
紅月に染まりし集真藍
【あかつきに、そまりし、あずさあい】
作者:片摩 廣
登場人物
天海 玲(あまがい れい)・・・和菓子屋、集真藍の店主
樋上 仁人(ひがみ よしと)・・・極道、鮮やかな世の中が、大嫌い
月見 弦矢(つきみ げんや)・・・神社の神主、天海 玲を覚醒させて、殺人鬼にさせたサイコパス
※真矢(まや)・・・ 月見 弦矢の姉、村橋 真矢
医師 大学病院に勤めていて、頭脳明晰
半月に照らされし桜の登場人物
今回は、名前のみ登場
比率:【2:1】
上演時間:【45分】
オンリーONEシナリオ2526
6月、夏越の祓(なごしのはらえ)、テーマにしたシナリオ
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CAST
天海 玲:
樋上 仁人:
月見 弦矢:
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樋上:「今日は、宜しく頼む・・・」
月見:「これは樋上様、お待ちしておりました。
私は、この神社の神主、月見 弦矢と申します・・・。
・・・それでは、こちらの人型に、名前と年齢をお書きください」
樋上:「名前だけじゃなくて、年齢もか・・・?」
月見:「はい、書いた後は、その人型の紙で御自身の体を撫でてください。
更に、人型に息を吹きかけることで、樋上様の罪や穢れを移すことが出来ます。
その後、その人型を、お焚き上げして、神事は完了致します」
樋上:「本当に、効果があるんだろうな?」
月見:「残り半年、無病息災で居られるようにと神様にお願いするのです。
・・・樋上様が、今後、心を入れ替えると約束されるのなら、きっと願いは神様に届くでしょう・・・」
樋上:「・・・・・・そうか」
月見:「心に迷いがありますね・・・」
樋上:「・・・」
月見:「顔色も良くありませんね・・・。・・・そうだ、樋上様、この神社から少し歩いた先に、
美味しい、水無月を売っている和菓子屋が御座います。
甘味は、精神的な疲れにも、効果が御座います」
樋上:「甘味か・・・。長らく食べてないな・・・」
月見:「それでしたら、是非とも、寄ってみてはいかがでしょうか?
きっと、樋上様も・・・、気に入っていただけると思います・・・」
樋上:「・・・分かった。寄ってみる」
月見:「そろそろ、書けましたか?」
樋上:「あぁ・・・、これで良いか?」
月見:「結構ですよ・・・。ほう・・・、見た目とは違い、随分と綺麗な字を、お書きになられるようで」
樋上:「・・・昔、親父に、礼技の一つだと、教え込まれただけだ・・・」
月見:「それはそれは・・・。・・・躾の厳しい、御父上だったのですね」
樋上:「まぁ、そんな所だ・・・」
月見:「私とした事が・・・、話が長くなりました・・・。
それでは、この人型を・・・、お焚き上げさせていただきます・・・」
(お焚き上げする為に用意されている焚火の中に、人型の紙が放り込まれる。
音を立てて燃えていく人型の紙)
間
樋上:「・・・綺麗なものだな・・・」
月見:「神様に送る為の、神聖なる炎です。・・・樋上様のように、仰る方も珍しくもありませんよ」
樋上:「そんなものなのか・・・」
月見:「・・・以上で、儀式は終了です。・・・気を付けて、お帰り下さい」
樋上:「世話になった・・・」
月見:「・・・あ、そうだ、樋上様!」
樋上:「何だ?」
月見:「どうか、これだけは、ゆめゆめお忘れなきよう。
・・・神様は、私達、人間の行動を・・・、常日頃、御覧になっている事を・・・」
樋上:「・・・忘れないでおく」
間
樋上:「此処が、あの神主が言ってた和菓子屋か・・・。・・・集真藍(あづさあい)・・・?」
天海:「・・・店名が、気になるようですね。集真藍は・・・、紫陽花の別名で御座います」
樋上:「紫陽花の・・・」
天海:「もしや、御客様は、紫陽花は、お嫌いでしたか?」
樋上:「いや、そんな事は・・・」
天海:「良かった・・・。実は私、紫陽花が大好きなんです。
知っていますか? 紫陽花には、別名が四種類もあるんですよ」
樋上:「・・・」
天海:「その中でも、特に気に入ってるのが、七変化・・・」
樋上:「・・・七変化?」
天海:「ええ、そうです。・・・様々な色合いに変化することから、付いたようです。
まるで・・・、女、そのものではありませんか・・・」
樋上:「っ!?」
天海:「ふふっ、どうかされました?」
樋上:「何でもない・・・」
樋上:(M)「今のは何だ!? ・・・一瞬、鮮やか紫陽花に囲まれ、怪しく微笑む女の姿が見えた気がした・・・」
天海:「ところで、御客様・・・、この時期にお越しになられたのでしたら、召し上がっていただきたい和菓子が御座います」
樋上:「水無月・・・」
天海:「既に御存じでしたか。・・・それでは、御用意して参りますね」
樋上:「頼む・・・」
間
天海:「お待たせ致しました。・・・水無月で御座います・・・」
樋上:「すまない・・・、・・・頂くとしよう」
天海:「どうぞ、お召し上がりください・・・。
所で、御客様・・・、此処の事は、誰かにお聞きになったのですか?」
樋上:「あぁ、そうだ・・・。このすぐ近くにある神社の神主が、此処の水無月を食べていけと言ってな・・・」
天海:「弦矢さんからの紹介でしたか。・・・ふふっ、後で御礼に参らなければ・・・」
樋上:「あの神主とは、長い付き合いなのか・・・?」
天海:「ええ・・・、そうですね。長い間・・・、弦矢さんには、お世話になっております」
樋上:「・・・そうか。・・・貴女の事を話す神主は、心なしか嬉しそうだった・・・」
天海:「貴女などと、他人行儀の呼び方しないでくださいませ。
・・・私の事は・・、玲(れい)と、お呼びください」
樋上:「玲・・・?」
天海:「はい、私は、天海 玲(あまがい れい)と申します。
・・・以後、この集真藍(あづさあい)を、御贔屓にしてくださいませ」
樋上:「・・・この和菓子も、上品な甘さが気に入った。
・・・また来るとしよう。じゃあな・・・」
天海:「お気をつけて。・・・またのお越しをお待ち申し上げております・・・」
間
天海:「・・・樋上 仁人(ひがみ よしと)様・・・」
月見:「どうやら、気に入ったみたいだね」
天海:「ええ・・・、そうね。ふふっ・・・彼、・・・貴方の事、話した途端、嫉妬しだした・・・」
月見:「おや、それは、夜道に気を付けないとね・・・」
天海:「今回は、彼で決まりで良いのね?」
月見:「あぁ・・・。ははっ・・・彼なら、さぞかし良い夜になりそうだよ・・・」
天海:「・・・一度、鏡を御覧なさい? ・・・まるで、鬼の・・・」
月見:「幾ら君でも、その先を言うのなら・・・、容赦はしないからね。
代々、続いてきた絆なんだから、こんな些細な事で、ぶち壊さないでくれないかい?」
天海:「・・・勿論よ。・・・それにしても、今の表情・・・、貴方の御姉様・・・、瓜二つだった・・・」
月見:「血のつながった姉弟(きょうだい)だからね・・・。時々、我が一族の血が恐ろしくなるよ・・・」
天海:「私にとっては、とても魅力的な血よ・・・。・・・だって、こんなに変われたのですもの・・・」
月見:「相変わらず・・・、凄い才能だね・・・。油断していたら、この俺でさえ、飲み込まれそうになるよ・・・」
天海:「あら、いつでも、飲み込まれても良いのよ。ふふっ・・・」
月見:「怖い女め・・・」
間
樋上:(N)「孤独だ・・・。・・・いや、蟲毒なのだろうか・・・。
この人生を選んだのは・・・、俺自身だ・・・。
・・・世間は、まるで鮮やかな蝶が舞っているように明るい・・・。俺には、眩しすぎる・・・。
だから・・・、一匹、残らず潰す・・・。・・・こんな世の中・・・、大嫌いだ・・・!!」
樋上:「逃げても無駄だ・・・。何をそんなに怯える・・・?
生きていたいのか? ・・・こんな世の中、生き続けて何になる?
税金は上がり続ける! 差別も無くならねえええ!
ずる賢い金の亡者が得する地獄のような世界なんだ・・・。
生き続けても、悩み! 苦しみは消えないんだよ!!
・・・あ? 未来を信じてる・・・?
そうか、てめぇもか・・・。・・・嫌いだ・・・。
俺は、そんな煌びやかな考えが、大っ嫌いなんだよ!!!
どいつも、こいつも、同じ事ばかり言いやがって・・・。
潰す・・・。
てめぇも、跡形も残らず潰してやる・・・! 世の中、暗いくらいがちょうど良いんだよ・・・!!」
樋上:「はぁ!! はぁ!! はぁ!! ・・・これで、世の中、少しは暗く・・・。
うっ・・・、くそっ、またか・・・!
止めろ!! 俺の腕を這うな・・・!!
ひっ!! ・・・腕の中に、潜り込むな!!
ひいいいいいいいいいい!! 止めろおおおおお・・・!!!!」 (虫が潜り込むのを防ごうと、腕を搔きむしる)
月見:(M)「・・・神様は、私達、人間の行動を・・・、常日頃、御覧になっている事を・・・」
樋上:「はっ!? ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・。・・・そんな事・・・、言われなくても分かってるんだ・・・。
・・・。・・・ふぅ・・・、・・・よし、・・・こんなもんだろう・・・。後は、電話して、あいつらに・・・」
樋上:「もしもし・・・、あぁ、俺だ・・・。終わった・・・。
いつも通り、後処理を頼む・・・。あぁ、そうだ・・・。じゃあ、任せた・・・。はぁ~・・・」
天海:「あら、奇遇ですね。・・・こんばんは」
樋上:「あんたは、確か・・・、集真藍の・・・?」
天海:「もしかして、名前を覚えてないのですね・・・」
樋上:「すまない・・・。
・・・そんな事より、こんな夜遅くに、こんな森の中で何をしている?」
天海:「それを言うなら、貴方こそ、何をされてたんですか?」
樋上:「質問に質問で返すな。・・・良いから早く答えろ」
天海:「まぁ怖い・・・。・・・そんなに怒らないでください。・・・眠れなかったから、散歩に来ただけなのに。
・・・さぁ、こちらは質問に答えました。貴方は此処で何を・・・?」
樋上:「貴方じゃない。・・・俺は、樋上 仁人だ」
天海:「樋上 仁人・・・。良い名前ですね」
樋上:「どこら辺がだ?」
天海:「そうですね・・・、何処か、人を寄せ付けない、その危険な雰囲気に似合ってます」
樋上:(M)「危険だと・・・。まさか、さっきの電話、聞かれてたのか・・・。不味いな・・・、どうする・・・」
間
天海:「あの・・・、私、何か気に障る事・・・、言いましたか?」
樋上:「すまない、考え事をしていた。
・・・人を寄せ付けない、危険な雰囲気は、よく言われるし気にしていない・・・」
天海:「良かったです。・・・あぁ、でも・・・」
樋上:「ん? なんだ? くっ・・・」 (天海に首元を噛まれる)
間
天海:「・・・ふふっ、痛かったですか?」
樋上:「何のつもりだ・・・!」 (噛まれた首を手で押さえながら)
天海:「・・・それは、私の名前を、ちゃんと覚えてくれなかった罰です。
ふふふっ・・・、首元に歯形・・・。よく似合っていますよ・・・」
樋上:「ふざけるな・・・!」
天海:「ふざけてなんか居ません。・・・樋上さんは、自分の魅力に、もう少し、自覚なさってくださいませ。
・・・それは・・・、貴方を狙う女豹から、守る為の・・・、言わば首輪です・・・」
樋上:「首輪・・・」
天海:「ええ・・・。だから・・・、その歯形が消えかけた頃に、また付けさせていただきますね。
ゆめゆめ、忘れないでください・・・。貴方は、もう・・・、私のモノなんだと・・・」
樋上:「・・・」
樋上:(N)「言葉が出なかった・・・。沢山の女に出会って来たが・・・、
目の前で怪しく微笑む女は、今までのどの女よりも、強欲で・・・、怪しくて・・・、魅力的だった・・・」
天海:「見てください。・・・今夜は月が綺麗ですね・・・」
樋上:(N)「紅く染まった月を見上げながら、微笑み・・・、俺にそう問いかける女は・・・、狂気すら感じた・・・」
天海:「あ、そうだ・・・。・・・今度、またお店に、来ていただけますか?
樋上さんに、お願いしたい事があるんです」
樋上:「何だ?」
天海:「焦らないでください。・・・樋上さんにとっても、良い日になりますから・・・。
だから、お楽しみは、後に取っておきましょう・・・」
樋上:「・・・話はそれだけか? ・・・他に用が無いなら、俺は帰る」
天海:「ええ、他は・・・、今のところ、ありません・・・。樋上さん、またお会いしましょう・・・。ふふっ」
間
樋上:(N)「翌日、俺は、あの神主の元に向かった」
月見:「あ・・・、そろそろ、来る頃だと思いました・・・」
樋上:「どういう意味だ?」
月見:「夏越の祓の効果に付いて、訊きたいのではありませんか?」
樋上:「あぁ、それもあるが・・・」
月見:「凄い汗じゃないですか・・・。先ずは、お茶でも一杯どうですか?」
樋上:「すまない、いただく・・・」
月見:「御用意、致しますね・・・」
間
樋上:「おい? あの輪は、何だ?」
月見:「あれですか、あれは、茅の輪(ちのわ)です。
あの輪をくぐることで、1年の前半の罪や穢れを祓い、残り半年の無病息災、厄除け、家内安全を祈願するのです。
折角、来られたのですから、祈願していったら、どうですか?」
樋上:「そうさせてもらう・・・。どうやれば良いんだ?」
月見:「説明の前に、先ずは、お茶を飲んでください・・・。冷たいお茶なので、汗も引きますよ」
樋上:「そうだった、すまない。・・・いただくとしよう・・・。ほう・・・、青いお茶とは珍しい・・・」
月見:「着色してるように見えますが、天然のお茶なのでご安心を。美味しいお茶ですよ」
樋上:「・・・うん、悪くない・・・」
月見:「気に入っていただけたようで。
それでは、祈願の方法ですが、あの輪を八の字を書くように3度続けてくぐり抜けてくださいませ」
樋上:「それだけか?」
月見:「・・・くぐり抜ける際に、唱え詞(となえことば)を心の中で念じてください」
樋上:「唱え詞だと?」
月見:「ええ、私の言ったとおりに、唱えてください。
祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ(はらえたまい きよめたまえ まもりたまい さきわえたまえ)」
樋上:「・・・祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ(はらえたまい きよめたまえ まもりたまい さきわえたまえ)」
月見:「ええ、そうです。・・・私は、もう一杯、お茶を用意して来ますので、どうぞ、祈願してきてください」
樋上:「分かった」
樋上:(M)「この輪をくくれば良いんだな・・・。八の字を書くように3度続けてくぐる抜ける。
よし・・・、祓へ給ひ 清め給へ 守り給ひ 幸へ給へ(はらえたまい きよめたまえ まもりたまい さきわえたまえ)
・・・。
これで良いのだろうか・・・」
間
月見:「祈願が終わったようですね。お待たせしました、おかわりのお茶です」
樋上:「あぁ、すまないな・・・。・・・くっ・・・」
月見:「どうかなさいましたか?」
樋上:「少し眩暈が・・・」
月見:「・・・無理もありませんね。・・・6月だと言うのに、30度も超える陽気ですから・・・。
なんなら、もう一杯・・・」
樋上:「いや、もうお茶は良い・・・。それよりも聞きたいことがある・・・」
月見:「夏越の祓の効果でしたら、無事に祈願出来たので御安心を」
樋上:「それも気になってたが、別の事だ」
月見:「何でしょうか?」
樋上:「あの和菓子屋の女は、何者だ?」
月見:「和菓子屋の女店主です」
樋上:「ふざけてるのか? 真面目に答えろ!!」
月見:「・・・その歯形・・・。・・・よくお似合いですね」
樋上:「てめぇ!!! ふざけるのも好い加減にしろ!!!!」
月見:「・・・その目です・・・」
樋上:「あ!?」
月見:「何処までも続いてる、深淵の闇のように、貴方の目には、光が無い・・・」
樋上:「くっ!! ・・・お前に俺の何が分かる!!!」
月見:「ええ、分からないです。・・・だから、気になるんですよ!
そんな目になる迄には、一体、どんな経験をされてきたのでしょうね・・・。
幾度の絶望! 喪失! 孤独! を、樋上様は、経験してきたのですか!!?」
樋上:「そんな眼差しで、俺を見るんじゃねぇえええ・・・!!」
月見:「はっはははは!!!
目を背けても無駄ですよ!! ・・・言ったでしょう?
・・・神様は、私達、人間の行動を・・・、常日頃、御覧になっていると・・・!!!」
樋上:「ひっ!! ひいいいいいいいいいい!!!!」 (慌てて逃げだす)
間
月見:「まだこれからが楽しみだと言うのに、走り逃げ去るとは情けない・・・。
・・・そろそろ頃合いでしょうかね・・・」
(電話をかける月見)
月見:「あ、・・・もしもし、久しぶり・・・。元気だった? ・・・真矢姉さん・・・。
・・・あぁ、姉さんも相変わらずだね・・・。
え? 流石に分かるよ。何か、ご機嫌になる事があったんだね?
・・・へぇ~、良かったね。・・・あっ、そうそう・・・、
姉さんが開発した薬、効果、抜群だったよ。
・・・うん、お茶にも、すぐに溶けるから、助かってるよ。
うん、・・・うん・・・、分かってる・・・。
世の中に蔓延る、どうしようもないクズは、綺麗さっぱり消さないとね・・・!
いつも通り、レポートはPCに送っておくから、後で確認してね。・・・じゃあね・・・。
・・・ははっ、真矢姉さんも、順調みたいだね。
さぁて、こちらも、そろそろ仕上げに入ろうか・・・」
間
樋上:「はぁ、はぁ、はぁ・・・!!」
樋上:(M)「何だ、これは・・・!? 此処は何処なんだ!!!?
目に映る物が、景色が・・・、紫陽花のように、色鮮やかに見える・・・!!!
駄目だ・・・。頭がくらくらする・・・」
天海:「随分と苦しそうですね・・・」
樋上:「てめぇは・・・!! おい!! 御前達は、一体、何者なんだ・・・!!?」
天海:「御前達・・・。ふふっ・・・。
クズでどうしようもない貴方でも、流石に、私達が仕組んだ事に気付いたようですね」
樋上:「一体、俺をどうするつもりだ・・・」
天海:「お楽しみは・・・、後に取っておきましょう・・・。樋上さん・・・」
樋上:「くそ野郎・・・。うっ・・・。・・・」 (気を失い倒れる)
間
天海:「・・・もしもし・・・。ええ、気を失った。・・・早く迎えに来て・・・。
分かった、待ってる・・・。
・・・ふふっ・・・、いよいよね・・・」
間
(重い鉄の扉が開くと、その場所には、お焚き上げの炎が、パチパチと音を出しながら用意されている。
気を失ったままの樋上を、磔台に固定する月見)
月見:「・・・よし・・・、磔台に固定、出来た・・・・」
天海:「・・・ふふふふふ・・・」
月見:「そんなに楽しみなのかい? 玲?」
天海:「ええ、待ち遠しかった・・・。彼の首筋に、嚙みついた時に思ったの・・・。
こいつは・・・、最上級の獲物だと・・・!
月見:「そいつは良かった。そろそろ彼も目覚める頃だ。
・・・さぁ、では、始めようじゃないか・・・」
樋上:「ん・・・、う・・・、頭が痛ぇええ・・・」
月見:「目覚めたようだね。樋上 仁人・・・」
樋上:「此処は、一体、何処なんだ・・・」
月見:「あ~、此処? 此処は・・・、・・・神聖なる場だよ・・・」
樋上:「何だと・・・」
月見:「そんな事より、あのお茶の効果は、凄いだろう?
どんなに屈強な男でも、あのお茶を飲めば、時期に眩暈がしだして、
周りが紫陽花のように、鮮やかに映り出して、終いには倒れる・・・。
流石、姉さんの開発した薬だよ・・・」
樋上:「薬だと・・・?」
月見:「そうだよ・・・。全ては、君を捕らえるためにね・・・」
樋上:「まさか・・・、お前・・・」
月見:「あぁ、考える通り・・・、最初から狙っていたよ・・・。
夏越の祓を予約した時から、素性に関しては、調べ始めた・・・」
樋上:「俺の素性を・・・。そんな馬鹿な・・・」
月見:「俺を侮らないで欲しいね。・・・紫龍会(しりゅうかい)幹部・・・、樋上 仁人さん!」
樋上:「くっ・・・!!」
月見:「まさか、気付かれないとでも思ったの?
30度も超える炎天下の中、きっちりとしたスーツを着て来て、しかも汗をかいていても、上着を脱ごうともしない!
ピンと来たよ・・・。あぁ、反社の者かと・・・。
だから、その道に優れた人に頼んで、身元の特定をしたのさ」
樋上:「こんな所に来るんじゃなかった・・・」
月見:「でも、あんたは、神社に来るしか方法が無かった・・・。
だって、神に縋りたい程に、限界・・・、だったんだろう!!!」(樋上のスーツの腕を捲る)
樋上:「くっ!!! よせ!!! 見るんじゃねぇ・・・!!!」
月見:「あぁ・・・、やっぱり予想した通りだ。・・・これは、蟻走感(ぎそうかん)の跡だね・・・!
・・・覚醒剤の影響で、皮膚の下を虫が這うような感覚を覚える・・・。
薬に浸食されてる体だから、姉さんの薬も、より早く効いたわけだ・・・。
これは、この後も、効果が楽しみだね・・・」
樋上:「何だと? ・・・一体、何をするつもりだ・・・! うっ・・・!!」 (腕に注射を打たれる)
月見:「上出来だよ、玲」
天海:「弦矢の言う通り、注射を打てたよ・・・。ねぇ、ちゃんと守れて、私、偉い?」
月見:「あぁ、偉いよ。今日は、特別な御褒美をあげるからね」
天海:「本当? じゃあ、もっと私、頑張る・・・!!」
月見:「良い子だ。・・・ほら、御褒美の薬だ。・・・口を開けて・・・」
天海:「あ~ん・・・」
月見:「さぁ、・・・飲み込むんだ・・・」
天海:「うん・・・」
樋上:「七色のカプセルだと・・・」
月見:「ははっ・・・。これも、姉さんの開発した薬だよ・・・。効果は、時期に分かる。
後、あんたに投薬した薬も、勿論、姉さんの特製だよ。
たっぷり楽しんでよ・・・」
樋上:「この、サイコパス野郎・・・!!」
月見:「反社のあんたに、サイコパス野郎呼ばわりされるなんて、幾らなんでも心外だな・・・!!
俺を、サイコパス呼ばわりした事、後悔させてあげる・・・!!」
天海:「うひっ!!! ひっひひひひひひひひ・・・・!!!!」
樋上:「何だ?」
月見:「あぁ~、どうやら、薬の効果が始まったようだね・・・。ふふっ、楽しい時間の始まりだ・・・」
天海:「ねぇ・・・、ねぇ、ねぇ、ねぇ!!! 弦矢あああああ~、私ね~・・・、とっても、良い気分なの~!!!」
月見:「それは良かった。ねぇ、玲・・・。もっと、気分が良くなる方法、教えてあげようか?」
天海:「うん!! 知りたい!! 教えて!!」
月見:「良いかい? 目の前に居る男を、好きな方法で、なぶり殺すんだ~。
ほ~ら、その為の、道具は此処に用意してあるからね~」
天海:「わ~、凶器が沢山ある~・・・。好きに使って良いの・・・?」
月見:「あぁ、良いよ。
・・・彼を、この薄汚れた世の中から、救ってあげるんだ。
これは、玲にしか出来ない事だからね。頼んだよ・・・」 (耳元で囁く)
天海:「わかった・・・。弦矢の為なら、私、頑張る・・・」
樋上:「よせ・・・、俺に近付くな・・・」
天海:「ねぇ、お兄さん~・・・、最初は何処が良い? ふふっ、特別に選ばせてあげる!」
樋上:「ふざけるな!! てめぇら、覚えておけ!!
俺に、こんな事したら、兄弟達が、黙っておかないからな!!」
天海:「だってさ~、弦矢~、どうする~?」
月見:「はぁ~、テンプレ通りの返答で、つまんないな~。
・・・報復が怖かったら、こんな糞手間がかかる事、するわけないじゃないですか?
少しは、頭を回転させて、言葉を仰ってくださいよ~。
・・・このドクズの最下層野郎が!!!!」
樋上:「・・・てめぇ!!! よくも言いやがったな!!! 御前の顔も、覚えたからな!!
待っていやがれ!!! てめぇの家族も、親類も、その周りも、全員、潰してやる!!!」
月見:「きゃんきゃん、いつまでも無駄吠えする駄犬には、躾が必要だな。・・・玲、やれ・・・!!」
天海:「はぁ~い、じゃあ、先ずはああああ・・・、このナイフで腕をおおおお!!!」
樋上:「よせ!! ぐわああああああああああああ!!!!!
・・・。・・・ん? ・・・何故だ・・・」
月見:「はははっ・・・」
天海:「ねぇ、弦矢~、見てみて~!! 上手く腕の皮を削ぐことが出来たよ~!!」
月見:「上手いじゃないか!! もっと練習を重ねたら・・・、和菓子屋以外に、ケバブ屋も開くことが出来るかもな~」
天海:「そうしたら、もっと、役に立てる?」
月見:「あぁ、役に立てるよ、玲」
天海:「やった!! 弦矢が名前を呼んでくれた!! 嬉しいいいいいい!!」
樋上:「てめぇら・・・、俺の体に、何をしやがった・・・。
・・・どうして、痛みを感じないんだ・・・!!!」
月見:「当然だよ。そうなるように開発して貰ったからね。
麻酔効果があるから、どれだけ、削がれても、何の苦にもならないよね~!!!
あ・・・、でも・・・、その光景は見えるわけだから、精神的には地獄そのものかもね~!」
樋上:「極道を舐めんなよ・・・! こんな拷問、屁でも無いんだよ・・・!!!」
月見:「いつまで、その威勢が続くか楽しみ」
天海:「ほ~ら、話してる間にも、こんなに綺麗に削げたよ~」
樋上:「くっ・・・。でも、お前の姉さんも、随分と甘ちゃんだな・・・。
痛みをそのままにしておいた方が、泣き叫んだり見れて、楽しいだろう・・・」
月見:「痛みはないって言ったろ? その方が、貴重なデーターが取れるんだよ。
脳は、体の損壊を理解する。視覚と聴覚は、鮮明だから、
少しずつ、お前の精神は狂うはずだ・・・!
痛みを感じ無いってのは、怖いよね。ねぇ、気付いてる?
片方の手の爪、全部、剝がれている事・・・?」
樋上:「あ・・・、あ・・・、俺の爪が・・・。・・・ああああああああ!!!!!」
月見:「痛みは感じ無いけど、その光景は見れる・・・。ねぇ、どんな気持ち?
怖い? 辛い? 早く死にたい?」
樋上:「こんな気持ちだよ・・・。・・・ペッ・・・!!」(月見に向けて唾を吐く)
月見:「うっ・・・、汚いな~」
天海:「弦矢の綺麗な顔に向かって、唾を吐いた!! 信じられない!!
・・・許せない・・・!! 殺してやる!!!」
月見:「落ち着け・・・。俺は大丈夫だ・・・」
天海:「でも!!」
樋上:「あっははははは!!! まるで、ペットだな・・・。飼い主の言う事に忠実に従う・・・。
人間としてのプライドは、無いのかよ!!!」
天海:「今、私の事、侮辱した!? 許せない・・・。殺す、殺す、殺す、殺す、殺す・・・」(自分の指を嚙みながら)
月見:「大丈夫だよ、玲・・・。・・・さぁ、薬の力を、もっと彼に見せてあげよう・・・。
さぁ、・・・僕の声だけに、集中して・・・」
天海:「うん・・・、弦矢の声に・・・、集中する・・・」
月見:「良い子だ・・・。・・・玲・・・、・・・もっと、自分の中に眠ってる狂気を引き出すんだ・・・」
天海:「引き出す・・・」
月見:「あぁ・・・、そうだ・・・。・・・大丈夫、玲なら出来る・・・」
天海:「私なら・・・、出来る・・・。・・・あ・・・、ああああああ、・・・あああああああああ!!!!」
月見:「その調子だよ、玲・・・」
樋上:「今度は、何をさせる気だ・・・!?」
月見:「姉さんの薬は、素晴らしい・・・。・・・この実験が上手くいけば、いずれは、完全に洗脳する事も実現するだろう・・・」
樋上:「完全にだと?」
月見:「此処に来るまで大変だったよ。・・・見てみなよ、玲を・・・」
天海:「ああああああああ!!! 殺す・・・!!!
私の邪魔するもの全員、殺してやる!!!! あはっ・・・、あはははははは!!!」 (怒りと涙で可笑しくなる)
樋上:「何だ・・・、こいつは・・・。泣いているのか・・・?」
月見:「彼女、可哀想だろう? 本当はこういうこと嫌がってたのさ。
だから俺が、繰り返し教えてあげたんだ。・・・感情なんて、ただのノイズだってね・・・。
・・・あぁ、・・・でも、まだ駄目だね・・・。
理性が・・・、凶器の感情を抑えようとしている・・・。
この薬は・・・、まだ研究が必要だと、報告しないと・・・。
ほらっ! 玲!!! もっと怒れ!!!! 目の前にいる男を殺せ!!!!」
樋上:「その姉も・・・、お前も・・・、狂ってやがる・・・」
月見:「あっははははは!!! 光栄に思いなよ!!! そんな姉さんと俺の実験に、参加出来るんだから!!!」
天海:「殺す!!!! 死ねええええええええ!!!」 (鉈を右腕に振り下ろす)
樋上:「ぐあああああああああ、俺の腕があああああああ!!!!」
天海:「きゃははははは!!! 右腕が落ちた!!!!」
樋上:「くそおおおおおお・・・!!!」
月見:「あ~あ、ついに腕が無くなったね~。四肢が無くなる前に、命乞いの一つでもしたらどうだい?」
樋上:「誰が・・・、するか・・・。・・・ひひっ・・・、腕の1本、何てこと無いんだよ・・・」
月見:「強情だね・・・。玲・・・、続けろ・・・」
天海:「今度は、左腕にしようかな~!!! それとも、右足が良い!?」
樋上:「くっ・・・。
・・・玲!!! 俺の為に、月見を殺せ!!!!」
月見:「はっ!?」
樋上:「良いから、俺の言う事を聞け!!! 玲!!!」
天海:「うるさい・・・。
私に命令するなあああああああああああ!!!!」
樋上:「ぐふっ・・・。
首元に噛みつくなんて・・・、あの時みたいだな・・・」
天海:「・・・」
樋上:「・・・俺は、あの紅い月が見えた夜から、お前のモノなんだろう・・・?」
天海:「私ノモノ・・・」
樋上:「あぁ、そうだ・・・。俺は、お前のモノだ・・・。
だから言い換えれば・・・、お前も、俺のモノだ・・・玲・・・」
天海:「私は・・・、アナタのモノ・・・」
樋上:「良い子だ・・・、玲・・・」
月見:「違う!!! お前は、俺のモノだ・・・、玲!!!」
樋上:「だから、俺の為に、月見を殺せるよな・・・?」
天海:「私は・・・、月見を・・・、殺す・・・。・・・私は・・・、弦矢を・・・、殺す・・・。弦矢を・・・殺したい・・・!!」
月見:「そんな馬鹿な・・・!!!! よせ、止めるんだ!!! 玲!!!!」
天海:「死んでよ!!! 弦矢あああああああああああ!!!!
・・・(何回も鉈を振り下ろす)」
月見:「よせ!!! やめろおおおおおおおおおおおおお!!!
ごふっ・・・!!! ごふっ・・・!!! ・・・真矢・・・、姉さん・・・」
間
樋上:「・・・よくやった・・・、玲・・・。・・・俺の拘束を解いてくれ・・・」
天海:「拘束を・・・、解く・・・」
樋上:「良い子だ、玲・・・。・・・馬鹿な男だ。
・・・洗脳されやすいのなら、逆に洗脳する事も出来ると気付かないなんて・・・。
だが・・・、俺は、自由だああああああああああ!!!! あははははは!!!!」
間
樋上:「俺は、自由だ・・・。ひひっ・・・。ひひひひひひひひひ・・・!!!」
天海:「ねぇ・・・、さっきから笑い続けてるけど、大丈夫・・・?」
月見:「両腕を失っても、痛みを感じるどころか、狂い笑うとは・・・。恐ろしい薬だよ・・・。
真矢姉さんの説明だと、この注射を打たれた相手は、
始めは、痛みを感じ無いけど、やがて幻覚を見始める。
そうなると、痛みを感じ始め、・・・最後は、その痛みが快感に変わり・・・、狂い笑い続ける・・・」
天海:「恐ろしい薬ね・・・。彼は、どんな幻覚を、見てるのかしら・・・」
月見:「こんなに笑い続けてるんだ・・・。俺達を殺して、自由になった幻覚でも、見てるのかもね。
でも、おかげで良いデーターが取れたよ。
あの薬を投与された被験者は、姉さんの説明通りの最後を迎える・・・。
俺達の今後の活動にも、役に立つ薬だよ・・・。
・・・さぁ、仕上げだ・・・。玲、足を持ってくれ」
天海:「ええ、弦矢・・・」
月見:「ははっ・・・、地獄で、後悔するんだな・・・。樋上 仁人・・・」
天海:「・・・さようなら、・・・せ~の!!!」
月見:「せ~の!!!」 (同時に)
間
樋上:(N)「儀式に用意された、炎の中に、俺は投げ込まれたのが分かった・・・。
・・・幻覚作用が、続いていれば、何も感じないまま死ねたのだろう・・・。
だが・・・、そうじゃなかった・・・。
炎に焼かれる痛みに・・・、俺の意識は戻ったのだ・・・。
こんな最後を迎えるのも・・・、今まで、俺が殺してきた人間の報いなのか・・・。
俺は・・・、薄れゆく意識の中・・・、最後に、こう思った・・・」
樋上:(N)「 あぁ・・・、やはり神様は・・・、俺達の事・・・、常に見ているんだな・・・と・・・」
間
天海:「ようこそ、御客様・・・。
集真藍(あずさあい)にお越しくださり、ありがとうございます・・・。
・・・この時期におすすめの、水無月です。
どうぞ・・・、お召し上がりくださいませ。・・・ふふふふ・・・」
終わり