が与えて下さったチャンスなのかもしれない・・・」

 

 

 

スカーレット:(M)「え・・・? カミラも、売れない女優だったなんて・・・。信じられない・・・」

 

 

 

カミラ:「✕月✕✕日・・・。・・・私は、女優になる事を、諦めきれなかった・・・。

     ヘレンに演技を磨いて貰う為に、家事、炊事、何でも手伝い続けたけど、・・・彼女は首を横に振るばかり・・・。

     そんな退屈な日々が、暫く続いた・・・」

 

 

 

カミラ:「✕月✕日・・・。・・・退屈な日々が続き、イライラもピークに達していた・・・。

     いつものように家事、炊事をした後・・・、ベッドに倒れ込むと・・・、ふと、部屋の中にある本棚に気付く・・・。

     私は・・・、どうしようもなく気になりだして、その本棚に近付き、一際目立っていた本に手を伸ばした・・・」

 

 

 

 

 

スカーレット:(M)「え・・・? ・・・嘘よね・・・?」

 

 

 

カミラ:「・・・本を開くと、・・・中身は・・・、日記だったのだ・・・」

 

 

 

スカーレット:(M)「嫌あああああああああああああああああ・・・!!!! 何よ!!! これええええええええ・・・!!!!

           ・・・カミラも・・・、日記を見つけたの・・・? ・・・今の私と同じじゃない・・・!?」

 

 

 

カミラ:「✕月✕✕日・・・。・・・日記は、ヘレンの物だと分かった後から、状況は一変した・・・!

     ・・・あれだけ、首を横に振り続けたヘレンが・・・、何かを悟ったかのように・・・、

     初めて、首を縦に振って、承諾したのだ・・・。

     ・・・私は、嬉しさの余り、満面の笑みで、ヘレンに微笑んだ・・・。

     あぁ・・・、これで、私を見下した者達を、見返す事が出来る・・・!!

     私は、強く、そう思った・・・」

 

 

 

スカーレット:(M)「・・・カミラも、今の私と同じように、見返したかったのね・・・。私とカミラは似てる・・・」

 

 

 

 

スカーレット:(N)「カミラに対して、共感を抱きつつ、日記の続きを読もうとした・・・、その時だった・・・」

 

 

 

(部屋のドアをノックするカミラ)

 

 

 

カミラ:「・・・スカーレット、・・・夕食の準備が出来たわ。・・・準備が出来たら、降りてきなさい。良いわね?」

 

 

 

スカーレット:「分かった。・・・用意したら、行くわね」

 

 

 

スカーレット:(N)「続きも気になったが・・・、私は支度を済まして、ダイニングルームに向かった・・・」

 

 

 

 

 

カミラ:「ようやく、来たわね・・・。どう? 自主トレは進んだかしら・・・?」

 

 

スカーレット:「ええ・・・」

 

 

カミラ:「あら、そう。良かったわ~・・・」

 

 

スカーレット:「・・・」

 

 

カミラ:「・・・何? いつまでも突っ立てないで、早く座って頂戴。

     折角のディナーが、冷めちゃう・・・」

 

 

スカーレット:「・・・これ全部、カミラが・・・?」

 

 

 

カミラ:「ええ、そうよ。・・・人に振舞うのは久しぶりだったから、少し作り過ぎちゃったわね・・・」

 

 

 

スカーレット:「・・・ふふふ」

 

 

カミラ:「どうして、笑うの? もしかして、料理が下手とでも言いたいの・・・?」

 

 

スカーレット:「違うわ・・・。貴女も、人間なんだと、安心しただけよ」

 

 

カミラ:「・・・何よ? 私は人間の皮を被った悪魔とでも、思ってたのかしら?」

 

 

スカーレット:「実は、そう持ってた・・・。・・・さっきも、本気で殺されると思ったんだから・・・」

 

 

カミラ:「・・・あれくらいしないと、貴女の演技力は、引き出せないと思ったのよ・・・。

     殺す気は無かった・・・」

 

 

スカーレット:「ねぇ、教えて・・・。カミラにとって、演技は、どんな存在・・・?」

 

 

カミラ:「そうね・・・。生きがいかしら・・・。

     ・・・どんな人生も、体験する事が出来て、誰にでもなる事が出来る・・・。

     時に、苦悩したり・・・、悩んだりするけど・・・、気付くと、演技の事ばかり考えてるわ~」

 

 

 

スカーレット:「・・・羨ましい。・・・私は、演じれば演じる程、見えない無数の鎖に、体を拘束されるように感じていた・・・。

        足掻いても、足掻いても、鎖は解けなくて・・・。むしろ次々に数が増えて、身動きが取れなくなったわ・・・。

        それからは・・・、何もかも悪い事ばかり・・・。

        ・・・居ても立っても居られなくなって・・・、遠くに行く事にしたの・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・もしあの時、私が声を掛けてなかったら・・・、・・・死ぬつもりだったんでしょう?」

 

 

 

スカーレット:「さぁ、どうかしらね・・・。分からない・・・。

        でも・・・、誰も知らない所で・・・、静かに消え去りたい気持ちだったのは、確かよ・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・ねぇ、答えて。・・・世の中を・・・。貴女を見下した人達を・・・、見返したい?」

 

 

 

スカーレット:「・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・素直に、気持ちを教えて・・・」

 

 

 

スカーレット:「見返したい・・・。・・・あんな惨めな気持ちに戻りたくない・・・!

        ・・・有名になって・・・、賞賛を浴びたい・・・!!」

 

 

 

カミラ:「あら、そう・・・。・・・貴女の気持ちは、分かったわ・・・。

     ・・・。     

     ・・・やはり、貴女で間違いなかった・・・。やっと、見つけた・・・(小声)」

 

 

 

スカーレット:「え・・・? 何?」

 

 

 

カミラ:「ううん、何でも無いの。

     ・・・私も、覚悟が出来ただけよ・・・。貴女に、全て・・・、教え込む覚悟がね・・・」

 

 

 

スカーレット:(N)「そう、カミラは、震えながら、呟いた・・・。

           私は、少し疑問に思いながらも・・・、目の前に広がる御馳走を楽しむ事にした・・・」

 

 

 

スカーレット:「・・・美味しかった・・・」

 

 

 

カミラ:「口に合ったようで、良かったわ・・・。・・・これで、明日からの特訓も、大丈夫かしら」

 

 

 

スカーレット:「ええ・・・、明日も、頑張る・・・わ・・・」

 

 

 

カミラ:「そう~・・・、本当は、怖くて仕方がないのね・・・」

 

 

 

スカーレット:「え? ・・・何で・・・?」

 

 

 

カミラ:「貴女・・・私の問いの後・・・、体が委縮して、震えだしたからよ・・・。

     ま~、無理も無いわね~・・・。どうする・・・? 此処で諦めて、この屋敷から出てく・・・?」

 

 

 

スカーレット:「・・・」

 

 

 

カミラ:「沈黙のまま、何も答えないのなら、継続って事で良いのよね・・・?」

 

 

 

スカーレット:「・・・不安で怖くて仕方ないけど・・・、私は変わりたいの・・・。

        だからお願い・・・。残りの日数も・・・、全力で、私に演技を教えて・・・!!」

 

 

 

カミラ:「貴女次第では、死ぬかもしれないわよ? それでも良いの?」

 

 

 

スカーレット:「ええ、構わないわ・・・」(真っすぐカミラを見つめながら)

 

 

 

カミラ:「ふっ・・・ふふ・・・、貴女なら、必ず、そう答えると思ってたわ・・・。

     ・・・さぁ、話は此処までよ。早く部屋に戻って休みなさい。

     明日から・・・、私も、本腰を入れさせて貰うわ・・・」

 

 

 

 

 

スカーレット:(N)「彼女の言った通り、翌日から、カミラの演技指導は、激しさを増していった・・・」

 

 

 

カミラ:「今日のレッスンは、私も一緒に参加するわ。

     貴方は、一匹の獣! ・・・餌に、在りつけて無くて、何日も飢えに苦しんでいる・・・。

     そんな時、・・・目の前に餌を見つける。でも、その餌を狙っている獣が現れる・・・。・・・はい! 演技、始め!」

 

 

 

スカーレット:「・・・私は、一匹の獣で飢えに苦しんでる・・・。・・・そして、目の前に、餌と、狙ってる獣・・・。

        ・・・う~・・・!! う~・・・!!」(唸り声)

 

 

カミラ:「うううううう~・・・!!!!  ガウッ!!!」 (四つん這いになり片方の手を前足のように振りかざし威嚇する)

 

 

スカーレット:「うううううう~・・・」(カミラの気迫に圧倒される)

 

 

カミラ:「うううううううううううう~!!!! ガウッ!!! ガウッ!!!」(この餌は渡さないと警告する)

 

 

スカーレット:(M)「・・・凄い・・・。カミラの凄い気迫が伝わってくる・・・。どうしよう・・・。・・・怖い・・・。

           でも・・・、私は、飢えで苦しんでる獣よ・・・。・・・この餌を取られたら・・・、餓死してしまう・・・。

           負けられない・・・!!!」

 

 

カミラ:「ガウッ!!! ガウッ!!! ガウッ!!!!!」

 

 

スカーレット:「ううううう!!!! ガウッ・・・!!! ガウッ・・・!!! ガウッ!!!!」

 

 

カミラ:「ううううううううう~・・・!!!」(警戒しながら、近付く)

 

 

スカーレット:「ガウッ・・・。・・・ガウッ!!! ガウッ!!! ガウッ!!!!」(近付くなと警告する)

 

 

カミラ:「ううううううう!!!! うううううううう!!! ・・・ガウッ!!!」(スカーレットの腕に、振り下ろす手)

 

 

スカーレット:「ガウううううううう・・・!!」

 

 

スカーレット:(M)「痛い・・・!! ・・・まさか、本当に、引っ掻いてくるなんて・・・!!

           ・・・痛いけど・・・、これは生き残る為よ・・・。負けられないの!!!!」

 

 

スカーレット:「うううう~、ガウッッ!!!!」(カミラの腕に思いっきり、噛み付く)

 

 

カミラ:「ガウうううううううううう!!!! ううううううううううう~!!!!」(噛まれた痛みに唸る)

 

 

スカーレット:「ううううううううう・・・!!!(腕に噛み付き続ける)

        ・・・はっ・・・! 血がっ・・・! 私ったら・・・、ごめんなさいッ・・・!!!」

 

 

カミラ:「あっははははは!!! 良いわああああああああああ~!!!! 凄く良かったわああああああああああ~!!!

     ・・・そのまま次は喉元に喰らいついても、良かったくらいよおおおお~・・・!!」

 

 

スカーレット:「え!? そんな事したら、頸動脈が裂けて、血が止まらなくなるわ!!」

 

 

カミラ:「ええ、そうね~!!! 脳や顔に血液を送っている重要な血管ですもの~!!

     私の体から血が抜けて・・・、真っ青になりながら・・・、私は苦しみ・・・、息絶える~!!!

     でも・・・、獣ですもの!! ・・・勝負に負けたのなら、仕方が無い事よ~!!!」

 

 

スカーレット:「死んでしまうのよ・・・。・・・常軌を逸している・・・!!」

 

 

カミラ:「あら? ・・・演技の中で死ねるのなら、本望よ~。

     私・・・、普通に死ぬのなんて、耐えられな~い・・・!!

     あ~・・・、そうね~・・・、理想は~・・・、演技の最中・・・、

     その演技が最高潮の時に、・・・幸福、絶望を感じながら、最後を迎えたいわね~!!!」

 

 

 

スカーレット:「・・・」

 

 

カミラ:「はぁ・・・。そこで黙るのね・・・。

     貴女の本気は、その程度なら、今すぐ荷物を纏めて、此処から出てってくれないかしら?」

 

 

 

スカーレット:「少し時間を頂戴・・・」

 

 

 

カミラ:「・・・今夜中に決めて。良い、分かった?」

 

 

 

スカーレット:「分かったわよ・・・」

 

 

 

(部屋を出て行くスカーレット)

 

 

 

カミラ:「ふふふ・・・。あ~、もうすぐ成就するわ・・・。ヘレン・・・。貴女が正しかったと証明してあげる・・・」

 

 

 

 

 

 

スカーレット:「痛っ・・・。くっ、悔しい・・・!! 

        カミラみたいに、感情を開放して演技に入り込めない・・・!!

        ・・・どうしたら、カミラの域にまで、自分を高める事が出来るの・・・!?

        はっ! そうだ・・・、カミラの日記には、まだ続きがある・・・。

        でも、この先を読んだら・・・、もう後戻りは出来ない予感がする・・・。

        駄目よ・・・。読むのが怖い・・・。怖くて仕方がない・・・!

        ・・いいえ、違う・・・。

        本当に怖いのは、このまま何も変わらず、何も成しえないまま、女優生命が終わる事。

        誰にも、認められないまま、消えるのなんて嫌よ!!!」

 

 

 

 

カミラ:「✕月✕✕日・・・。・・・ヘレンの演技指導は常軌を逸していた。

     毎日、私は死と隣り合わせの状況の中・・・、演技を叩きこまれた・・・。

     ・・・弱い自分が、日に日に、消えていくのが分かる・・・。

     厳しい演技指導の果てに・・・、私は、ヘレンが望んでる事に、気付いてしまった・・・」

 

 

 

スカーレット:「え? 何に気付いたの・・・? 気になる・・・。次のページに進まないと・・・。

        え? ・・・次のページが破られていて無い・・・!!

        もしかして、カミラが破いたの・・・?

        ・・・何が書かれていたか気になるけど、先に進もう・・・」

 

 

 

 

カミラ:「✕月✕日・・・。・・・私の主演の初舞台は、大盛況。

     まるで、名女優、ヘレン・ベイカーの再来だと、沢山の称賛をいただいた。

     再来・・・。ふふふ・・・。そうじゃない私は・・・、彼女、そのものだ・・・!!」

 

 

 

 

スカーレット:「そのもの? どういう意味・・・? 次のページ・・・」

 

 

 

カミラ:「この日記を、今、同じように読み進めてるアナタも、その素質がある事に気付いているのでしょう?

     好い加減、素直になったら、どう・・・?」

 

 

 

スカーレット:「きゃあああああああああああああ・・・!!

        ・・・何なのよ・・・、この日記は・・・!!!

        素質・・・。どういう意味・・・!?

        駄目よ・・・、冷静にならなくちゃ・・・。

        一つ、分かったのは・・・、・・・カミラは、このページを書いていた頃には、

        元のカミラとは、別人になっていた・・・。

        じゃあ私の今の人格も・・・、このまま演技指導を受けたら、どうなってしまうの・・・。

        駄目だ・・・。・・・頭が痛い・・・」

 

 

 

 

 

 

カミラ:「・・・おはよう。・・・どう? 今度こそ、覚悟は出来たかしら?」

 

 

 

スカーレット:「・・・一つ、教えて。・・・この演技指導が終わったら、私は、貴女みたいに女優としてなれるのよね?」

 

 

 

カミラ:「ええ、その点は、保証するわ。但し、覚悟を決めたと言うのなら、私も一切、容赦しないわよ」

 

 

 

スカーレット:「・・・望むところよ・・・」

 

 

 

カミラ:「わかったわ。後を付いてきて・・・」

 

 

 

 

 

スカーレット:「此処は、プール・・・?」

 

 

 

カミラ:「ええ、そうよ。・・・演技指導用に、作った特注よ」

 

 

 

スカーレット:「・・・プールの中で、演技しろって言うの?」

 

 

 

カミラ:「そうね・・・。

     恐怖を演じたいなら本物を感じなさい。想像じゃ足りないの。魂が叫ばなきゃ、観客は心を動かされないわ」

 

 

 

スカーレット:「・・・え? カミラ・・・。 この水、氷みたいに冷たいけど・・・」

 

 

 

カミラ:「当然よ。・・・特注と言ったでしょ? 温度、設定は、こちらで変えられるわ」

 

 

 

スカーレット:「こんな中で、演技を続けたら、体温が低下して・・・」

 

 

 

カミラ:「その恐怖。今、貴女の目に浮かんでいるそれ・・・、最高よ・・・!!!

     ええ、そうね。・・・体温が低下して、死んでしまうわね・・・」

 

 

 

スカーレット:「それに・・・、私・・・」

 

 

 

カミラ:「何かしら?」

 

 

 

スカーレット:「私・・・、小さい頃・・・、溺れた事があるの・・・」

 

 

 

カミラ:「はっははは!! 良いわね~!!! 

     トラウマも使いなさい! それが貴女の武器・・・よ・・・!!!」 (スカーレットを、後ろから突き飛ばす)

 

 

 

スカーレット:「きゃっ!!! ・・・ンッ!! 

        ぷふぁッ・・・!! ・・・ッ!!!  お願い・・・!!! 溺れちゃう!!! 助けてッ!!!」 

 

 

 

カミラ:「演じるというのは、時に、自分を殺す事。ようこそ、本物の舞台へ!!」 (水面をじっと見下ろしながら)

 

 

 

スカーレット:「カッ・・・カミラッ!!! ぷふぁッ!!!! お願い、助けて・・・!!!! カミラッァ!!!!!」

 

 

 

カミラ:「その必死な表情~!!! 良いわ~!!! ゾクゾクしちゃう・・・!!! ふふふふふ!!」

 

 

 

スカーレット:「お願いよ・・・、息が苦しい!!! ・・・死んじゃう・・・!! 

        ・・・ぷふぁッ!!! こんなのは演技じゃない・・・!!」

 

 

 

カミラ:「やっと生(せい)が出てきたわね。・・・恐怖が嘘じゃなくなった・・・。そうよ、その調子よ・・・!!」

 

 

 

スカーレット:「これ・・・、演技なんかじゃ・・・ないッ!!!」

 

 

 

カミラ:「ええ・・・、だから美しいのよ・・・!!!」

 

 

 

スカーレット:(M)「・・・冷たい・・・。もう、動かない・・・。助けて・・・、カミラ・・・」

 

 

 

カミラ:「スカーレット・・・。貴女の限界の、その先を見せて頂戴・・・」

 

 

 

スカーレット:(M)「・・・嫌、・・・こんな死に方は・・・、嫌よ・・・。

           どうして、私が・・・、こんな目に・・・、遭わないといけないの・・・。

           ・・・。・・・そうよ・・・。・・・誰も、助けてはくれない・・・。

           ・・・私が、何とかしなくちゃ!!!」

 

 

カミラ:「空気が変わった・・・。そう・・・、気付いたのね・・・」

 

 

 

スカーレット:「ぷふぁ~ッ!!!

        はぁ~!! はぁ~!! はぁ~・・・!!! ・・・はぁ~・・・」  (必死に泳いでプールから上がる)

 

 

 

カミラ:「ふふふふ・・・、やれば出来るじゃない」

 

 

 

スカーレット:「はぁ、はぁ、はぁ・・・!!! ふざけないで・・・!!!」

 

 

 

カミラ:「ふざけてはいないわ~。全て、貴女の為よ」

 

 

 

スカーレット:「死ぬのが、私の為だと言うの?」

 

 

 

カミラ:「ええ、その通りよ~!!! ・・・さぁ、最後の演技指導よ!!

     貴女は、プールに来たら、そこで突如、中に居た殺人鬼に襲われた!!!

     その殺人鬼は、無差別に、周りに居る客を切りつけ、刺し殺していく!!! さぁ!! 演技、始め!!!」

 

 

 

スカーレット:(M)「・・・殺人鬼。・・・凄い、カミラから、とてつもない殺気を感じる・・・!!!

           これが、カミラの本気なの・・・!?」

 

 

 

カミラ:「ひゃっっはははははは!!!! いちゃついてるカップルやナンパ目的の能無し野郎は皆殺しだ~!!!

     さぁ! さぁ! 殺されたくないなら、早く逃げろ!!! ほらっ、何してる!?

     はっ!!! 鈍間ああああ!!! 逃げ遅れるなんて不運だな!!!

     とりあえず、死んどけってんだ!!! おらああああああっ!!!!  (心臓にナイフを突き刺す)

     ひゃっはははははは!!!! ドス黒い血が、吹き出しやがった!!!!

     先ずは一人目ええええええ!!!!! 

     あ~、このナイフ、切れ味、最高じゃないか!!!!

     おいっ!!! そこのお前!!! ・・・さっきから、何、ジロジロと見てやがる!!!!」

 

 

 

スカーレット:「好い加減にしなさい!!! そんな事しても、何も変わらないわよ!!」

 

 

 

カミラ:「あん? 余計なお世話だ!!!

     文句、言う元気があるなら、今すぐ、その元気も無くしてやるよおおおおおおおおお!!!」

 

 

 

スカーレット:「やれるものなら、やってみなさいよ!!! この異常者!!!」

 

 

カミラ:「ひゃっはははははは!!!!

     良い度胸だ!!! その言葉ああああ、あの世で、後悔でもしてろおおおおおおお!!!」 (ナイフを振りかざす)

 

 

 

スカーレット:「くっ!!!」  (振りかざされるナイフを止める)

 

 

 

カミラ:「止めただと!!!」

 

 

スカーレット:「それは、こっちの台詞よおおおおおお!!!

        ・・・あんたこそ、地獄にでも、堕ちてえええええ、後悔しろおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 

 

(気付くとスカーレットはカミラから奪ったナイフで刺していた)

 

 

 

カミラ:「ぐはっ!!!!  カハッ・・・。 (血を吐く)

     ・・・カットよ・・・」

 

 

スカーレット:「はぁ~!!! はぁ~!!! はぁ~!!! はぁ~・・・!!!」

 

 

 

カミラ:「あああああああああああ!!!!! ・・・ついに、此処まで到達したわね・・・!!!

     ごふっ・・・。(血を吐く)

     はぁ・・・、はぁ・・・、はぁ・・・、待ち望んでいたわ、この瞬間を・・・!!!!」

 

 

 

スカーレット:「待ち望んでいた・・・!?」

 

 

 

カミラ:「ふふふふ!!!! 貴女と出会ったのは、運命の導きだと私は確信したのよ・・・!!!

     あの時・・・、私が同じ選択を・・・、選んだように・・・!!!」

 

 

 

スカーレット:「待って!? ・・・もしかして、あの日記は・・・」

 

 

 

カミラ:「そう・・・。読んだのね・・・!!! 

     ・・・何から何まで、あの時の私と同じじゃない!!! ごふっ・・・!!」(血を吐く)

 

 

 

スカーレット:「・・・違う・・・。私は、貴女を刺す気は無かったの・・・!!!」

 

 

 

カミラ:「良いのよ・・・!!! ・・・私も、あの時・・・、あの人を刺す気は無かったの・・・。

     ・・・貴女の人生は・・・、今、この瞬間から・・・、新たに始まるの・・・」

 

 

 

スカーレット:「どう言う意味・・・?」

 

 

 

カミラ:「・・・貴女に、この日記を渡しておくわね・・・。

     ・・・さぁ・・・、女優として・・・、輝かしい未来が・・・待ってるわよ・・・!!!

     聴こえるでしょ・・・? あの大歓声が・・・!!!!」

 

 

 

スカーレット:「しっかりして・・・!!!」

 

 

 

カミラ:「・・・貴女は、・・・私を超えたのよ~・・・!!! 良い!? ・・・誇りを・・・持ちな・・・さい・・・!!」

 

 

 

スカーレット:「・・・待って!!! まだ話したいことが・・・!!!」

 

 

 

カミラ:「あははははは・・・!!! 

     そう・・・!! 今、理解出来たわ~・・・!!」(薄れゆく意識の中、天井を見つめながら)

 

 

 

スカーレット:「カミラ・・・!!!」

 

 

 

 

カミラ:「・・・ヘレン・・・。貴女が死ぬ間際に・・・、恍惚とした表情で・・・、息絶えていった時の感情が・・・!!!

     あ~・・・!!!! こんな感情を楽しみながら、死んでいったのね~・・・。

     ・・・スカーレット・・・、今から、貴女は・・・。運命の選択をするのよ・・・。

     自分を殺して、私になるのか・・・。それとも・・・、私のように・・・」 (微笑みながら息絶える)

 

 

 

 

スカーレット:「私のように・・・。何!? ねぇ、お願い、カミラ、目を開けて!!! 私は、どうすれば良いのよ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

スカーレット(N):「私は、カミラが息絶えた後、託された日記を読んだ・・・。

           そこには、彼女が、この屋敷の前の住人を殺した後の・・・、一部始終が書き記されていた・・・。

           ・・・そう・・・、カミラも、昔は私と同じ、売れない舞台女優だったのだ・・・。

           ・・・そして、この海辺の屋敷で・・・、引退した舞台女優と出会い・・・、

           厳しいレッスンを受けていた・・・。

           全てのレッスンが終わった時に・・・、その女優は、カミラに刺し殺されたのだ・・・。

           ・・・命耐える前に、女優はこう言い残した。

           ・・・お前は、今から人生の選択をして歩むのよと・・・。

           ・・・そう、彼女に呪いとも取れる言葉を残したのだ・・・。

           ・・・それから彼女は・・・、自分で運命を選んで名女優となった・・・。

           だが、肝心の方法は記されていなかった・・・。

           私にも・・・、悩み苦しみ・・・、自分自身で選べと言いたかったのだろう・・・。

           ・・・私は、カミラを密かに埋葬した後・・・、自分の運命を選択した・・・」

 

 

 

 

 

 

スカーレット:「・・・おはよう、美しい小鳥さん達・・・。

        ねぇ、私の悩みを聴いて頂戴・・・。

        ・・・私の恋路を邪魔する村の若い娘達は・・・、どうすれば、消せるのかしら・・・?

        ・・・・・・まぁ、小鳥さん! そんな恐ろしい事・・・、とても私には出来ないわ・・・。

        分かってる・・・。このままでは、一度の人生、台無しになるのよね・・・!

        ・・・ええ、その通り。

        そうよ! 私だけが、幸せになれないのは、間違ってる・・・!!!

        私が幸せになれないなら・・・、村の娘達も、全員、道連れよ~~~!!!

        幸せな人が憎い・・・。・・・憎い・・・、憎い・・・、憎い、憎い! 憎い!! 憎い~~~~っ!!!」

 

 

 

 

 

スカーレット:「沢山の拍手と花束、ありがとうございます・・・。

        私は、カミラ・マルティネス。

        そう・・・、私に演じれない役柄は、無いのです・・・。

        本日は、私の復帰公演にお越しいただきまして感謝致します。

        ・・・此処から、私の第二の伝説は、また始まります・・・!!!」

 

 

 

 

 

スカーレット(N):「そう、舞台後に記者に言い残すと、周りは、私への賞賛で溢れ返っていた・・・。

           整形をして、彼女の容姿を手に入れた今・・・。

           誰も、私が、あの売れなかった女優、スカーレット・ロスと気付く様子も無い・・・。

           それに私には、カミラに教えて貰った経験がある・・・。

           ・・・だから今の私に、演じれない役柄は、無い・・・。

           この先、暫くは、この賞賛も浴び続けれるだろう・・・。

           でも・・・、いずれ私も、カミラ・マルティネスのように、壁にぶつかり、

           自分の演技力に限界を感じる時も来るはずだ・・・。

           その時は・・・きっとこう思うだろう・・・」

 

 

 

 

カミラ:「あ~・・・、私の代わりを・・・、見つけ出さなければと・・・」

 

 

 

 

スカーレット(N):「彼女が今の私に、この日記を残したように・・・。

           私も、未来に出会うアナタの為に・・・、この日記の続きに、終わりのない呪いの言葉を綴ろう・・・。

           ✕月✕✕日、私は、女優として、再び賞賛を浴びた。

           私は、生まれ変わったのだ・・・。

           この日記を、今、読んでるアナタも・・・、そう・・・、素質がある事に、気付いているのでしょう?

           さぁ・・・、本当に変わりたいと望むのなら・・・、私を信じて、読み進めなさい・・・。

           ・・・カミラ・マルティネスより・・・。

 

 

 

 

 

 

 

終わり

bottom of page