
相月ノ夢
【あいづきのゆめ】
作者:片摩 廣
登場人物
神崎 花音(かんざき かのん)・・・音楽教師 元:時任 陸郎(ときとう りくろう)
明るくて活発な性格
前世では、冷酷な軍人で、真木 薫と、屋敷で暮らしていた。
蒼井 圭人(あおい けいと)・・・司書 元:真木 薫(まき かおる)
穏やかな青年。蝉の声の耳鳴り、幻聴に苦しんでいる。
前世では、時任の屋敷で、暮らしていた。
時任 陸郎(ときとう りくろう)・・・神崎 花音の前世の姿
真木 薫(まき かおる)・・・蒼井 圭人の前世の姿
比率:【2:2】 or 【1:1】
上演時間:【60分】
オンリーONEシナリオ2526
7月、陰暦の異称、相月をテーマにしたシナリオ
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CAST
【2:2】
神崎 花音:
蒼井 圭人:
時任 陸郎:
真木 薫:
【1:1】
神崎 花音:
蒼井 圭人:
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(大正5年 7月30日)
(時任との生活に疲れた真木は、屋敷を出て自分を助けてくれた新兵の元に向かおうとしていた。
だが、それに怒った時任に追いかけられて、崖に追い詰められてしまう)
真木:「陸郎様・・・。それ以上、私に近付かないでくださいませ・・・」
時任:「何を馬鹿な事を。・・・薫、命令だ。今すぐこっちに来い。貴様は、俺のモノだ!」
真木:「嫌で御座います。・・・私(わたくし)は、陸郎様の事を、もう、お慕い申し上げて居ません」
時任:「そんなに、新兵に恋焦がれているのか・・・。良いだろう・・・。
満州にでも送って、鉄道警備隊でもさせようか!
沿線の警備。馬賊、抗日ゲリラ対策、地雷撤去など、きつい仕事を命令してやる。
そして、二度と貴様とは会えなくしてやろう!」
真木:「貴方は、血も涙も無い人で御座いますね・・・。貴方への愛情なんか、もう残って居ませんのに・・・、
そこまでして、私を傍に置いておきたいのですか・・・?」
時任:「自惚れるな。・・・俺が置いておきたいのは、真木家の財力であって、貴様ではない。
だが、貴様が俺の嫁のままなら、周囲の俺への評価に役立つ。
これからは、心を入れ替えて、せいぜい俺の為に、全身誠意を持って奉仕するんだ。
二度と、別の男に惚れないように、躾てやる!!」
真木:「・・・私は・・・、もう、貴方の側に居続けるつもりは御座いません!
これ以上、一歩も近付くと、後悔する事になりますよ・・・」
時任:「後悔だと? 貴様・・・、勝手な真似は許さん!」
真木:「一歩、近付きましたね・・・。・・・愚かな人・・・。・・・さようなら・・・」
時任:「待て!!! 逝くな!!! 薫・・・!!!」
(現代、夢から覚める神崎)
神崎:「逝くな!!! ・・・はぁ、はぁ、はぁ・・・。
目覚め、最悪・・・。・・・それにしても、
いつもより・・・、変な夢、見たな~・・・。
昨日、見た大正時代の映画が不味かったか~・・・。
・・・折角の休日なのに・・・、はぁ~・・・。
シャワー浴びたら、気分転換に出かけようと・・・」
間
蒼井:「こんにちは。
当館の御利用、ありがとう御座います」
神崎:「あ、どうも・・・」
蒼井:「何か、お探しの本が御座いましたら、遠慮せず、仰ってくださいね」
神崎:「はい、そうします。
ふふ・・・、笑顔が爽やか・・・。
はっ! そんな和んでる場合じゃなかった・・・。
はぁ~・・・、折角の休日だけど・・・、別に行きたい所も無いから、やっぱり此処に来ちゃうんだよね・・・。
さてと、来たんだから、資料探しでもしてこう・・・」
神崎:「・・・あった、この本と・・・、あ・・・、この本も・・・。
後、必要な本は・・・、あ~、あんなに高い段に・・・。
お? 台、見っけ。・・・この台に乗って・・・。
・・・あれ? もう少しで、手が届くんだけどな~・・・。ええい・・・、この~・・・! う~ん、もう少しで・・・。
よしっ! 取れた!!! ・・・えっ!?」
蒼井:「あ、危ない!」
神崎:「きゃっ!?
・・・。
・・・あれ? 私・・・、台から足を滑らせて落ちたはず・・・。・・・なのに、何処も痛くない・・・。
どうして・・・?」
蒼井:「・・・う、う~ん・・・」
神崎:「え? ・・・もしかして、私を庇って?
ねぇ、しっかりして!!! ・・・どうしよう・・・。
すみません! 誰か、助けてください!!! 司書さんが!!!」
間
蒼井:「う・・・、此処は・・・?」
神崎:「あ、気付いた・・・。ねぇ、大丈夫・・・?」
蒼井:「・・・貴女こそ、怪我はありませんか?」
神崎:「私は、貴方のお陰で、平気・・・。・・・その・・・、危ない真似して、ごめんなさい・・・」
蒼井:「ええ、そうですね・・・。・・・次からは、届かない場所にある場合は、遠慮せず、お声がけくださいね・・・」
神崎:「うん、そうする・・・」
蒼井:「それでは、私は、まだ仕事が残ってるので・・・」
神崎:「ねぇ? 頭とか打ってない? 病院に行かなくても平気?」
蒼井:「大丈夫です。・・・あの、俺の眼鏡・・・、知りませんか?」
神崎:「あ・・・、それが・・・」
蒼井:「どうしました?」
神崎:「私を庇った時に・・・、壊れたみたいなのよね・・・」
蒼井:「・・・困りましたね」
神崎:「あ、安心して!! ちゃんと弁償するから!!
・・・ねぇ、仕事は、何時まで?」
蒼井:「午後、5時半までですが・・・」
神崎:「オッケー。・・・じゃあ、図書館の外で待ってる」
蒼井:「え? 今日ですか?」
神崎:「そうだけど・・・、何か用事、あった?」
蒼井:「いえ、特には・・・」
神崎:「じゃあ、決定ね。・・・後でね」
蒼井:(N)「彼女は、そう言った後、館内に戻っていった・・・。
初めて、出会ったっはずなのに・・・。
何処か懐かしさを感じた・・・。
その後も、・・・気付くと俺は、館内に居る彼女を、目で追いかけていた・・・」
蒼井:(N)「・・・季節は、7月・・・。館内の外からは、蝉の鳴き声が、聴こえてくる・・・。
俺は・・・、夏が嫌いだ・・・」
【タイトルコール】
蒼井:「相月ノ夢」
間
神崎:「・・・ふぅ~・・・、資料の纏めは、こんな物かしら。
・・・大正時代・・・、大正浪漫・・・。
調べれば、調べる程・・・、良いな~・・・」
神崎:(N)「私の名前は、神崎 花音。
・・・見ての通り、大正浪漫に憧れを持つ乙女だ。
あれは、そう・・・。一つの夢からだった・・・。
幼い頃から、繰り返し見る夢・・・。
そこで、私は、大正時代を生きていた・・・。
大きな屋敷に住んでいて、私は・・・、軍人だった・・・。
私には、婚姻を約束した愛しい女性が居て・・・。
彼女が、私に、何か一言、言おうとして、目が覚める・・・。
最初は、その当時・・・、親が嵌っていたドラマの影響だと思っていた。
でも、大人になってからも、繰り返し見るその夢に・・・、
気付くと、私は、大正時代、大正浪漫に夢中になっていた・・・」
神崎:「・・・もうこんな時間・・・。
・・・よし、今日は、この本と、この本、借りて行こう。
・・・すみませ~ん!」
神崎:(N)「貸し出しの受付で、いつも通り借りた後、私は、館内を出る。
・・・外に出ると、夏の日差しは、容赦なく肌を刺してくる・・・。
夕方だと言うのに、ずっと外に居ると倒れるくらいだ・・・。
この図書館は、私のお気に入りだ・・・。
外には、利用者用に、庭園が併設されている。
そこに設置されてる、ベンチに腰をかけ、私は、図書館の外観を観る。
大正時代から、残っている歴史のある建物。
シンメトリーなデザインも、大正浪漫好きの私からしたら、お気に入りの一つだ。
・・・そうやって、時間を潰していると、彼は、やって来た・・・」
蒼井:「お待たせしました」
神崎:「あ、凄い汗じゃない・・・。良かったら、これ使って」
蒼井:「すみません・・・、お借りします・・・。
あの・・・暑い中、外で待ってたんですか?」
神崎:「うん、・・・私ね、此処から見る、図書館、好きなんだ。
大正時代・・・、大正浪漫・・・。
最高よね~」
蒼井:「シンメトリーな建物だから、分かる気がします。
大正浪漫、良いですよね。
此処は、大正時代から、残っている歴史のある建物で・・・、
確か、館内は、何度か直したみたいですが、
外観は、ほとんど当時のままみたいです。
・・・図書館の利用者も、よく写真を撮られてますよ」
神崎:「え? 撮影して良いの?」
蒼井:「あ、はい・・・。」
神崎:「ええええ、良いな~・・・。私、てっきり、撮影したら駄目なのかなと思って、今まで我慢してたのに・・・」
蒼井:「あの・・・、良ければ、撮りましょうか?」
神崎:「え!? 良いの!? ・・・じゃあ、お願いしようかな・・・。はい、これ、私のスマホ。
・・・嘘・・・、夢みたい・・・」
蒼井:「・・・はい、じゃあ、撮りますよ・・・。
・・・えっと、こんな感じですが、どうですか?」
神崎:「うん、バッチリ! ありがとう、宝物にするね」
蒼井:「宝物・・・」
神崎:「ん? どうかした?」
蒼井:「いえ、別に・・・。・・・そろそろ行きましょうか?」
神崎:「そうね、お店は、此処から遠いの?」
蒼井:「いえ、そこまで遠くは」
神崎:「そう、それなら良かった。・・・あっちに車、停めてるから待ってて頂戴」
蒼井:「分かりました・・・」
(蝉の鳴き声)
蒼井:「・・・蝉の鳴き声・・・。・・・くっ・・・、頭に響く・・・」
間
(蝉の鳴き声)
(大正5年、7月上旬)
(時任 陸郎の御屋敷)
真木:「初めまして・・・。・・・真木 薫と申します・・・」
時任:「ほう・・・。貴様が、真木家の娘か・・・。
容姿は合格だな・・・。俺の嫁として相応しい」
真木:「陸郎様・・・。今日から、宜しくお願い致します・・・」
時任:「声が震えているな。・・・そんなに俺が怖いか?」
真木:「滅相もございません」
時任:「はっ、嘘も甚だしい。・・・貴様が今、考えている事を当ててやろう。
どうして私が、こんな冷酷な軍人の嫁に嫁がなければならないのか・・・だろう?」
真木:「はい・・・、その通りで御座います・・・」
時任:「あっはははは!!! 気に入った!!!
俺の嫁なら、それくらい強気で無くては、務まらないからな!!
良いか!? 逃げようなんて考えは、一刻も早く捨てるんだ・・・!!」
真木:「くっ・・・」
時任:「恨むなら、父親を恨むんだな・・・。俺に、命を救われ、恩を作ったんだ・・・。
・・・救った時に、この醜い目の傷跡が出来たが・・・、
そのお陰で、貴様の父親から、莫大な資金と、貴様を貰うことが出来た!!! 今では感謝をしている!!!」
真木:「貴方様が・・・、此処まで冷酷で、鬼人のような御方だと知りさえすれば、
父も、私を、助けに来てくれるはずです!!!」
時任:「甘いな・・・。・・・貴様の父親は、私の性格も、把握しているさ」
真木:「は? そんなはずは御座いません。・・・だって知っていたのなら、それは・・・」
時任:「貴様の考えてる通り・・・、俺に対する貢物だ。
そう・・・、貴様は、実の父親に騙されたのさ!!!
俺の事が、相当、怖いんだろうな・・・。
苦労して、育てた可愛い実の娘を、差し出すなんてな!!!」
(失意でその場に崩れる真木)
真木:「そんな・・・。・・・う・・・、うううう・・・」
時任:「泣いても、貴様の運命は、もう変わらないんだ。早く、現実を受け止めろ。
・・・安心しろ。・・・不自由はさせない。
貴様が、俺を裏切ろうとしない限りはな・・・。あっははははははは!!!!」
(屋敷の外に笑いながら、出て行く時任)
(屋敷の扉が閉まるのを、赤い絨毯の敷いてある広いロビーで見つめる真木)
真木:「どうしてなのです、お父様・・・。・・・私は・・・、私は・・・!
あああああ、気が狂いそう・・・。
あの方の、笑い声と・・・、蝉の鳴き声が、耳から離れない・・・。
・・・夏なんて・・・、大嫌い・・・!」
(蝉の鳴き声)
(現代)
蒼井:「くっ・・・、早く鳴り止め・・・。・・・頭が割れそうだ・・・」
神崎:「ねぇ、大丈夫? ねぇ!!!」
蒼井:「え・・・?」
神崎:「頭抱えて、どうしたの? もしかして、さっき倒れた時の影響で、頭痛?」
蒼井:「頭痛・・・? ・・・あぁ・・・、心配させてすみません・・・。
これは、昔からの持病なので、気にしないでください・・・。
少し、休めば・・・、楽になります・・・」
神崎:「持病・・・?」
蒼井:「ええ・・・。小さい頃に、発症して以来、悩んでますよ。
医者は、精神的疲労から来るものと診断しました・・・」
神崎:「原因は・・・?」
蒼井:「・・・ちょうど夏の頃でした・・・。
蝉の鳴き声が、いつもより、耳に残る気がして、
始めは、気のせいかなと思ってました。
でも、次第に、家に居る時も、蝉が居ないはずなのに・・・、蝉の鳴き声が聞こえて来て、
次第に可笑しくなっていきました・・・。
心配した親は、医者に連れて行き・・・、それ以来、夏の時期になると、
未だに、耳鳴りと頭痛に襲われるようになった・・・。以上です・・・」
神崎:「蝉の鳴き声・・・」
蒼井:「どうかしました?」
神崎:「ううん・・・。何でもない・・・。
そっか・・・、じゃあ、今の時期は大変だよね・・・」
蒼井:「そうですが、もう半分、諦めてますよ」
神崎:「え?」
蒼井:「医者も、精神的疲労が原因とだけで、それ以上は原因不明ですから・・・」
神崎:「・・・」
蒼井:「もう頭痛も、治まりました。店に向かいましょう」
神崎:(N)「彼は、そう言い終わると、私の車に乗り込んだ。
その後も、他愛のない話を繰り返してる内に、店に到着をして、
彼が、新しい眼鏡を作ってもらってる間も・・・、私は、さっきの彼の発言が気になっていた・・・」
蒼井:「お待たせしました。
今、混んでるみたいで・・・出来上がりまで、1時間くらいかかるそうです」
神崎:「そう・・・。それじゃあ、どこか時間、潰せる場所、探さないと・・・」
蒼井:「それなら、すぐ近くにレトロ喫茶があるんですが、そこに行きますか?」
神崎:「良いじゃない。そこに決定。案内して頂戴」
蒼井:「はい」
間
蒼井:「あ、着きました。・・・このお店です」
神崎:「へぇ~・・・外観、良い感じ~・・・」
蒼井:「はは、気に入ると思いました。
・・・此処、大正時代からの建物を、利用してるんですよ。
内装も、気に入って貰えると思います」
神崎:「楽しみにね」
間
(喫茶店のドアを開いて入る二人)
蒼井:「すみません、二人です」
神崎:「内装も、お洒落・・・」
蒼井:「俺も、お気に入りです。・・・さっ、こっちです」
神崎:「うん」
蒼井:「・・・この席にしましょうか?」
神崎:「え? テラス席?」
蒼井:「今日は、晴れてますから、テラス席だと、月が綺麗に見えますよ」
神崎:「ロマンチックね。分かった、此処で良いよ」
蒼井:「さ、どうぞ、座ってください」
神崎:「え? ありがとう・・・」
蒼井:「・・・ふ~、夜風が気持ちいいですね~」
神崎:「貴方の言う通り・・・、月も綺麗ね・・・」
蒼井:「気に入って貰えて、良かったです。
あ、そういえば、自己紹介がまだでしたね・・・。
俺は、蒼井 圭人です。・・・御存じの通り、あの図書館で司書として働いてます。
宜しくお願いします・・・」
神崎:「あ、ご丁寧にどうも・・・。
私は、神崎 花音。・・・職業は、これでも、教師よ」
蒼井:「教師ですか。・・・凄いですね」
神崎:「ちょっと、その微妙な間はなによ! ・・・あ、もしかして教師には見えないと思った?」
蒼井:「いいえ、誤解しないでください! その・・・、教師といっても、どの教師かなと気になって・・・」
神崎:「あ、それもそうよね。・・・音楽教師よ」
蒼井:「なるほど!」
神崎:「え? いきなりどうしたの!?」
蒼井:「いや、すみません・・・。
神崎さん、言われてみたら、いつも音楽関連のコーナーで、本を探してるなと思い出しまして」
神崎:「あ、確かに・・・。・・・もう、これは職業病かな・・・。はっはははは・・・」
蒼井:「あ、そろそろ注文しましょうか?」
神崎:「そうね、メニューは・・・、へ~、このタブレットで選択、出来るのね~」
蒼井:「便利な時代ですよね。・・・まぁ、昔ながらの紙媒体のメニューの方が好きなんですけど・・・」
神崎:「流石、司書ね。・・・あ、私、このパンケーキと、アイスコーヒーにしようかな~」
蒼井:「じゃあ俺は・・・、このカステラと、アイスコーヒーにします」
神崎:「カステラ・・・」
蒼井:「もしかして、カステラも食べたいですか?」
神崎:「あ、うん・・・。・・・何か、気になったの・・・。何故だろう・・・」
蒼井:「はは、そういえば、甘い物、好きでしたよね」
神崎:「え? 今、何て?」
蒼井:「あ・・・、今、変な事、言いましたね・・・」
神崎:「うん・・・。いきなり、驚いたよ・・・。
あ、分かった。・・・この暑さのせいだよ、きっと!」
蒼井:「それもそうですね・・・。・・・気を取り直して、注文しましょう!」
神崎:「ええ・・・!」
神崎:(N)「私は、そう彼に返事をした後、空を見上げた。
・・・月を見ると、何故か、懐かしく思える・・・。
そう・・・、まるで、こんな瞬間を、何度も経験したような懐かしい気持ちに・・・」
(大正5年、7月中旬)
(時任の屋敷、バルコニーに設置されてるテーブルと椅子に座って月を眺めている真木)
(蝉の鳴き声)
時任:「こんな所に居たのか、薫・・・」
真木:「お帰りなさいませ・・・」
時任:「ふっ、今夜は満月か。
どうした? 月を見上げて、かぐや姫にでもなった気か?
幾ら待っても、月からのお迎えは、来ないぞ」
真木:「そんな事、分かっております・・・。ただ、見上げていたのです。・・・悪いですか?」
時任:「貴様は、俺の嫁なんだ。
お勤めから帰ってきた旦那様を、玄関先で、笑顔で出迎えるのも仕事だろう?
それなのに、俺の顏も見ないで、背中越しに、お帰りなさいませだと・・・?
はぁ~・・・・。
そんな簡単なことさえ、貴様は、満足にも出来ないのか?」
真木:「・・・それでしたら、言わせていただきます・・・。
陸郎様と婚約してから、私(わたくし)は、一度も、この屋敷から外出を許可されておりません・・・!
私は・・・、まるで、籠の中の鳥になった気分で御座います・・・」
時任:「外に出たいと言うのか? 貴様は、たった1週間も、我慢する事が出来ないのか!?
全く・・・、嘆かわしい・・・。
貴様の為を思い・・・、こんな物・・・、買ってきたというのに・・・」
真木:「それは・・・、何で御座います?」
時任:「カステラだ」
真木:「カステラ・・・。私の為にですか?」
時任:「そうだと言ってるだろう!」
真木:「・・・」
時任:「ふん! 気に入らないのか? だったら、こんな物、捨ててしまうまでだ・・・!」
真木:「お待ちください!!」
時任:「何だ!?」
真木:「捨てるのは、およしくださいませ・・・」
時任:「欲しいのなら、初めから素直に、そう言えば良いんだ!」
真木:「ありがとう御座います・・・」
時任:「礼は必要ない・・・」
真木:「あの・・・」
時任:「何だ?」
真木:「私は、お茶の準備をして参ります。・・・一緒に此処で、食べませんか?」
時任:「・・・」
真木:「・・・」
時任:「良いだろう・・・。此処で待ってる」
真木:(N)「暫しの沈黙の後、陸郎様は、そう答えると、月を見上げていた。
軍服を着こなす端麗な容姿は・・・、月明かりに照らされて、格好良く見えた・・・」
時任:「ん? 俺の顏を黙って見つめて、どうかしたか?」
真木:「いえ・・・、何でも御座いません。・・・用意して参ります」
時任:「頼む」
間
真木:「お待たせ致しました・・・。お茶と、カステラです・・・」
時任:「貰うとしよう」
真木:「・・・」
時任:「ん? 貴様は、食べないのか?」
真木:「いえ・・・、その・・・」
時任:「あ、すまない・・・。
・・・(咳)
お、・・・お前も、一緒に食べてくれたら、嬉しいのだが・・・」
真木:「え? 今、何と・・・」
時任:「一緒に食べて欲しいんだ・・・! あ、いや・・・、食べてくれないか?」
真木:「分かりました・・・。・・・美味しい・・・」
時任:「気に入ったようだな。遠慮せず、どんどん食べろ」
真木:「はい。・・・その・・・、こうして向かい合わせで、一緒に食べるのは、初めてで御座いますね」
時任:「そうだな・・・」
真木:「陸郎様さえ、良ければ、これからも、一緒に食べれたら・・・」
時任:「考えておく」
真木:「・・・カステラ、美味しかったです・・・」
時任:「もう、良いのか?」
真木:「はい・・・。久しぶりに甘味が召し上がれて、嬉しかったです」
時任:「そうか・・・。また買ってきてやる」
真木:「ありがとう御座います・・・」
時任:「幾ら夏とはいえ、長い間、バルコニーに居ては風邪を引く・・・。
き・・・、お前も、早く寝室に戻れ」
真木:「はい、そうさせていただきます。お気遣い、ありがとうございます・・・」
時任:「俺の嫁なんだから当然だ・・・」
間
真木:(N)「バルコニーの出来事から一週間が経過した。
あの夜から、陸郎様は、時々、一緒に食事をしてくれるようになった。
毎日ではなかったが、私は、少なからず、幸せを感じ始めた。
願うなら、このまま・・・」
(現代 喫茶店のバルコニー)
神崎:「・・・」
蒼井:「ずっと眺めたくなる月ですね」
神崎:「え!? ・・・嫌だ。・・・もしかして私・・・?」
蒼井:「ええ。・・・声をかけようか迷いました。
・・・何か月に思い入れがあるんですか?」
神崎:「ううん・・・。何も無い。
ただね・・・、何か、眺めていたくなったの・・・。何でだろう・・・」
蒼井:「こんなに、綺麗な満月なんです。・・・気持ち、分かりますよ。
あ・・・、相月ですね」
神崎:「相月? それは月の名称?」
蒼井:「いえ、陰暦7月の異称です」
神崎:「流石、図書館の司書、物知りね。でも、7月の異称と、今日の月・・・、何か関係あるの?」
蒼井:「あ、いや・・・、神崎さんと・・・、一緒に見てるから、ふと浮かんだんです・・・」
神崎:「・・・あ、分かった! 相手と一緒に見てるからね?」
蒼井:「まぁ・・・、そんなところです・・・」
神崎:「へぇ~、ロマンチックじゃない・・・。
あっ、頼んだ物、来たよ」
蒼井:「ありがとうございます。・・・はい、頼んだ物は間違いないです。
・・・さぁ、神崎さん、食べましょう」
神崎:「そうね。・・・。・・・う~ん、パンケーキにして正解~。美味しい~!」
蒼井:「口にあって良かったです。・・・うん、相変わらず、このお店のカステラ、美味しい」
神崎:「ねぇ、お願いがあるんだけど」
蒼井:「分かってますよ。・・・はい、どうぞ」
神崎:「ありがとう! それじゃあ、お言葉に甘えて。
・・・う~ん、カステラも、美味しい~!」
蒼井:「神崎さん・・・、美味しそうに食べますね」
神崎:「そりゃあ勿論よ~。
こんなに素敵な場所で、美味しいスイーツが食べられるなんて、幸せ過ぎて、どうにかなっちゃいそう!」
蒼井:「これも何かの縁です。また一緒に、来ませんか?」
神崎:「え?」
蒼井:「あ、すみません・・・。流石に急すぎますよね!?」
神崎:「あ、うん。別に構わないけど」
蒼井:「本当ですか? ありがとうございます」
神崎:「蒼井さん・・・何だか可愛い」
蒼井:「え? 可愛い」
神崎:「うん。・・・それにこんな喫茶店も知ってるなんて、女子力、高いよね~」
蒼井:「そうなんですかね・・・」
神崎:「そうよ。私が男だったら、デートに誘ってるよ~」
蒼井:「デートですか!? それは流石に・・・」
神崎:「あ、ごめん・・・。私ったら、何て事、言ってるんだろう・・・」
蒼井:「あ、いや・・・。それは、俺の役目かなと・・・」
神崎:「ん? それって・・・」
蒼井:「・・・神崎さん。・・・俺と付き合ってくれませんか?」
神崎:「え? ・・・ええええええええ!」
蒼井:「神崎さん、声が大きいです・・・」
神崎:「あぁ、ごめん・・。余りにも突然で、驚いた・・・」
蒼井:「それも、そうですよね・・・。すみません・・・」
神崎:「あぁ・・・、謝らないで良いよ。嫌じゃないから」
蒼井:「え?」
神崎:「その・・・、なんだ・・・。まずは、デート、楽しもう。ねっ!」
蒼井:「あ・・・、はい!」
間
神崎:「新しい眼鏡、どう?」
蒼井:「問題ないです」
神崎:「そう、良かった。・・・ねぇ、帰りは、どうするの?」
蒼井:「バイク、置いてあるから、図書館まで戻ります」
神崎:「送って行こうか?」
蒼井:「いいえ、大丈夫です。少し、夜風に当たって帰りたいので」
神崎:「分かった、気を付けて帰ってね」
蒼井:「はい」
間
神崎:「もう少し、一緒に居たかったのにな~。まっいっか! また会えるもんね!」
間
蒼井:「よし・・・、緊張したけど、告白出来た・・・」
間
神崎:(N)「それから数日後・・・。私達は、初めてのデートをした」
蒼井:「お待たせ」
神崎:「ううん・・・、私も今、来たところ」
蒼井:「神崎さん・・・、何処か行きたい所、ある?」
神崎:「・・・じゃあ、私の我儘、聞いてもらおうかな~」
蒼井:「え?」
間
神崎:「やっぱり静かで落ち着く。・・・図書館みたい。来てよかったね」
蒼井:「うん、俺達、お互い、静かな職場だから、ちょうど良い場所だね」
神崎:「うん・・・、それもあるけど・・・」
蒼井:「どうかした?」
神崎:「水族館なら・・・、圭人も、蝉の鳴き声も聴こえなくて、良いかな~と」
蒼井:「・・・俺の為に?」
神崎:「うん・・・」
蒼井:「ん!! ・・・ありがとう。・・・嬉しいよ・・・」
神崎:「え? 何で、顔背けて言うの?」
蒼井:「まぁ・・・、その・・・」
神崎:「ちゃんと、こっち向いて、言ってよ!」
蒼井:「あっ! う~ん・・・」
神崎:「ははは、やだ、顔が真っ赤!」
蒼井:「仕方ないだろう! さっきの花音、余りに可愛かったからさ・・・」
神崎:「可愛い・・・!?」
蒼井:「あぁ、可愛い」
神崎:「・・・!! ・・・さっ、次のコーナー、見に行こう! ねぇ、あっちは、海月が見れるみたいよ~!」
蒼井:「ねぇ、待って。花音こそ、どうして、顔背けるの? こっち向いてよ~」
神崎:「や~だ! あはははは!!!」
間
蒼井:「はぁ~、追いついた~。花音、足が速いね~」
神崎:「ねぇ、見て。・・・綺麗・・・」
蒼井:「えっと、それはミズクラゲだね」
神崎:「ずっと眺めたくなるから不思議~・・・」
蒼井:「あぁ、そうだね~・・・」(神崎の手を握る)
神崎:「え? 圭人・・・?」
蒼井:「こんな幻想的な場所・・・、花音と恋人繋ぎ、したくなるに決まってるでしょ」
神崎:「・・・うん」
蒼井:「こうしてると、何だか、花音とは、ずっと前から、一緒に居た気がしてくるよ」
神崎:「あのね・・・、私も、そんな気がする・・・」
蒼井:「え? いつから?」
神崎:「喫茶店で、一緒に同じ月を見てから」
蒼井:「・・・俺達、運命の相手なのかもね」
神崎:「そうだったら、嬉しいな」
神崎:(N)「圭人の言う通り、何だか懐かしくも不思議な感覚だった・・・。
私達は・・・本当に、運命の相手なの・・・?」
蒼井:「あ、もうすぐ、アシカのショーの時間だね。・・・折角、来たから、見に行く?」
神崎:「アシカ、見てみたい!! さっ、行きましょう!!」(腕を引っ張る)
蒼井:「え・・・?」
神崎:「え、じゃなくて、ほら~、早く行こうよ~!!」
蒼井:「嫌だ・・・。俺の腕、引っ張らないで・・・!!」
神崎:「ねぇ、いきなりどうしたって言うの? 圭人!?」
蒼井:「止めて・・・。嫌だ・・・、嫌なんだ・・・。・・・」
神崎:「圭人・・・」
間
(大正5年 7月中旬)
(時任の御屋敷)
(蝉の鳴き声)
時任:「薫・・・、・・・薫・・・。何処に居る? 一体、何処に行ったんだ・・・」
真木:「ただいま、戻りました・・・」
時任:「薫・・・!!」
真木:「・・・!? ・・・陸郎様・・・。そんなに慌てて、どうかされたのですか?」
時任:「なんだと!? 良いから、ちょっとこっちに来い!!」
真木:「嫌・・・、痛い・・・!! 陸郎様・・・、腕を離してくださいませ!!!」
時任:「ふん・・・!!」(腕を離す)
真木:「きゃ!! ・・・何をなさるのですか?」
時任:「今まで、何処で何をしていた!! ん・・・? その足の怪我は、どうした・・・?」
真木:「陸郎様の為に、カステラを買いに行ってたんです・・・。
これは・・・、その途中・・・、転んでしまって・・・」
時任:「誰に、手当して貰ったんだ・・・?」
真木:「え?」
時任:「え? じゃない。・・・この怪我は、誰に手当して貰ったんだ?」
真木:「・・・。私が、自分で手当したまでです・・・」
時任:「返答までに、間があった。・・・嘘を付くな・・・!!」
真木:「・・・」
時任:「さては、男か!? ・・・一体、何処の男だ! 答えろ!!」
真木:「・・・親切な新兵の方に・・・」
時任:「新兵だと!? 何処の所属だ!? 名前は聞いたのか!?」
真木:「いいえ・・・。手当した後、彼は、去りました・・・」
時任:「それは、本当だろうな?」
真木:「はい・・・」
時任:「良いだろう・・・。・・・信じてやろう・・・。だが、覚えておけ。
今後、外出をする時は、女中に必ず伝えるんだ・・・。分かったな!?」
真木:「分かりました・・・」
真木:(N)「・・・陸郎様の嫉妬は常軌を逸していた・・・。
女中に出かけると伝える度に・・・、
気付くと、陸郎様の部下が・・・、私を見張るようになった・・・。
そんな日々が、続いていく内に・・・、私は、ある決心をした・・・」
間
(大正5年 7月30日)
(時任の御屋敷)
真木:「・・・ただいま、戻りました・・・」
時任:「こんな遅くまで、何処に居た・・・?」
真木:「はぁ~・・・。
陸郎様・・・、もう嘘は止めに致しましょう。・・・何処に居たかは、既に御存じなのでしょう・・・?」
時任:「何だと?」
真木:「・・・貴方は、女中から、私の行き先を聞いた後・・・、部下に命じて、見張らせていた事を・・・、
まさか、私が気付いてないとでも思いましたか?」
時任:「・・・」
真木:「常に、貴方の部下に、見られている恐怖・・・、もう・・・、沢山で御座います・・・。
陸郎様・・・。・・・私は決心致しました・・・」
時任:「何をだ?」
真木:「・・・この御屋敷を出て・・・、私は、助けてくださった新兵さんの元に行きます・・・。
彼も・・・、私の事・・・、受け入れて下さいました」
時任:「ふざけるな・・・。俺は断じて認めん!!」
真木:「貴方様に、認められなくとも、結構です!! さようなら!!」
時任:「薫!! 待て!! 勝手な真似は許さん!!!」
間
(時任との生活に疲れた真木は、屋敷を出て自分を助けてくれた新兵の元に向かおうとしていた。
だが、それに怒った時任に追いかけられて、崖に追い詰められてしまう)
真木:「陸郎様・・・。それ以上、私に近付かないでくださいませ・・・」
時任:「何を馬鹿な事を。・・・薫、命令だ。今すぐこっちに来い。貴様は、俺のモノだ!」
真木:「嫌で御座います。・・・私(わたくし)は、陸郎様の事を、もう、お慕い申し上げて居ません」
時任:「そんなに、新兵に恋焦がれているのか・・・。良いだろう・・・。
満州にでも送って、鉄道警備隊でもさせようか!
沿線の警備。馬賊、抗日ゲリラ対策、地雷撤去など、きつい仕事を命令してやる。
そして、二度と貴様とは会えなくしてやろう!」
真木:「貴方は、血も涙も無い人で御座いますね・・・。貴方への愛情なんか、もう残って居ませんのに・・・、
そこまでして、私を傍に置いておきたいのですか・・・?」
時任:「自惚れるな。・・・俺が置いておきたいのは、真木家の財力であって、貴様ではない。
だが、貴様が俺の嫁のままなら、周囲の俺への評価に役立つ。
これからは、心を入れ替えて、せいぜい俺の為に、全身誠意を持って奉仕するんだ。
二度と、別の男に惚れないように、躾てやる!!」
真木:「・・・私は・・・、もう、貴方の側に居続けるつもりは御座いません!
これ以上、一歩も近付くと、後悔する事になりますよ・・・」
時任:「後悔だと? 貴様・・・、勝手な真似は許さん!」
真木:「一歩、近付きましたね・・・。・・・愚かな人・・・。・・・さようなら・・・」
時任:「待て!!! 逝くな!!! 薫・・・!!!」
間
(現代 水族館)
神崎:「圭人、ねぇ、しっかりして!!」
蒼井:「あ・・・、ああああ・・・、うあああああああ!!!!」
神崎:「圭人!! どうしたのよ!?」
蒼井:「・・・陸郎さ・・・ま・・・」(気を失う)
神崎:「圭人!!! ・・・大変、どうしよう・・・。ねぇ!! 誰か、居ない? 救急車!!」
間
神崎:(N)「・・・圭人は、その後、病院に運ばれたけど、
気絶した原因が、医者にも分からず・・・、入院する事になった。
あれから、1週間が経過したが、圭人は目覚めなかった・・・」
(病院の病室)
蒼井:「・・・」
神崎:「圭人・・・。お願い・・・。目を開けて・・・。・・・どうしてこんな事になったの・・・。
・・・そういえば・・・、圭人が気絶する前に、呟いた名前・・・、聞き覚えが・・・。
何処で聞いたんだろう・・・。・・・確か・・・」
蒼井:「り、陸郎さ・・・ま・・・」
神崎:「圭人! 目を覚ましたの? ねぇ、圭人、目を開けて!! 開けてよ・・・」
蒼井:「・・・」
神崎:「・・・。・・・駄目だ。泣いてる場合じゃない。
・・・思い出せ・・・。思い出すのよ・・・。
・・・そうだ、小さい頃から見る夢に出て来た名前だ・・・。
・・・やっぱり、私達は、何か運命で繋がってる・・・!!
待ってて、圭人。・・・私が、貴方を・・・、必ず、目覚めさせる!!」
神崎:(N)「私は、病院を後にすると、急いで図書館に向かった。
私と圭人が出会った場所・・・。
もし、私の考えが合ってるとするなら、必ず何か手がかりがあるはず・・・」
(図書館)
神崎:「陸郎・・・。・・・確か、夢の中では、相手が居て、薫と呼ばれていた・・・。
あ~、でも、それだけじゃ、分からない・・・。
何か、もっと無いの・・・。思い出せ・・・、思い出せ・・・」
(回想)
神崎:「うん、・・・私ね、此処から見る、図書館、好きなんだ。
大正時代・・・、大正浪漫・・・。
最高よね~」
蒼井:「シンメトリーな建物だから、分かる気がします。
大正浪漫、良いですよね。
此処は、大正時代から、残っている歴史のある建物で・・・、
確か、館内は、何度か直したみたいですが、
外観は、ほとんど当時のままみたいです。
・・・図書館の利用者も、よく写真を撮られてますよ」
(回想、終了)
神崎:「そうよ! この図書館は、大正時代からの建物・・・。
館内は何度か直してるみたいだけど・・・、外観は、当時のままなら、
当時の新聞の記事に、残ってるかも知れない・・・。
・・・確か、新聞の記事は・・・、此処のパソコン端末から・・・。
・・・大正時代・・・、図書館・・・。
沢山、出て来たけど・・・。・・・負けないんだから・・・。
・・・う~ん・・・。此処も違う・・・。
・・・あ・・・、待って・・・、今の建物・・・!
似てる気がする・・・。・・・そうだ、間違いない・・・。この建物だ!
えっと、時任邸、炎上事件・・・。
え!? 炎上!? 一体、何があったの・・・?
大正5年、7月30日・・・、午前3時・・・、軍人、時任 陸郎の屋敷にて、
火事が発生した。・・・原因は不明。
・・・そんな・・・。・・・あ、頭が割れるように痛い・・・。
あ・・・、あああああああああ!!!」
間
神崎:「・・・そうだ・・・、私は・・・、あの時・・・」
間
(大正5年 7月30日)
真木:「一歩、近付きましたね・・・。・・・愚かな人・・・。・・・さようなら・・・」
時任:「待て!!! 逝くな!!! 薫・・・!!!」
真木:「・・・陸郎様・・・、離してくださいませ・・・!! お願いです!! 死なせてください!!」
時任:「馬鹿を言うな!! そんな勝手な真似、絶対にさせない!!
例え・・・、俺の事が、嫌いになったとしても・・・、お前は、俺の大事な人だ・・・!!」
真木:「陸郎様・・・」
時任:「待ってろ!! 今、引き上げる・・・!!」
真木:「・・・」
時任:「はぁ、はぁ、はぁ・・・。・・・何処も怪我はしてないか?」
真木:「はい・・・」
時任:「それなら・・・、よ、良かった・・・」
真木:「陸郎様・・・。しっかりしてくださいませ!! ・・・陸郎様・・・!!」
真木:(N)「陸郎様は、その夜・・・。高熱を出した。
私は・・・、とんでもない過ちを侵したのかもしれない・・・。
屋敷に戻った後・・・、陸郎様の側で、看病をしていたら・・・、
いつの間にか・・・、眠っていた・・・。
どれくらい眠ってたのだろう・・・。息苦しさに目を覚ますと、
屋敷は、炎に包まれ始めていた・・・」
真木:「ごほっごほっ・・・。・・・眠っている間に一体、何が・・・」
時任:「・・・敵の報復だろう・・・。・・・くそっ・・・、俺の屋敷に火を付けるとは・・・。
すまない・・・、お前まで、巻き込んでしまった・・・」
真木:「そんな事は良いんです!! 早く逃げましょう!!」
時任:「そうしたいのだが・・・、体が言う事を効かない・・・。とても屋敷から出られそうにも無い・・・」
真木:「そんな・・・。・・・今、誰か呼んで参ります・・・!!」
時任:「駄目だ・・・!! それじゃあ、脱出に間に合わなくなる・・・。俺の事は良いから、早く逃げるんだ・・・」
真木:「そんな事、仰らないで!! さぁ、私の肩に掴まって・・・」
時任:「良いから早く逃げるんだ!!」
真木:「きゃっ!! ・・・陸郎様・・・!」
時任:「良いか!! 必ず生き延びて・・・、新兵と幸せになってくれ・・・」
真木:「う・・・、ううううう!!!!」 (部屋から走りだす)
時任:「そうだ・・・、それで良い・・・。・・・薫・・・。・・・すまなかった・・・」
間
時任:「ごほっ・・・、ごほっ・・・、火の勢いが増して来たな・・・。
・・・俺も、どうやら、これまでのようだ・・・。
・・・あぁ・・・、最後に・・・、薫と・・・一緒に・・・、あのカステラが、食べたかった・・・」
真木:「・・・奇遇で御座いますね。・・・私も、そう思い・・・、持って来ました・・・」
時任:「薫・・・!? ごほっ・・・、ごほっ・・・、・・・どうして戻って来た・・・。今からでも遅くない! 早く逃げろ!!」
真木:「嫌です・・・! ごほっ・・・、私は・・・、もう二度と・・・、陸郎様の傍を離れません・・・」
時任:「愚か者が・・・」
真木:「愚か者でも良いんです・・・。貴方と一緒に、この美味しいカステラが食べられるなら・・・」
時任:「・・・随分と、このカステラは、塩分が強いな・・・。・・・今度、店主に文句を言いにいかねばな・・・」
真木:「ええ、そうですね・・・。共に参りましょう・・・。・・・陸郎様・・・」
間
(現代 図書館の資料コーナー)
神崎:「・・・私は、・・・燃える部屋の中・・・、薫と一緒に、カステラを食べて、死んだ・・・。
・・・私に、記憶が戻ったのなら・・・、あの時・・・、圭人にも・・・戻ったのね!
だから・・・、陸郎さ・・・ま・・・と。
こうして居られない・・・。急がないと・・・」
神崎:(N)「私は急いで、病院に向かった・・・」
間
(病院の病室)
(病室のドアを開ける神崎)
蒼井:「・・・」
神崎:「はぁ、はぁ、はぁ・・・。・・・圭人・・・。・・・お願い・・・。目を覚まして・・・。
・・・私も思い出したよ・・・。・・・私と貴方は・・・、前世から一緒だった・・・。
・・・もう一度・・・、一緒に・・・、カステラ・・・、食べよう・・・よ・・・。
・・・う・・・、ううううう・・・」(段々、涙が溢れてくる)
間
時任:「・・・薫・・・。その男の中で・・・聞いているだろう・・・?
俺の声が聴こえてるなら・・・、姿を見せてくれ・・・」
真木:「・・・その声は・・・、陸郎様で御座いますか・・・?」
時任:「・・・もう一度、お前の姿が見たかった・・・」
真木:「私もです・・・。陸郎様・・・」
時任:「薫・・・。もう二度と・・・、側を離れないからな・・・」
真木:「ええ・・・」
蒼井:「・・・貴方方は・・・、もしかして・・・?」
真木:「私達の姿が見えるのね・・・」
蒼井:「はい・・・、見えます・・・」
真木:「私は、真木 薫。・・・もう、貴方も気付いてるのでしょう?
貴方の前世の姿よ・・・」
蒼井:「ええ・・・。前世の記憶が戻った後・・・、意識を失いました。
それからは、貴方方の過去を、ずっと見てました・・・。
・・・貴方が、花音の・・・」
時任:「俺は、時任 陸郎。・・・お前の言う通り、その女、神崎 花音の前世の姿だ」
蒼井:「そうですか・・・。・・・貴方方が見えると言う事は・・・、俺は・・・」
時任:「安心しろ。お前は、死んでは居ない。
だが、前世の記憶が、余りにも衝撃的だったからだろう・・・。
今は、体から、意識が抜けてしまってるんだ・・・」
蒼井:「・・・余りにも衝撃的でした・・・。・・・あの時、一気に記憶が流れ混んできて・・・」
真木:「無理も無いわね・・・」
神崎:「ねぇ、圭人、見てよ。あの喫茶店のカステラ、テイクアウトしたんだよ・・・。
早く起きないと、私が、全部、食べちゃうんだからね・・・!!」
蒼井:「・・・花音・・・。
くそっ・・・。体に戻れ・・・、戻れよ・・・! ちくしょう・・・!!!!」
真木:「圭人・・・」
時任:「薫・・・、今はそっとしておいてやれ」
真木:「ですが・・・!!」
時任:「今の俺達には、どうする事も出来ないんだ!!」
真木:「・・・分かりました・・・」
神崎:「・・・圭人、ごめん・・・。また明日、来るね・・・。
明日は・・・、笑顔で・・・、出迎えてよ・・・ね・・・」
(病室から出て行く神崎)
間
時任:「・・・少しは、落ち着いたか?」
蒼井:「俺は・・・、
このまま・・・、愛した女性に、笑顔で出迎えたり・・・、
頭を撫でたり・・・、抱きしめたりも・・・、出来ないのかもしれない・・・」
真木:「気をしっかり持ってくださいませ! それでも、私の未来の姿ですか!!」
時任:「薫・・・」
真木:「良いですか、よくお聞きなさい。・・・貴方方は、輪廻転生して、再び巡り合えたのです・・・。
必ずしも、人に生まれ変われるとも限らない中で・・・、
二人が再び、人に生まれ変わり、こうして出会えた・・・。
それなのに・・・、その奇跡を・・・、貴方が信じなくて、どうするので御座いますか!!」
蒼井:「奇跡・・・」
真木:「・・・そうです。
・・・私は、陸郎様と、燃えゆく部屋の中で、また必ず出会えると願っておりました」
時任:「薫・・・。俺も、必ず出会えると願っていた」
真木:「陸郎様・・・。
さぁ・・・、圭人・・・。貴方も願いなさい・・・。想いは、必ず届きます・・・」
蒼井:「俺は・・・、・・・花音と・・・」
(病室のドアが開く)
神崎:「・・・私たら駄目ね。忘れ物するなんて・・・」
蒼井:「花音・・・」
神崎:「あった・・・。じゃあ、また明日、来るね・・・」
蒼井:「あ・・・、・・・行くな!!! 花音!!!!」
神崎:「え? 今、圭人の声が聴こえた・・・。まさか・・・!?
ううん・・・、圭人は、目覚めてない・・・。
・・・圭人・・・、声を聞かせてよ・・・」
蒼井:「花音! 俺には、お前の声が、ちゃんと聴こえてる!! 花音!! 気付いてくれ!!」
神崎:「・・・もう、二度と・・・、圭人の声は聴けないのかな・・・」
蒼井:「駄目だ! 花音!! 諦めないでくれ・・・!!
俺は、花音と・・・」
神崎:「もう一度、圭人と・・・」
蒼井:「あの相月を一緒に見たいんだ・・・」 (同時に)
神崎:「あの相月を一緒に見たいのよ・・・」
真木:「陸郎様・・・、二人の気持ちが・・・」
時任:「あぁ・・・、一つになった・・・」
間
神崎:「・・・圭人・・・。・・・もう一度・・・、声が聴きたいよ・・・」
蒼井:「・・・花音・・・」
神崎:「はっ・・・、圭人・・・!!」
蒼井:「花音の声・・・。ずっと聴こえてたよ・・・」
神崎:「圭人・・・」 (涙が溢れる)
蒼井:「またあの相月を・・・、あの喫茶店で、一緒に見ような」
神崎:「うん・・・、約束よ・・・!!」
時任:「想いが届いて良かったな・・・」
神崎:「え? 貴方は・・・。もしかして・・・」
時任:「お前の前世の姿だ・・・。・・・花音、よく聞くんだ。
・・・俺達の分まで、この世界で、幸せになってくれ」
神崎:「うん・・・。約束する。・・・私は、圭人と幸せになる!」
真木:「圭人・・・。私達は、貴方方の中で、また眠りに付きます」
蒼井:「え? 折角また会えたのに、良いの・・・?」
時任:「あぁ、構わない・・・。俺達は、こうしていつでも・・・」
真木:「また、貴方方の中で会えるのですから・・・。
さぁ・・・、戻りましょう・・・。陸郎様・・・」
時任:「あぁ・・・、薫・・・」
間
神崎:「・・・」
蒼井:「どうした?」
神崎:「ううん、何でもない・・・。私達も、あの二人に負けないくらい、幸せになろうね・・・」
蒼井:「うん、そうだな・・・!」
間
蒼井:(N)「7月に聴こえる、蝉の鳴き声は・・・」
神崎:(N)「私達、4人を・・・」
蒼井:(N)「強く繋ぐ・・・、掛け替えのない・・・」
神崎:(N)「音色へと・・・、変わった・・・」
終わり